大人ナエギリ花札編 一枚目

一枚目:松に鶴

「来月までに千羽、ね…」
 律義なところは苗木君の美点だけれど、行き過ぎは負担になるんじゃないか。
 そんな私の懸念を余所に、また一羽作り終える。
「もっとこう…手軽なものでいいんじゃない? 手紙でも、彼女は喜んでくれると思うわ」
「手紙も書くけど…お見舞いに行けない分、せめて気持ちを送りたいな、と思ってさ」
「…まあ、お人好しなあなたらしいわね」
「手伝ってくれてる霧切さんも大概だよね」

 舞園さんが倒れた、と、私がニュースで知る頃には、苗木君は既に高校次代の友人たちに話をつけていた。
 過労が原因のため、命に別条はなくとも、しばらくは活動を休んで療養するそうだ。
 そんな彼女を応援するための、千羽鶴。
 苗木君と舞園さんの出会いに縁のある鳥だ、きっとただの千羽鶴以上に意味を持つのだろう。
 作るのは主に彼だが、『希望ヶ峰学園同窓生』の名目で送るらしい。

「…どうして千羽鶴なのかしらね」
 ふ、と作る手を止めて、頬杖を付いた。
「縁起が良いからじゃない? 長寿の象徴だし」
 また一羽を膨らませ、作業の手を止めずに苗木君が応じる。

「縁起が良い、ね…勝手なものだわ」
 嫌な音を立てて、空気が凍る。

「人間の活動で住処も命も奪ったせいで、絶滅の危機に瀕している鶴を、一方では縁起を担ぐなんて」
「……」
「これほど鶴をぞんざいに扱っておいて、仮にここで千羽鶴を折ったところで、本当に御利益はあるのかしら。甚だ疑問だわ」

 最低の科白だ。
 頑張っている苗木君や他の同窓生の努力を、一笑に伏すような言葉だった。
 利益や縁起じゃない。
 舞園さんのために鶴を折る、その行為そのものが何よりも尊く意味があるというのに。

 苗木君は作業の手を止めて、困ったような笑顔を私に向ける。

「霧切さんって…時々、舞園さんの話をすると機嫌悪くなるよね」
 ドキ、とする。真を突くような言葉が返ってきた。

 舞園さんは、本当に友達だと思っている。
 卒業後の親交も、苗木君ほどではないけれども、それなりだ。
 個人的な依頼を頼まれることだってあるし、時々だけど電話で言葉を交わす日もある。
 けれど、
 私が家まで遊びに来ているのに、苗木君は舞園さんのために鶴を折る。
 そんな彼が、少しだけ許せなくて。
 構ってもらえずに拗ねる、子どものような嫉妬心だと、自分でも嫌になる。

「あの…もし無理に手伝わせてたのなら、ゴメン」
「いえ、そうじゃないのよ…ただ…」
 不器用な私が作った折り鶴は、不格好にひしゃげていた。
 こんな歪なもの、舞園さんには贈れない。
 醜い本音と共にポケットにしまいこんで、私は席を立った。

「…意味もないことを考えすぎたみたい…風に当たってくるわ」




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