SS54
知らない
「でさ、その時の律ったら…」
「な!澪、それを言うな~」
軽音部の楽しみはお茶とお菓子とお話しなんだけど、最近私はお話が苦手。
「りっちゃんの小さな時の話もっと聞きたいわ~」
「だからやめろって~」
「律と私が小学5年生の時に…」
「……」
もう聞きたくないよ。
澪ちゃんがそんなつもりじゃなくても、りっちゃんの話を澪ちゃんの口から聞いてると気分が悪くなるんだ。
「ごめん!私、用事思い出したから今日は帰るね」
「おい、唯!どうしたんだよ…」
りっちゃんに呼び止められたけど無視して走り続けた。
みんなに変に思われたよね。
でも仕方ないんだよ…どうしてかなんて私にも解らないんだもん。
多分この苦しみの理由は知ったらいけないんだ。
この気持ちに気づいてしまったら、もう楽しい軽音部では居られないから。
「りっちゃんが好き…好きなんだよぉ」
「唯…みんな心配して…また鬼ごっこかよ!」
靴箱で追ってきたりっちゃんに追いつかれた。今の聞こえてないよね…
「唯!私なんか嫌な事したか?待てって!」
慌てて靴を履いて逃げてもまだ追っかけてくるりっちゃん。なんで追いかけてくるの?
相手がりっちゃんなら絶対に止まれないよ。
「言ってくれなきゃ解んないぞ!どうしたんだよ…」
りっちゃんの手が私の手首を掴んで、りっちゃんと私との距離が無くなる。
「知らない…知らないんだよぉ…」
解って欲しいなんて思わないし、自分でもまだ解りたくない。
「知らないって何だよ。私靴も履かずに追っかけてきたんだぞ?何か言ってくれないと上履き汚し損だぞ」
「追いかけてほしいなんて頼んでないもん…」
「ほぅ。なら何で離れないのかな唯?お~い、ゆいちゃーん?今なら逃げられるぞ?」
「知らない!」
ダメだよ。こんなんじゃ軽音部のみんなって言うより、ここを通る人みんなに変な子だった思われるよ。
でも、もうちょっとだけりっちゃんを離したくないよ。
end