あなたの隣で 4章 幸せは日常の中で(1)

 誠と響子は今後の生活について話し合っていた。響子の自宅兼事務所に誠が転がり込む形で住むということ自体は二人ともなんとなくそのつもりで居たらしく、特に問題はなかった。
しかし、寝室を別々にするかしないかで二人の意見が食い違っていた。1つ空き部屋はあるにはあるのだが、寝室として利用するには充分な広さではない。
一方、現在響子が寝室として利用している部屋は新たにベッドを追加しても余裕がある。その事実から、響子は誠に同室で寝るように言ったのだ。しかし、誠は首を縦に振らなかった。

「僕は空き部屋で適当に何か敷いて床で直に寝るからいいよ」
「それじゃ、ゆっくり体を休められないでしょ? それとも何? 私と同室じゃ問題でもあるの?」

 誠の提案に納得できるわけもなく、響子は彼を睨みつける。鋭い眼光を向けられて誠は苦笑いを浮かべた。

「えっと、ある意味問題があるというか……」
「なんとなくあなたが考えていることは分かるけれど……家族になるのだから問題はないはずよ? むしろ慣れてもらわないと困るのだけど」

 響子は少し頬を染めて誠に訴える。響子の言うことは分かってはいるのだが、プロポーズを済ませたと言っても、交際過程を飛ばしているため誠は正直そこまで心の準備が追い付かないでいた。
しかし、響子のそんな顔を見せられてしまったら少し心が揺らぎそうになる。

「そうなんだけど、でももう少し経ってからでも……」
「誠君、あなた……家主に逆らうの?」

――変わったのは外見ばかりで、中身はヘタレのままじゃない。

 響子は、やはり自分が主導権を握るのが一番良いのだと痛感した。欲を言えば、男性である誠の方に色々と積極的にリードをしてほしい、
というのが正直な彼女の気持ちだが、彼は言葉の面では積極的なところもあるが、行動の面では少々奥手すぎた。
また、家主である自分が強気に出た方が早く話が進むと彼女が判断した上での発言だった。

「はぁ……返す言葉もございません。わかった、響子さんに従うよ」
「最初からそう答えていればいいのよ。……とりあえず、今日はまだベッドが無いから私のベッドで寝ていいわよ」
「えっ? さ、さすがにそれには従えないよ! 家主を、女の子をベッド以外に寝せるなんて――」
「何を言っているの? 私はベッドで寝ないなんて言ってないわよ」
「あ、そうですよね。はははは……」

――なんだか、響子さんは僕のことを精神的に殺す気なんじゃないかと思えてきたよ。

 誠は乾いた笑いを浮かべながら、額に冷や汗を滲ませていた。一方響子は動揺している誠を見て、最初にからかわれた際の仕返しがようやくできたとひそかに満足していた。
そして、それは響子の淡白だった毎日が幸せな濃い毎日に変わった瞬間だった。


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