超高校級の二郎(を食べる人)

「えっとこれって何?というか何?」
目の前にあるその山に、ただただ僕は戦慄するしかなかった。
「ふふ、さすが苗木殿よいリアクションですな!」
「おいおい、まさか食えないってことはないよな、注文したもんは残しちゃだめだぜw」
僕のリアクションに対して、桑田クンと山田クンがむかつくぐらいニヤニヤしてる。
しかし、彼らを恨んでも目の前の山は消えない。
そもそも、彼らは僕を止めてくれたのだ(まあ、逆に煽っていたんだろうけど)
なら無理して頼んだ僕が悪いのだ。
しかし、なんだこの山のようなモヤシの量、しかも麺も異常に太い、そのうえチャーシューも分厚く
立ち上る匂いからは、俺濃厚だぜ!と高らかに主張している。
……そう、ぼくはネット世界でカルト的人気を誇るラーメン二郎に来ていたのだ。

前々から興味があり、そのことを山田くんに話すと、
「ほほう?苗木殿も二郎という暗黒面に惹かれておるのですか。
 ふふ、普通の人間なら止めるとこでしょうが、この山田一二三は違いますぞ!
 それどころか新たなジロリアンの誕生を祝福しますぞ!!」
「お、なんだ二郎に行くのかよ?なら俺も混ぜろよ。久々に食いたくなっちまった」
「おお、桑田殿もジロリアンでしたか!これはまた運命ですな!!」
「なんだよ、ジロリアンて?ま~たオタク言葉かよw」
と僕らの話を聞いていたのか、桑田くんが混ざってきて、食べに行こうという事になったのだ。

そして冒頭に戻るわけだが、まさかこれ程とは。
トッピングの注文の時つい、「ヤサイマシマシ、ニンニクアブラマシ」
なんてことを言ってしまったことが不味かった。
二人に煽られたというのもあるが、心の何処かで通ぶって言ってみたかった
というのもあったのだろう、しかしどれだけ後悔しても目の前の物体Xは消えない。
ならば覚悟を決めるしか無い、そう桑田くんが言うように注文したものは残してはいけないのだ。

「……う、もう無理です」
負けだった、敗北だった、LOSEで、クロで、いわゆる完敗という奴だ。
とにかくヤサイが多すぎて、麺にたどり着くだけでも一苦労だった。
さらに麺が、啜っても啜ってもなくならない。そしてラスボスがチャーシューだ。
初めはその肉厚から来るジューシーさに舌鼓をうっていたのだが
後半になるに連れてこれが重く、凄まじいプレッシャーを放つ。
まるで、大神さんに睨まれたような気分だ。
そんなわけで、僕は物心ついてから初めて外食で食べ物を残すという不名誉な行動を取ることになってしまった。
「おお勇者苗木どの! 残してしまうとは なさけない。」
「あーあ、だからいわんこっちゃない。素直にトッピング追加しなけりゃよかったのに」
もう二人の軽口に返す気力もない。
「まあ、次からは身の丈に合った注文をするべきですぞ。」
「うっぷ、次ってあるかなあ。」
「それが不思議なもんでな、ここのラーメンて量ばっか言われっけど、味も結構癖あるだろ?
 これが時間経つとなんか食いたくなるんだぜ。」
と桑田クンが力説してくる。
「男子だと他のやつも結構食ってるぜ。今度はよ、もっと誘って来ようぜ。
なんならあのいけ好かねえメガネも誘っちまえ。んで無理やり食わせちまおうぜ」
へえ、他のみんなも食べてるんだ。たしかに食べてる時、味にはすごい個性を感じた。
これはまた食べたいという人も出るかも知れないな。ただ、十神君にはなにしても、絶対食べなさそうだけどなあ。

「そういえば女子とかはどうなのかな?」
「さすがに聞いたことねえな。味も量も半端ねえからな、やっぱきっついだろう」
「所詮、女子供には二郎の魅力は、わからんのでありますよ!」
まあ山田クンのは言い過ぎだとしても、女子が好みそうな食べ物じゃないよな。
大神さん当たりなら、プロテインかけて食べそうな気もするけど。
霧切さんとかは…………いや、あの細い体でそれはないよなあ。
そうして、食事が終わり僕達が帰り支度を始めていると、ガラガラと音がした。
どうやら新しいお客さんが入ってきたらしい。なにげなく見てみるとそこには、
「き、霧切さん!?」
長い髪、白い肌、そして全身からにじみ出る、わたしクール系ですけどなにか?
というある種逆ギレ的雰囲気をまとった、どうみてもこの店には場違いな人がいた。


「あら、珍しいとこで会うわね苗木君。それに他の人達も」
僕達に気付き、挨拶してくる霧切さん。
まるで学校から帰る途中立ち寄った喫茶店で、偶然あった男子に挨拶をした、そんな反応だった。
いや、たしかに大まかには間違ってはいない。しかし此処は喫茶店でなくラーメン店であり
ついさっきまで、女子にはキツイだろうと噂していた、特殊なラーメン店なのだ。
だが僕達が驚きでフリーズしている間にも、霧切さんは手慣れた様子で食券を購入し
冷水機から水をくみこちらに歩いてきた。
「隣、いいかしら?」
「え、あ、は、はいどうぞ!」
思わず声が上ずってしまった。
「そう、ありがとう」
そういうと霧切さんは、僕達の隣りに座り食券を店の人に渡す。
「ぐ、偶然だね」
とりあえず無難なとこから話を切りだしてみる。
「そうね、私も来たのは久しぶりだから、まさか貴方達に会うとは思っていなかったわ」
「そ、そうなんだ。その、よく来るの?」
「よくという定義は人によって違うから断言するのは難しいわね。けど何度も来たことがあるというのなら当てはまるわ」
何度も来てるんだ。しかも彼女的にはその事は別段隠すことでもないらしい。
「ま、まあ女子でも好きな奴はいるよなあ。何も可笑しくねえ、そうだよなあ二人とも!」
「だ、だよねえ桑田クン」
「ま、まったくですなあ。二郎は男だけのモノなんて器量の狭い考えですよなー」
さすがに先刻の会話が効かれてるとは思えないが、なぜか僕達の心臓はさっきから
バックンバックン、鳴りっ放しだ。というか変な汗まで出てきた。
「……どうしたの貴方達?さっきから様子が変よ。」
う、さすが超高校級の探偵、変化には無駄に目ざとい!
「ああ、オレらちょうど食べ終わったところでよ、熱いモン食って汗がでてるんだよ」
桑田クン、それはマズイ!ヘタな言い訳はやぶ蛇だ!!
「……そうね、たしかにここのラーメンは食べたあとは少し汗がでるものね。」
アレ?突っ込んでこないぞ?いつもなら怒涛のドS追求が始まるのに。
というか、いまおかしな事言わなかったか?”少し汗が出る”て、え?
そして改めて霧切さんを見ると、彼女の目線が、ぼくらに向いてないことに気付く。
彼女が見つめいるのは、今まさに茹で上がり器に盛り付けられたラーメンだった。
まさか、ラーメンに気取られてあの霧切さんが追求を緩めた?しかも二郎のラーメンで!
「お客さん、トッピングはどうしやす?」
「…………全マシマシで」
僕の耳は可笑しくなってしまったのか、ありえない発言が聞こえた。
……とにかく、落ち着くために水を飲もうとコップを手に取る、がその時僕の目に写ったものに
思わずコップを落としそうになる。

――――そう、そこにはただの山ではない、言うなればチョモランマというべきものがあった。

(ま、まさか大盛り豚ダブルの全マシマシですと!!!!)
山田クンが仰け反りながら霧切さんには聞こえないように小声で、器用に絶叫する。
(オイオイ、冗談だろ……)
桑田クンもそれを見てドン引きしていた。
「え、えと霧切さん、そ、それ全部食べるの?」
止せばいいのに、思わず聞いてしまった。
「?、不思議なことを聞くのね苗木君。頼んだのだから食べるに決まってるじゃない」
なにを当たり前のことを、というふうに霧切さんは答える。
そして
「……いただきます」
と言うと、時折学食で食事してるのを見かけた時と同じように、
淡々と目の前のラーメンを食べ始める。
余りにいつもと変わらないので、思わずここは学食なのではないか?と勘違いしそうになる。
しかし、その幻想を信じるには、あまりにも食べてるものが異質すぎた。
ペースを崩さず、ヤサイを食べ、麺をすすり、小さい口にチャーシューを頬張っていき
みるみる丼ぶりの中身を減らしていく霧切さんの姿に、僕たちは恐怖すら覚えていた。
そんな恐怖の時間は、スープを最後の一滴まで飲み干し
「……ごちそうさま」
と霧切さんが言うまで続いた。


「……それじゃまた明日、学校で。」
ラーメンを食べ終わると、霧切さんは上の言葉を残しすぐに帰ってしまった。
そして残った僕達も、皆、なぜか無言で店からでて、そのまま自然と解散した。
二人と別れての帰り道、起きたことにいろいろと想いを馳せ最後に思ったことは
(……そうか、霧切さんて、ジロリアンだったのか……)
などという、本当にどうでもいいことだった。
後日
「ねえ、朝比奈さん二郎て店知ってる?」
「うん知ってるよー。あそこ量めっちゃあるもんね。よくサクラちゃんと行くよ!
後セレスちゃんとか、さやかちゃんも好きらしくて、よく会うんだ~」
なんて、さらに衝撃的な話を聴くことを、この時の僕はまだ知らない。


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