ゲーマーと遊ぼう!

千秋ちゃんが娘だった場合のそんな一幕。

―――――

それは日曜日の昼下がりのことだった。

『ノックアウト!』

家族サービスと称して娘と一緒に遊べるゲーム。
今日は世代の壁を越えてリリースされている対戦格闘ゲームをしていた。
しかし、無常にも僕の使うキャラがゆっくりと崩れるように倒れていくばかりの非情な現実が待っていた――。

「パパ……弱すぎ」

僕との対戦に飽きたのか、欠伸をしながら今度は携帯ゲームのスイッチを入れる愛娘・千秋。
ソファに体育座りしながら最新作の狩猟型RPG・モノクマハンター、通称モノハンに興味がシフトしたのだった。

『10年早いんだよぉ!』

ゲームの中のキャラクターにまで僕を馬鹿にしているように聞こえた。
そんな負け犬の僕は一人寂しく据え置きのゲーム機とテレビの電源を落とす。
続いて二台のアーケードスティックを所定の箱に入れてテーブルを元の状態に戻す。

父親としての威厳まで<< BREAK!! >>されつつある昨今。
そんな僕に残された道はたった一つしかなかった。

「響子すわぁぁぁ~ん!!」

妻に泣きついて、代わりに娘をギャフンと言わせてもらうことだった――。


~ ゲーマーと遊ぼう! ~


「そんな大声を出さなくても聞こえているわ」

隣の書斎にいる響子さんまで僕に目をくれず、過去に依頼された案件のファイリングをするのであった。
なんかもう、この家のヒエラルキーで僕が最下層にいるんじゃないかと確信めいたものができた。

「うぅ、今日も千秋にコテンパンにされたよぉー」
「いつものことでしょう?」
「このままだと僕の言うことを聞かなくなって、そのうち"パパが入った後のお風呂に入りたくなーい"とか"パパの下着と一緒に私の服を洗濯しないでー"言ってくるんだよ!?」
「大袈裟ね……」

何だか某ガキ大将にいじめられて狸型ロボットに泣きつく少年の構図とすごく似ているような気がするが、敢えて無視する。

「それにしてもあの娘の成長も目を見張るものがあるわね」
「えっ、ゲーマーとして日々進化していることに?」
「ゲーマー、というより頭の回転力って言った方がいいかしら?」
「頭の回転力?」

響子さんらしからぬ抽象的な例えに思わず聞き返してしまう。

「さっきまであなた達がやっていた対戦ゲームを例に挙げると、フレームという理論に基づいて成り立つじゃない?」
「うん、そうだね。技が出るまでの"発生"や動作が終わった後の"硬化"が当てはまるよ」
「あの娘の場合、攻略本などに書いてあるその手の膨大な情報とかを全て記憶しているんでしょうね」

なるほど。
たまに熱心に読書している姿を見たことはあるけど、あれって攻略本のフレーム一覧表の中味を覚えていたのか。

「その理論に基づいて勝てるように思考して行動する……。一見単純な話に聞こえるんでしょうけど、あの娘の頭の中は常に二手・三手先の行動を考えているはずよ」
「だから"頭の回転力"って言ったのか……」
「膨大な情報を調べて記憶する"調査"と、相手の行動を思考する"推理"は探偵としての素質には申し分ない能力なのでしょうけど……」
「なにか問題があるの?」
「頭を働かせすぎて平常時の思考力が鈍くならないか心配なのよ」

確かに。
ゲームをしていない時の千秋ってボーッとしているような眠たそうな状態だしね。

「私もゲームに向けるエネルギーをもっと別の方向に向けたいと思っていたのよね。だから……」
「千秋にギャフンと言わせてくれるの!?」
「あくまで打ち負かすのではなく、視野を広げてもらうためよ」
「ありがとう、響子さん……!」

嬉しさのあまり、両手で握手してブンブンと振ってしまう。

「でも、あなたの抱える問題は誠君、あなた自身で解決することね」
「ぐふっ、わかったよ……。でも何で勝負するのさ?」

家にあるテレビゲームって響子さんは僕の隣で鑑賞するだけだったから、一度も遊んだことがないはず。
果たして勝算はあるの?

「その心配は無用よ。テレビゲームだけが遊び道具ではないわ」

そういって物置の鍵を取り出す響子さんだった――。



――――――――――
MISSION 1
A crazy party

~ 狂宴への誘い ~
娘をもてなせ

→ MISSION START
  CUSTMIZE
――――――――――

物騒なナレーションみたいだけど、こっから先はR指定のゲームじゃないからね!


「千秋、今度はママと遊ばない?」
「ママと? ……っていうか、ナニそれ?」

リビングのソファでゴロゴロとモノハンを続けている千秋も訝しげにこちらを見る。
チェス、将棋、花札、オセロ、トランプ、ダイヤモンドゲーム等……。
物置で埃を被っていたテーブルゲームの一式を全部持ってきたのであった。

「パパとママが高校生の頃、同じ寮の皆と一緒に遊んでいた時の遊び道具一式だよ」
「でも私、遊び方を知らないよ?」
「最初にパパとママがデモンストレーションで遊ぶから、そこからルールを覚えなさい」
「うん、わかった」
「それじゃあ誠君、まずはトランプの七並べから始めましょう」
「いいよ。久しぶりだからお手柔らかにね」
「甘いわね、久しぶりだからこそ全力で行かせてもらうわ」

内なる闘志を隠すことなく最初からクライマックス宣言とは。
実はこういうこと一度はやってみたかったんじゃないのかな、響子さんは?

そんなわけで七並べ、神経衰弱といったトランプ勝負。
花札のこいこい、オセロ・ダイヤモンドゲームを僕ら夫婦でルールを教えつつ対戦したのだった。
そして――。

「さて、オードブルは平らげたわ。……メインデッシュの方はどうかしらね?」
「いつでもいいよ!」
「あなたの無敗伝説に終止符を打ってあげるわ、千秋」
「ママの挑戦、受けてたつよ……!」

両者の目から火花がバチバチ炸裂している!

――――――――――
MISSION 2
The blood link

~ 血の邂逅 ~
無敗の娘に鉄槌を下せ

→ MISSION START
  CUSTMIZE
――――――――――

「誠君、コーヒーお願い。千秋には「パパ、オレンジジュース」……だ、そうよ?」
「はいはい」

前座の僕は給仕係と化したのであった。
やっぱり僕はこの家の大黒柱のはずなのに、ヒエラルキーは一番下のところにいるようだ。
今度、十神君あたりに父親の威厳を保つにはどうすればいいのか相談してみることにしよう――。


―――――

「……うにゅぅ」

それは3戦目のオセロをしている時のことだった。
千秋が次の一手を考えて俯いているのかと思ったら、鼻提灯を浮かべていた。
首もカクンカクンと揺れている。

「……どうやら活動限界のようね。ここまでにしましょう」
「やだぁ、もっとママと、あそびたぃ……」

会話の途中でフラリと前のめりになり、そのまま顔をオセロ盤に落下するものだったから寸での所で両肩を掴んだ。
その後の千秋に何の反応もなく、代わりに規則正しい寝息が聞こえる。

「しばらくは起きなさそうね、部屋に運びましょう」
「そうだね」

そのままお姫様抱っこをするような形で千秋を子供部屋まで運び、ベッドに寝かせる。
響子さんが掛け布団を掛け、千秋の頭を撫でながら独白するようにつぶやいた。

「現段階で持久戦は不向きのようね……」
「そうかもしれないね。それと、初めて遊んだというには飲み込みが早かったよね」
「それはこの娘のセンス……というより"才能"の領域ってところかしら」
「逆転までには至らなかったけど、徐々に食いついていたのは明らかだったし」
「……妙に千秋の肩を持つわね。あれだけ"娘をギャフンと言わせたい"と言っていた癖に」
「やっぱり我が子が頑張っている姿を見ると、ついつい応援したくなっちゃうんだよね」

親の性(さが)、と言うべきだろう。

「響子さんは千秋とこういう形で遊んでみてどうだった?」
「最初は"娘の癖に生意気よ"って思っていたけれど、真剣な姿を見ていると何時か私を追い越す日が来るんじゃないかと思ったりもしたわ」
「子が親を超えることって、親からすれば嬉しい話なんだね。さっきまで意固地になっていたけど、今日の二人を見てよくわかったよ」
「……父もそうだったのかしら?」
「えっ?」
「父も私の探偵の実力を見て嫉妬したりはしなかったのかしら? ……って、思ったの」
「それは……違うよ」

ゆるゆると首を横に振り、響子さんに諭すようにゆっくりと言う。

「"さすがは僕らの娘だ……!"って大喜びだよ。現に娘に超えられた父親の僕が言うんだから間違いない」
「フフッ……。経験者が言うのだから尚更説得力があるわね」

千秋の寝顔を二人で眺めながらそんなことを僕らは口にしていた。


「さて、と……。そろそろ夕飯の支度をしなくちゃ」
「その必要はないわよ」
「えっ、どうしてさ?」

夕飯の支度をしようと立ち上がろうとした僕に待ったをかける響子さん。
手首まで掴まれたけど、思い当たる節がなくて首をキョトンと傾げる。

「これから誠君は私の特訓に付き合ってもらうわ。だから夕飯の支度は不要よ」
「特訓だって? なんの?」
「さっきのテーブルゲームはあくまで私達の領域、ホームゲームだった。
 私も千秋の領域であるテレビゲームでも勝負をしなきゃフェアじゃない。……ここまで言えばわかるわね?」
「えっ、響子さんテレビゲームしたいの?」
「あくまで母と娘のコミュニケーションのためよ。そういうことだから夕飯はデリバリーにしましょう」
「せっかく豪勢にしようと材料揃えたんだけどな……」
「それはまた次の機会にしましょう。さぁさぁ、善は急げってことで」

片手で僕をグイグイと部屋から押し出す響子さん。
器用にもう片方の手で携帯電話を操作して宅配ピザの注文をするのだった――。

―――――

『えいっ、ファイヤー! アイスストーム! ダイアキュート! ブレインダムド!』

ゲーム初心者の響子さんのためにシンプルな操作で簡単に遊べる対戦パズルゲームをチョイスしたが、瞬く間にコツを覚えては連鎖を仕掛けてくるのであった。
もう僕の陣地には大量のお邪魔パズルがセットされ、なす術もなく撃沈するのであった。

「ほぁふぃひぃふわよ、ふぁふぉとぉふん」
「いや、ピザ食べながら喋ってもわからないから」
「……ん。弱すぎるわよ、誠君って言ったの。これでは特訓の意味にならないわ」
「グヌヌ……」
「千秋なら平気で私の8連鎖を10連鎖で返すようなことをしてくるはずよ。だから早く相殺して」
「それは無理だよ! 僕だって3、4連鎖するので精一杯なんだから」

ばたんきゅ~、という文字が浮かぶテレビ画面を眺めながらドリンクのウーロン茶を流し込む。

「……一つ聞くけどさ、響子さん。この体勢って特訓の意味があるの?」
「愚問ね。これくらい近ければお互いの思考なんて手に取るくらいわかるものじゃないかしら?」

二人掛けのソファに僕が胡坐を掻き、僕を椅子代わりにチョコンと座る響子さん。
僕の操作に支障をきたさないよう、腕は腰に回し、顎を右肩に乗せてゲームをしているけれど。
おかげさまで僕の視界左半分は響子さんの髪で覆われている。
いくら体を密着させたところで思考までリンクしているわけないでしょうに――。

「ほら、続けましょう」
「はーい」

また二人して黙々とパズルを積み上げる作業に戻るが、ふと響子さんにイタズラしたくなった。
男の性(さが)、と言うべきだろう。
操作そっちのけで右手をコントローラーから響子さんの太腿へ。
ツツゥーと指を這わせてみる。

「……! プレイヤーへの直接攻撃は禁止よ。ま・こ・と君?」
「……ふぉめんなふぁい」

すぐさまポーズ画面に切り替え、頬っぺたを抓ってくるじゃないか。
えぇい、まだだ。 まだ終わらんよ!


「今度こそ真面目に……っ!」

言い切るより先に唇を奪い、舌の先で割り込むように口腔へ侵入する。
そのまま歯茎を軽くなぞり、前歯を軽くノックする。

「んぅ、うっ、う、うぅん」

響子さんは驚いて目を見開いているが、抵抗の素振りはない。
返事はOKと受け取り、舌同士で螺旋を描くように絡める。
マルゲリータを食べていたことでチーズ、トマトソース、オリーブオイル、そして響子さん。
味覚が4つの味を捉え、ハーモニーを奏でる。
それは極上の甘露へと精製されていた。

「うっ、う……ぅんんっ!」

じゅっ、と音がするほど唾液を強く吸い上げたのを最後に、ゆっくりと響子さんの唇から離す。
僕らを繋いでいた唾液の糸も力なく垂れ下がり、プツリと切れた。

「……ふぅ、ごちそうさま」
「TPOを弁えなさい、バカ……」

プイッと僕から顔を背けるが、耳まで真っ赤な様子を見ると満更でもなさそうだ。
……ちょっとだけ、我が家の大黒柱としての面目が戻ってきた気がした。
これに気をよくした僕はさらにオネダリしてみる。

「ねぇ、響子さん……」

おかわり、していいかな――。
耳元でそっと囁く。

「っ……! そういうのは私に勝ってから言いなさい」
「ホントにっ!?」

俄然、やる気が出てきたよ。
よーし、頑張って響子さんより早く8連鎖を組んで勝利してやろうじゃないか!


「……パパとママ、何してるの?」
「「あ」」

我が家の眠り姫もお目覚めになっていたとは。
まだ眠たそうに目をこすりながらも意識ははっきりしているようだ。



「こ、これは私と千秋がゲームするための特訓のためであってね……!」
「そ、そうだよ! ママがゲーム初心者だからパパが手取り足取り教えているんであってさ!」
「……だったら、なんでパパがママを抱っこしながらゲームする必要があるの?」
「これはそう、新しいフォーメーション"ユニゾン"よ」
「ユニゾン?」
「お互いの心と体を密着して意識を極限までシンクロさせる特訓なのよ。そうでしょ、誠君?」
「(僕に振らないでよ……!)そ、その通りだよ、こうすることでどんな強敵も62秒で倒せるんだから……!」

そんなドモる僕らを見て、千秋は溜め息を吐きながらピザの一切れを摘む。
そして最後に一言こう言った。


「パパとママが"アツアツ"だってわかった。……色んな意味でごちそうさま」 


その後の数日間、僕らを見る目が冷ややかなモノになったと補足しておく。
もしかして、もう反抗期が来たのか――!?

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