Bを取り戻せ/切り札は俺の手に ◆.ji0E9MT9g






「……やった、んでしょうか」
「ううん、多分まだだよ。当たったけど、浅かったから」

アギトとカブト、二人の仮面ライダーは、肩で呼吸をしながら再び合流し未だ緊張を緩めぬままにそう呟く。
先ほどキックの寸前にブレイドの身体から光が放たれたのは、その鎧に備わった能力、マグネットの斥力を使用したためのものだ。
完全に合わせるようにして放たれた一撃も、それにより少しばかり間合いを外し彼を戦闘不能にするには至らなかった。

しかしこれまでに与えたダメージを考えれば或いは、とそんな希望を抱きかけたその瞬間。
彼らの身体に、闇が到来する。

「ぐわああぁぁ!?」

この戦いで受けた全てのダメージを帳消しにするかのようなその衝撃に思わず声を上げながら、二人は吹き飛ぶ。
これはまさか、と起き上がりその視線を闇の先に伸ばしたその時、それはその闇の中でも激しく主張する白をしていることを把握した。

「アハハ、アハハハハハ!!!本当に凄いね、仮面ライダー。キングフォームを倒しちゃうなんてさ。……でもあれはただの遊び。ここからが本当の究極の闇、だよ」

言いながら現れたその影が発する声は、紛れもなく先ほどまでブレイドに変じていたダグバのもの。
先ほどのキングフォームが可愛く思えるような威圧を持って立ち上がったその姿に、彼の言葉が嘘ではないことを身を以て実感しつつ、しかし彼らは立ち上がる。
もう誰もこんな奴に傷つけさせない、ただそれだけの行動理由さえあれば、彼らはいつまでも戦えるのだ。

「ハイパークロックアッ――」
「――させないよ」

強敵の登場に自身もその切り札を再度切ろうと腰に手を伸ばしたカブトに対し、ダグバは何の能力も使用していないというのにクロックアップ並の速度で以て肉薄する。
ダメージを一切感じさせないようなその動きに元々スピードの劣る今のアギトが対応仕切れぬ中、カブトは油断なくその手を腰からザンバットソードに移し替えて。
――瞬間、二人の距離はゼロになる。

しかし、ザンバットソードという間合いの有利があってなお、そんなものは関係ないとばかりにダグバはその刃を左手で掴み取りその右拳をカブトに容赦なく叩きつけた。
オオヒヒイロノカネの硬度が無視されまるでただの鉄のようにひしゃげるのを見やりつつ、カブトはしかしその左ストレートを叩き込む。
それは確かにダグバの身体に着弾したが……しかしその身体はもう揺らぐことすらなかった。

「なッ……!?」
「ふふ、パンチって言うのはね……こうやるんだよ!」

左手に抑えているザンバットの刃をかなぐり捨てながら、ダグバはその拳をカブトに再度叩きつける。
今度は一撃ではない、ハイパーフォームのカブトにすら一切の対処を許さないスピードで、一瞬の間に数十発の拳が一気にその身体を蹂躙していた。

「――やめろッ!」

ことここに至ってようやくその二人の間に割り込む形でその場に現れたのはアギト、パワーに優れるその拳で、しかしダグバの拳を受け止めるのが精一杯という様子ながら、何とかカブトから彼を引き剥がす。
しかしアギトと拳のぶつけ合いになるのは些か分が悪いと判断したのかダグバは一瞬で後方に退き、その代わりとばかりにその掌から闇を照射する。
暗黒掌波動、究極を超えた今のダグバになら問題なく使用できるその力がアギトと、その後方にいるカブトの身体から際限なく火花を散らさせた。

ダグバの響く笑い声をその耳に焼き付けながら、二人の戦士は膝をつく。
この本当の戦いとやらが始まってまだ数秒だというのに、こちらの戦力はもう削られ切っている。
アギトのパワーは奴には通用しないし、頼みの綱のハイパークロックアップも、今の状況では使う前にダグバに押し切られてしまう。

――これが、グロンギ最強の力か。
自分たちが想定していたそれより遙かに強いその実力にどうしようもない認識の甘さを痛感しながら、二人はそれでも立ち上がろうとする。
しかし敵も、それをすんなりさせるほど生易しくはない。

「じゃあね、仮面ライダー。楽しめたけど、これで終わりだよ」

弱り切った彼らに止めを刺すために、その掌に闇を集めて。

「――ちょっと待ちな。一人、忘れてるぜ。そいつらの仲間をな」

後方から聞こえてきた、キザな声にその身体を翻す。
聞き覚えのあるその声に誰もが注目する中、この場の緊張を理解した上でなお男はそのお気に入りの帽子をクイッと上げて、キザにはにかんでみせる。
その姿に、同時に誰もが驚愕した。

「翔太郎!?」

それは、この場で初めて戦いから離脱することとなった左翔太郎、その人であったのだから。
しかし総司のあげるその声は、決して仲間の無事を喜ぶだけのものではない。
今の翔太郎は、何一つ変身手段を持っていないはず。

それを踏まえて考えれば、生身で今のダグバの前に立つことは無謀としか言い様がない。
どころか、恐らく彼の変身するジョーカー程度であれば一瞬でその身体を消し炭にすることすら可能だろう……と再び立ち上がった仲間に対し、総司は不謹慎にも思う。

「君……何しに来たの?あんなに弱かったのに、僕の楽しみの邪魔しないでよ」

それをダグバも理解しているのか、クスクスと笑いながら、しかし邪魔者として彼を排除しようとする。
その闇が集う掌を向けられながら、しかし翔太郎はその表情を恐怖に染めることはせず。

「無茶だ翔太郎、早く逃げて!」
「ここは俺たちに任せて、早く!」

カブトとアギトが、叫ぶ。
自分たちの体力回復の為にその身を張っているのだとしたら、それは自分たちの望むことではない。
捨て身の戦法をとった彼に対し絶叫する二人に対し、しかし翔太郎は笑う。

それはいつもの彼の余裕を表したような笑みで……決してハッタリには見えなかった。
しかしその一切を無視して、戦いが出来ないなら意味がないとばかりにダグバはその闇を彼に照射する。
それは神速の勢いで以て翔太郎に肉薄し、彼を一瞬で闇に包み込んだ。

「翔太郎ぉぉぉぉ!!!!」

総司の絶叫が響く中、ダグバは笑う。
これで、一人減った。
もしこれで彼らが怒ってくれるなら、もっと楽しめるかもしれない。

事実先ほどまでずっと膝をついていた二人が再度立ち上がっているのだから、それも間違いではないのだろう。
では、改めて楽しいゲゲルを続けよう、とその足を進めようとして。

「――よぉ、ダグバ」

後方から、聞こえるはずのない声が聞こえてきたために、思わず振り返ろうとして、その頬を大きく殴りつけられる。
自身の身体を吹き飛ばしたその腕が見覚えのある金色をしていることに驚愕の声を漏らしながら、ダグバの身体は遂に地を舐め。

「翔太郎、まさか、それって……!」
「あぁ、そのまさかさ」

全身に刻まれた幾つものタペストリー、金色に輝く鎧、スペードの意匠を刻んだそのマスク。
その手に生じた大剣も、今はこれ以上なく心強く見える。
そう、それは先ほどまで悪魔が纏う最悪の敵として君臨していた仮面ライダーブレイドキングフォーム、その勇士が、今正義の名の下に再び降臨した姿であった。




時間は数十秒前に遡る。
ダグバの変じたブレイド、その圧倒的な力に敗れ去ったジョーカー、左翔太郎は、その意識を彼方に飛ばしてしまっていた。
或いはそのままであれば、先ほどの紅音也を失った戦いのときのように戦いが終わってからその意識を取り戻し仲間の死に涙する、という展開もあり得たかもしれない。
しかし、今回はとある事情が異なっていた。

「痛ッ――」

突如、その頭に何か金属の塊が到来した。
強く頭にぶつかったそれは、今翔太郎の意識を彼方より呼び戻し、覚醒させる。

「んだよ、ったく。って、俺は一体何して――」

何事が起きたのか、事情を把握しきれぬままに起き上がり辺りを見渡して、翔太郎はすぐに自分が何故ここにいるのかを思い出す。

「そうだ……、ダグバがブレイドに変身して、それで俺は……」

あの時、総司を叩きのめしブレイドの鎧を玩具と嗤ったダグバに怒りを覚え感情に任せ飛び込んだ後……その圧倒的な実力の差に自分はやられたのだ。
音也のときも同じようなことをやったというのに全く俺は半人前だ、と自己嫌悪に至りかけて、今はそんな状況ではないことを思い出す。

「総司、翔一、無事でいろよ……!」

未だ戦いの音が辺りに響いている。
例え変身できなくても自分に出来る何かをするために、例え何も出来なくても仲間のためにその熾烈を極める戦地に赴こうとその足を動かそうとして。

「――ん?」

瞬間、カツリ、とその爪先にぶつかる“何か”に気を取られる。
そう言えば、自分が目覚めたのも何かが頭にぶつかったからだった、と未だ鈍く痛む頭を抑えながら暗闇の中からそれを拾い上げる。
そしてその瞬間、彼にはそれが何なのか、一瞬で理解できた。

「これは、ブレイドの……!」

そう、それはブレイバックル。
辺りに13枚ものスペードのカードも散らばっていることを思えば、どうやら総司と翔一はあのブレイドを打ち破ったらしい。
その功績に思わず跳ね上がりそうになって、しかし今はそれよりも大事なことがあるとそれらを全て拾い上げた。

「剣崎……お前も、あんな奴に自分の力が使われて辛かったんだよな」

ふと思わず、翔太郎はそれに声をかけていた。
この殺し合いに反逆し、そして最後は殺し合いに乗っていた総司の手によってその生を終わらせた、剣崎一真。
彼には直接出会ったことこそないが、彼を大事に思っていた相川始によって、また彼を殺した総司の苦悩によって、その人となりは痛いほど伝わってきた。

それは、自分も見習わなくてはいけないほどの、正義の仮面ライダー像。
この戦いの最中ダグバにその男の鎧が良いようにされていることに、どれほどの憤りを覚えたか。
それを今論じはしないが、しかし彼がダグバなどという非道の手に渡ってまで総司に復讐を誓うような、そんな男ではないことは、既に知っていた。

いやむしろ、今ここにこうしてその力があるということは、その逆。
俺の身体を使って、正義に生きる覚悟を見せた総司を救って見せろ、という彼の言葉なのだろう。
或いはそれは、剣崎の友である相川始に騙され仲間を殺された自分に彼に対する処遇を委ねる為の意味も含まれているのかもしれないが――。

ともかく、今自分に求められているのは、剣崎が願ったのは、あの悪魔を打ち倒すこと。
それだけは、確かだった。
その思いと共に駆け出せば、案外すぐ近くに彼らはいた。

「じゃあね、仮面ライダー。楽しめたけど、これで終わりだよ」

自分も見たことのないほどの威圧を誇る新たな異形が自分のよく知る声を発したことで、翔太郎はそれの正体を察する。
しかし、問題はない。
今の自分の手には“切り札”があるのだ、ダグバを倒す為だけのものではない、この殺し合いの運命を変えるための、切り札が。

「――ちょっと待ちな。一人、忘れてるぜ。そいつらの仲間をな」

そうして、彼は切り出した。
目の前の悪魔に弄ばれた分だけ、その鎧を正義に生かすために使うと、戦えない誰かの為に自分が彼らの盾になるために。
――ダグバの掌から発生した凄まじい闇の塊をバックルから生じた金色のエネルギーの盾で凌ぎながら、翔太郎はそれに向けて歩み出す。

自分こそが今この惨劇の運命を変えられるジョーカー(切り札)なのだ、とそう確信して。




「悪かったな、遅くなっちまって」
「ううん、信じてたから、翔太郎のこと」

キングフォームの鎧を纏ったままカブトに手を差し伸べるブレイドに、総司はその手を取り立ち上がりながらそう返す。
同じくアギトも立ち上がり、今剣崎一真という正義の仮面ライダーの鎧を自分たちの元に取り戻せたことに、三者共に喜びを隠せない様子であった。
しかし、そんな空気に、水を差すものが一人いる。

「それ、僕のだよ。返してよ」
「――お前のだと?」

ダグバだ、子供のような言い草でむすくれているような声を上げた彼に、しかしブレイドは肩を怒らせる。

「――違ぇな。これは剣崎一真って仮面ライダーのもんで……俺たち仮面ライダーに繋がれてきた、剣崎からのバトンなんだよ!てめぇなんかにはもう二度と触らせやしねえよ」
「……ふぅん」

熱く告げたブレイドに対し、ダグバはしかし興味深げに呟く。
それに秘められた感情が何なのか、彼らにはわからなかったが……しかし、分かる必要もないと思った。
今ここで、自分たちがこいつを倒すのだから。

そうして並び立ったカブトとブレイドの前に一歩進み出るは、アギトである。

「――ダグバ、お前は誰かが犠牲になったときに俺たちが強くなる、そう言った。でも、それは違う。俺たちは仲間と一緒に戦って、誰かを守るために強くなるんだ。それを今から俺が証明してみせる!」

言葉と共にアギトはその手を胸の前でクロスさせる。
そのまま再び腰のオルタリングを叩けば、その身体は突如光を放ち出した。
パラパラと今まで彼の身体を強固にしていた体表が剥がれていったかと思えば、その下より白銀の新たな鎧が生み出される。

――仮面ライダーアギト、シャイニングフォーム。
今までは陽の光なくして変身できなかったその形態。
しかしこの場で多くの仮面ライダーと触れ合い、そして今この場でダグバという、今までの敵を大きく超えるような存在と戦い急速にその身体が進化を促したことによって、翔一は今この闇夜の中で一際輝く白銀の鎧を纏うに至ったのだ。

アギト自身が人類の進化の化身である以上、彼が望み、そして環境がそれを促せば翔一の身体がこうして進化するのは、いわば必然でもあった。
それぞれの最強の形態に変じ思いを新たに大きく構えるアギト、ブレイド、カブト。
それに対するは究極を超えた悪魔、ン・ダグバ・ゼバ。

彼らの戦いは、今ようやく佳境にさしかかろうとしていた。




「ハアァッ!!」

かけ声と共に先ほどと形状を変え双剣と化したシャイニングカリバーで以てダグバに斬りかかるのは、白銀のアギト。
それをダグバは難なく躱すが、しかしその先に待っているのはザンバットソードを構えたカブト。
今度は躱しきれずその手で受け止め何とかやり過ごそうとするが、それをブレイドのキングラウザーが許さない。

この身を貫きかねないその刃を、身を捩り掠らせる程度で凌いで、ダグバは大きく後方に飛んだ。
――強い。
ダグバが抱いた感情は、最早それに尽きる。

先ほどまで戦い強さを認識していたカブトも、先の形態より一撃一撃は軽いものの先を大きく超えるスピードでそれを補うアギトも、黒い仮面ライダーであった時の弱さが嘘のような動きを見せるブレイドも。
どれもがこの場で遭遇したことのないほど凄まじい実力を誇り、或いは理性を保ちその力を振るっていることを思えばクウガよりずっと戦いにくい相手であった。
しかし今のこの万全とはほど遠い体調で、さっきまでの自分なら敗北しただろうこの三人の仮面ライダーを前にしてもなお、ダグバは笑顔を絶やさない。

何故なら今の彼は既にセッティングアルティメット……究極を超えた究極に相応しい実力を持っているのだから。
そんな中、カブトの手が再度ハイパーゼクターに伸びているのを見て、ダグバは突貫する。
流石に今の自分でもあのスピードは目で追うのが精一杯だろう。

あれを許せば自身の敗色は濃厚になってしまう、とそれを防ぐため駆け出した彼に、アギトが立ちはだかる。
気合いと共に放たれた拳を受け止め片手でいなすが、しかしもうダグバに残された時間はなかった。

――HYPER CLOCK UP

既に、必殺の切り札は切られていたのだから。
――この戦いで既に三度使用した最強の能力によりもたらされる周囲との時間感覚のズレにようやく慣れながら、カブトはその足をダグバへと進める。
今回で、終わらせる。

剣崎の悲劇も、ダグバが翳した悪夢も、これで終わりなのだ。
そうして必殺技の準備を済ませながら走るカブトがふと前を見やると、ダグバが闇を照射してきていた。
つまり、奴はこの速度にある自分を感覚で捉え攻撃してきたのだ。

本当に恐ろしい敵だ、と感じながら、ハイパークロックアップの最中であるというのに容赦なくこの身に降りかかろうとしたそれをしかし危なげなく回避し、カブトは進む。
後数秒、残った時間で問題なくダグバを仕留めることが出来ると思い――。

背筋を、ゾッとするものが這いずっていく感覚を覚えた。
正体は掴めぬまま、何か恐ろしい思考に支配された彼は、振り返る。
そう、振り返り、見て、そして理解してしまった。

自身が回避した闇が、後間もなくで自身の後ろに直線上にいたブレイドに到達するということを。
それを見た途端、カブトはダグバから踵を返しブレイドの下へ……先ほど完全に回避した闇の下へと向かう。
それは彼にとって、しなくてはいけないことだったから。

翔太郎という仲間を守ること、もそうだが、今はそれ以上に。

(もう……僕のせいでブレイドが倒れるのは嫌だ!)

翔太郎が纏っている鎧、仮面ライダーブレイド。
自分が死なせてしまったその装着者、剣崎一真の分まで戦う覚悟を決めたのだ、もう二度と自分の手が届くところでブレイドが倒されるところを見たくなかった。
だから、闇に向けて剣を立て付け、絶叫する。

ブレイドを守るために、自身が死なせてしまった存在を、二度と殺させぬ為に。

――HYPER CLOCK OVER

瞬間、世界は通常の時間を流れさせる。
聞こえてくるのは、ダグバの愉悦、仲間たちの驚愕の声。
彼らには悪いことをしたとも思うが、しかしそれ以上に自分が仮面ライダーとしてようやく誰かを守れた自覚があった。

これが僕のなりたかった仮面ライダーだ、と考えるより早く、闇がその鎧に到達して。
それが晴れたとき、総司の身体は生身を晒しその膝を地についたのであった。

「――総司ィィィィ!!!」

翔太郎が、絶叫する。
突然自分の前に闇が迫ったかと思えば、それを総司が受け止めていた。
未だ使い方になれぬこの鎧、ノーラウズでのアンデッド能力の使用についてまだ疎かった為に総司という仲間が自分を守らざるを得なかったとそう考えて、彼は自信の不甲斐なさと、そして何より目の前のダグバに怒りを募らせる。

「ハアァァ……」

そして、それは翔一も同じようで、未だ笑うダグバを蹴り飛ばして、大きく構えを取った。
空中に二つアギトの頭部をそのまま映したような紋章が浮かび上がる中、ブレイドも怒りに身を任せ身体より三枚のカードを生じさせる。
掴み取ったそれらが何を意味するのかさえ感覚的にしか掴めないものの、彼はそれをキングラウザーに読み込ませた。

――SPADE FIVE SIX NINE
――LIGHTNING SONIC

身体中に力が沸き起こる中、ブレイドは駆け出す。
そのスピードは速く、アギトとの空いた距離を一瞬で無に出来るほどのものであった。
紋章へとアギトが跳び上がるのと同時、加速のついたままブレイドは飛ぶ。

強化シャイニングライダーキックと、ライトニングソニック。
二つの必殺技によるダブルライダーキック。
相当の威力を誇るはずのそれが迫る中、しかしダグバは防御の姿勢を固めるのみであった。

たった二発の蹴りが当たっただけとは到底思えないような爆音が周囲を揺らす中、二人の仮面ライダーは着地する。
今のは完璧に入った、と思うがしかし油断なく後方へと後ずさっていったダグバの方へ視線をやり。
再度その身を襲おうとした闇を回避する。

そうして闇が晴れる中現れるのは、まだ戦えるといった様子で笑い続ける悪魔の姿。
タフが取り柄の翔太郎でさえ疲労を隠しきれない中、しかしまだ戦意を途切れさせぬままに二人は立ち上がって。
――瞬間、翔一の身体からアギトの力が消失する。

「え――」

時間制限、それもバーニングからシャイニングを経たために時間減少が重なったため起こった、あまりにも早い変身解除であった。
そして、太陽の光が差さない中でのシャイニングに何らかの異常を来したのか、翔一の身体はそのまま大きく後ろに倒れる。

「翔一ッ!」

思わず声をかけるが……しかし翔一は答えない。
その疲労故か、進化の代償故か、彼は気を失っていたからだ。
総司、翔一、ようやく生まれた勝利の希望が摘み取られていく現状にやるせなさを感じつつも、しかしブレイドは一人、その大剣を確かに構えた。

それを見て、心底不思議で仕方がないという様子でダグバは首を傾げる。

「……ずっと気になってたんだ、何で仮面ライダーはそんなになってまで戦うの?君と一緒にいた彼も、最後の最後まで戦おうとしてた。もう僕に勝てないってわかってるのに」

実際には、それは彼の気まぐれで、本当に気がかりなわけではないだろう。
ただガドルがあそこまでの強さを身につけその敵であることを誇りに思うような相手を、少し彼も知ってみたかったのかもしれない。
しかしそんなダグバの言葉にブレイドはただキザにその指をダグバに伸ばして。

「わかってねぇな……仮面ライダーってのはな。人々の希望なんだよ。
その名前を名乗るからには、どんなになってでも、その身体一つグラついてでも悪を倒す、……その心そのものが仮面ライダーなんだ。てめぇが殺した紅も……その一人だったんだ」

――紅音也。
読めない男で、こんな状況でも女をナンパしたいから俺と行動するのはごめんだ、などとふざけたことを言っていた男だったが、あの名護が尊敬していたことや、こうしてダグバの思考にまで留まっているところを見ると、やはりただものではなかったらしい。
そんな男の仇を取ることを再度強く心に刻みつつ、再度両者が構えた、その時であった。

ブレイドの後方より招来した赤い鞭が、ダグバの身体を一閃したのは。

「何……ッ!?」

突如現れた援軍に思わず振り返り、そしてブレイドは見た。
赤い鞭と、自身も見慣れた友の大剣を持つ闇夜に解ける黒い仮面ライダーの姿を。




数分前。
名護の記憶を消し新たに世界のためその歩みを再開した紅渡……キングは、さした苦労もなく次の標的を発見していた。
それは、レンゲルバックルから得た情報にあった、金の鎧を着た仮面ライダーと、三人の仮面ライダーが戦闘する姿。

そう言えばうち一人、銀色のカブトムシのようなライダーは以前ライジングアルティメットと戦っていたライダーと似ている気がする。
或いはそれを受け継いだのだろうか、とも思い、しかしその声まで似ている気がして、彼は首を傾げた。
……まぁ、今は考えても仕方のないことだ。

デイパックの奥深くに押し込んだはずだというのに逃げろ逃げろとうるさいレンゲルバックルを無視しながら、キングはその余りにも常識外れの戦闘をその目で見届けていた。

「――キング、戦いには赴かないのか?」
「うん、王は挑まれた戦いからは逃げないけど……無駄に消耗するのも得策じゃないからね。彼らが制限で生身を晒した時にそれを狩れば良い」
「……尤もだな」

サガークと共に周囲を飛ぶキバットバットⅡ世にそう返すと、その答えにどこか納得しきっていない様子で彼はその足をキングの肩に乗せた。
今までこの場で一緒にいたという甘ちゃん連中、特に津上翔一と城戸真司という存在に、彼の思考も少し影響されているのだろうか。
と、そこまで考えて、彼はもう一つの可能性に気付く。

「……もしかして、あそこにいるのは君と一緒にいた人?」
「――あぁ」

幾分かの思考を交えたようで、歯切れ悪くキバットは返す。
世界のため戦う王に仕える、そう言っておいて他世界の仲間を心配してしまった自分がいることを、彼もどこか自覚しているのだろう。

「キバットバットⅡ世、一応言っておくけど僕は君の仲間だからって彼らを助ける気は――」
「――当然だ。それがこの殺し合いのルール。それに俺は奴らの仲間ではない、ただ一緒に行動していただけだ。それが殺されることに今更どうこう言うつもりもない」

いざ戦闘になった瞬間にその覚悟が消え変身を解除される、という状況に至らないように彼の覚悟を再確認しようとキングは声をかけるが、キバットは即答する。
それはまるで自分に言い聞かせているようでもあったが、しかし取りあえず裏切る様子はないようだとキングは自分を納得させる。
とは言えかつての親友に似たその身体、そしてその声、揺るぎないとは断言できないその覚悟、とキングにとってサガークほど信頼を寄せるべき相手ではないように思えもしたが。

ともかく、そんな思考を終え再び戦場に目を移すと、そこには先ほどまでとは大きく異なる戦況が現れていた。
黄金の仮面ライダー、銀と赤の仮面ライダーに、銀色のカブトムシのような仮面ライダーは先と変わらないが、一人新たに白と金の装飾を身につけた怪人が現れていた。
一目見てわかるその威圧感に胸を苦しめられながら、しかしキングの脳裏にはそれと同等の威圧を誇る存在が浮かんでいた。

「……まるで、ライジングアルティメットだ」

ぽつり、とそう呟く。
自身が見つけディケイド討伐の為に利用しようとしている存在と同程度の実力を誇ることが伝わってくるそれに視線をやりながら、キングは僅かばかり戦慄した。
ライジングアルティメット一人でもあれほどの災害を起こすというのに、そんな存在がこの場には目の前の怪人を含めまだ一人いると言うのか。

目の前の怪人はともかくもう一人は自信の手中に落とせることに安堵のような感情を抱きながら、その戦闘を見届けようと気付けば思わず前のめりになっていた。
暫くすると、まず銀色のカブトムシのライダーが敗れ、銀と赤の仮面ライダーが倒れ――、自身の変じた黄金のキバ、その真の姿に匹敵するようなライダーが次々と怪人の前に倒れていく。
恐ろしい実力を誇るそれにどうしても抱くことを禁じ得ない戦慄を抱いたまま、残る一人のライダーと怪人を見守って。

『――てめぇが殺した紅も……その一人だったんだ』

黄金のライダーが呟いたその言葉に、思わず意識を集中させられた。
今、なんと言った?
あの男が、父を殺したと言ったのか?

瞬間、キングを取り巻く雰囲気は変わった。
標的を見定め漁夫の利を狙うものから、今まさに狩りに赴かんとする王のものに。

「キバットバットⅡ世」

短く指示を飛ばせば、しかし以前の親友とは違いそれはすぐに噛み付きはしない。
何事か、と彼をみやれば、未だ迷うように空を漂っていて。

「どうしたの、キバットバットⅡ世」
「王よ、一つだけ聞きたい。今お前がこの戦いに赴くのは、王としてか?それとも――」

僅かばかり生じた、王の道具としてではなくキバットバットⅡ世としてのこの心が、キングに問うていた。
今この戦場に赴くのは、如何にキングが偉大で、そしてこの闇のキバの鎧が凄まじい能力を持つとは言え褒められたものではない。
故に、聞いておきたかった。

それを成そうとする気持ちが、世界を憂う王としてのものなのか、それとも父の敵を取ろうとする息子のものなのか。
しかし、対するキングは、既に自分の知る音也の息子としての顔は、していなかった。

「――お前は僕に、王に仕えるんだろう?なら、僕に従え」

少し自分でも悩むような顔を浮かべたかと思えば、瞬間それは立ち消え王としての威厳で自分に命令を下してくる。
そう言われてしまえば、もうキバットには何も問うことは出来ない。
ファンガイアの王に仕えるのが自分の仕事。

それに、今自分がこの青年に力を貸すのは彼を王と認めたためだ。
以前三度この鎧の力を授けた男の息子だから……そんな理由など、存在しないのだから。

「お前の言う通りだな、俺に指図をする資格はない。――ガブリッ」

自身に生じた謎の空虚感を打ち消すように、彼は王に自分の魔皇力を注入する。
それと共に彼の全身にステンドグラスのような紋章が浮かび上がり、彼の腰にベルトを生じさせた。
王の手を煩わせることもないとばかりに自分からそのバックル部分にキバットが収まれば、王の身体は一瞬で黒の鎧に包まれた。

装着が完了したことを示すようにその瞳が緑に輝けば、そこにいたのはキバの世界最強の仮面ライダー。
王に仕える従者が、その比類なき力を今新たな若き王に授けた姿。
仮面ライダーダークキバ。

闇のキバの鎧を身につけたキングは、その左手にジャコーダー、その右手にエンジンブレードという、既に使い慣れた両刀を構え、ダグバに攻撃する。
自身の世界を守るため、そして今最後に出来る息子としての父への弔いのために、王はその力を振るうのであった。


120:Bを取り戻せ/フィアー・ペイン 投下順 120:Bを取り戻せ/闇切り開く王の剣
時系列順
津上翔一
擬態天道
左翔太郎
ン・ダグバ・ゼバ
紅渡
名護啓介


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最終更新:2018年12月17日 19:14