SS48
女優
――――――りっちゃん、好きだよ――――――
――――――・・・唯・・・・・・――――――
交通のアクセスが良くて、それでいて静かな最高の場所に琴吹グループが用意したHTT邸がある。
HTT邸に住んでいるのは秋山澪と田井中律・中野梓と平沢唯の2組のカップルで、4人仲良く暮らしている。
「朝はご飯で決まりってか!おお、澪。おはよう」
「おはよう律。今日も元気だな」
律が一番に起きて朝食の支度をしていると澪が起きてきた。
「いつも元気がとりえのりっちゃんだからな。今日は早出だからメシいらないのか?」
「うん。でも、今日は唯が当番の日じゃなかったか?」
4人は経済的に困っていなかったので仕事と家事を完全に分けてしまい、4人の中で一番家事が得意な律が家事を担当して、どちらも得意でない唯がそれを補佐する。
そういった毎日を過ごしていた。
「まだ寝てるよ。昨日聞こえてきただろ?」
「…そうだな。私もう行くよ!」
「いってらっしゃい」
律に見送られて、澪は梓と唯の昨夜の様子を思い出しながら真っ赤な顔で出社していった。
「まったく、梓の奴も『仕事で疲れてるんです!』とか言いながらも、きっちり“やる”ことやってるんだからなぁ」
「悪かったですね。律先輩」
「梓!お、おはよう…ご飯食べるだろ?」
律がご飯をお茶碗によそいながら梓の物真似をしていると、梓本人が起きてきた。
「頂きます。すみません、唯先輩が当番なのに…」
「気にすんなよ。まぁ、夜の音の方はちょっと気にしてくれないと困るけどな?特に澪が」
「仕方ないじゃないですか!唯先輩の方から誘ってくるから…。律先輩達もそういう事あるでしょう?」
「無いな!はい、大盛り」
「う、大盛りっていうか…山盛りじゃないですか!こんなに食べられませんよ」
「なにぃ、この私のメシが食えないと?なら、お前の分だけ唯のフルコースにしてやろうか?」
「食べますよ!私ご飯好きなんですよね~…」
結局、山盛りのご飯を残さず食べて梓は職場に向かった。
働きに出ている二人を送り出すと家事担当組の食事が始まる。
「……」
寝坊している唯を起こす。律が一日のうちで一番緊張する瞬間だ。
「唯、朝だぞ。起きて朝ご飯食えよ」
律が梓と唯の寝室の扉をノックする。
………
中から唯の返事は無かった。たまに素直に起きてくる時は何の苦労もないが、反応が無い時は最悪のパターンが多い。
「入るぞ…唯?まだ寝てるのか?」
ゆっくりとドアを開けて、唯が寝ているベッドに近づいていく律。
「…ふぉむ…ふぁぃふ…もう…食べられないよ~…」
ベッドの上にかけ布団をぐるぐると巻きつけた状態で寝言を呟いている唯がいた。
「なんだよ。普通に寝てたのかよ…!?」
唯の姿を確認して緊張を解いた瞬間、何かに引っぱられて律の視界がぐるりと回り天井が目に入ってきた。
「おはよう。りっちゃん…今日も可愛いね」
「唯…こんなのやめろよ。梓に悪いと思わないのか?お前…梓の奥さんだろ」
予想していた最悪のパターンから逃れようと、律が必死で唯に懇願する。
「まぁ、あずにゃんは好きだよ。可愛いしね」
「そ…そうだよな。なら、こういう事は梓としろよ。お腹すいただろ?ごは…んがっ!?」
最後まで言う前に唯が口を塞いだ。
「本当にあずにゃんは可愛いよ。私に夢中で『結婚しましょう』なんてことになるし。昨日だって、ちょっと演技して声出してあげたら…『どうして欲しいですか?自分の口で言ってください』なんて聞いてくるんだよ?笑っちゃうよね。『澪ちゃんと一緒にどこか行ってよ』って言ったら何処かに消えてくれるのかな?」
「……」
瞳がまったく笑っていない唯の表情は律に大きな恐怖を与えていた。
「そんな顔しないでよ。澪ちゃんとあずにゃんにバレなかったら何でもないことだよ。それに、りっちゃんだって『したい』んでしょ?澪ちゃんが言ってたよ…『私と律はプラトニックな関係だから』云々かんぬんって…傑作だよね?もしかして未だにキスもしてなかったりするの?」
「悪いかよ…私と澪は家族みたいなもんなんだよ…」
唯の口から次々と言葉が出てきて、それに呼応するかのように律の瞳から涙が溢れ出す。
「全然悪くないよ。むしろ大歓迎!プラトニックだか何だか知らないけど、りっちゃんに手を出さないのはベリーグッドだよ」
「なぁ…唯…。私達ってどこで間違えたのかな…」
「もしかしたら、出会った時から間違えてるのかもしれないね。だからさ、思いっきり楽しもうよ…。夜になったら…何時もの私とりっちゃんに戻らないといけないんだから」
律の頬を流れる涙を唯の舌がすくいあげた。
end