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「……んん……んっ!?」

 ベッドで寝ていた僕は、朝5時ごろになんとなく目を覚ました。
開けた目に飛び込んできたのは綺麗な紫がかった銀髪の女の子の寝顔――僕の気になる女の子の寝顔が目の前にあった。

「え……? えっ?」

――なんで霧切さんが僕のベッドで寝てるの!?

 たらたらと変な汗が滲み出る。思考が正常に働きそうにもなかったけど、無理やりにでも働かせて記憶をたどってみた。
けれど僕の記憶の中には何ら不思議な点はなかった。昨夜も部屋に一人で居て、確実に一人でベッドに潜り込んだことを思い出せた。
おかげでますますこの状況を説明できるものを見出せず混乱した。

「んっ……」
「うわっ!」

 すやすやと眠っている霧切さんの口から少し声が漏れる。同時に僕にしがみついてきた。迂闊だった。
僕は混乱してその場か離れるどころか、起きた直後の状態からまったく動けなかったせいでさらに動けなくなってしまった。

――ムニッ

――あわわわわわっ! どうしよう! どうしよう! 何か柔らかいのが当たってる! 
――き、気持ちよさそうに眠ってるけど……これは、起こさなきゃまずい!

「あれー? 起こしちゃうの? 苗木君、霧切さんを起こしちゃうの?」
「――っ!? モ、モノクマ!? な、なんだよお前! 急に出てきて!」

 僕が霧切さんを起こすために彼女の肩に手を掛けた時、ベッドの前に突然モノクマが現れた。
この状況を明らかに面白がっていて、不快極まりない。

「ボクが急に出てくることなんて別にいつものことじゃない! それよりさ、起こしちゃうの? チャンスだと思わないの?」
「チャ、チャンスだって……? そんなこと思うわけないだろ! あ、分かったぞ! これもお前の仕業だろ!」

 きっとモノクマが霧切さんに睡眠薬とか飲ませるかどうにかして、ここに連れてきたに違いない。そう思ったけど、あっけなくモノクマに否定された。

「何言ってんの? 不順異性交遊を認めてないボクがそんなことするはずないじゃん! うぷぷぷぷ! とんだ言いがかりだよね、全く。
監視カメラで見てたけどさ、夜中に霧切さんが自分で君の部屋に来たんだよ」
「はぁ? そんなわけないだろ! まぁ、来ることはあり得るかもしれないけど……僕が寝ている横に霧切さんが潜り込んで一緒に寝るなんて、
どう考えてもあり得ないじゃないか!」
「あのねぇ、面白そうだったから今ボクはここに来たけど、それ以外は全部霧切さんが自分の意志で行動したことなの。
責めるなら霧切さんを責めてよね。あーあ、テンション下がるなぁ……もう飽きたから好きにやっちゃってよ。ボク帰るね」
「お、おい! ちょっと待てって!」

 僕の声は虚しく宙に響いただけだった。それにしても、モノクマとのやり取りがあったにも関わらず霧切さんが起きる気配がない。
いつもの彼女なら、すぐに起きそうなんだけど。

――ギュゥッ

「~~~~っ!」

 まずい。まずい。霧切さんの腕に余計に力が入ったせいで、僕の身体と霧切さんの身体一層密着してしまった。
このままだと絶対に間違いを犯してしまいそうだ。

「き、霧切さん! 起きて! 霧切さん!?」
「……んんっ……ふ………………?」
「霧切さん?」
「……苗木君? ……おはよう」
「あ、おはよう……じゃなくて!」

 やっと霧切さんがやっと起きてくれた。けれど、まだ意識がはっきりしてないみたいで目がトロンとしている。
そして相変わらず僕はしがみ付かれたままだ。

「あの、とりあえず離れてくれない?」
「離れる……? …………あっ」

 やっと現状を把握したらしい霧切さんが、大きく目を見開いた。
そして「ごめんなさい」と呟きながら身体を離してくれたけど、その表情はいつもの霧切さんに戻っていた。

「霧切さん? なんで僕の部屋に、というか僕の横で寝てたの?」
「…………あなたに、関係ないわ」
「いやいやいやいや! 関係あるよ!? ありまくりだよっ!?」

 見事にすっとぼけたことを言う霧切さんに僕はつい大声を出してしまった。
この様子だと、悔しいことにモノクマが言っていたことは本当だったらしい。

「……わかったわ。言えばいいんでしょ、言えば」
「できればお願いします」

 僕から少し視線をずらして拗ねたように言う霧切さん。いつも強気で冷静沈着な彼女にしては珍しく、歯切れの悪い様子で話してくれた。

「昨日、あなたと音楽室に行ったでしょ?」
「確かに行ったけど、何か関係あるの?」
「……その……あなたからその時に、日本の学校の怪談話をいくつか聴かせてもらったじゃない?」
「えっと……うん……」
「それで……あの……」
「霧切さん、もしかして怖くなって一人で寝れなかったとか?」
「――っ!」

 僕の問いかけに霧切さんがビクッと肩を揺らした。どうやら当たりのようだ。

「え、本当に? 霧切さんが? “根拠のないものに怯えるなんて私には分からない”って言ってたよね?」
「…………」
「……霧切さんがそんなに意地っ張りで怖がりだったなんて意外だよ」

 朝の訳の分からない状況の原因が、こんなに予想外なことだとは思いもしなかった。つい、僕は溜息をついて目を伏せてしまった。

「ご、ごめんなさい。軽蔑したわよね……」
「全然そんなことはないけど。むしろ、霧切さんの新たな一面が見れて嬉しいっていう気持ちの方が大きいかな」
「そ、そう。それなら良いけど」

 でも、納得いかない点が一つだけあった。

「まぁ、霧切さんが実は怖がりだったていうのは置いといて、なんで僕の部屋に来ちゃったの?
 怖くて寝れないにしても、舞園さんとか朝日奈さんとか……同性の人の部屋に行くべきでしょ?」
「ドアが開いてたから」
「え、ドア開いてた!?」
「ええ。それと、ここに来てから毎日あなたと過ごして……
 あ、あなたなら家族になるような人として付き合っていっても良いと思うようになって……それで……」
「え? そ、それってつまり――」
「あなたに、興味があるって言ったでしょ? それについて自分で必ず明らかにするとも言ったわ。
それで、分かったのだけど……私、あなたのことが好きみたい」

 何だろう、この展開は。まだ早朝だというのに、色んな予想外なことが起こりすぎた。
でもそれ以上に、今目の前に居る、顔を赤らめてもじもじしながら僕を好きだと言ってくれる霧切さんが可愛すぎた。

「ぼ、僕も! 僕も霧切さんのことが好きだよ!」
「本当に? 同情とかでそういうこと言われても傷つくだけよ?」
「同情だなんて、まさか! 好きじゃなかったら毎日君を誘ったりなんかしないよ!」
「そう、よね。バカ正直なあなただものね……良かった…………ねぇ、今日はどこへ誘ってくれるの?」

 頬を染めたままの霧切さんが、僕に柔らかい笑みを向けて問いかける。
本当に綺麗で、可愛い。こんな人と僕なんかが付き合えるなんて。

「娯楽室に行こうか? ダーツでもする?」
「……手袋だと投げにくいわ」

 霧切さんの表情が曇った。けれど、僕はわかっててわざと言ったんだ。だって――

「家族になるような人の前では、手袋はいいでしょ?」

 僕の言葉に、霧切さんがハッとして、けれど不安そうな顔で僕を見た。

「……でも、この下はとても醜いのよ。自分でもそう思うのだから――」
「僕は霧切さんの全部が好きで、全部を知りたいし受け入れるよ……だから醜いだなんて思うわけがないでしょ?
 僕を信じて……それと、娯楽室は貸切にしてもらうから」

 霧切さんはまだ少し迷っているようだった。珍しく動揺の色が表情に見える。

「そうね。あなたになら、全部見せてもいいわ……だから、ちゃんと最後まで責任とってくれないと許さないわよ?」
「もちろん、霧切さんと家族になることを約束するよ」
「ありがとう、苗木君」

 僕と霧切さんは微笑みながら暫く見つめ合って、モノクマの朝のアナウンスが流れるまで二人で心穏やかな時間を過ごした。


  ◇◆


「霧切さん、ダーツ凄く上手いね」
「そう? 初めてやったけど、苗木君が下手すぎるんじゃないかしら?」

 楽しそうに笑う霧切さんが新鮮だった。良かった、すごく楽しんでもらえたみたいだ。


終わり


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