ナエギリ宿泊記 2 > 2

「会食場」という部屋に入ると、そこは4人掛けのテーブルが複数ある和室だった。
その内のテーブルに二人前の料理が並べられている。 おそらくそこが僕らの席だろう。
席に座ってお皿の数を大雑把に数えてみると10以上ある。

「はい、苗木君」
いきなり目の前にご飯の盛られた茶碗が突き出される。
「あ、ありがとう」
ちょっとびっくりしながらも両手で受け取る。
「おかわりがしたかったら遠慮しないで言ってちょうだい」
「うん、わかったよ」
傍に御ひつがあったのだろう。
今度は自分の茶碗にご飯を盛っていた。

「お待たせしました。こちら主菜の天ぷら盛り合わせと季節の魚でございます」
「ありがとうございます」
部屋に案内してくれた仲居さんの着ていた着物と異なる女性、この人がきっと女将さんだろう。
その女将さんがおぼんに載せていた横長のお皿に天ぷらが、丸皿には煮魚の料理を僕と霧切さんに置いていく。
「それと……こちらはサービスです」
ニコリと笑いながらテーブルの上に置かれたのは二本の瓶ジュース、それと栓抜き。
「わざわざすいません」
「お鍋の方は熱いので気をつけてくださいね、それではごゆっくりどうぞ」
そういって女将さんは去っていく。

早速、サービスで貰った瓶ジュースを使わせてもらうとしよう。
栓抜きで一本目の瓶を開栓する。
「霧切さん、コップ出して」
「こう、かしら……?」
「そうそう」
差し出されたコップにオレンジジュースを7分目くらいまで注ぐ。
今度は自分の分も注ごうと思って栓抜きを取ろう……としたら霧切さんが先に早く持ち出した。
そのまま残る一本の瓶の蓋も栓抜きで開ける。
「ほら、苗木君もコップを出して」
「はい、どうぞ……」
両手でガラスのコップを持って、霧切さんの目の前に差し出す。
トクトクと僕のコップにも同じオレンジ色の液体が注がれていく。

「それでは助手の苗木君、乾杯の音頭を取って貰えないかしら?」
「えっ、僕が!?」
「そうよ。ほら、早くしないとせっかくの料理が冷めてしまうわ」
「う~ん、そうだなぁ……」
いきなりの上司命令に少し戸惑う。けど、ここは無難に……
「今日も一日、お仕事お疲れ様でした。霧切さん」
「……えぇ、あなたもお疲れ様。苗木君」

「「乾杯」」

カキンッ、そんな小気味のいい音を交わしながらお互いの労を労った。
缶やパックジュースと変わらない市販のオレンジジュースなのに、この時に飲んだらいつも以上に美味しく感じた。


~ ナエギリ宿泊記 2/2 ~


まずはお鍋の蓋を開けて少し冷ます。
その中味を見ると、しめじと大根とネギに焼き蟹が入っていた。
二つ目の小さな土鍋を開けて見ると牛肉と里芋・ネギ・しめじの汁物だった。 
他にもお刺身の盛り合わせ、ざる蕎麦に山菜の漬物数点と、海の幸や山の幸をふんだんに使っている。

そして季節の魚と言われた初めて見る魚料理を。
筒型に切られていて、醤油ダシで煮た煮魚なんだろうけど一体どんな魚なんだろう……?
「……それは鯉の甘露煮よ」
「えっ、鯉!?」
あの子供の日に吊るす鯉や、池の観賞魚になる鯉って食材にもなるの?
「別に錦鯉を食材にしているわけじゃないから、安心しなさい」
僕のびっくりした顔を見て、どんなことを考えているのかわかったのだろう。
苦笑しながら僕の先入観を払拭してくれる。

「これを見てどんな魚かわかるってことは……霧切さんは食べたことあるの?」
「えぇ、前に祖父が貰ったお歳暮の中にあったわ」
「それで、どんな味だったの?」
「……目の前にあるんだから、直に確認する方が早いんじゃないかしら?」
そう言いながら霧切さんは箸で一切れ身を摘まみ、口に運ぶ。
「そうね……この柔らかさなら圧力鍋で煮たんでしょうね。骨も気にせず食べられるわ」
霧切さんのお墨付きがあるんだから、食べないわけにもいかない。
「では一口、ん……」

甘い。 最初に思った感想はそんな一言だった。
砂糖と醤油、みりんで煮込んだシンプルな味付け。
そこから魚の甘味が口の中で主張してくる。
二口目はご飯と一緒に。
ちょっと甘露煮の甘さが後に残るけど、ご飯との相性は悪くない。
「美味しい……」
「そうでしょ?」
「てっきり泥臭さがあるかと思ったけど全然わからないね」
「この手の鯉は養殖モノだから泥臭さも抑えているし、川の中の寄生虫の心配もないわ」
「そうなんだ」
「天然モノが必ずしも美味しくて安全とは限らないという典型例ね。
 過度に先入観を持つと推理に支障をきたすから、苗木君も気をつけて」
「はい……」

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並べられた料理のほとんどを平らげた時、空になった茶碗を差し出す。
「霧切さん、おかわり貰えるかな?」
「いいわよ、量はどのくらい?」
「普通で」
「わかったわ。……これで最後だから、ちょっと多めに盛ったけど大丈夫?」
「うん、問題ないよ」
そういって少しだけ多く盛られたご飯を受け取る。
そのまま具のなくなった鍋にコロリ、とご飯を投下して鍋の蓋を閉める。

「……何してるの、苗木君?」
僕の行動の意図が読めなかったのか、霧切さんが尋ねてくる。
「これ? 締めのおじやにするんだ。蟹のダシが効いているから、さぞかし美味しいんだろうなぁ……」
「シメ? おじや?」
聞き慣れない単語が出てきたのか、首を傾げる霧切さん。
「説明するとそうだなぁ……。味の染みたスープを使ってリゾットを作っているところかな?
 ……あ、霧切さんもおじや、食べたかった?」
「ち、違うわ。そういう意味でいったわけじゃ……!」
「そうなんだ、残念……」

そして待つこと数分。
蓋を開けて確認してみるとご飯にスープの色が浸透しているのが一目でわかった。
レンゲで軽くかき混ぜ一掬いして味見をする。
「う~ん、蟹の風味が効いてる効いてる」
「……(ゴクッ)」
僕の幻聴だろうか、霧切さんの生唾を飲む音が鮮明に聞こえたんだけど。
食べてみたそうな目をしているし、ここは……
「せっかくだからさ。味見、してみる?」
「! ……苗木君がいいって言うなら」
やっぱり食べてみたかったんだね、霧切さん。
「ちょっと待ってて、口を付けてないレンゲを用意し「確かに……、シーフードリゾットとは違うけど美味しいわ」

なんですとぉおーーッ!!?
霧切さんは何の躊躇いもなく自分のレンゲを鍋の中に入れて味見しているじゃないか!
こ、これは間接キスって奴では……!!
「やっぱり、私が食べちゃいけなかったのかしら……?」
僕の動揺を好きな食べ物を盗られたと捉えたのか、申し訳なさそうな顔をする霧切さん。
「そ、それは違うよ! 美味しかったなら食べたい分だけ先にとっていいよ!」
「あら、そう……。お言葉に甘えさせて貰おうかしら……」
そう言って霧切さんが自分の茶碗にレンゲ3杯分のおじやを装う。
1杯分のご飯が半分くらいの量になった。
この後はまぁ、間接キスだって意識しないように食べるのに必死であんまり味の記憶が残らなかったんだ。

「ご馳走様でした」
「ご、ご馳走様……」
そんなこんなで完食。
会食場の入り口前で女将さんとすれ違い「お部屋のお布団、敷かせていただきました」と聞いて部屋に戻ってみると……


「さ、さすがにこれは……」
「……近いわね」

隙間なく二人分の布団が横に敷かれていると、やっぱり意識してしまう。
「ぼ、僕寝相悪かったりするかもしれないからさ、少しスペース作るね……」
「わ、わかったわ……」
お互い暗黙の了解だったかのように少し隙間を空ける。その距離約60センチ。

「明日の天気を確認するためにテレビを見てもいいかしら?」
「うん、どうぞ」
貴重品を預けていた金庫から財布を取り出し、テレビの横にあるメモ「2時間100円」と書かれたその投入口に硬貨を入れる。
映し出されたニュースチャンネルの天気予報では、明日の予想天気は晴れマークだった。
「これなら帰りの移動は遅れずにすみそうね」
「うん、よかった……」

ホッと一安心して携帯電話を取り出すとLEDランプがチカチカ光っている。
誰かから連絡が来ていたようだ。
確認してみると山田君からのメールだった。

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 【From】 山田クン
 【Sub】 苗木誠殿へ
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  明日の土曜日、お暇ですかな?
  もしよろしければ拙者と一緒に
  ぶ~子のイベントに行こうでは
  ありませんか!
  11時からですぞ!!
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「ねぇ、霧切さん」
「なにかしら、苗木君?」
「明日は何時の電車に乗って、何時頃に帰れるの?」
「そうね……。8時くらいに出発してお昼過ぎには希望ヶ峰学園に着く予定よ。
 待ってて、詳しい時刻表を確認してみるから」

そう言うと霧切さんは自分の携帯電話から時刻表をネットで調べ始めた。
その見立てだと山田君と合流するのは難しそうだな……。

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 【To】 山田クン
 【Sub】Re:苗木誠殿へ
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  ごめん、無理そう。
  霧切さんのお仕事手伝ってたら
  家に帰れなくなっちゃった。 

  今、滞在先の旅館なんだけど、
  明日のお昼過ぎにならないと
  そっちに帰れないみたいなんだ。
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そんなメールを返信したら1分足らずでメールが帰ってきた。

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 【From】 山田クン
 【Sub】 なん…だと…?
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  年頃の男女が旅館で二人きりですと!?

  おお、勇者苗木よ!
  そなたは今夜、大人の階段を上るのか!

  リア充は爆発しろ、ですぞ!! 
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 【To】 山田クン
 【Sub】Re:なん…だと…?
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  それは違うよ!
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「詳しい時刻がわかったわ、苗木君」
「ホント?」
「えぇ、8時6分発の電車に乗って乗り継ぎ駅に。
 そして9時14分発の新幹線に乗って、1時頃に東京に着くわ」
「そこから学園までとなると……1時30分ってところかな?」
「だいたいそうなるわね」
「朝ご飯は7時くらいにするつもりなの?」
「えぇ」
「だったら6時45分に目覚ましのアラームを鳴らすよ」
「わかったわ。それと朝風呂に入りたい場合は、その時間より早く起きる必要があるわ」
「うん、わかったよ」

携帯電話のアラームを今の内にセットしておく。
そして布団の上から大の字に寝転がってみる。

「ねぇ、苗木君……」
目を閉じていたら霧切さんに呼び止められる。
「なぁに、霧切さん……?」
そのまま寝たら風邪を引くわ、って注意されるのかな。
「その、今日は疲れた……?」
僕の予想に反して咎めるような声音ではなく、どこか優しげだった。
「うん、疲れた。……でも、それ以上に充実して楽しかった」
「……え?」
それが何だか心地良くて、たゆたう意識に身を任せて思ったことをそのまま口にした。

「探偵の仕事をして、観光気分を味わって、温泉に入って、美味しいご飯を食べて……
 全ては霧切さんと一緒にいたからこそ出来たことなんだ」
「それは私が助手として苗木君を連れまわした結果から成り立ったことよ」
「……そうだね。でも僕は、僕自身の意思で霧切さんの助手として隣にいたいんだ」
「苗木君……」
「だから辛かったり嬉しかったりすることはあっても、後悔したことは決してないよ……」
自然に頬が緩んで笑顔の形になる。

「……生意気ね」
「え?」
「苗木君のクセに、助手のクセに生意気よ。私を困らせるなんて」
僕を糾弾しているのに優しく、嬉しさを滲ませた声に聞こえた。
それが僕には何だかおかしかった。
「ハハッ、どうすれば機嫌を直してくれるのかな……?」
「そうね……。一日でも早く一人前の探偵になったら考えてあげるわ」
「それは思った以上にハードルが高いかも……」
「あら、誰の助手でいてその口が言えるのかしら? 出来ないとは言わせないわ」 
「そうだったね、善処するよ……」


その会話に紛れて、付けっぱなしにしたテレビの雑音が聞こえる。
バラエティ番組だったのか、スタジオの笑い声を僕の耳が拾う。
「テレビ、消すわね」
そのままでいいよ、霧切さん。
きっとテレビを消しちゃったら僕の意識は睡魔に委ねちゃう。
……もっと霧切さんと、こうしてお話してたいのになぁ。

そんな反論をする気力が既に僕にはなく、沈黙は肯定と受け取ったのだろう。
小さくスイッチを押す音が聞こえる。
テレビの『アッハッハッハッ……!!  アンッ、ソコォ、モットォ……!!\ギシギシアンアン/』が僕を夢の世界へ……

「なんですとぉおーーッ!!?」
「ッ!?」

OH MY GOD.
眠気なんて一瞬でふっとんでしまったね。
前に桑田君や葉隠君から借りたことのあるエッチなDVD。
それで似たような音声を聞いたことがあるけど、なんでここで――!?

音の発生源を見ると案の定テレビだった。
若い男の人と女の人が裸で抱き合って腰の辺りにモザイクが掛かっていて!
どう見てもエッチな映像です。本当に(ry ……じゃなくて!

霧切さんを見るとリモコンを持ったまま彫刻のように固まっている。
……きっと電源を切ろうとして押すボタンを間違えたんだろう。
その押したボタンが有料のアダルト放送だった。
これが事件の真相だよ! ……って、それも違う!
いけない、僕も動揺している。

……ハッ! テレビを消せば状況の打開を出来るのでは!?

→ テレビ本体の主電源から消す
  霧切さんの持っているリモコンを奪う

と、なるとリモコンは霧切さんが持っている。
しかし呼んでも反応がないから彼女の助けは期待できない。
だったら、テレビ本体の主電源を押せば……!
僕は迷うことなく手を伸ばした。大き目のスイッチ目掛けて。

『\ギシギシアンアン/ イッ、イクゥーーーーッ!!!』
「させるかあぁぁぁっっっ!」


ズキッ

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「……はい、これで完了よ」
「ありがとう。うぅ……」
「そんな顔しないの。私はフロントに救急箱を返してくるから」
そう言って霧切さんは部屋から出ていった。
忌々しげに左手の人差し指と中指に巻かれたテーピングを睨み付ける。

僕の突き指を対価にテレビの主電源は落ちた。
突然の激痛に悶絶する僕の姿を見て、霧切さんは冷静さを取り戻してくれた。
そして女将さんに頼んで氷を用意してもらい、洗面器の冷水で患部を冷やす応急処置を。
ある程度痛みが引いたところでテーピングの処置をして今に至る。

「やっぱり"超高校級の不運"なのかな、僕って……」
「それは違うわ」
「霧切さん……」
「突き指の件は苗木君の自業自得よ。超高校級の肩書きとは関連がないわ」
なかなか手厳しい意見だ。
「テレビを消したかったなら、動揺していた私からリモコンを強引に奪えば良かったじゃない……」
「う~ん、あの時にはこうするしかなかったかなって思って」
仮に実行したら、霧切さんは暴漢に襲われたと思って僕は突き指以上に痛い目をみていたかも……

「夜中に痛みで目を覚ますかもしれないから鎮痛剤も貰ってきたけど、飲む?」
「うん。歯磨きしてくるついでに飲むよ」
「わかった。ちょっと待ってて……」
そう言ってフィルムから薬を取り出し、小さなポリ袋に入れ替えてくれる。
「ごめんね、霧切さん」
「……いいの。あまり気にしないで、苗木君」

今度は僕が部屋を後にして、薄暗い照明の廊下を歩いて共同の洗面所へ。 
共有のコップに水を注ぎ、貰った鎮痛剤を服用してから水で流し込む。
次は使い捨ての歯ブラシの封を歯と右手で破る。
シャコシャコとブラッシングし、水を含んで口内を濯ぐ。

歯磨きが終わったら、廊下にあるトイレで用を足してから部屋に戻る。
そして自分の寝る敷布団に体を半分潜らせる。

「僕の方は寝る準備が出来たよ、霧切さん」
「そう、わかったわ」
「霧切さんはまだ起きてるの?」
「後は私も歯を磨いてくるだけにして、明日に備えるわ」
「……だったら、もう少しだけ起きてる」
「駄目よ。少しでも休んで怪我の治療を進めて」
「でも……」

僕の反論を聞かず、霧切さんは僕の掛け布団を肩口まで掛けてくれる。
「明日の長旅に備えてちょうだい。痛くても車内では治療が出来ないから」
「うん、わかった……」
そして蛍光灯から常夜灯の照明に切り替えた。
薄暗いオレンジ色の室内になっても霧切さんの白い髪と肌のおかげで、彼女がどこにいるかはわかる。
「おやすみ、苗木君」
「うん、おやすみなさい。霧切さん」
霧切さんがいる方向を見ておやすみの挨拶をする。
そして襖を開けて、玄関の照明が入る空間が一時的に明るくなるが、すぐに閉じられて同じ暗さになった。

寄宿舎にあるベッドの感覚でも、実家で使っていた自室のベッドでもない、只の布団の上での就寝。
そして今まで嗅いだことのない生活臭。
肌に触れる浴衣と布団の感触。
目を閉じて視覚を塞いでも、他の感覚が違和感を唱えて意識に訴えかけてくる。

でも今日の一日で蓄積された疲労に天秤が傾いて、僕は眠れた。
おやすみなさい……

 -----

夢。
夢を見ている。

内容は、僕と霧切さんが再びこの旅館の部屋に宿泊しているところだった。
仲居さんに案内してもらった部屋に、早速僕は旅行用の重たい鞄を置いた。
すると霧切さんと同じ色の髪をした5歳くらいの少女が「パパ、抱っこ~!!」って言いながら跳びこんできた。

僕がその娘の相手をしている傍らで、霧切さんは苦笑しながら今日僕が教えた心付けを作っていた。
そしてお茶を注いでいる仲居さんにそっと手渡していて、仲良く二人で談笑している。


テレビのチャンネルを切り替えるかのように夢の場面が変わった。

今度は浴衣に着替えた3人が今日、僕が行ったことのない貸し切り風呂に入ったところだった。
娘さんは衣類をそのまま脱ぎ捨てて小さなお風呂に入る。
「まったくあの子は……」なんて困った顔をしながら霧切さんは、その娘が脱ぎ捨てた浴衣類を拾って綺麗に畳む。
そして僕が目の前にいるというのに、何の躊躇もなく丹前を脱ぎ浴衣の帯を緩めて、浴衣を開き綺麗な体を惜しげもなく見せて……!

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「ハッ? ……くしゅん!」

ビックリして目を開けると同時にくしゃみ。
目を開けて見ても視界は真っ暗なままで、室内は寒い。
天気予報では良くなるから寒くないはずだけど……なんて、思ったら僕の掛け布団が大きく捲れていたじゃないか。

しかし、あの夢はなんだったんだろう。
僕と、霧切さんに似た髪の娘と、霧切さん。
……何より霧切さんの容姿が今より大人びていたし、仲居さんと仲良くする愛嬌があった。
うん、夢っていうより僕の理想や妄想が具体化していたんだろう。

そう結論づけて自分が蹴飛ばしたであろう捲っていた掛け布団を探す。
右手の触覚を頼りに掛け布団がどこにあるか探す。……あ、これかな?
掛け布団の端を掴んで隙間を作り、自分の体を潜りこませる。
うーん、あったか~い……。
これなら朝起きても風邪は引かないよね。
改めておやすみなさい……

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『オマエラ、おはようございます! 朝です、起床時間ですよ~!
 オマエラ、おはようございます! 朝です、起床時間ですよ~!』

僕の携帯電話に設定していたアラーム音が枕元で騒ぎ出す。
畳の上を転げ回るように、連動するバイブレーター機能で羽音を立てるように携帯電話が振動している。

僕は再び右手の感覚だけを頼りに、起床時間を告げる携帯電話を探す。
すぐに音の出処を掴み、ボタンを押してアラームを止める。
そして右手は再び暖かい掛け布団の中へ。

「苗木君、起きて。起床時間よ」
今度は霧切さんがモーニングコールをしてくれるみたいだ。なんかいいなぁ、こういうの。
「苗木君、出来ればあなたの方から離れてほしいんだけど」
え、僕の方から? 
その意味が気になって目を開けると、すぐ目の前には霧切さんの顔が。

「おはよう、苗木君」
「おはようございます、霧切さん……」

相手の吐息がかかりそうな距離で挨拶をする僕たち。
なんでこんな状況になっているのか、振り返ってみよう。

昨晩、僕は寒さから一度目を覚ました。
そして掛け布団を蹴飛ばしていて探す。
部屋がまだ暗かったから右手の感覚を頼りに掴んだ掛け布団に入ったのはいいけど、そこは霧切さんの布団の中だったんだ!
だから僕はこうして霧切さんと体がぴったりくっついた状態で起きている。
これが、事件の全容だよ!


COMPLETE!


「ぉおぉおおぉお!? おぉおぉおお!!!」
目の前にある真実に、僕の頭は叫ぶことしかできなかったようだ。

「ちょっと目の前で叫ばないでくれるかしら? 耳が痛いでしょ?」
対する霧切さんは平静を装っているけど頬が真っ赤になってて動揺しているのがよくわかった。




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