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君のままで変われば良い(2)◆cJ9Rh6ekv.




「……大丈夫だろうか。真司くんも、翔一くんも」

 真司達を見送り、全員で隣の病室に移動した後、名護がそう呟いていた。

 名護が言うには、市街地の南方では翔太郎達が病院に着いた後、周辺エリアにも被害を出すほどの激しい戦闘が行われていたらしい。それこそあのガドルが死に際に見せた自爆にも匹敵する規模の大破壊を周囲に齎した、だ。真司達が異世界の仮面ライダーであることは承知の上でも、彼らの身の心配をするなと言う方が無理な話だろう。
 ああ言って真司達を送り出したものの、実際そんな途方もない力がここに向かって来れば、三原が心配した通り怪我人揃いの今の翔太郎達に止める手段はないだろう。ジョーカーにしか変身できない今の状態で、余波だけで遠く離れた地をも揺るがしたという巨大な光で狙われては、ひょっとするとこの病院ごと消し飛んでしまう可能性だってある。
 だがこの会場にいる限り、この首輪によってどんな化け物だろうと力を制限されているはずだ。思い返せばガドルとの初戦、奴が変身を解いたのもそれが原因だったのだろう。故にその戦闘を行った危険人物は、それほどの破壊を撒き散らす精神だけでも危険だと言えるが、肝心のデタラメな力はまだ一時間以上制限されているはずだ。
 もちろん他にも隠し玉がある可能性は捨て切れないが、それでもあの白い怪物――真司達が言うには間宮麗奈という女性を追うなら、逆に今しかないと翔太郎は考えていた。

(間宮麗奈……ワームに、ネイティブか)

 気が付いたら名護が病院に連れて来てくれていた、と言って何の差支えもない状態の翔太郎にとっては、突然の怪人の襲撃も、それが病院で合流した仲間の同行者だったということも、等しく理解の追いつかない事態ではある。
 だがやはり、翔太郎にとっての最大の関心事は、大切な仲間である総司が一連の事態を自分が原因だと言い放ったことだった。

 思い返せばガドルとの戦いの際、総司は何のツールも用いずにドーパントのような異形へとその姿を変えたことがあった。その総司の変じた異形と、あの白い怪物はどこか雰囲気が似ていたように思う。少なくともドーパントやガドルと比べるよりは、どちらもそれら同士の方が近い印象を抱かせる外見だった。

「――ねえ」

 そんなことを考えていた時、窓際である翔太郎からちょうど正反対のベッドに陣取ったリュウタロスという、(実際はともかく)やたら人懐っこい声の怪人が、不意にそう声を放った。

「総司、さっき総司がネイティブだから麗奈のワームの心が起きちゃったって言ったよね? ……ネイティブとかワームって、一体何なの?」

 純粋に、ただ間宮麗奈という女性への心配から生まれたのだろう問いを受けて、翔太郎と名護に挟まれた位置にいる総司は膝を抱え込み、俯けた顔を隠そうとした。

「……リュウタロスくんだったか? すまないが、その話は総司くんにとっても軽々しく口にできることじゃないんだ」

 総司を庇うように名護が申し訳なさそうに告げるが、リュウタロスは背中の怪我が痛むのかやや遠慮がちに、それでも大きく首を振ってその返答を拒否する。

「やだー! だってちゃんと話して貰わないと、麗奈に何が起きてるのかわかんないじゃん!」
「――小僧、貴様ぁ少しは遠慮というものを覚えたらどうだっ!?」

 聞き分けのないリュウタロスに、総司のことを思ってかレイキバットが怒りを露にした。
 ちなみにもう少し場を喧しくしそうなタツロットがいないのは、先程キバットバットⅡ世とかいう偉そうに喋る蝙蝠に、周辺の見張りにと連れ出されていたためだ。

「……総司。それに名護さん。できれば俺も教えて貰いてぇ」

 だがそこでリュウタロスに味方するように、翔太郎はそんな言葉を紡いでいた。

「もちろん、総司がどうしても話したくねえってんなら構わねえ。だけどな、俺は大事な仲間が苦しんでいることがあるなら、その事情ぐらいは知っておきてえんだよ」

 自責の念を抱いている総司にこんなことを言うのは、本当は翔太郎にとっても望むことではない。
 それでも、今何が起きているのかを知るためにも、その事情を知っていると目される総司の話は重要だ。無論口にした通り、総司を苦しめている事情があるなら、そしてもしそれを解決する手助けができるかもしれないなら、是非知っておきたいという気持ちもそこにはある。

「……翔太郎」

 翔太郎に言われて、少し総司は悩んだ様子だった。少しというのは時間だけの話であって、彼が深く、そのことについて考えるだけでもまた苦しんでいるということがよく見て取れた。
 それでも総司はやがて――どこか儚げな、諦念を受け入れたような微笑を浮かべて、頷いた。

 そうして総司、そして名護の口から語られた、ワームやネイティブという存在とその所業、そして総司自身の境遇は、翔太郎の想像を遥かに超えた代物だった。

 宇宙からやって来た、互いに争い合う侵略者達。
 人間の姿に擬態し、社会に潜伏し、そして人々の命を奪っていく宇宙生命体・ワーム。
 彼らよりずっと前に地球に侵入していた近似種であるネイティブによって総司は物心つく前に拉致され、改造されて人間からネイティブに無理やり変えられた。さらに天道総司という男に擬態させられて本当の名前と顔すら忘れ去り、つい最近まで人体実験の材料とされて来たのだという。

「だけど……海堂や、天道や。翔太郎や名護さん、それにダークカブトゼクターが、僕を仮面ライダーにしてくれたから……こんな僕でも変われるって、そう思ってたんだ」

 だけど、あのワームに襲われて、それは勘違いだったと気付いたのだと、総司は言う。

「……ネイティブとワームは敵だから。記憶を失くしてるっていうあの人が忘れてたワームの本能を、僕のせいで思い出しちゃったんだ……」

 そう言って強く、傍から見ても痛いだろうとわかるほどに力を込めて、総司は己の腕を握り締める。その様を見たリュウタロスが何か言おうとして、結局何も言えなかった。

「結局、僕は変わったつもりになってただけで、何も変わってなかったんだ。僕はネイティブのままで、皆みたいに僕を受け入れてくれる人がいたって……結局世界に拒絶されて、周りの人達にまで迷惑を掛けるままなんだって……」
「……言いたいことはそれだけかよ」

 総司の背負って来た過去を告白されたその時には、さすがの翔太郎も一度は言葉を失った。
 だがそれでも、今の総司の言葉を認めてやる気にはなれない。

「確かに、もう変えられちまった身体は元には戻せねえかもしれねえ。総司の身体はこれからも、そのネイティブって奴らと同じかもしれねえ。……けどな、それがおまえが仮面ライダーであることや、これから変わって行けるってことを否定するなんてことにはならねえんだよ」

 そして、そのことを誰にも否定させるつもりも、翔太郎にはない。
 あの破壊のカリスマにまでも認めさせた仮面ライダーへの侮辱を、許すつもりは。

「人間のままでだって、ガイアメモリなんか使ってドーパントになって街を泣かせる奴らを、俺は嫌ってほど見て来た。中には仮面ライダーの力を悪用する野郎だって居た」

 脳裏に蘇ったのはミュージアムの幹部や井坂を始めとした数々のドーパント犯罪を起こした悪党達や、音也と共に戦ったあの蛇皮ジャケットの男。彼らは確かに人間だが、総司に言って聞かせたように、自分からそうでない者に姿を変え、大勢の人々を泣かせた。

「だけどな、人間じゃねえオルフェノクにだって、木場さんや海堂みたいな奴らがいた……」

 相棒のフィリップだって、厳密に言えば普通の人間とは違う。NEVERである大道克己からは、偶然が生んだ科学の化け物とすら称されもした。
 だが翔太郎は、彼らのことを、街や人を泣かす怪物だなんて思わない。
 何故なら……

「こんなことを軽々しく言うのは間違ってるのかもしれねえ。でもな、俺にとってはおまえがネイティブだろうが人間だろうが関係ねえ。俺の大切な仲間だってことに変わりはねえからだ。
 あの時、おまえがガドルの野郎に立ち向かおうって決意したのは、おまえが人間だからでも、ネイティブだからでもねえ。おまえが、おまえだからだろ」

 その者がどんな存在であるか――それを決めるのは、その出自によるものではない。
 人間に生まれても怪物と同じようなことをする者達がいる。怪物になってしまっても、人間と同じように、誰かを想い遣る優しい気持ちを忘れない者達がいる。
 結局は人間だろうと、オルフェノクだろうと、ネイティブだろうと。その者がどんな種族であるかよりも、その者がどんな選択をしたのか、どんな心を持っているのかといったことの方が、ずっと大切なのだと翔太郎は信じている。
 何故なら、仮面ライダーの資格とは――正義の心、そのものなのだから。
 だから総司が、ネイティブとやらに改造されたことで、これから変わって行くということを諦めるなんて、翔太郎には容認できない。

「おまえは変われる。変わりゃ良いんだよ。おまえのままで」
「そんなこと……言ったって……」

 翔太郎の言葉をどう受け取ったものか、困ったかのように総司は首を振る。

 彼がこれまで背負って来た不幸な過去をなかったことにするなんて、誰にもできないだろう。
 それを聞いただけで、まるで大したことがないとでも言わんとするかのようにも見える自分の態度に思わぬことがないわけではなかったが、それでもこれだけは伝えなければと翔太郎は思っていた。

「……だって。僕のせいで、皆に迷惑が……」
「――それがどうしたと言うんだ。俺達は仲間だろう。迷惑なら、どんどん掛けなさい」

 そこで翔太郎の気持ちを汲んでくれたかのように、名護が声を上げた。

「ガドルとの戦いだって、もしも総司くんが居なければ皆殺されていただろう。俺達だって君に迷惑を掛けているんだ。そして俺達は互いに助け合って来たじゃないか。今更遠慮するのはやめなさい」
「……もちろん、それで三原さん達に飛び火しちまわねえように、ちゃんと俺達の中で解決しねえとなんねえけどな」

 翔太郎や名護の言葉に同意するように、カブトゼクターやレイキバットが、総司の周りに身を寄せ合う。
 今更総司の正体が想像していたものと違うと言われた程度で、ここにいる仲間達は、総司を見捨てることはない。きっと総司を護った海堂直也も、総司を信じた天道総司も同じだろう。
 彼らが救いたかったのは総司の肉体ではなく、その心だったはずだから。

 ……とはいえ、それに三原達を巻き込んで良いわけではない。
 事実として明確に総司を狙っていた以上、彼の存在が間宮麗奈という女性が秘めるワームの本能を刺激してしまったと言うのは本当である可能性は高い。その場合、自分は総司の仲間として、彼の心を苦しめないように、また他の罪なき人々を護るために行動しなければならない。

「……修二のことなんか良いよ」

 翔太郎の言葉に、少しだけ怒気を含んだ声でリュウタロスが告げる。
 そういえば真司達を見送る時も三原への態度が悪かったなと思い出した翔太郎は、軽く肩を竦めながら諌めるようにリュウタロスに口を開く。

「おいおい……何でそんな酷いこと言うんだよ」
「だってっ! 修二、こんな時まで自分のことばっかりで、特訓したのに弱虫のまんまで! 僕が頼んだら、総司はあんなに辛いことだって話してくれた! 名護さんや翔太郎は、こんなにボロボロなのに真司達の代わりにここを護るって言ってくれた! 翔一と真司は、麗奈を僕の代わりに護ってくれてるのに、修二だけ何もしてない! 『やってみる』って言ったのに、何もしてない嘘吐きなんだもん!」

 弾劾の言葉に、三原がビクリと震えたのが翔太郎の視界の端に映った。
 なるほど、満身創痍の翔太郎達より、健康体の三原が頑張るべきだと言う主張はあながち間違いとは言えないかもしれない。だが間宮麗奈が総司を襲った際も、三原は病室の外でずっと見ていただけで、臆病者の誹りを受けても仕方ないようには一見思える。
 しかし翔太郎は、三原のことを蔑むつもりはなかった。

「……リュウタ、そりゃ仕方ないんじゃねえか? 三原さんは別に仮面ライダーってわけでもないらしいじゃねえか」

 三原修二が実質一般人であるということは、タツロットを伴って立ち去る前に、無言で立ち尽くす三原の様子を見たキバットバットⅡ世から告げられた情報だ。以前からその知識だけはあったデルタギアを支給されてこそいるものの、彼自身は戦士でもましてや仮面ライダーでもなく、精神的にも決して強くはないだろう一般人なのだから、扱いには気を付けろと。
 まるでそのことを知らなければ翔太郎が三原への接し方に失敗するだろうとでも言いたげな物言いではあったものの、実際その諫言がなければ仮面ライダーの力があるならそれで戦えと強要していた可能性は十分に考えられる。三原については、偶然そんなガジェットを手にしてしまっただけで、本質的にはこれまで多くを見て来た無力な依頼人と変わらないのだ。
 彼を危険な戦いから遠ざけ、殺し合いの場で不安や恐怖で弱っているだろう精神面にも気を配ることは仮面ライダーとしても、風都の名を背負う探偵としても、大切な役目の一つだろう。
 そもそも、勇敢であることは望ましいことではあっても、義務ではないのだ。それを勘違いして無謀に走り、足を引っ張られてしまう事態になるよりはずっと良い。

 そう――鳴海壮吉を始め多くの仲間の足を引っ張って、その命すら喪わせている、どこぞのハーフボイルドなどよりも、ずっと。

 そんな風に考えた翔太郎が宥めるように言っても、肝心のリュウタロスは不機嫌そうに鼻を鳴らしただけだった。

「僕、弱虫嫌い。カッコ悪いんだもん」

 そう言って拗ねたように余所を向いたリュウタロスに何て言葉を掛けたものか翔太郎が迷いを見せたのとまったくの同時、名護が失笑していた。
 タイミング的に考えれば当然、名護が笑ったのは翔太郎の困惑の様ではなく己が主張の内容であると見抜いたリュウタロスが、不機嫌なままの声色で尋ねる。

「……何? 名護さん」
「……リュウタロスくん。確かに弱虫は、カッコいいとは言えないだろう。だが俺は、弱さを受け入れられない心もまた弱いということを知っている。自分の弱さを受け入れられないことはもちろん、世の中には強くない人もいるのだということも……その人達が強くないことは、罪でも何でもないということも受け入れられなければ、本当に強い戦士だとは言えないな」

 名護の言葉に、リュウタロスが少したじろいだ。

「――な、何が言いたいんだよ」
「わからないか。今の君もまた、君の嫌う弱虫だということだ」

 はっきりと言い放った名護に、リュウタロスは驚愕のあまり言葉も出ない様子だった。
 まるでその隙を衝いて畳み掛けるかのように、名護は彼に語りかけて行く。

「確かに修二くんは、心身ともに戦士とは呼べないほど弱いかもしれない。リュウタロスくんの目には、何もしていない弱虫にしか見えなかったかもしれない。
だが、そう思うならそもそも彼が弱いのだということを受け入れず、自分の思い通りに動いてくれなかったからと蔑むのはやめなさい。それは君の傲慢さ、君の弱さだ」
「でもっ……でも、修二は一度、変わるって言ったのに! なのに、何もしなかったんだよっ!?」
「なるほど。それは確かに修二くんが悪いかもしれない……だがな、リュウタロスくん。人は、そんな簡単に、思えばすぐに変われるような物じゃないんだ。君が修二くんのことを弱い人間だと思っているのなら、こんな恐ろしい世界で変わることは弱い彼にとっては難しいことなのだと想い遣ってあげなければいけない。そんな彼が、それでも逃げ出さずに変わると言ったのなら、我々も根気良く手助けして行くつもりでなければな」
「そんなの……」
「……付き合い切れない、か? それでは君の弱さを認めるようなものだぞ」

 俯くリュウタロスに勝ち誇ったように笑顔を作る名護だったが、リュウタロスは認めないとばかりに首を振る。

「だって、総司は変わったんでしょ!? 変わろうって思って、変わったんでしょ? 翔太郎が変われるんだって言ったじゃないか!」
「確かに総司くんは、見事に変わってくれたところもある、俺も自慢の弟子だ。だが総司くんも、さっき自分が悪いのだと責めたように、すぐ悲観的になってしまうことなど、まだまだ俺の元で修行して、変えて行くべきことだって残っている。
何より総司くんは、彼だけの力で変わったわけじゃない。俺や翔太郎くん、それにもう……大勢が力尽きてしまったが、たくさんの仲間達が支えたからこそ、彼は変わることができた。そんな仲間達の頑張りを否定するようなことを総司くんが言ってしまったから、翔太郎くんも少し感情的になってしまったんだろう?」

 海堂や、天道のことを思い出していたのか、噛み締めるように言葉を紡いでいた名護がそう問いかけて来て、翔太郎はさっきそんな感じ悪かったかなとバツが悪い心地ながらも彼に頷く。

「だから修二くんがすぐに変われなかったからと、彼を責めてはいけない。翔一くん達や間宮麗奈という女性が今頃どうなっているかは不安だが、幸いなことにこの時点では犠牲者は出ていない。それなら今度こんなことがあった時には、修二くんにも彼にできることをして貰えるように、彼がその時に変われているように、強い君や俺が彼を支えて行くべきだろう?」
「う、ううっ……ううううう……!」

 議論における子供と大人の差とでもいうべきか。理屈が実際に正しいのかどうか以前の問題として、リュウタロスは名護に完全に言い負かされていた。

「ううううううっ……! ……修二」

 だがやがてリュウタロスは、翔太郎の正面のベッドに座っていた三原へと向き直った。

「……カッコ悪いなんて言って、ごめんなさい」
「リュウタ……」

 素直に口から出た謝罪の言葉への驚きを隠さぬまま、三原が顔を上げた。

「偉いぞ、リュウタロスくん」

 そう素直に謝ったリュウタロスと同じくらい素直に、名護がリュウタロスのことを褒める。

「……だって僕、カッコ悪いの嫌だもん。だからカッコ悪いんだって教えてくれてありがとう、名護さん!」
「良い返事だ、見込みがあるな。良太郎くんの許可が取れたら、君も私の弟子になりなさい」
「……やっぱり、すげえや。最高だぜ、名護さん」

 どう言い聞かせれば良いのか、自分ではさっぱりわからなかったというのに、リュウタロスに本当の強さを何かを説いて反省を促し、部屋中に拡がりつつあった微妙な空気を見事に消し去った名護を、思わず翔太郎は称賛していた。

 紅音也の死に悲嘆に暮れていた自分を救い、ずっと迷っていた総司を導いてみせ、ガドルにも一度は一騎打ちで勝利してみせた名護が、どんなに凄い仮面ライダーであるのか、翔太郎は十分わかっていたつもりだった。だが、どうやらその認識はまだ彼を侮っていたらしい。名護は、弱さをも受け止める真の強さを持つ、本人が一人前だと名乗るのも当然なほど素晴らしい戦士、仮面ライダーだった。翔太郎の愛してやまないハードボイルドかと言われれば否だが、それでももし壮吉と出会う前だったら、自分が弟子入りを志願していたことは疑いようもない。

 そんな気持ちを乗せた素直な賛辞に、名護は謙遜するかのように首を振る。

「やめないか、そんな大したことじゃない……どこか気分良く説教などしてしまったのは、彼が昔の俺と被って見えて、ついやってしまっただけなんだ」
「いや、それ別に全然良いことじゃねえか……ってか、名護さんもやっぱ昔っから完璧だったわけじゃないんだな」
「ああ。……恥ずかしい話だが、俺も昔は人間の弱さを受け入れず、己の過失を認めず、また自分より劣っていると断じた者を見下すような時期もあった。だが多くの仲間達との出会いや、彼らの支えがそんな俺を変えてくれた……」
「名護さん自身が、変わってみせた人間だったってことか。……おい総司、やっぱりおまえの師匠は、おまえの師匠だけあって、すげえ人だな」

 そう感嘆した翔太郎は、つい先程まで暗く沈んだ表情をしていたとは思えないほど明るく、照れ臭そうに笑う総司と目が合った。そして彼は会釈と共に、感謝の言葉を紡いでいた。

「――ありがとう、翔太郎」
「止せって。俺達の仲じゃねえか」

 そう総司に返したところで、翔太郎はつい、名護に自慢の弟子と言われた彼と自分を比べてしまった。

「……あーあ、俺も、おやっさんに顔向けできるような弟子にならねえとなぁ」
「何を言っているんだ、翔太郎くん。俺や総司くんが凄いなら、君も自信を持って良いはずだ」
「俺が?」

 名護の思わぬ言葉に、翔太郎は素っ頓狂な声を上げてしまう。
 名護が世辞を言うような男とは翔太郎は思っていない。だからこそその真意が意外だった。

「君だって変わっただろう、翔太郎くん。君の言った、誰も護れなかった半人前から、ガドルという巨悪から俺達を護り、総司くんを導いてみせた一人前の仮面ライダーに、な」

 名護が臆面もなく言い放ち、同意を表すかのように暖かい笑みを浮かべたまま総司が小さく頷いていた。それらを視界に収めた翔太郎は、目頭が熱くなることを止められなかった。
 目元を隠すように帽子を深く被りながら、翔太郎は胸がすっと軽くなるのを感じていた。

 嗚呼、護りたい。壊されてたまるかと、翔太郎は自然と湧き出る想いを抑えられなかった。
 こんな時を壊して皆を泣かせようとする悪党が許せないから、翔太郎は探偵になったのだと。
 こんな風に同じ志を持った仲間同士で希望を持って、皆で少しずつ世の中を良くして行こうと笑い合うのが好きだから。同じように、今を懸命に生きている人達を護りたかったから。
 その原点とも言える気持ちに立ち返れて、翔太郎はこの仲間達を護りたいと、改めて心の底から思っていた。

 そう思ったからこそ蘇る不安もある。総司にそもそも辛い過去を思い出させた者、間宮麗奈のことだ。

 先程言ったように、彼女が人々を泣かせる怪物であるワームとしての心しか持たないなら、翔太郎は遠慮なくマキシマムを叩き込むつもりだ。
 だが言動からその純粋さや、それ故に行き過ぎることはあってもある程度の分別が見て取れるリュウタロスがあんなにも好意を示し、翔一や真司も彼女の凶行に戸惑っていた様子だった。それも人間社会に溶け込むワームの演技かもしれないが、傷ついたリュウタロスを見た間宮麗奈が受けたショックは本物だったように翔太郎には見えていた。
 天道総司の様な例外はあるが、擬態された時点でその元となった人物はワームによって命を奪われてしまうらしい。だが記憶や精神までもワームは擬態するため、場合によっては自分がワームであることを忘れ、人間として生きる個体も存在するのだと言う。それなら確かに人を殺めたそのワーム自体は許す事の出来ない悪ではあるが、その心は、失われたはずの犠牲者の魂ではなかろうか。

 彼女もまた総司と同じように、ワームという存在であるために苦しんでいるだけで、その心は人間の物なのかもしれない。それなら――いくつかの矛盾を抱えてはいるかもしれないが、その心だけは見紛うことなく、自分達仮面ライダーが保護すべき対象ではなかろうか。
 それ故本当なら、こんなところでじっとして居たくはなかったが、ガドルとの戦いはそれを許さぬ深い傷を翔太郎達に刻んでいた。一本筋を通していたように見えるとはいえ、それほどの悪がこれ以上誰かを傷つける前に討ち取ることができたのは一つの誇りではあるが、おかげで今は休養を摂らざるを得ない。間宮麗奈を追うことは真司達に任せて、自分達は身体を癒しながら、彼らが不在の間代わりに三原達を護ることしかできないのだ。己の仲間が引き金となった事態のツケを他人に任せてしまうことを翔太郎は悔しく思う。

 だが、本当に大切なのは翔太郎が不甲斐なさを感じるかどうかではなく、三原の不安を取り除くことができるか、リュウタロスを泣かさずに済むか……そして、ワームに擬態された間宮麗奈が救われるかどうかだ。
 翔一と真司がどんな手段や結論を選ぶのかはわからない。違う世界に生きる人間の考えなど、本当はそんな簡単にわかるはずがない。
 それでも、住む世界は違えども、名護や総司と同じように、同じ仮面ライダーが心に秘めた正義を翔太郎は信じたいと思っていた。

(……頼むぜ、お二人さん)

 窓を通して、彼らが向かったはずの南方の市街地へと充血した瞳を向けた翔太郎は、言葉もロクに交わせなかった仲間達へと、そう心中で激励を送った。



 ――リュウタロスに黙れと言われた時、嘘吐き呼ばわりされた時、三原はその時胸中を埋め尽くしていたのとはまた別の恐怖に苛まれていた。
 あまりにも常識外れに激しい戦闘の、その余波を目の当たりにした三原は完全に恐怖の鉤爪に心臓を掴まれてしまっていた。何をしたって敵いっこない、あの途轍もない暴力に晒されて、最初に自分達を襲った仮面ライダーの伝え聞く成れの果てように、無惨に殺されるしかないのだと思うと、目の前が夜の中よりずっと真っ暗になってしまっていた。
 死にたくない、その一念で真司達を呼び止めようとした。リュウタロス達のように、異形を晒した間宮麗奈の心配などすることもなく、ただ自分が生きたいがために。
 そこで三原を叱ったリュウタロスの声に込められていたのは、昼間に向けられた怒気の比ではなかった。
 昼間のあれは初めて見たばかりの、気に入らないものに浴びせる怒声だった。だがその時、そして嘘吐きだと三原を告発した声は、裏切者を告発する叫びだった。
 まるで真理の事切れた姿を目にしても、適当な理由を付けて戦いに関わることから逃げようとした三原に対して草加が浴びせたような……いいや、それ以上に純粋な怒りの籠った、断罪の声だったのだ。

 その声が命の危機を前にして抱いた恐怖とはまた別の、死に対する恐慌を落ち着かせるほどの衝撃を三原に与えていた。

 ふと布団の中からリュウタロスの様子を見てみると、疲れているだろうに麗奈のことが心配なのか、そわそわしていて眠ろうという気配がない。

 そんな声で三原を責めたと言うのに、リュウタロスは結局名護の説得を受けて三原を許した。
 彼らは言う。三原はこんな恐ろしい場所でも逃げ出さず、変わると宣言したのだと。

 だが、実際は違うのだ。リュウタロスにやってみると言ったのは、あれ以上リュウタロスの特訓に付き合させられるのが嫌だっただけだ。麗奈が総司という人物……いや、ネイティブを襲撃した際に逃げ出さなかったのは、結局真司達が向かって来るだろうそこが一番安全だったからに過ぎなかったのだ。

 それなのに彼らは、こんな三原の不甲斐なさを責めようとしない。
 左翔太郎は、三原のことを仮面ライダーではなく、護るべき一般人だと言った。

 だがそれを、直前まで総司に説いていた彼の考えに当てはめると、三原は三原だから、弱いのだということになる。

 それを事実だと三原は思っているから、別に侮辱だなんて思わなかった。
 だが、その後続いたリュウタロスと名護の口論は、三原にとっても考えることがあった。
 名護はこんな三原でも、少しずつ変わって行けると言う。変われるように支えると言う。
 あんな堂々として、リュウタロスから素直に羨望の眼差しを浴びている名護達も、最初からああだったわけではなく、強い意志で以って変わってみせた者達だと言う。
 それでも正直言って、あんな恐ろしい力に立ち向かうぐらいなら、三原は変わりたくなんかないと思う。死にたくないのに、自分から危険に飛び込んで行く真似をするようになど、絶対になりたくはない。
 ……だが。

 ――僕、弱虫嫌い。カッコ悪いんだもん。

 リュウタロスのこの言葉。これもまた事実だと、三原は思う。
 弱虫をカッコ悪いと思うのも、カッコ悪い者よりカッコ良い者が好きなのも、三原も同じだ。

 別に、死に向かって飛び込んで行くことになるような真似をする風に変わらなくても。

 今みたいに、ずっと後ろで怯えて縮こまって皆の足を引っ張るだけの、嫌われ者の役立たずのままで居たいとは、三原だって思いはしない。
 だから、結局は味方だったとはいえ……真司と翔一が病院を訪れた時、自分は一人で彼らと接触したのではなかったか。

 カッコ悪い弱虫から変わりたいと思ったからこそ、あそこで頑張ろうとしたのではなかったのだろうか?

 自分を信じたいと願った刹那、三原の脳裏に閃くのは、夜を昼に変えた光の暴威だった。

「――ッ!」

 ダメだ。
 ――怖いっ!

 がばっ、と三原は布団に潜り直す。体温が緩く密閉された空間に籠って程好い暖かさとなっているが、睡魔は逡巡と恐怖の葛藤に押し出され、まるで三原の内には存在していなかった。

 やっぱり怖い。名護達の言葉を受けて少しでも変わろうと思った。リュウタロスと出会ってからのこの半日の出来事を思い出しもした。少しでも変わろうと、頑張ろうと決意した記憶を必死に洗い出し、変わろうとしたが、あの光がそれを全て押し流してしまう。

 ダメなんだ、こんなことじゃ……!
 リュウタの信頼を裏切ってしまったことに報いるには、こんな風に怯えていちゃダメなのに……!

 変わりたいという願い。今のままの自分ではダメだという想いと、避けようのない死を齎す圧倒的な暴力の片鱗を目の当たりにした恐怖が、三原の内で鬩ぎ合いを続けていた。

 その決着は、まだしばらくの間果たされることはないように見えた。



【1日目 真夜中】
【D-1 病院】

【全体備考】
※キバットバットⅡ世及びタツロットが病院周辺を警戒しています。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーイクサに15分変身不可 、真司達への心配
【装備】ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:可能な限り休養を摂り、少しでも疲労を軽減する方針
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
4:翔一・真司の代わりにできる限り病院を護る。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※天道総司から制限について詳細を聞いているかは後続の書き手さんにお任せします。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(極大)、疲労(大)、仮面ライダーイクサに20分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、木場の不明支給品(0~2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:真司と翔太郎の代わりに病院を護る
1:名護と総司と共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)、ダグバ(名前を知らない)を絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
6:ミュージアムの幹部達を警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
8:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターに認められていません(なおホッパーゼクターは、おそらくダグバ戦を見てはいません)。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去、及びにカブトの世界についての情報を知りました。ただし、総司が剣崎一真を殺してしまったことはまだ知りません。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーダークカブトに10分変身不可、ワーム態に12分変身不可、仮面ライダーレイに15分変身不可、仮面ライダーカブトに20分変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護に対する自身の執着への疑問。
3:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
4:間宮麗奈や、彼女を追っていった翔一達が心配。
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強く恐怖を抱く。逃げ出したい。
2:巧、良太郎と合流したい。草加、村上、牙王、浅倉、蓮を警戒。
3:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
4:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。けど……
5:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ、けど……
6:間宮麗奈を警戒? それとも、信じる……?
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクの可能性に気付いたもののある程度信用しています。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、額と背中に裂傷(手当て済み)、1時間35分イマジンとしての全力発揮制限
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト 、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
1:良太郎に会いたい
2:麗奈はぼくが守る!
3:……だけど怪我をした自分じゃ足手纏いだから、真司が麗奈を守ってくれるのを信じる。
4:大ショッカーは倒す。
5:モモタロスの分まで頑張る。
6:修二が変われるようにぼくが支えないと
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※ドレイクゼクターがリュウタロスを認めているかは現状不明です。
※再変身までの時間制限を大まかに二時間程度と把握しました(正確な時間は分かっていません)
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。



106:君のままで変われば良い(1) 投下順 106:君のままで変われば良い(3)
時系列順
津上翔一
城戸真司
三原修二
間宮麗奈
擬態天道
リュウタロス
名護啓介
左翔太郎