アナザードラマEX  ミステリアスな男女

「あら鈴木さん。お仕事ならきてますよ。ええっとねぇ……」

今日も永洲タクシーの事務員・平川さんに紹介された送迎先まで車を走らせた。

―――――

「お待たせしました、永州タクシーです」
「あ、待ってましたよ。空港までお願いします」

(二人とも黒いスーツ姿……。葬式帰りか何かだろうか?)


~ アナザードラマEX  ミステリアスな男女 ~


「はぁ、疲れた……」
「そうね。手がかりすら見つからずとんだ無駄足だったようね」
「本部も都市伝説みたいな情報で僕らを派遣するのは勘弁してほしいよ」
「でも本当に生き残りが実在するなら、そのような噂話の一つや二つ浮き出てもおかしくないわ」
「あーあ、せっかく九州・永州に来たんだから本場のとんこつラーメンや水炊きを食べてみたかったんだけどなぁ……」
「私たちは観光に来たわけじゃないのよ、苗木君」


(葬式じゃなく仕事で来たのか……)


「わかってるって霧切さん。でもお土産くらい買ってもいいと思うよ?」
「そうね……。飛行機の時間までまだ時間もあるし、多少寄り道をしても問題はないわ」
「えっ、本当? だったら運転手さん、この辺でいいお店とかご存知ないですか?」


(俺が知っている店で紹介できるとすれば……)

  いのり薬局
→ 鶴屋
  Mストア

「お客様、でしたら鶴屋はいかがでしょうか?」
「鶴屋……ですか?」
「はい。明太子創業メーカーである"ふくや"の品々も取り扱っております。それに明太子は永州のお土産や贈り物の定番です」
「それが良さそうですね。運転手さん、そのお店までお願いします」
「畏まりました」


(お客さんは良い印象を持ってくれたようだ……)


―――――

「後はこの高速をひとっ走りで空港か。ん……?」
「どうしたの、苗木君?」
「なんか隣を走る車がさっきからパッシングして煽っているみたいなんだ……」
「……そのようね。運転手さん、何か心当たりがあるんじゃないかしら?」
「あれは"永州デビルキラー"と呼ばれる走り屋集団の一味でしょう」
「永州デビルキラー……?」
「はい。最近は一般ドライバーにまでレースを挑ませ金品を巻き上げるという性質の悪い集団でして」
「それは面倒な相手に絡まれちゃったな……」
「運転手さん。そのレース、受けてもらえないかしら?」
「っ!? ですがお客様の安全に支障をきたす恐れがあるのでさすがにそれは……」
「降りかかる火の粉は払うまで……。あなたも私と同じ考えの筈です、"鈴木"さん」
「……いいでしょう。お客様、身の安全のためシートベルトはしっかりお締めください」
「えっ、ちょっと! 本気ですか運転手さんっ!?」
「これから御二方を"男の世界"にご招待します」


(こうなったらやるしかねぇ……!)


「タクシードライバー舐めてると怪我するぜ?」


―――――

その一言と共に運転手の鈴木さんは無線機を切り、カーオーディオのスイッチを入れた。
男らしいビートロック・ナンバーが車内に響く。
ルームミラー越しから見える彼の目は鋭く、人の姿をしたバケモノを見ている感じだ。
例えるなら――龍。

時速100kmを走っていたタクシーがさらに加速する。
120km、140km、160km――。ついに速度メーター最後の目盛りを示す時速180kmの領域に到達した。
前を走る車を縫うように追い越す。一度でもハンドル操作を誤れば大事故間違いなし。

「神様、仏様、鈴木様……どうか無事に辿り着けるように……!」

僕はただ座って祈ることしかできなかった。

あの"補習"を思い出させるような恐怖から膝に付いた両手を震わせていると、スッと僕の手に何かが被さった。

「霧切さん……?」
「私も怖くないと言えば嘘になるけれど、今は鈴木さんの腕を信じましょう」
「……そうだね」

僕の手を包み込むように握っていた霧切さんの手を取り、指を絡めて握り返す。

「それにこの速度で衝突すれば原型をとどめないくらいの大惨事で、痛みを感じることもなく即死するはずよ」
「それ全然励ましてないよ! ……あっ、前!!」

トンネル内を走っていると、どの車線にも車は走っていて追い越すことができない。
今から減速したところで間に合わずぶつかってしまう――!
絶体絶命のピンチだ!


「楽しくドライブと行こうぜ?」


そんな絶望的な状況下だというのに運転手の鈴木さんだけは不敵な笑みを浮かべていた。
それどころか減速せずに右から左に急ハンドルを切り出した。

「秘技、漢気ドライブ……!」
「ぎにゃああああぁぁぁぁっ!!!!!」

左に急ハンドルを取ると徐々に浮く僕の体。
体だけでなく車体ごと浮き上がり、しまいには左側のタイヤのみで走行するじゃないか!
その片輪走行でトラックとトラックの隙間を走るタクシー。まさにクレイジータクシー!

トラックを完全に追い越したところで徐々に下がる重心。
二輪走行から四輪走行へ。
S級カースタントを体験した僕は幸運と呼ぶべきか、不運と呼ぶべきか――。

「デビルキラーってのはその程度か?」

鈴木さんの挑発を聞いたかのように後ろから鳴り響くクラクション。
自ら追突するようなあぶない動きに警戒して、車一台分の隙間を強引に作らせてそこを突っ切るデビルキラーの車輌。
ニトロを点火させたような蒼白い炎を巻き上げながら僕らの乗るタクシーを追い抜いていった。

「まずいですよ! このままじゃレースに負けてしまいます!」
「……安心しな。奥の手があるぜ」

丁寧語ではなく、頼りになるような男らしい口調で鈴木さんは答える。
カーブを抜けた先はストレートの道が続いていた。
鈴木さんはアクセルペダルを踏み潰すくらいの勢いでベタ踏みする。
そして同時にハンドルの近くに設置している赤いボタンを押した。


「秘技、爆裂アクセル! んんんんんっ!!」


体が接着剤でも付けられたかのようにシートの背もたれから離れられない。
音速の領域にまで踏み込んでいるんじゃないかと思うくらいの速度で次々と前の車を追い抜く。
そして――。


「お先に失礼」

ぶっちぎりでデビルキラーの車輌を抜き去り空港までの道のりを走っていったのだった。
後ろを振り返り、これ以上追って来られないだろうと確認すると僕らは同時に溜め息を吐いて一安心する。

―――――

「お客様ご到着です。それと……お体の調子は大丈夫ですか?」
「ありがとう、ご心配なく。それと、これはチップ代わりよ。受け取って」

" 1万円 を手にいれた "

「ほら、苗木君。あなたも支払いましょう?」
「でも霧切さん、僕さっきのお土産代でこれ以上の持ち合わせとかないんだけど……」
「チップだけが誠意ではない。あなたの大切なものを差し出すだけでも十分な誠意になるわ」
「わかったよ。鈴木さん、これ受け取ってください」

" 普通のパンツ を手にいれた "


(最近の若者は自分の下着を渡すことが流行になっているのか……?)


" 経験値 600 を手にいれた "


「素敵な送迎、ありがとうございました」
「次は是非プライベートで利用させてもらおうかしら、"桐生"さん」
「っ!?」
「"探偵の世界"ではあなたの正体はお見通しでした」
「……くれぐれも他言無用でお願いします」
「もちろんです。それに……今は"元・探偵"ですし」
「おっと、そろそろ手続きしないと不味そうだ。それでは!」
「さよなら」
「またのご利用、お待ちして申し上げております」


(ミステリアスな雰囲気を纏っていたが、探偵だったとはな……)


―――――

搭乗手続きを済ませ、案内が来るまでの時間を僕らはベンチに座って待っていた。

「それで、霧切さん。あの運転手さんの素性は何時わかったのさ?」
「挨拶をした時にすぐわかったわ。それくらいシノギの世界では有名人でしたもの」
「ふーん……。身分証の写真でもサングラスとマスクをして怪しいと思ったけどねぇ……」
「名前を偽り、身分を隠すくらいだから余程の事情があるのよ」
「なるほど……」

人の数だけドラマがあるってことだろう。

「それにしても、さっきの運転でお土産の明太子も形が崩れているだろうなぁ……」
「その時は私達の方で使い切るようにしましょう」
「そうしよう。帰ったら早速この明太子を使ったたらこスパゲティにしようか?」
「……晩御飯が楽しみね」

そんな会話をしていたらスピーカーから僕らの乗る飛行機の搭乗案内を告げてきた。

「その前に本部への報告が先ね。支部に戻ったら速やかに報告書を作成しましょう」
「そうだね。帰ろう、僕らの居場所へ。いっちおく、におくひゃくおくのキスを浴びせてやる~ベイベー……」
「何、その鼻歌?」
「さっきタクシーの中で流れていた歌だよ。男らしくて憧れるなぁ……」

あの運転手さんらしいビート・ロックが印象的だったなぁ――。
今度オンラインストアで探してみるとしよう。

「……苗木君」
「ん? どうしたのさ、そんな神妙な顔をして」
「あなたがあの人の真似事をしても、九頭龍君みたいなちびっ子ギャングにしか見えないわ」
「ぐふっ……!」

僕の心臓をグングニルの槍が貫くような言葉だった。

「あなたはあなたのままでいる方が私は好きよ? ここまで言えばわかるわね、苗木君?」
「うん。僕も片輪走行している時にギューっと手を握ってくれる女の子らしい霧切さんがだいす……ぁ痛っ!」
「あれは忘れなさい、いいわね?」




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