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やがて訪れる始まりへ ◆LuuKRM2PEg




 俺達が進む旅の行く先は、俺達自身が決める。それは誰にも邪魔させないし、誰にも指図されるつもりはない。
 門矢士が大ショッカーに宣戦布告してから、数分が経過した。数多の思いが交錯する病院の中に、また新たなる思いが芽生えようとしている。

「フィリップ君!」
「亜樹ちゃん!」

『E-4』エリアの病院ロビーにて、鳴海亜樹子は緑色のロングパーカーを纏ったフィリップという少年と抱き合っていた。
 先程、この病院の前に『アギトの世界』の警視庁が使っていたトラック、Gトレーラーがやってくる。あれは『E-6』エリアに放置されていたはずだが、誰かが鍵を手に入れて乗ってきたということだ。
 士はその来訪に警戒するが、そこから現れたのは旅の仲間である海東大樹も含まれた男達だった。

「本当に良かった……亜樹ちゃんが無事でいてくれて」
「うん、あたしもフィリップ君が無事で本当に良かったよ! 怪我も何一つしてないし!」
「僕だって、亜樹ちゃんとこうして会えたのが嬉しいよ!」

 フィリップと亜樹子の顔は眩い笑みで満ちている。それは彼らが元の世界で常日頃、互いに見せている笑顔だと士は思った。

「所長君は無事だったみたいだね。やるじゃないか、士」
「俺は何もしていない。あいつを守ったのは涼だ」
「なるほどね」

 そして今のフィリップや亜樹子のように、士は得意げな笑みを浮かべている大樹と目を合わせている。

「詳しいことは知らないけど、葦原涼はショウイチみたいに悩みを乗り越えたみたいだね?」
「ああ……もしもあいつがまた悩むようなら、俺がこの手で根性注入するつもりだ」

 士は力強く握った拳を大樹の前に突き付けた。それを向けられた彼の笑顔は相変わらず、シニカルに染まっている。

「おやおや、やる気満々みたいだね……結構な事だよ」
「結構な事ってお前……」
「そういえば、ダグバって言ったっけ? アルティメットクウガとも互角に渡り合える、ガミオとはまた別の究極の闇に値するグロンギってのは」

 相手を舐めきったような大樹の態度に士は反論しようとしたが、すぐに遮られた。しかもそれをやった大樹の顔からはどことなく真剣さが感じられる。

「ああ、さっき戦ったガドルって未確認から聞いた……俺も詳しいことは知らないけどな」
「なるほどね。士とギルスが二人がかりでも叶わなかったグロンギが言うからには、アルティメットクウガになっても仕方がない……かな」
「だろうな、それに加えて今はもう一人の仮面ライダークウガが地の石で操られてるときたか……」

 聖なる泉が枯れ果てたとき、その姿を現すと言われる究極のクウガ。かつて全てのライダーを破壊すると決めた頃、一騎打ちをしてその凄まじき力をこの身で味わった。
 しかしキバーラはあの時のクウガは不完全だと言っている。つまり今のアルティメットクウガはかつてのクウガを上回る実力を持っているのだ。
 そして、大樹達と同行していたという小野寺ユウスケと同じ仮面ライダークウガに変身する五代雄介という男が、金居という男に操られているらしい。恐らく、門矢小夜がかつて持っていた地の石の力だろう。
 この殺し合いに参加してる以上、いずれは彼らとも戦うときが来るかもしれない。そう思った士の背筋は思わず戦慄するも、不安を一瞬で振り払った。こんな所で恐れを抱いていては、大ショッカーを打ち破れないからだ。
 溜息と共に考えながら、士はフィリップの方に振り向く。

「フィリップ……まさかお前とこんな形でまた会うとはな」
「僕も……本当ならもっと違う形で再会したかった。ディケイドと敵同士になるなんて、考えるのも嫌だ……」
「だったら、奴らを倒すことだけを考えろ。翔太郎もそれを望んでいるはずだ」
「わかってる、僕は最初からそのつもりだ。大ショッカーを打ち破るために、みんなの力になる」
「なるほどな」

 その言葉には一切の嘘も揺らぎも感じられなかった。それどころか、かつて共に戦ったときより力強さすらも感じられる。フィリップと共にいた時間は本当に少しだけで、フィリップ自身の事はよく知らないがそれだけは確信出来た。
 恐らく、翔太郎と共に数多くの困難を乗り越えたのだろう。大樹曰くフィリップ自身もこの戦いで仲間を失ったらしいが、悲しみに耐えているのがその証拠だ。

「それと、これはお前のだろ?」
「これは……ヒートのガイアメモリ! 君が持っていたのか」
「正確には、一真が持っていた奴だ」

 士は懐からヒートメモリ、そしてG3のライダーカードを取り出す。今は亡き仲間達が残してくれた別の仮面ライダー達の為にあるアイテムだった。
 こうして本来の持ち主に再会出来たのだから、返さなければならない。

「これはお前らのだろ? 俺が持ってても仕方が無いから、持っとけ」
「ありがとう……ディケイド」
「受け取っておくよ、士」

 フィリップにはヒートメモリを、大樹にはライダーカードをそれぞれ渡した。

「どうやら、諸君の言葉は本当のようだな……鳴海亜樹子は霧島美穂に脅されていたと言うことが」

 しかしそんな穏和な空気を壊すように、吹雪のように冷たい声が病院内に響く。
 一同はそちらに振り向くと、黒いコートを纏った男が高圧的な視線を向けていた。Gトレーラーから現れたその男は『カブトの世界』の怪人、ワームの首領である乃木怜治だと海東達は言った。
 そんな奴が何故わざわざ人間に協力しているのかは分からないが、大ショッカーを相手に戦おうと考えているのなら歓迎しなければならない。もしもその態度が演技ならば、叩き潰すが。

「だとすると、あの放送は霧島美穂とアポロガイストという怪人達に脅されて仕方なくやった……そういう事になるのか?」
「……うん、本当にごめんなさい。みんなを騙すような事を言って」
「待ってくれ、乃木」

 亜樹子に詰め寄ろうとする怜治の前に出てくるのは、葦原涼だった。

「亜樹子にこんな事をさせるきっかけを作ったのは、俺でもある。俺がもっと早くに亜樹子を見つけていれば、東京タワーに爆弾が仕掛けられるなんて事は無かったんだ」
「涼君……」
「別に君を責めるつもりなんて全く無い。過ぎた事を気にかけた所で物事は何も進まん……だが、二度目は無い。例え脅されていたとしても、次は必ず引導を渡す事を覚えておきたまえ」

 涼が亜樹子を庇った事で不穏な空気になるかと思ったら、意外にも怜治は軽く流している。しかし士はそれが演技でしかないと感じた。
 ワームとは人間社会に溶け込むために、人間を騙し続けてきた怪人だ。そんな連中のボスともなると、目的の為ならば例え気に入らない相手を前にしても器が大きいように振舞うだろう。
 もっとも、そのつもりなら精々奴の思うがままにやらせればいい。もしもここで下手に揉め事を起こしては、怜治自身が大ショッカーを妥当する為の戦力が確保できなくなる。

「そういえば海東、あと一人はどうしたんだ? もう一人の仮面ライダー555である、乾巧は」
「彼ならGトレーラーの近くにいたはずだけど……どうかしたのかい?」
「そうか」

 乾巧。かつて訪れた『555の世界』を象徴する仮面ライダーに変身する男と、同じ名前を持つ存在。大樹はそいつも仮面ライダー555に変身していたと言っていたから、恐らくこの巧もウルフオルフェノクなのだろう。
 しかし何故、今ここにいないのか? まさかそいつも尾上タクミのように悩みを抱えているのではないか? タクミはかつて大切な人に自身がオルフェノクである事を知られたくないと悩んでいた。ここにいる巧が同じ苦悩を抱えているかは知らないが、もしそうなら涼の時みたいに根性注入する必要がある。
 やるべき事が増えたと思いながら、大樹に背を向けた。

「士、どこへ行く気?」
「すぐ戻る」

 そうぶっきらぼうに言い残して、士は病院の扉へ向かう。

(それにしても、野上良太郎が殺し合いに乗っていただと……?)

 ゆっくりと歩きながら、彼は考えていた。
 この病院に現れた志村純一は、野上良太郎と村上狭児が殺し合いに乗っていて天美あきらと園咲冴子の二人を殺したと語る。村上狭児はともかく『電王の世界』を象徴する仮面ライダーがこんな戦いに乗るのかどうか、士は疑問を抱いていた。
 かつて出会った剣崎一真とこの世界で出会った剣崎一真のように、別の世界に生きる野上良太郎の可能性もある。その良太郎と前に出会った良太郎は違う性格なのかもしれないが、そう考えてもやはり納得できない。

(……まあ、本当に殺し合いに乗っているかは本人に聞けば良いだけか。いない奴らの事を考えたって、どうにもならないからな)





「くそっ……!」

 数多もの星が輝く空の下で、乾巧は苛立ちが混ざったの舌打ちをする。しかしそれで気が紛れるわけがなかった。

「何でだよ……何でよりにもよってこんな時に……そんなに俺の夢を邪魔したいのかよ!」

 もう命がそこまで長くないという忌々しい現実は、かつての巧だったら失意のどん底に叩き落としていたかもしれない。だが、今の巧は真理や直也達の無念を晴らすという思いがあったので、挫けることはなかった。
 例え残された寿命が僅かだけでも、みんなの為に立ち上がらなければならない。そうでなければ、散ってしまったみんなの思いを侮辱することになってしまう。灰になってしまうならば、その前に全てを終わらせればいいだけだ。
 そうやって自分に言い聞かせるが、やはり辛かった。みんなの願いを受け取っておきながら何も果たせずに死ぬのが、何よりも嫌だった。

「何もできないまま死ねって言うのか……!? ふざけんなよっ!」

 こんな話を誰かに打ち明けられるわけが無い。もしそんなことをしてしまったら、そこからみんなの士気が下がる恐れがある。乃木怜治や秋山蓮のような奴らはともかく、フィリップや純一は絶対にショックを受けるはずだ。
 金居との戦いが迫る中、みんなを落ち込ませるわけにはいかない。わかってはいるが、やり切れない思いでいっぱいになってしまう。
 でもだからって、いつまでも一人でいるわけにはいかない。今は病院に向かって戦いの対策を立てるしかなかった。

「見つけたぞ、乾巧」
「あ……?」

 仲間達が待つであろう建物に向かう途中、自分を呼ぶ声を聞き取る。
 巧が振り向くと、病院から一人の若い男がこちらに歩いてくるのを見つけた。

「やれやれ、こんな世界の夜を一人でうろつくとは……随分といい度胸してるな」
「誰だお前? 何で俺の名前を知ってる」
「さあな」
「さあな……って」

 まるでこちらを小馬鹿にしたような返事に、巧は苛立ちを覚える。
 一瞬だけ敵が現れたと思ったが、それはない。もしもこの男が敵だったら、すぐ近くの病院で騒ぎがあってもおかしくないからだ。それが起こってない以上、目の前の男は少なくとも危険人物ではない。
 恐らく、先に行ったみんながいつまでも戻ってこない自分を心配して、この男が探しに来たのかもしれなかった。なら、さっさと戻らないとまずい。

「お前、何故一人で抱え込もうとする?」

 男の横を通り過ぎようとした途端、そうやって呼び止められた。

「お前が悩みを隠せば隠すほど、それがバレた時の傷が深くなるだけだ……それもお前だけじゃなくて、みんなもだ」
「……何を言ってやがる、お前?」
「いつまでも、隠し通せるとは思わないことだな。あいつらはお前が思っている以上に、鋭いぞ」
「……ッ!」

 巧は思わず息を呑んでしまう。
 その他人を見透かしたような態度はハッタリなどではない。こちらの事情を、目の前に立つ男は見破っているのだ。
 最後まで黙っていようと決めたが、それすらも叶えられないことになる。

「だったら、何なんだよ……」

 あれだけの大声を出しては知られてしまうのは当然だった。自分自身のミスだとわかっていた。
 それでも巧は、知ったような態度を取る男に対して憤りを感じざるを得なかった。

「俺がもう長くないことをあいつらに話して、悲しませろって言うのか!?」
「だが、黙っていたっていつかはバレる……それはもうわかってるはずだ」
「知ったような口で言ってるんじゃねえ!」

 巧自身、不条理な怒りをぶつけているとはわかっている。それでも今は、やり場のない怒りをぶつけたかった。
 先程、自分の身体から零れ落ちた大量の灰。もしかしたら、また近い内にあれだけの灰が零れてくるかもしれない。それも今度は仲間達の前で。そうなっては嫌でも知られてしまうだろう。

「わかってる、俺だってわかってるんだよ……どうせバレるのは! けど、もしかしたらその前に全てを終わらせることが出来るかもしれない……そうしなきゃ、死んでいったあいつらが報われないんだよ!」

 誰からも心配されずに、真理達の無念を晴らすには一刻も早く大ショッカーを倒す。そして総司の妹達に兄の死を伝え、同じ世界に生きる修二に啓太郎達を託さなければならない。そう思わなければ、残された思いだって灰になるかもしれないから。

「……俺達が背負える物は、一人じゃ限界がある」

 鬱憤を晴らすように感情をぶつけていると、男は静かに呟く。

「生きていく上で、誰だって数え切れないほどの物を背負うことになる……俺達はみんな誰かの思いを受け取ってるからな」
「……何を言ってるんだよ、お前」
「けど、だからといって一人だけで背負うことはない。一人で背負える量には、限りがあるからだ」

 巧の疑問を無視するように男は真摯な表情で続けた。そこには、先程まで感じられたこちらを馬鹿にしたような雰囲気が全く感じられない。それどころか、まるで誰かを励ますかのような思いやりがあるように見えた。

「辛くなったら、誰かに荷物を持ってもらえばいい……お前だって、今までみんなが背負うはずだった物をたくさん背負ってきただろ? 今更罰は当たらない」
「俺の夢を……あいつらに託せって言うのか?」
「お前もそうじゃなかったのか? ここに来るまでお前は何度も困難を乗り越えた……その度に、お前はみんなの思いを背負ってきただろ。なら、お前だって誰かに頼んでもいいはずだ」

 巧はこれまで何度も仲間達を助けられず、その度に彼らの思いを背負ってきている。今までの戦いでそれを何度も経験したし、この世界に連れて来られてからも経験した。

『妹がくれたスカーフだ。これを、乾君……君に、洗濯してもらいたいんだ』

 園咲霧彦はそう言って、自分達を後押しする風となった。

『俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ』
『それをこんなところで終わらせないでくれ、乾』

 天道総司はそう言って、自分を逃がすためにその命を散らせた。
 彼らは皆、譲れない思いを持っていた。本当ならば自分自身の力でそれを果たしたかったはずだが、同じ道を歩く仲間に託すしかなかった。ならば、この思いも誰かに託してもいいのか?
 まさかこの男は、最初からそれを言いにここまで来たのか?

「お前、何なんだよ?」
「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておかなくていい」

 男はそう名乗ると、巧から背を向けて病院に向かっていく。
 何から何まで訳がわからなかったが、不思議とあの男に感じていた不信感が消えていた。いけ好かないことには変わりないが、少なくとも悪い奴ではないのかもしれない。
 みんなの願いを果たすまで死ぬつもりは無い。だが、あの男が言うようにここにいるみんなに黙ったままでは、余計に不安を煽ってしまうかもしれなかった。
 何にせよ、いつまでも悩んでいたところで始まらない。みんなのために、そして自分のためにも今は歩くしかないと、巧は思った。




「すると、俺は君達が生きる時代に存在する新世代のライダー達を束ねるリーダーになっていたのか……」
「はい! あなたは俺だけじゃなく、夏美や慎を仮面ライダーとして鍛えてくれた素晴らしい人です! あなたがいてくれたから、俺達は人々の平和を守れるようになったんです!」
「……なるほど」

 志村純一と名乗った青年が向けている笑顔は、とても眩かった。それはあまりにも純粋すぎて、普通の人間が浮かべる笑顔とは思えないほど輝いている。
 橘朔也はそれを前にして、純一に対する罪悪感が一気に芽生えてしまった。彼は全てのアンデットを封印してから四年後の世界に生きてるらしく、そこでの自分は純一達新世代ライダーを率いるチーフとなっているらしい。
 だが、今の自分はどうか? こんな戦いに巻き込まれた人達を助けられず、殺し合いに乗った者達をまともに止められていない。彼らを導けるようなチーフどころか、ただの弱者だ。

「志村……すまない、君の期待に答えられずに無様な姿ばかりを晒してしまって」
「何を言ってるんですか! 橘チーフのおかげで、ヒビキさんや小野寺さんがダグバに殺されずに済んだのでしょう! 俺はチーフが無様だなんてこれっぽっちも思いません! 例え生きる時間が違っても、チーフはずっと俺達のチーフです!」
「そうか……ありがとう。とにかく、志村が無事でいてくれて本当に良かった」
「俺の方こそ、チーフが無事で何よりです! これから一緒にみんなを守って、こんな事を仕組んだ大ショッカーを叩き潰しましょう!」
「ああ、よろしく頼む」

 でも今は、未来の後輩の為に弱音を吐くことなんて出来ない。それではここに集まったみんなを守れないし、何よりも一真や純一の思いを侮辱することになってしまう。やるべき事は首輪を解析するための手がかりを見つけ、この世界から脱出する方法を探すことだ。
 朔也はそう決意を固めながら、亜樹子の仲間であるフィリップの元へ近づいた。その手には、フィリップが別の場所で解析した首輪についての考案が纏められたファイルが握られている。
 その内容は朔也にとって目を見張る物だった。首輪の内部構造や解除のデメリットもそうだが、大ショッカーに関する仮説といった必要な情報がふんだんに書かれている。無論、仮説は仮説なのでそれだけに頼るわけにはいかないが。

「橘朔也……君はこの首輪に関してどう思う?」
「俺も考えている事はフィリップと同じだ……だが、仮に解体するにしても情報が足り無すぎる」

 この病院で首輪の解析をしていた朔也はフィリップ達が現れる直前、内部構造の把握に成功する。しかしその内部が、彼にとって未知の技術の固まりだった。
 朔也も機械工学に関する知識は豊富だが、それはあくまで自分自身の世界に限定されたもの。別世界のテクノロジーには手を付ける事が出来なかった。

「出来るなら、別の世界にある技術を把握してから作業に取り組みたい所だが……」
「僕もそうしたい。だが、知識を得る方法が一つしかない……それも成功の確率が低い」
「……装備の内部構造の把握か」

 朔也の憂いに満ちた言葉に、フィリップは無言で頷く。
 別世界の技術を把握する近道は、ここに集まった者達が持つ装備の中身を首輪と同じように解析する。だが一つ一つやっていては時間がかかる上に、その間に殺し合いに乗った奴らが現れて嬲り殺しにされるかもしれない。
 しかもライダーベルトだけではその世界の知識が手に入ったとは言えない。オートバジンやパーフェクトゼクターのような解析機の中に明らかに入らない物もあるし、場合によってはそれらの構造も把握する必要があった。
 その為に分解できればいいが、どう考えても簡単に分解できる代物ではない。例え出来たとしても分解している間は戦力が低下し、また組み立てるにも時間がかかる。しかもその情報が首輪解体に役立つとも限らないから、あまりにもリスクが高すぎた。

「それをやるにしても、出来るだけ戦力の下げない奴の方がいいが……それだけの時間も惜しい」
「ああ、この状況で装備の解析なんて無謀すぎる。五代雄介や金居がこの病院に接近している以上、武器は一つでも多く確保した方がいい」

 乾巧の仲間であった天道総司が死ぬきっかけを作った金居と、彼に操られてしまった五代雄介。いずれもかなりの強豪で一筋縄で勝てる相手ではない上に、奴らに仲間が増えている可能性がある。そうでなくても、彼ら以外にこの殺し合いに乗ったまだ知らぬ参加者が病院に現れるかもしれなかった。
 それを考えると、首輪の解析ばかりに時間をかけるわけにもいかない。今はここに集まった仲間達で力を合わせて、迎撃体勢を整える必要があった。

「それとフィリップ、五代と言ったか……? 金居に意志を奪われたもう一人のクウガとは」
「そうだが……何か気になるのか?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」

 朔也には気がかりとなっている事があった。
 フィリップ達の話によると、五代雄介とはみんなの為にその身を犠牲に出来る青年らしい。しかしそんな彼の思いを金居は踏みにじったのが、何よりも許せなかった。
 朔也自身もかつてビーコックアンデッドに利用されて、大切な人を失ってしまった。そんな悲しみを味わうのは自分だけで良いし、誰かにその悲しみを背負わせたくなんてない。
 地の石によって今の雄介がどれだけ恐ろしい存在になっていようとも、もう逃げ出したりはしない。自分のせいで小野寺ユウスケを闇に走らせてしまったのだから、今度こそクウガを闇から救い出さなければならなかった。

(五代雄介……どうか無事でいてくれ。君のような優しい男がこんな戦いの犠牲になるのは、これ以上あってはならないからな)

 届かないと知っていても、朔也は願わずにはいられなかった。どうか、彼のような男がまた笑顔でいられるようになって欲しいと。




「あんたが持っててくれたんだな、これ」

 病院に戻った乾巧は、橘朔也からファイズポインターとカイザポインターを受け取る。ようやく戦力を取り戻すことができたが、巧はそれを素直に喜べなかった。
 もしもファイズポインターさえあれば、霧彦達も死ななかったかもしれない。もしも雅人の手にカイザポインターがあれば、金居に殺されることは無かったかもしれない。IFの話をいくら考えたって意味は無いが、そう思うとやりきれなくなってしまう。
 でも今は、それに沈んでいる暇など無い。士達がここにいるのだから、力を取り戻した以上はやるべき事をしっかりやらなければならなかった。

「乾、すまない……俺の世界にいるアンデッドのせいで、お前の仲間が死ぬきっかけになるなんて……」
「別にあんたが謝る事じゃねえよ。あの金居って野朗をぶっつぶせばいいだけだ」
「……そうだな」

 五代雄介を操っていた金居という男の正体は、朔也や純一が生きる世界にいるアンデッドという怪人の中でも、特に上位の強さを持つカテゴリーキングという奴らしい。恐らくスマートブレイン社に所属していた特に強いオルフェノク、ラッキークローバーのような存在だろう。
 総司を失ってしまった戦いの頃からわかっていたが、やはり一筋縄ではいかない相手のはずだ。しかしこの病院に夢を諦めない者達が集まった今、巧は決して諦めたりはしない。
 例えいつ滅びてもおかしくない身体だとしても、最後まで戦い抜く。これ以上、巡り合って出会えた仲間達が戦いで散ってしまうなんて、あってはならないからだ。

(みんな……頼むから俺より先に死なないでくれ。滅びる運命を背負うのは、俺だけでいいんだ)

 ファイズポインターとカイザポインターを腕に抱えながら、巧はそう強く願った。



104:それぞれの道行(2) 投下順 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
102:G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド 時系列順 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 葦原涼 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 秋山蓮 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 乾巧 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 橘朔也 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 志村純一 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 日高仁志 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 矢車想 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 乃木怜治 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 門矢士 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 海東大樹 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) フィリップ 105:やがて訪れる始まりへ(後編)
099:それぞれの決意(状態表) 鳴海亜樹子 105:やがて訪れる始まりへ(後編)