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会食参加希望者達(前編) ◆/kFsAq0Yi2




『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね』

 夕刻。前方を走る装甲車を追い、マシンキバーを駆る牙王の耳に、風を切る音に負けず滑り込んだ軽薄な声は首輪から発せられた物だった。

『……っと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』

「ほぉ……そいつは是非とも喰らってやりたいところだな」

 相手に聞こえているかは知らないが、牙王はそう呟く。
 放送をしているということは大ショッカーの一員なのだろうが、どちらかと言えば牙王は『キング』という名に想起されるものがあった。
 白いライダーに変身し、自身と対等に戦ったあの『王』を自称した獲物の姿が、牙王の脳裏に蘇っていた。

『……モモタロス、ネガタロス、キング、光夏海、照井竜、園咲霧彦、井坂深紅郎
 以上、二十人。……いや、僕も死神博士もびっくりしたよ。まさか皆がここまで必死に殺し合ってくれるなんてさ?
 これからも僕らの期待に応えられる様に頑張ってね、みんな。死神博士もみんなの事、応援してるってさ』

 キングを名乗る青年の声で読み上げられた死者の名に、興味深いものがいくつかあった。
 モモタロス、あの特異点野上良太郎の仲間の赤いイマジンだろう。『王』に比べればどうと言うことのない小物だが、ここに連れて来られる前に彼自身を喰らった相手の呆気ない訃報には少なからず苛立ちを覚える。
 ネガタロスとやらは名前からしてやはり電王達の仲間だと考えるのが自然だが、そんな名前には覚えがない。まあ既に他人に喰われた奴のことなど気にしても仕方がないだろう。
 とはいえ、それに続くキングを名乗る者の口から告げられたキングという名には、牙王の注意を引くに足るものがあった。
 既に喰らうこと能わぬ死者だが、おそらくあの『王』を名乗った男のことだろう。
 彼の物と思しき首輪を拾っていたとはいえ……放送でその名を聞き、決して満たされることのない、一種の飢餓が自身の中に生まれたように牙王は感じていた。
 牙王の心境など知らず、あっ、と何かに気づいたような呟きが、首輪から続いて出る。


『そういえば、僕と同じ名前の奴が死んじゃったみたいだけど、そいつ僕とは何も関係ないから、勘違いしないでね。
 一応言っておかないと、誤解されたらムカつくからさ。ってか、僕だったら最初の六時間で死んだりしないし!』

 そう、嘲笑う声が続いた。
 それを聞いた瞬間、牙王の中で、火が着いた肉をそのまま呑み込んだ時のような、胸糞の悪い熱が生じた。
 その正体が何なのか、牙王には掴めない。
 ただ、この放送の主の声によって呼び起こされた感情であることだけは把握できた。

「一番強い、か……面白ぇ」

 目下追跡中の装甲車、それに乗る小野寺を始めとして、牙王が現在狙う獲物――ダグバ、相川始、そして紅渡は死者の列の中に誰一人いなかった。電王もイマジンが一匹……または二匹死んだが、特異点である野上良太郎は健在だ。
 あの『王』に匹敵か、それを超えるかもしれない、究極の獲物達――彼らを喰らった後のことなど、とりあえず全部喰うなどと大雑把にしか考えていなかったが、新たに明確な目標ができた。
 参加者達を喰らい終えた後、大ショッカーを喰らう。そのことには変わりないが、一番強いと豪語するこのキングとかいう輩を、その中では最大の標的としてやろう。
 その時に彼が口にした通り、あの『王』をも超える獲物であることを示せばこの苛立ちや飢餓感も薄れるだろう、牙王はそう考えていた。
 しかし、やはり当面はこの装甲車を追い、小野寺という男を喰らう。その考えは変わらない――いやむしろ、強くさえなっていた。

 理由は、キングの発表した世界ごとのキルスコア。
 結果は、クウガの世界が断トツの一位。主催者の大ショッカー側が、ワンサイドゲームとなることを危惧するほどの勢いだという。
 この牙王でさえ、未だ満足に喰らった獲物は一人もいないというのに、七人。先の死亡者の三人に一人以上が、クウガの世界からの参加者により殺められたということになる。
 先程盗み聞きした話から、ダグバを始めとする未確認生命体なる者達が、クウガの世界出身であることはわかっている。そしてその世界の名を冠す、クウガに変身できる小野寺。
 自身の狙う獲物の力を確信し、禁止エリアの位置を頭に叩き入れながら、牙王が期待に胸を高鳴らせた時だった。

 はるか前方を行き、少しずつ距離を詰めるだけだった装甲車との距離が大幅に縮まっていることに気づいたのは。

 確かに一直線上の橋の上で、加速力に勝るマシンキバーに乗る牙王が追い付くのは時間の問題だったが、そうなるのが思っていたよりもずっと早い。
 その疑問は、徐々に減速して行く装甲車を見て氷解した。
 ダグバが他の参加者を喰らうことが挑発になることからも、おそらく小野寺という男はあの野上良太郎などと同じ人種なのだろう。そんな人間にとって、誰かの死、特に知人の物ともなれば大きい影響を与えるということは牙王も何となく知っていた。
 おそらく、先の放送で彼に影響を与えうる誰かが死んだのだろう。

 しかし――と、牙王はマシンキバーのアクセルを緩め、相対距離を保った。
 そろそろガオウへの変身が可能になっている頃合いだろうが、何となく今喰らいついても不味そうだなと、牙王は直観していた。
 理由は単純、放送に対する小野寺の反応だ。
 それで怒りと憎しみに燃え、ダグバに匹敵する究極のクウガになったという時のように、活力を得たのならともかく――装甲車の減速は、明らかな彼の消沈を表していた。
 仮に小野寺の変身するクウガが究極の力を持っていようと、全力のそれとの喰い合いができなければ意味はない。病気で弱った豚を喰うのは勿体ないからだ。

 自分が殺し合いに乗っていると告げれば、やる気を出してくれるのだろうか?
 そこまで考えて、牙王は忘れかけていた可能性に気づき、断念する。
 小野寺と行動を共にしていた男達の身体はボロボロで、命辛々逃げ出したばかりだと感じられた。おそらくはダグバに喰われかけたのを何とか逃げ延びたのだろうが、その場で小野寺はダグバに立ち向かうために変身しているはずだ。

 つまり、今牙王が戦いを挑んでも、小野寺は変身できない公算が大きい。

 その小野寺に殺し合いに乗っていると伝えても、彼が力を取り戻すまで待つのではどうも締まらない。
 それよりはダグバがやったというように、小野寺の目の前で他の参加者を喰ってやる方が究極の力を引き出すのに役立つだろう。仮に変身できない状態でも、彼に牙王へと怒りを燃やさせることができれば後は向こうから勝手に来てくれるのではないだろうか。

 最高の獲物を前に、ただ喰らうのではなく、どう喰らうのかを考えている牙王はそこでふと何かを感じ、マシンキバーのサイドミラーを覗いた。

 この地に来てからずっと視線を感じてはいたが、それとはまた別、今新たに加わった、何者かの気配……
 それに気づくことができたのは、『王』を横取りされた経験から、獲物に手を出されまいと神経が研ぎ澄まされていたからかもしれない。

 遥かに後方、小野寺の仲間二人を襲っていた虎のモンスターが、こちらに向かって来ているのが鏡に映っていた。
 おそらく牙王が小野寺を追跡し始めたさらにその後、二人を追って来たのだろう。
 それでも元の距離と、装甲車やマシンキバーの速度には敵わず、今まで気配を感じるには遠過ぎる距離にいたのが、減速によって捕捉できた、ということだろうか。
 随分と疲弊した様子ではあったが、あの男二人はもう喰われたのだろうか? 放送では名前は呼ばれていなかったと思うが――
 とはいえ小物どもに興味はない。それより今変身できないかもしれない小野寺を横から喰われでもしたらたまったものではない。睨みをくれてやろうと減速しつつ振り返ったが、そこにはモンスターの姿はなかった。
 振り切ったか? と思いながら正面に向き直り、サイドミラーを再び覗くと、先程よりわずかにだけ近い距離に怪人が写っていた。
 再び振り返る牙王だが、やはり肉眼ではその姿を捕捉できず、三度サイドミラーにその姿を確認した時、ようやく得心が行った。

 どういった理屈かは知らないが、こいつは鏡の中にいる――

 自分のいた世界のイマジンのようなものだろう。あいつらは人に憑依して時間を飛んだりできたが、こいつは鏡の中にいることができるのだと、何となく把握した。
 それなら先程、こいつが突然現れて男達に襲い掛かっていたことも納得できる。あの時も鏡の中に身を潜め、隙を伺っていたのだろう……

「面倒臭ぇなぁ」

 牙王はミラーモンスターの制限を知らない。既に橘達を襲うために一度姿を見せたデストワイルダーは、残り1時間45分ほどは現実世界に干渉することができない。
 だがそれを知らない牙王からしてみれば、いつ仕掛けて来るかも知れない屏風ならぬ鏡の虎をどうやって始末するか、如何にして自分の食事の邪魔をさせないかは難題であった。
 もっとも――だらだらと頭を巡らせるのは牙王の好むことではなかった。

 牙王はマシンキバーのアクセルを緩め、速度の安定しない装甲車からさらに距離を取る。


 結局、牙王の選んだ手段はシンプルだった。装甲車を追跡しつつ、後ろから鏡の中に生息する虎を牽制すべく、サイドミラーに映るモンスターへの距離を詰める。
 牙王との接近に気づいてか、怪人の方もその疾走する速度を緩めた。



 デストワイルダーは橘を襲い、ヒビキの変身したギャレンに撃退されたため、以降警戒されることを本能で察し、橘を襲うことを断念していた。
 そうしてその場から離れて行く装甲車とバイクを見て、そちらへと矛先を変えたのだ。
 ミラーモンスターであるデストワイルダーにとって、人間は捕食対象でしかない。
 だがミラーモンスターの中には契約したライダーとの絆を、契約の解消後も持ち続けていると思えるような個体も存在する。

 果たして東條悟とデストワイルダーの間に、それほどの絆が構築されていたのかは定かではない。
 だが、東條がダグバに殺されたのは、元を正せば彼が小野寺ユウスケを『怖く』しようとしたため。
 デストワイルダーが主人の仇討ちのために動いているのであれば、橘以上にユウスケは攻撃対象であってしかるべきなのだ。無論、デストワイルダーがそのことを知っているとは考え難いことだが……



 究極の獲物とそれに釣られる捕食者達の疾走する橋は、D-3に分類されるエリアへと達しつつあった。
 それらを照らす夕日は傾き、太陽は完全に闇に沈もうとしていた。



 ……そして、それからおよそ二時間後……

「……見失ったか」

 くそっ、と吐き捨てるのは、夜闇の中マシンキバーを駆る牙王。
 デストワイルダーの動きを牽制し続け、ついには一旦追い払うことに成功したのがこのD-2エリアの市街地に入ってからのこと。

結局一度も仕掛けて来なかったデストワイルダーに割いた時間は骨折り損だったかもな、と装甲車を追い駆けたが、橋とは違い障害物の多いこの場所では一度見失うと発見するのは難儀だった。
デストワイルダーに捕捉されるほどに一度は減速したとはいえ、その後の小野寺は何度か速度を上げていた。またそのたびに気が抜けたように減速も繰り返していたが、付かず離れずで尾行するには、小野寺の不安定な精神状態による運転は厄介だったのだ。
挙句デストワイルダーの殺気が増したのを感じて、先にこちらから仕掛けようと牙王が接近したところ終ぞ鏡から顔を出さず、結局は逃げられてしまった。
単純な制限のせいかもしれないし、同じ捕食者として牙王の実力を感じ取ったからかもしれないが、牙王は腰抜けの相手をしている間に見失った獲物のことで頭が一杯だった。

 いくら障害物が多く、一度見失ったとはいえ、牙王は小野寺のことを諦めるつもりなどなかった。ここまで追跡して来た意地もある。また、障害物が多いとなればあの大型車の通る道は限られて来る。今ならまだ十分追い付けるだろうと牙王は踏んでいた。

 焦りもあった。見失ったのは小野寺だけではなくデストワイルダーもだ。もう十分時間が経ったから変身できないなどということはないだろうが、鏡から奇襲するという特性を知らず余計な傷をつけられていてはこの二時間はとんだ道化だ。

 そんな牙王の耳を劈いたのは、前方に見えた爆発の音だった。

 距離は十分にあるはずだが、爆発によって生じただろう強風が牙王にまで届いていた。彼はマシンキバーのブレーキを掛け、路地裏に停車させる。貴重な移動手段が壊されては困る。ここからは自分の脚で、先程の爆発の場所に向かおうというわけだ。

 今の大規模な爆発は間違いなく参加者の手によるものだろう。戦闘で起こったというのならそれなりの獲物、ひょっとすれば小野寺かもしれない。仮に違っていても、あの野上良太郎と同じ人種なら小野寺も様子を見に来るはずだ。もしも来なくとも、それはそれで喰いでのありそうな獲物がいる。もはや牙王の飢餓は耐えられないところまで来ていた。

 そうして爆心地に向けて道路を走る牙王の方に、ある物体が飛来して来た。

 それは両掌に収まる程度の大きさで、紫色の箱のようなものだった。どことなく、自らの持つガオウベルトのバックル部分を連想させる。
 人の目線ぐらいの高さを飛ぶ、その箱のような物体は突如中心に走る線を基準に割れ、闇の中からクローバーの意匠を顕にした。

「なんだ……?」

 呟く牙王に、その紫色の物体――レンゲルバックルが襲い掛かって来る。
 自らに飛来したそれを、牙王はしかし難なく掴み取る。
 直後、牙王の中に彼の物とは異なる意思が流れ込む。
 それは彼の全身に心の糸を伸ばして支配権を奪いに掛かり、そして牙王の心に直接囁く。

 ――ここから逃げろ、と。

 高い戦闘力を持つ赤い仮面ライダー。奴から逃れるために小沢の身体を捨てたレンゲルバックル=スパイダーアンデッドだったが、逃げた先に新しい身体となる人間がいたのは僥倖だった。今から戻ってあれと戦うという気はないが、やはり操れる身体の有無はこのバトルロワイヤルにおいて大きい。見たところ優れた戦闘力を持つ宿主らしく、他の変身アイテムなどの戦力を整えてからあの赤いライダーを始末することも容易いはずだ……

 ……そこまで考えて、スパイダーアンデッドは気づいた。
 全身を支配し、自由を奪ったはずの男が……自分の指示に従わないことに。
 男がレンゲルバックルを手にしたまま、自身の逃げて来た側に一歩踏み出したのを見て、スパイダーアンデッドは慌てて命じた。

 ――逃げろ!

「煩い」

 スパイダーアンデッドの声をそう断じて、牙王は歩を進める。
 先程、手に取ったバックルから何かの意思が感じとれたが、牙王はそれを無視した。
 だが脳に送り込まれた、高い戦闘力を持つ『仮面ライダー』のイメージに、牙王は強い興味を示した。
 その脳裏に浮かんだ強さは、あの『王』の実力に肉薄するものだった。しかも何よりも、それが自らの持つさらなる力を押さえながら戦っているのが、牙王には見て取れたのだ。
 小野寺だと――自らの追っていた究極の獲物だと、牙王の闘争者としての直観が告げていた。
 そして自らが手にしたこれが、メモリと同じく、異世界の変身アイテムだということもバックルから伝わる思念で把握できていた。それもホッパーメモリや、下手をすればこのガオウよりも強力な戦士への変身を可能とするアイテム。


 それがここまで警告を放つ相手だと言うことに、牙王は興奮を押さえられずにいた。


 何故牙王が自らの精神支配を受け付けないのか、スパイダーアンデッドは動揺していた。それだけならまだしも、今必死に逃れようとした戦場に、再び引き戻されようとしている。
 破壊されるわけにはいかない。スパイダーアンデッドは牙王に引き返すように命じるが、跳ね返される。せめて自身を手放すよう念じるが、これも牙王には通じなかった。

 元々、スパイダーアンデッドと言えど強い意思を持つ相手をそう易々と洗脳することはできない。それに加えて、牙王は元はイマジンを率いた盗賊団の首領だ。人間に憑依し、自在に操ることのできるイマジンに隙を見せないだけの精神支配への耐性を持つことは、ある意味で必然とも言えた。
 しかし、それも完璧なわけではない。あの桐生豪も、最初の内はスパイダーアンデッドに支配されずある程度自我を保っていたのだ。それが、最終的にはあの様だ。
 いつか、隙を突いて、ゆっくりと、しかし確実に牙王の意識を喰らって行けば良い……だがそのためには、危険な相手であるあの赤い仮面ライダーの元へ向かいたくはなかった。

「なんだ。おまえ、ビビってるのか」

 牙王がこちらの胸の内を見透かしたように嘲笑して来る。その余裕を受け、スパイダーアンデッドは牙王を今すぐ操ることを諦め、そして覚悟を決めた。
 この男を使い、あの赤いライダーを始末する覚悟を。

「やる気になったか。良いぜ、おまえと俺、どっちが喰うのかの勝負もやってやるよ」

 牙王はそう強く握り締めたレンゲルバックルに告げ、歩みを止めぬまま、それが逃げて来た爆発のあった方向を見据えた。

「待ってろよ小野寺、そして他の獲物共も……全員俺が、喰ってやる」

 全てを喰らう牙の王は、さらにその牙の列を増やし、ついに究極の獲物をその顎(アギト)に捕えようとしていた――



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075:交錯 時系列順 083:会食参加希望者達(後編)
069:究極の路線へのチケット 牙王 083:会食参加希望者達(後編)