Xの可能性/悲しみを背負い◆LuuKRM2PEg


太陽の光に照らされた、G-7エリア。
そこは数時間前に起こった戦いによって、荒れ果てていた。
ここの大地には、小さく盛り上がった土の山がある。
その前で、黒いハット帽を被った一人の青年が立っていた。
左翔太郎。
『Wの世界』を代表する仮面ライダーに変身する、青年の一人。
彼の手には、鋼鉄製の首輪が握られている。

「すまねぇ……木場さん。俺が不甲斐ないばっかりに…………!」

悔しげな表情を浮かべながら、拳を握り締める。
翔太郎は、先程の戦いを思い返していた。
この会場に連れてこられてから出会った優しい青年、木場勇治。
『ファイズの世界』で生まれた彼は、ドーパントのような異形の存在になった。
だが、絶対に悪ではない。
彼もまた、こんな戦いを止めようとしていたのだから。
だが、情けない自分を庇って、死んでしまった。

(これじゃあ、おやっさんの時と同じだ…………! 俺は、今まで何をやって来たんだよ!)

灰となった木場が眠る墓を見て、翔太郎は思い出す。
それは全ての始まりである、ビギンズ・ナイト。
相棒の母、シュラウドから受けた依頼。
恩師である鳴海荘吉と共に、ミュージアムからフィリップを奪還するため、とある施設に進入する。
初めは、順調だった。
だが、自分が不甲斐ないばっかりに、おやっさんを死なせてしまう。
それでも何とかフィリップだけでも助け出し、相乗りをした。
こうして、自分は仮面ライダーWとなって、風都を守るための戦いに身を投じる。
あれからもう、ニ年以上の時が経った。
あんな事は二度と、起こさないと誓ったのに。
木場さんを死なせてしまった。
見ず知らずの自分に、協力してくれたのに。

(ちくしょう…………俺は一人じゃ何も出来ねぇ能無しなのか? やっぱり、フィリップがいないと――――?)

その考えに至った途端、翔太郎はハッとしたような表情を浮かべた。
こんな時に、いない相棒にすがってどうする。
あいつだって、何処かで戦っているはずだ。
それに、ここには照井竜や鳴海亜樹子だっている。
恐らくあいつらは、この戦いを止めるために動いているはずだ。
なら、自分はこんな所で止まっている場合ではない。

――世界を救うために……行けよ、人類の味方……仮面ライダー……

最後の言葉を、思い出す。
そうだ。後悔に沈んで足を止めることは、木場さんに対する最大の侮辱になる。
あの人も、戦いを止めようとした。
だったら俺は、あの人の意志を継いで大ショッカーを倒す。
決意を新たに固めた翔太郎は、思いっきり頬を叩いた。

「木場さん、俺は情けねぇかもしれない。でも、こんな馬鹿な戦いだけは…………絶対に止めてみせるからな!」

その言葉は彼の真っ直ぐな気持ちを表すかのように、力強い。
ふと、一陣の微風を感じる。
それはとても心地よくて、まるで風都に吹きつける風のようだった。
一瞬だけ、気持ちが揺らぎそうになる。
しかし、今はそんな場合じゃない。

「行ってくるぜ、木場さん」

木場の眠る墓標に、踵を返した。
仲間達と再会し、こんな戦いを強制させる連中を潰すため。
そして木場が死んだことを、同じ世界の住民に伝えなければならない。
行きつけのクリーニング店のバイト、乾巧と園田真理。
その友人である草加雅人。
木場の頼れる仲間である、海堂直也。

(そして、気を付けるのはこの村上峡児って奴だな……)

村上峡児。
木場さんの話によると、悪の道に走ったオルフェノクはスマートブレインという会社で、人々を襲っているという。
そして、村上という男がそれを束ねているらしい。
もっとも詳しいところまでは、謎に包まれているらしいが。
だが何にせよ、警戒するべきだろう。

(にしても、どういうことだ? 霧彦や園崎冴子、それに井坂の野郎まで…………)

翔太郎の中で、疑問が増え続けていた。
その理由は、名簿に書かれていた参加者の名前。
既に潰した組織、ミュージアム幹部の名がいくつも書かれていた。
風都を愛していたガイアメモリの販売人、園崎霧彦。
その妻であり、フィリップの姉の一人でもある、園崎冴子。
そして、照井の家族を殺した男、井坂深紅郎。
全員既に死んだはずなのに、何故。

(まさか、ネクロオーバーとなって蘇ったのか……?)

一つの仮説を翔太郎は立てる。
かつて風都にT2ガイアメモリをばらまき、町のみんなをドーパントにさせた組織、NEVER。
その構成員は世界中で破壊活動を行う、傭兵集団だ。
しかしただの人間ではなく、様々な化学薬品を投与した結果、再び動き出したネクロオーバーと呼ばれる死体。
仮面ライダーエターナルに変身した、大道克己を筆頭としたあの組織ではなく、財団Xに所属していた加頭順もネクロオーバーだったらしい。
だとすると、あの大ショッカーとかいう組織に、財団Xが関わっている可能性がある。
目的は、自分達の存在を守るため。
大ショッカーに協力すれば、Wの世界の人間が全滅しても、財団Xは消滅しないようになっている。
その見返りとして、ネクロオーバーの技術を提供した。
財団Xが関連していないにしても、大ショッカーが自分の世界から技術を吸収した事は、充分にあり得る。
そして、この殺し合いを進めるために、ミュージアムの幹部達をネクロオーバーにして蘇らせた。
あるいは、違う世界にはネクロオーバーのように死者を復活させる技術があり、それを利用したか。
恐らくその際に、Wの弱点に関する情報を全て与えられてるかもしれない。

(それだけじゃない、下手すると大ショッカーの奴らがとんでもない事を、あいつらにしたかもしれねえな……)

次に彼は、主催者の方に思考を巡らせる。
大ショッカーは、多くの世界に存在する住民達を集めて、この戦場に放り込んだ。
この事実から察するに、技術力は本物と言ってもいいだろう。
恐らく、自分の世界で猛威を振るっていたミュージアムや財団Xと同等。
いや、それすらも上回る可能性は充分にある。


(参ったな……こりゃ、こっちの手札は完全に読まれてるって考えた方がいいな)

多くの世界から人間を攫ってくるような組織だ。
仮にフィリップ達と再会し、エクストリームの力を取り戻したとしても、大ショッカーはその上を行っている。
いや、そもそもエクストリームメモリがこの会場にあるのかどうか。
自分の切り札を、わざわざご丁寧に用意するとも思えない。
仮に誰かの支給品に混ざっていたとすれば、それはそれで問題だ。
例え本来の力を取り戻しても、何の脅威にもならないという意思表示に他ならない。
それ以前に、手元に帰ってくる可能性自体が、そこまで期待できない。
先程戦ったあの黒いライダーのように、危険人物の手に渡っていたらどうなるか。
今の力では取り戻すことは、困難に近い。
最悪、メモリ自体を破壊される可能性もある。

(…………いけねぇ、また情けない事を考えてどうする。こんなんじゃ、フィリップ達と合流したって何も出来ないだろ)

翔太郎は、自分を叱咤した。
木場の死が原因で、思考が後ろ向きとなっている。
だがそんなことは許されない。
今は不安に駆られることではなく、行動することからだ。
おやっさんも、きっとそうするはず。
それならまずは、先程戦ったあの黒いライダーを探すことからだ。
妙なカードを使っていた、異世界の戦士。
どんな理由があるにしても、木場さんを殺したのは紛れもない事実。
必ずこの手で、ぶっ潰さなければならない。
このまま放置しては、犠牲者は増えるばかりだ。
涼しい風を身体で浴びながら、翔太郎は歩く。
木場勇治の意志を継いで。




そんな彼の姿を、物陰から見つめる存在があった。
とても小さく、緑と茶色という二色に彩られた身体が、太陽に照らされている。
彼は『カブトの世界』から連れてこられ、この戦いの見せしめにされた男。
影山瞬の相棒だった。
ワームと戦うために生み出された、マスクドライダーシステムの一つ。
仮面ライダーパンチホッパーに変身するための、バッタ型変身コアだった。
実は木場の荷物の中には、一つのベルトが眠っている。
それに呼応するように、彼もまたこの場所に現れたのだ。
目の前の男は絶望を味わったが、すぐに光を取り戻す。
しかし、まだ見限るのは早い。
もしかしたら、これから更なる暗闇が彼に襲いかかる事もあり得る。
だから今は見守ろう。
この男の行く末を。
翔太郎の後をついていくように、ホッパーゼクターは跳ね続けた。

【1日目 午後】
【G-7】


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、ライダージョーカーに1時間変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0~2)、木場の不明支給品(0~2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
5:ミュージアムの幹部達を警戒。
【備考】
※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。

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最終更新:2011年01月03日 19:48