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電話が鳴った。
わたしの大切な『妹』からだ。
わたしが胸を弾ませながら受話器を取ると、

『結お姉さま、相談があるの』

すぐにその懐かしい声がわたしの耳元に届いた。
その声は相変わらず上品で可愛らしくて、でもちょっぴり、悩ましげだった。


ーーーーーーーーー


「久しぶり、霧切ちゃん! 」
「久しぶりね、結お姉さま」

わたしと霧切は、電話があった翌日に、希望ヶ峰学園近くの公園で会う約束をした。
わたしたちが会うのは、例の委員会との戦いに勝利した時以来になる。
例の委員会は結局、ほとんど霧切の活躍だけで解決してしまった。
それ故に、霧切にとって、わたしは結局必要だったのかが疑問だった。

だからこそ、

「早速だけど、相談があるの」

こうして彼女に頼りにされることが、わたしにとってどれだけ嬉しかったことか。

「いいよ、何でも言ってみてよ!」

大切な『妹』に頼りにされているのだから、力になってあげたい。

「ありがとう、お姉さま。実は...」

さあ、どんな相談が出てくるだろうか? 新たな謎の組織との戦いだろうか? それともお父さまについてだろうか? あと他に考えられるのは…

「私,好きな人が,出来たみたいなの…」


……えっ?

「ええええええええええええ!?」

す、好きな子が、出来た!? いつの間にこのお嬢さまは男の子に興味を持つようになったの!?

「……そんなにびっくりするようなことだったかしら?」
「い、いや別に…」

霧切はやや俯いた状態で、真っ赤になってジト目でこちらを睨んでいた。
この表情を見せただけでも、大抵の男の子は落とせると思うけれど…

「……話を戻すわ。そして、今日はクリスマス・イヴでしょう?」

そういえばそうだった。
どうせ今年も例年通り、一人でチョコレートケーキを食べることになるだろうから、あまり気にしていなかった。

「だから、今日の夜に、思い切ってプレゼントをしようと思うの。 そして、気持ちを……」

霧切はまた俯いて真っ赤になってしまう。
ああもう、可愛いなあ。
今まで全く確認できなかった、『妹』の恋する女の子な姿に、ニヤニヤが止まらない。

「なるほど。でも、好きな子にプレゼントなんてしたことなんて一度も無いから、第三者の意見が欲しかった。だから、わたしに相談しようと思った。……こんなところかな?」
「その通りよ。悔しいけれど、私一人では失敗しそうな気がしてならないの…… 協力してもらえないかしら?」
「勿論協力するよ!」
「ありがとう、お姉さま」

とは言ったものの、わたしも異性と付き合ったことはないので、若干心配ではあるが…

「ところで、その好きな人ってどんな子なの?」
「……お姉さまのような人よ、良くも悪くも」
「ごめん、さっぱり分からない」
「前向きで、バカ正直なのよ」
「え~、バカ正直って…」
「だから、性格が彼にそっくりなお姉さまなら、きっと好みも似たようなものだろうと思ったの」

そうか、今回わたしに相談してきたのはわたしをお姉さまとして頼ってではなく、そういう理由で…

「どうしたのお姉さま、肩を落として」
「……いや、何でもない…」
「そう、なら早く買い物に行きましょう。時間は待ってくれないわ」
「うん…」

霧切に引っ張られて、わたしは歩き出した。


ーーーーーーーーー


わたしたちは、待ち合わせ場所からすぐ近くにある、スーパーマーケットに来た。

「う~ん、男の子だったらゲームは好きだとは思うけど、でも…」
「それだけ高額な物だと、変に気をつかわれてしまいそうね」

相談しながら、色んなコーナーを回って行く。
そうして、食料品売り場にたどり着いた。

「お菓子なら喜んでくれるかな?」
「彼がお菓子を食べている姿はあまり見ていないけれど…」

なかなかプレゼントが決められない。
もういっそのこと、本人に欲しいものを聞きたいところだ...

「う~ん、じゃあ別のところに行こうか…」
「……」

あれ? 返事が無い。
見ると、霧切は明後日の方向を向いていた。 少し目を見開き、顔を紅潮させている。
その視線の先には、こちらに手を振り、駆け寄ってくる男の子。

……なるほど、この子か。

「霧切さんこんにちは。 この人は?」
「こんにちは。 この人は五月雨結。 私のお姉さまよ」
「えっ、霧切さんってお姉さんがいたの?」

もっと分かりやすい紹介はできなかったのか。まあ、確かにわたしは霧切のお姉さまで間違いないけれど。

「えっと、とある事件の時に知り合って、それからお姉さまって呼ばれてるの。だから、別に血が繋がっている訳では無いよ。よろしくね、苗木君」
「はい! 僕は苗木誠です、こちらこそよろしくお願いします」

なんというか、素直そうで優しそうで、親しみやすそうな人だ。……霧切より背が低く、仔犬のような雰囲気なのがちょっと頼りないが。
あまり人と関わろうとしない彼女が彼を好きになった理由が、何となく分かった気がした。

「苗木君は何の用でここに来たのかしら?」
「夕食に使う食材を買いに来たんだ。霧切さんは?」
「っ! ……お姉さまが,クリスマスプレゼントに何か買ってくれるって言うから来たのよ」
「そうなんだ、良かったね!」
「ええ」

もうちょっと上手に嘘はつけないものか。返答までの間が明らかに不自然だ。まあ、ばれてないみたいだからいいけど。
そんなことを考えながら、ふと苗木の持っているものを見た。
……あれ?

「苗木君、君って一人でこんなに沢山食べるの!? 凄いね、流石は育ち盛りだね!」
「っ! ……いや、あはは…」

苗木の手には、大量の食材が入った買い物カゴが握られていた、それのほとんどがおつとめ品だった。

こうして、霧切が苗木を助手として事件の時に連れて行ったことや、苗木が霧切に対してやたらお節介焼きな性格だとか話しているうちに、話すことも無くなり。
わたしたちは苗木と別れ、他のコーナーに行った。紳士服売り場だ。

「あ、霧切ちゃん、これなんかどうかな?」

わたしがそう云って指差したのは、マフラーだ。

「いいかもしれないわね。彼がマフラーを着けているところは見たことが無いわ。多分持っていないわね」
「よし、じゃあマフラーにしようか。霧切ちゃん、どれにするか決めてよ!」
「えっ、私が…?」
「そう。わたしだったら、『これなら喜んで貰えるかな』って選んでくれたものよりも、『これを着けて欲しい』って選んでくれたものの方が嬉しいから」

それに、少しくらいは自分で考えさせなくては。

「……分かったわ、苗木君にピッタリなマフラーを選んでみせる」
「よし、頑張れ!」

しばらくして、霧切がオレンジ色のマフラーを手に取った。

「これにするわ」

暖色系かあ。彼のイメージにはピッタリかもしれない。

「うん、いいと思うよ! でもちょっと待って」
「何かしら?」

この時、わたしには名案が思い浮かんでいた。
……在り来たりな発想ではあるが。
わたしはそのマフラーを棚に戻し、長さがもっと長い、同じマフラーを手に取った。続けて、霧切を鏡の前に立たせ、わたしがその横に立つ。

「ねえお姉さま、何をしようとしているの?」

そう云われてもお構いなしに続ける。
霧切にマフラーを巻く。そして、余った部分をわたしに巻いた。
よし、長さは充分のようだ。
わたしはマフラーをとった。

「お姉さま、一体何を…」
「二人で着けられる長さかどうかを確認していたんだ。苗木君と一緒に着けられるかどうかをね」
「……!」

わたしが云わんとしていることを察したのか、霧切はまた、真っ赤になって俯いてしまう。
何度見てもやっぱり可愛い。
さらに、正当な理由付きで、わたしの可愛い『妹』と一緒にマフラーを着けることが出来た。
わたし、今日冴えているかも!

「じゃあ、それを買って、そろそろ帰ろうか!」
「ええ」

わたしたちは、スーパーマーケットを後にした。


ーーーーーーーーー


わたしは、霧切を見送りに学園の正門まで来た。
正門に入る直前、霧切が云った。

「今日はありがとう、お姉さま。私、絶対に成功させてみせるわ」

意気込みは充分なようだ。そうこなくっちゃ!

「うん、応援してるからね! じゃあまたね!」
「ええ、さようなら」

わたしは回れ右をして、歩き出した。



(……お姉さまって、頼りになるわね。)

えっ!?
今、思いがけない言葉が飛んできた気がした!
慌てて振り返ってみると、霧切は校舎に向かっていた。……俯きながら、小走りで。

どうやらわたしの可愛い妹が、プレゼントをくれたようだ。


……感激して、涙がとめどなく溢れてくるほど、素敵なプレゼントを。

「……じゃあ、わたしからもプレゼントをあげないとね」

涙をぬぐいながら、そう呟く。
そしてわたしは走り出した。

また、あの場所に向かって。


ーーーーーーーーー


わたしは、さっき霧切と一緒に来たスーパーマーケットに駆け込んだ。

……まだ、いるはずだ。

わたしは急いでコーナーをまわる。
婦人服売り場……いない。化粧品売り場……いない。宝石店……そりゃあいるわけないよね。

そうして、ついに見つけた。花屋だ。
そこには、まるで誰かさんのように顎に手を当てて悩んでいる、彼の姿があった。

「何を探してるの?」
「うわっ!! ……あ,結お姉さん…」

わたしが尋ねると、彼――苗木誠はびっくりして飛び跳ねた。

「でも、何で結お姉さんがここに?」
「うん、ちょっと君に聞きたいことがあってね」
「僕に…ですか?」
「うん」

苗木と別れてからずっと、わたしはあの買い物カゴの中身について気になっていた。
あれはほとんどがおつとめ品だったこと、そして彼がここに来た理由として、「夕食に使う食材を~」と即答していたことから,それを夕食に使うのは間違いないだろう。
しかし、【一人で】食べるのか,と聞いたら,それははぐらかした。
じゃあ、【誰かと一緒に】食べるということなのか?

そうわたしが問うと、彼はしばらく床を見て黙り込んでいたが、その後頷いた。

「……流石は霧切さんのお姉さんですね、その通りです」

いや、これぐらいなら探偵は関係ないと思うけれど。
でも、あの霧切が、それに全く気付いていないようだったのは問題だ。苗木と話すとき、そんなに緊張していたのか……才能が全く機能しなくなるほどに。
恋の力、恐るべし。

「でも、誰と食べるつもりだったの?」

これに関してはわたしの勘でしかないが、何故か確信が持てた。きっと苗木は…

「……霧切さんと、です…」

……当たった。当たってしまった。いや、勿論嬉しいことだけれど。
いくらなんでも今日のわたしは冴えすぎだ。後で地球が崩壊でもしなければいいが…

「霧切さんは、いつも探偵活動を頑張っているけど、ちょっと頑張り過ぎてる気がするんです。最近、たまにボーッとしてることがありますし」

それは苗木のせいではなかろうか。
そう口に出しそうになったところを慌てて堪えた。

「だから、今日はしっかり食べて、ちゃんと栄養をとってもらおうと思ったんです」
「なるほど。きっと、霧切ちゃん喜ぶよ! でもさ…」

まだ彼は、隠し事をしているはずだ。

「……だったらなんで、お花屋さんにいるの?」
「……!」
「別にお花に興味があるわけではないでしょ?」
「……」

数秒の沈黙の後、苗木がゆっくりと口を開いた。


「……それは、霧切さんにプレゼントをしようと思ったからです…」

そう云って、苗木は真っ赤になって俯く。
良かった、わたしの大切な『妹』の思いは、無事に叶いそうだ。

「今回のプレゼントは、絶対に成功させたいんです。でも、どの花を渡せば喜んでもらえるか分からなくて。……結お姉さんは、霧切さんの好きな花とか、知りませんか?」
「知ってるよ、これだよ!」

そう云って、わたしはイン・ビトロ・ローズを指差す。
これは、わたしと『妹』の、大切な思い出の品だ。
これを今、苗木に手渡す。

妹と苗木の幸福を願う、わたしの思いをこっそり込めて。


ーーーーーーーーー


「ありがとうございました! 僕、頑張ります!!」
「うん、頑張って!!」

苗木はそう云って、元気に帰って行った。

……すっかり日が暮れてしまった。大学の寮の門限にも、ここからでは間に合いそうにない。予約しておいたチョコレートケーキを取りに行って早く帰ろう。

霧切と出会って間もない頃も、こんな風にクリスマスに門限を破ったことがあった。
でも、今年はそれとはちょっと違う。


クリスマスイヴの日にキューピッドになって、しかも夜には門限を破るなんて……


……最高に、素敵だ。


ーーーーーーーーー


翌朝、また電話が鳴った。
わたしの大切な妹からだ。
わたしがちょっとドキドキしながら受話器を取ると、すぐに声がわたしの耳元に届いた。

その声は、いつものように上品で可愛らしくて、そして……


『メリークリスマス、お姉さま!』

……とっても嬉しそうな、声だった。

「メリークリスマス、霧切ちゃん!」

――素敵なクリスマスをありがとう。



~Merry Christmas! ~

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