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ある日曜日、私は溜まった洗濯物を持ってランドリーを訪れた。
洗濯物と洗剤を洗濯機に入れて『開始』のスイッチを押し、終わるまで雑誌でも読んで時間を潰そうとしたら、“ある物”が私の目に飛び込んできた。

「これ、苗木君のパーカー…よね?」

私の目に入ってきた“ある物”とは、クラスメイトである苗木誠君がいつも着ているパーカーだった。
洗濯物が吊るされたロープの下に落ちているところを見ると、どうやら干してあったものが落ちてしまったようです。

「すっかり乾いてるみたいだし、埃を払えば大丈夫そうですね。」

私はパーカーの両肩を持って2,3回バサバサと振って埃を払うと、パーカーを畳んでランドリーのテーブルの上に置こうとした。
が、そこで私の手が止まった。

「苗木君のパーカー…か。」

畳んだパーカーを再び広げ、私はそれをまじまじと見る。
苗木君がいつも着ているパーカー…。
その時、何故だかは分からないが、突然私は“苗木君のパーカーを着てみたい”という衝動に駆られた。
私は周囲を見渡して自分以外の人間が居ないことを確かめると、パーカーに袖を通してみた。

「あ…。」

袖口から自分の手が出ない。指が途中まで出ているけれど、掌や手首は袖の中。
身長は私よりちょっとだけ低いし、顔や声は中性的なところがあるけれど、やっぱり苗木君も男の子なんだなぁ…。
このパーカーを着ていると、何だか苗木君にそっと抱き締められているような感じがする。
心臓が凄くドキドキして顔が熱くなってくるけど、不思議と心が落ち着く。
やっぱり私、苗木君のこと…。

「苗木君…。」

「何?舞園さん。」
「うひゃあ!?」

突然背後から苗木君の声がして、自分でも信じられないくらい素っ頓狂な声を上げてしまった。
振り向くと、苗木君が私の後ろに立っていた。
人が入ってきたことに気付かなかったなんて、我ながら迂闊でした…。

「な、苗木君…。」
「あ。それ、僕のパーカー…。」
「ええと苗木君、これはですね。あの、その…。」

どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?
苗木君に何て言えばこの場を切り抜けられるんだろう!?
こんなに頭が真っ白になったことなんて今までなかったと思います。
自分は結構アドリブがきく方だと思ってたのに、案外そうでもなかったみたい…。

「こここ、コレ落ちてましたよ!それじゃあ!」
「え?あの…舞園さん?」

私は急いでパーカーを脱いで苗木君に押し付けると、困惑している苗木君を尻目にランドリーを飛び出して一目散に自分の部屋へと駆け込みました。
途中、石丸君が私に向かって何か言ってたようですけど、そんなのに構ってる暇はありませんでした。
自分の部屋へと戻った私は思わずベッドに飛び込み、自分の顔を隠すように枕を抱き締めた。

「うわあぁ~!苗木君に見られたぁ~!どうしよう~!?」

私はベッドの上をゴロゴロ転がったり足をバタバタさせたりして、我ながらみっともないくらい取り乱しました。
この後、一体どんな顔して苗木君に会ったらいいんでしょう…?

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