唯×律SSまとめwiki SS55笑ってよ…

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SS55

笑ってよ…


12月25日が終わろうとしていた。

私はやれ恋だ愛だなんてトークをしているテレビ番組を眺めながら、男から送られてきたメールを未開封のまま削除している。

メールの送り手は聡の友達の学生から始まって職場の上司までと随分幅広い。

自惚れているわけじゃないが、おそらく私はモテル方なのだろう。何通も送られてきたメールの送り主の誰とでもそういう関係になれるだろうし、相手の質も決して悪くはないと思う。

こんなことを言っておいて贅沢な話だが、私は未だに男と付き合ったことが無い。


「何考えてんだよ…あいつ」

送り主の確認をしながらメールを削除していると”唯”の名前が出てきた。

もちろん、友達なんだからメールが来るのは当たり前なんだが日付がなんとなく危険を感じさせる。


『りっちゃんに会いたい』

件名を見てゾッとした。

クリスマスや年末の私の予定を聞いてきている本文より件名で全てが解る。




私が学生の頃、唯と一度だけ過ちを犯したことがあった。

地元で軽音部のメンバーと飲んだ後、私と唯は宅飲みの三次会まで飲み続けて

「私…高校のころりっちゃんのこと好きだったんだ。でもね、りっちゃんは澪ちゃんのモノだって思って言えなかったんだ~」

飲む酒も無くなったころに唯が語り始めた。

「今はさ、あずにゃんにちゃんと好きだよって伝えて、付き合えるようになって良かったと思う!りっちゃんのおかげだよ」

「唯と梓は特別な感じしてたもんな。私は大学に入る前に澪に告白されたけど…やっぱり私も女なんだよ。澪の王子様にはなれないって断った」

唯が私の事を好きだったと言っても特に驚かなかった。昔から男っぽい所はあったし、澪と同じで私に妙な憧れでもあったんだろうと勝手に納得できたからだ。

「…澪ちゃんてそういうタイプだったんだ。てっきり私はりっちゃんを押し倒すくらいの事はしてると思ってた」

「無理無理。澪の中では私はガキ大将みたいな扱いだからな」

「りっちゃんは澪ちゃんの事好きじゃなかったの?」

「好きじゃなかったんだろうな。少なくともそういう意味では」

「そっか。あ~あ、澪ちゃんに遠慮せずにりっちゃんに告白すればよかったよ…私ならりっちゃんをお姫様みたいに扱ってあげたのに…」

眠くなったのか。唯は私に身体を預けるように倒れ掛かってきて、寝言みたいにそう呟いた。

「そりゃあ嬉しいけど、梓が聞いたら泣くぞ?ほら、眠いなら布団で寝ろよ」

もたれかかっている唯を布団に寝かしてやろうと、背中に手をまわす。

「ねぇりっちゃん?明日になったら今日の事覚えてるかな?」

「さぁな。だいぶ飲んだから覚えてないかもな」

「なら…良いよね?」

気が付いたら布団の上に寝かされているのは私の方で、視界全体に唯の顔があった。

梓の事とかいろいろ考えたら、必死で抵抗して唯をぶん殴ってでもやめさせるべきだったんだろうけど、私も酔っていたので特別抵抗はしなかった。

唯は梓としてるだけあって上手だった。もっとも、後にも先にも唯以外で体の関係をもったやつなんて居ないけど。


「唯…もう良いから。昨日私と唯は何にも無かった。それさえ守ってくれたら私は忘れるから」

事が終わって目を覚ますと、唯が隣で泣いていた。

『ごめんね』なんて言われて、抵抗しなかった私も罪悪感でどうにかなりそうだった。

「唯!いつまでも泣いてると梓に言いつけるぞ。お前は梓の事好きなんだろ?こんな所で泣いてないでさっさと会いに行けよ」

泣いている唯を部屋から追い出してから、私も少しだけ泣いた。

結局梓と唯の両方を傷つけてしまっという事実がきつくきつく心を締めつけていた。


それから大学を卒業するまでの間、唯と私は何とか普通を装えていたと思う。

梓と唯が仲良くしている所を見ると申し訳なく感じることもあったけど、私達がボロを出さなければ墓場まで持っていけると信じていた。


社会人になって、やっと私が心の痛みから解放されはじめたころ、唯の行動がおかしくなってきた。

唯の職場から私の住んでいるマンションまでかなりの距離があるのに、週に3回は夜に会いに来るようになった。

『あずにゃんだけ大学なんてずるい~』

最初は、梓も就活で忙しいだろうし、唯と会う機会が無いんだろうと甘く考えていた。

でも、唯はただ遊びに来るだけじゃなくて…泊まるようにもなった。

『明日休みなんだ~。ねぇねぇ、明日どこか行こうよ』

梓と日程が合わない時は必ず私を誘ってくるようになった。

当時の事を考えると、よく梓に疑問を持たれなかったと感心する。


春が来て、梓も大学を卒業して無事社会人になった。

唯と職場は離れてしまったが、お互い普通の企業なので休日も合わせやすいと思った。

いろいろと心配をしたけど、唯とのことは私の取り越し苦労で終わった…はずだったのに…


「唯、お前明日梓とデートするんだろ?」

「そうだよ。あずにゃんが休み合わせてくれたんだ」

唯が私のマンションに来る癖はぬけなかった。

無理やり追い出したことも何度もあるけど、二三日でまたケロッと会いに来るので効果は無かった。

そして、忘れもしない11月27日。

『今日は私の誕生日なんだよ!だからね、りっちゃんが欲しいな』

絶対梓や憂ちゃんが祝ってくれるだろう誕生日なのに。唯は私の所に来た。

『しばらく来るな!もし来たら引っ越すし、携帯も換えるからな!早く帰って梓に連絡しろ」

もう二度と間違いたくないと、唯を中に入れなかった。唯はしばらくドアを叩いたり携帯を鳴らしたりしていたけど、1時間も経ったころにはドアの前に居なかった。


私は唯の考えてることが解らなかった。

なんで恋人の梓を放っておいて私の所に来るんだよ。

梓と付き合ってるのに、なんで私が欲しいなんて言うんだよ。


唯を追い返した日から、私はこっそり引越しの準備を始めていた。

これ以上唯と会っていたら、多分また同じ過ちを犯してしまう。そう思ったからだった。

年が明けたら全然知らない町で暮らそう。会社も辞めて別の仕事を探そう。


会社を辞めたいと上司に告げてから、職場の男性社員から食事に誘われることが増えた。

唯や梓の事で頭が一杯だった私は、その時初めて自分が男を選べる立場だと理解できた。


この中から誰かを選んで、専業主婦として生きていくのも良いのかもしれない。

そう思ったっこともあったけど、結局私はクリスマスになっても誰の誘いも受けなかった。


『りっちゃんに会いたい』

唯から送られてきたメールを消そうとした時、携帯が着信を知らせる音を出し始めた。

「唯…だよな?」

ディスプレイを見なくても誰からの電話かなんて解っていた。

「りっちゃん…少しだけでいいから会えないかな?話したいことがあるんだ…」

「…今どこに居るんだよ?」

「りっちゃんが会ってくれるなら、10秒で会いに行けるよ」

唯は私の部屋の前から電話をかけてきていた。

時間的に騒がれたら不味いので追い返すわけにはいかなかった。

「唯…しばらく来るなって…!?」

ドアを開けた私が見たのは、両頬を真っ赤に腫れさせて右手から血を流す唯の姿だった。

「りっちゃん、メリークリスマス…まだギリギリ25日だよね?」

「何がメリークリスマスだ!お前その手と顔どうしたんだよ」

唯は私の顔を見て微笑んだけど、私はそれどころじゃなかった。

「りっちゃんが好きだから別れてって言ったら、あずにゃんがちょっとね。憂と澪ちゃんを呼んであずにゃんを落ち着かせようと思ったら、その二人に叩かれたのがこの頬っぺたね。大丈夫だよ!全然痛くないし、平気です!」

「なっ!?お前何言ってんだよ。冗談だよな?嘘なんだろ?憂ちゃんが唯の事叩くはずがない」

「そうだね。じゃあ、憂に叩かれたのは嘘って事にしておこうか?私としても憂より澪ちゃんの方が怖かったし」

唯の手から流れる血が指先から落ちて、立っている場所を少しずつ染めていく。

「部屋が綺麗になったね。りっちゃん引っ越すの?私さ、返事をもらえたら…もうここに来ないから。だから、無理に引っ越さなくてもいいと思うよ?」

「唯…お前…」

「りっちゃん。痛いのもつらいのも我慢できるけど、りっちゃんが好きって気持ちは我慢できなかったよ。私はりっちゃんが一番好き。だから…ずっと一緒に居てほしい」

血が出ていない方の腕で唯に抱きしめられて、離れなきゃいけないのに体が動いてくれない。

「お前…本当に何考えてんだよ。恋人の梓を泣かせて、あんなに優しい憂ちゃんを怒らせて、澪にも…多分ムギにだって…もう、楽しかったあの頃には戻れないんだぞ?大事な物全部捨てて…それで良いのかよ!?」

私はどこまでも卑怯者だった。とっくに自分の気持ちになんて気が付いているはずなのに…どうしても素直になれなかった。

「全部捨てるなんて言ってないよ?他の物全部捨てたって良いけど、りっちゃんだけは捨てないよ」

「憂ちゃんにも会えなくなるんだぞ…きっと地獄に落ちるぞ…」

こんな事ばかり言って唯を困らせて、でもそれ以上に唯の気持ちが強いって聞きたくて。

「りっちゃんが私を選んでくれるんなら、どんな事があっても平気だよ。だから、私の事じゃなくてりっちゃんの気持ちを聞かせて?」

「…っく…私も唯と一緒に居たいよ。唯の事が好きだよ!」

あの日、唯と間違を犯した時から、私の気持ちは決まっていたんだ。

私にとっては、アレは間違いなんかじゃなかったんだ。

「ありがとう。ねぇりっちゃん…泣いてるりっちゃんにはキスできないから、笑ってくれないかな?ほら、せっかく両想いになれたんだから…笑ってほしいなって。ダメかな?」

「何言ってんだよ…バカ」

私は唯の唇に自分のを重ねた。

あの日以来の唯とのキスは、私からした始めてのキスだった。




end