紅涙(中編)◆.ji0E9MT9g






D-1エリアの病院。
その中の一室、明かりさえ灯されていないその中で、並んだ三つのベッドに三人の男がそれぞれ横になっている。
左翔太郎、津上翔一両名はここに連れてくるまでも、そしてここに連れてきてからも一切目を覚ます気配はない。

彼らに一応の応急処置を済ませて、残る一人、総司からダグバとの戦闘について聞きながら、名護啓介は総司に簡単な処置を施す。
彼の話によって伝えられたその戦いの様相は名護では恐らくライジングを用いて付いていくのがやっと、いや、恐らくそれすら難しいだろうものだった」

「……話を聞くだけでも凄まじい戦いだったんだな、本当に三人とも生きて帰ってきてくれて感謝する」
「そんな、僕は名護さんに教えてもらったことしかしてないもの」

壮絶な戦いの中から三人共に無事に帰ってきたことに、名護は純粋な喜びと、そして弟子がそれを成し遂げた誇らしさを抱く。
自分の頑張りを、恐らくは初めてそうして褒められた総司は、本当に嬉しそうに笑った。
それを見やりながら、きっと自分に息子が出来たらこんな感じなのだろうと名護は思う。

愛する妻、恵との下に未来授かるだろう最愛の子供たち、その存在を彼は幻視して――。

――ディケイドはその存在そのものが世界を脅かす悪魔です。

ふと、脳裏に過ぎったその声に、自身が築くべき幸せな家庭のイメージが、焼却される。
門矢士、彼が世界を存在するだけで世界を滅ぼす悪魔だという情報。
出所も分からないはずなのに、何故かそれに信憑性を感じ疑おうともしていない自分を自覚してしまって、名護は自分自身に対しどうしようもない困惑を抱く。

「名護さん……どうしたの?」

と、考え込む名護に対し声をかけたのは弟子である総司だ。
ハッとしてみれば、どうやら自分は治療の手さえ休めて思考に没頭していたらしい。
つくづく先ほどから思うようにいかないなと自嘲して、名護は眉間を抑えた。

「……あぁ、どうやら俺は自分で思っている以上に疲れているらしい。心配をかけてすまないな総司君」
「そんな水臭いこと言わないでよ。名護さんだってガドルと戦った疲れが抜けてないだけだって。
それに、渡君のこともあるし……」
「渡……?」

そう言って思慮深げに俯いた総司を見て、名護は困惑する。
渡?自分のある意味で言えば師匠である紅音也と同じ名字なだけの存在にどうして俺が疲労をためる必要がある?
自分の言っていることに一切理解が及ばない名護を見て、いよいよ持って渡を最高の弟子と言っていた先ほどまでの名護との相違に気付いたか、総司は本腰を入れて彼に疑問をぶつけようとする。

「――カブトゼクター?」

しかし総司が声を発するより早く、瞬間名護の意識を引いたのは総司のデイパックより這い出て窓の外を見つめ続けているカブトゼクターの存在であった。
まるで誰か外の存在をこちらに知らせるかのようなその行動に、名護は総司との会話を一旦後回しにして窓を開きその先に身を乗り出した。
名護の脇の下を潜り外へと這い出ていったカブトゼクターは、そのまま空に上り同規格らしい青いクワガタのようなゼクターと合流した。

「あれは……天道君から話しに聞いたガタックゼクターか……?」

その存在に目を潜めた名護は、翻り戻ってきたカブトゼクターの誘うような行為に目を見やる。

「まさか……ついてこい、と言いたいのか?」

赤のカブトと青のクワガタはそれぞれ名護をどこかへ誘導するかのようにゆっくりと飛んでいる。
或いはその先に誰か他の参加者がいるのではないかと、名護は考えたのである。

「詳しく状況は分からないが……どうやらあまり穏やかな状況ではないらしい。
俺が行って様子を見てこよう」

そう言って、名護は立ち上がる。
今のコンディションを見ても総司を同行させるわけにはいかなかったし、何より天道の友である加々美新の死を超えた頼みかもしれないのだ。
無下にするわけには行かなかった。

故に彼はそのまま二機のゼクターに案内を頼みそのまま病室を出ようとして。

「名護さん……」

ふと自分を呼び止める、不安げな総司の声に振り返った。

「どうした、総司君。俺のことなら心配いらない。すぐに外の様子を確認してまた戻ってくる」
「そうじゃなくて……」
「総司君、今は話より先に行動しなければいけない時なんだ。話なら後でじっくり聞こう。君はここで休んでいたまえ」

そんな言葉だけを残して、名護はそのままゼクターたちに伴われ外へと向かっていった。
その足音が遠ざかっていくのを耳にしながら、総司はそのままベッドに大きく横たわり、真っ白な掛け布団を肩まで掛けた。
名護の様子が――主に渡に関して――おかしく感じるのは、自分が疲れているからか、或いは彼がやはりおかしいのか。

誰よりも正しいはずの師匠の異変に困惑を隠せないままに、しかし疲労故ついに思考も纏まらなくなって。
総司の意識は、そのまま微睡みの中に溶けていった。


【二日目 黎明】
【D-1 病院】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間変身不可、仮面ライダーブレイドに1時間5分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW 、ブレイバックル@+ラウズカード(スペードA~12)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:(気絶中)
1:名護と総司、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
8:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っていました (人類が直接変貌したものだと思っていなかった)が、名護達との情報交換で認識の誤りに気づきました。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※総司(擬態天道)の過去を知りました。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。




【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに1時間変身不能、仮面ライダーレイに1時間10分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
0:(睡眠中)
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護や翔太郎達、仲間と共に生き残る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
6:名護さん、どこか様子がおかしいような……?
【備考】
※天の道を継ぎ、総てを司る男として生きる為、天道総司の名を借りて戦って行くつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに天道総司を継ぐ所有者として認められました。
※タツロットは気絶しています。
※名護の記憶が消されていることに対し確信は持てないながらも疑惑は抱いています。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。




【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、強い決意、真司への信頼、麗奈への心配、未来への希望 、進化への予兆、仮面ライダーアギトに1時間変身不能
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
0:(気絶中)
1:逃げた皆や、名護さんが心配。
2:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
3:木野さんと北条さん、小沢さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
4:もう一人の間宮さん(ウカワームの人格)に人を襲わせないようにする。
5:南のエリアで起こったらしき戦闘、ダグバへの警戒。
6:名護と他二人の体調が心配 。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
※天道総司の提案したE-5エリアでの再合流案を名護から伝えられました
※今持っている医療箱は病院で纏めていた物ではなく、第一回放送前から持っていた物です。
※夜間でシャイニングフォームに変身したため、大きく疲労しています。
※ダグバと戦いより強くなりたいと願ったため、身体が新たに進化を始めています。シャイニングフォームを超える力を身につけるのか、今の形態のままで基礎能力が向上するのか、あるいはその両方なのかは後続の書き手さんにお任せします。




「ぐあぁ……」

短く、小さい嗚咽が、自分の喉から思わず漏れる。
たった一秒にも満たないそれが自分という存在を不可逆的に削っていくような錯覚を覚えて、一条は荒く呼吸を繰り返した。
目前に迫ってくるユウスケ、今の彼から放たれている威圧は第零号……ダグバや牙王といった、凄まじい実力を持つ参加者の放つそれすらをも超えかねない圧倒的なものだ。

今自分が纏うアクセルの力が如何に頑丈で一条にとって未知の技術の集合体であれど、それは最早満身創痍の自分を未だこうして立ち上がらせる補助器具の意味合いしか持たない。
照井から受け継いだはずの力を満足に扱うことの出来ない自分への苛立ちよりも先に、今の一条に渦巻くのはこうしてユウスケをみすみす目の前で究極の闇に堕としてしまった自分の無力さへの自己嫌悪だった。

(俺が……俺が弱いから、君をまたこうして望まない戦いに駆り出してしまった……、許してくれ、小野寺君……!)

もしも自分がもっとしっかりと彼と共に戦えるほど強かったなら、もしかすれば渡に罪を重ねさせることも、こうしてユウスケが望まない争いを生むこともなかったはずに違いないと、一条の思考にどうしようもない後悔が浮かぶ。

――一条さん!

ふと、泥沼に陥りかけた思考に、もう聞くはずのない声が響く。
それと同時サムズアップをして笑顔を浮かべる青年の姿すら詳細に浮かび上がってきて、アクセルの仮面の下、一条は思わず笑みをこぼした。
そうだ、自分はあの放送で五代の死を聞いて、誓ったではないか。このもう一人の悩める異世界のクウガを、出来ることなら自分が支え救いたいと。

五代の死を聞いて、どれだけ苦しくてもクウガとして皆の笑顔の為戦うとそういってくれた彼を、自分が見捨てるわけにはいかないと、そう考えたのではなかったのか。
それを思えば、或いは今ユウスケが生身であるうちであれば可能性はゼロではなかった逃走という手段に対する一条の中での関心は薄れていく。
そして彼の中に残ったのは、目の前の青年を闇の中から救い出したいというその願いのみ。

愚かな選択であるのは分かっている。
自分が彼に述べた、『守りたい笑顔の中に自分を含めろ』という言葉に反しかねない行為だという事も、重々承知の上だ。
しかしそれでも、どんな理由をつけても今のユウスケを置いて自分だけ逃げ出すことは、一条には耐えがたい“中途半端”であった。

中途半端はするな――父から継いだその言葉について、一条は五代に出会ってから、そしてこの場に来てから何度考えたことだろうか。
元は一般人である彼らに戦いを頼らなければいけない状況に対して、自分にとってそれでもなお譲れない、中途半端の出来ない一線。
それがきっと今自分の目の前にいる悩める青年を一人にしてはいけないということなのだろうと一条は思った。

刻一刻と全身から血が抜けていくのに反する様に、彼の身体は熱く火照っていく。
その熱に任せる様に、彼はその足をユウスケに向け進める。
もしもユウスケが完全に石に支配されてしまったのであれば、まだどうにか出来ることはあるはずだ、と。

そうして新たに決意を固めたアクセルに対し、一方のユウスケはその身を包む闇の中でなおも抵抗を試みているかのように身体を捩っていた。

「一条、 さん……」
「小野寺君ッ、安心しろ、俺が今君を――」
「駄目です、逃げて……下さい……!」

苦しげに呻いたユウスケを安心させようと一条は声をかけるが、しかし得られた返答は自分からの逃避を促すものであったことに、一条は困惑する。

「何を言うんだ、小野寺君。俺が君をおいて逃げられる訳が――」
「それでも……逃げてくださいッ!このままじゃ俺は、きっとまた究極の闇になってしまう……。そうなったら、一条さんのことを、俺が殺してしまう……ッ!」

ユウスケの声は、悲痛としか形容しがたいものであった。
瞬間、一条の脳裏に、先の戦いで死なせてしまった小沢と京介の姿が浮かぶ。
あの時だってユウスケは最初に自分たちに逃げるように促していた。

それを無視して無理矢理戦場に身を置いた為に、生まれてしまった犠牲、ユウスケに背負わせてしまった責任。
それを思えば確かにこの場で逃げずにいることそれ自体が、小沢や京介の死を無駄にしかねない無謀でしかないと言えるだろう。

「いや、……俺は逃げない」
「一条さんッ!?」

だが、一条の答えは変わらなかった。
今のユウスケを置き去りにして自分だけ助かろうと逃げること、それこそが最も許されぬ“中途半端”ではないのかと、一条は思ったのである。

「無理だッ、そんなこと……!今の貴方じゃ、俺を止められっこない……。きっと一瞬で、俺は貴方を殺してしまう……」
「いや、俺は死なないッ!何故なら君はそんな闇にもう支配されないからだ、小野寺君ッ!」
「俺が……?」

しかしそんな一条に対し、ユウスケはなおも逃避を促そうと言葉を絞り出す。
だが、そんなユウスケの悲痛極まりない言葉を、らしくない根性論めいた言葉で、一条は一切聞く耳を持たず却下する。

「――確かに先ほどのように第零号のような実力を持つ参加者との戦いに、俺はいるべきではなかったかもしれない!
だが小野寺君、今の君はまだその闇を払いのけようと必死に頑張っているじゃないか、それなら、きっとそんな闇に支配されることはないはずだッ!」
「無理ですよ、そんなの……俺は、俺はもう……ッ!」

言った瞬間、ユウスケは大きく悶えその場に膝をついた。
その向こうでなおも闇を放ち続けている渡もまた、キバットが気を引いていてくれているおかげでこちらに対する注意を散漫にしているようだった。
それをチラと見やり好機と捉えつつ、アクセルは再度その口を開く。

「無理じゃないッ、君はクウガだろう!五代が死んだ今、自分がクウガとして戦うと彼が成し遂げられなかった使命を果たすと、君はそう言ったじゃないか!」
「でも……無理ですッ、五代さんだってこの闇から逃げられなかった……それじゃ、俺なんかが敵うわけ……ッ」
「五代に捕らわれるなッ!」

瞬間、その場を沈黙が支配した。
ユウスケが、言葉を失いアクセルを見た。
その視線を一身に受けながら、アクセルは口を開く。

「五代はッ!あいつは、確かに凄い男だった。俺が君に言った、どんな時でも笑顔を絶やさず苦しい顔や悲しい顔は誰にだって見せなかったというのは、本当のことだ。
それは誰にだって出来ることじゃない、……いや、どころかきっと、あいつにしか出来ないといっても、決して間違いじゃないだろう」

五代の笑顔を思い浮かべつつ、一条は続ける。
彼の笑顔はいつだって誰かを笑顔にし、そして悩める誰かを救い続けてきた、それは、絶対に確かなことで、恐らくはクウガの力よりずっと素晴らしい、彼の最高の特技だったはずだ。
だが、そうして五代雄介という男を心底尊敬しているからこそ、一条はまた彼にとって一種の弱さにも、気付いていた。

「だがな、小野寺君、その分あいつは……きっと、誰にも見られない場所で、誰より悲しんでいたんだ。
クウガの仮面の下で、きっといつだって五代は人知れず泣いていたんだ……」
「クウガの仮面の下……?」

人は誰も、喜怒哀楽を抱いて生きている生き物だ。
或いはそれが欠落した様な人間も中にはいるのかもしれないが、誰よりも優しく人の悲しみや怒りといった負の感情に敏感な彼にそれが備わっていないはずがなかった。
だというのにグロンギとの戦いの中で必然生まれるその負の感情を、4号としての戦いを最初から支えてきた自分にさえ、五代は吐露することはなかった。

それはきっと五代の強さの証拠で……だからこそ何よりきっと、小野寺ユウスケと違い五代が持つことの出来なかった存在なのだろうと一条は思った。

「あいつには、あいつの笑顔を守る為に隣で戦ってくれる仲間はいなかったんだ……!本当は、俺がそうなるべきだった!でも俺は結局、あいつにとっては自分と対等な存在じゃなかったんだ。
だからきっとあいつは一人で泣き続けなきゃいけなかった。皆が大好きなあいつの笑顔を浮かべ続ける為に、どうしようもない不安を隠し続けなくちゃいけなかったんだ……!」
「一条さん……」

気付けば、いつの間にか、自分の声には嗚咽が混じり瞳からは涙が溢れ出ていた。
きっと今の自分は、このアクセルの仮面に隠れているとは言え、相当に情けない顔をしているだろう。
しかし、それでも構わなかった。

この仮面で遮られているからこそ、ユウスケが身体の主導権を取り戻し切れていない今だからこそこうしてずっと抱き続けた五代への思いを吐露出来るのだとしたら、今の一条にとって、それはそこまで悪いことではないように思えた。

「でも、君には、それがいるだろう。君が皆の笑顔を守る時、君の笑顔を守る為に戦うと言ってくれた仲間が!
――君はきっと、五代にはなれない。だが、それでいいんだ。五代になる必要なんてない。君は君、小野寺ユウスケだ。
五代雄介には、仲間はいても、門矢士はいなかったんだ!君と対等に語り合い、君がどうしても自分の力だけでは立ち直れず曇り顔をしてしまった時、皆の望む笑顔に出来る存在は、いなかったんだ!」
「俺は……俺……」
「そうだッ、君は君でいい。五代は決して超えなくてはいけない目標なんかじゃない、クウガとしての理想なんかじゃない!
彼もまた君と同じように悩んだただの一人の青年で……そして君が当たり前に持っていたものを持っていなかった、そんな存在なんだッ」
「五代さんも……俺と同じ……、五代さんにないものを、俺はもう……?」
「そうだ、だから五代に捕らわれるな、小野寺君ッ!五代に出来なかったことでも、君に出来ない訳じゃない!
だからその闇を振り払えッ、小野寺ユウスケ、いや……仮面ライダークウガ!」

その呼びかけを受けて、ユウスケは大きく呻きながら、しかし先ほどまでと違い自身を取り囲む闇に対し強く抵抗を開始した。
その度に激痛が襲うのか彼の身体を電流のようなものが襲い、それはまるで闇が彼を逃がすまいとするかのようであった。

「――あああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

しかしその中で、ユウスケは一際大きく叫んだ。
まるで彼にずっと纏わり付いていた、ダグバや牙王といった参加者から受けた狂気すら、同時に払いのけ元の自分を取り戻そうとするかのように。
そして次に一際大きく闇が膨れあがったその時、遂に彼の身体はその果てない闇の中から吐き出された。

「――小野寺君ッ!」

アクセルが、思わず駆け寄る。
それによって何とか地に背中をつく前にその身を支えられたユウスケは、虚ろな目をして、しかし確かに笑った。

「一条さん……俺、やりましたよ。五代さんにも出来なかったことを、俺……」
「あぁ、よくやった……。それじゃ、キバットを連れて逃げよう。俺も、変身しているとは言え少し無理をしすぎたらしい……」

言いながら、アクセルはその腹を抑える。
ユウスケが闇から解放された安心感故か何度も大声を出した反動がどうやら今来たらしい。
このままでは変身が解けるまで後数分、それまでにこの状況を離脱しなければと提案する一条に対し、ユウスケは沈んだ表情を浮かべた。

「一条さん、すぐに病院に向かいましょう。この傷のまま放置していたら、一条さんは――」

必死の様子で捲し立てるユウスケを見て、しかし一条は察していた。
彼が今、それ以上に本当にやりたいことは何なのかということを。

「無理をするな。渡君を……救いたいんだろう?」
「……はい」

その一条の問いに、ユウスケは小さく頷く。
幸い、ユウスケと二人で移動してきたこちらはD-1エリア方面だったらしく、視認できる位置に病院が存在した。
この距離であれば、残された変身時間でもバイクモードに変形すれば今の一条であっても辿り着くことは可能なはずだった。

だがそれを踏まえた上でも、ユウスケにとって今の一条を一人放置するのは余りにも中途半端に思えたのだ。

「君が言いたいことは分かっている。キバットとの約束を、守りたいんだろう」
「……はい」

短い答えであったが、一条にはそれで十分だった。
彼という人間のことも、この短い時間の中で少しは分かってきたつもりだ。
だから、ここで彼がこうして渡を見逃すことが出来ないだろうことだって、分かりきっていたことであった。

本音を言えば、彼には自分の看病より、キバットとの約束を守り渡の元へ向かって欲しい。
しかし同時に、今の自分をそう簡単に一人にはしてくれないだろうことも、既に分かっていた。
思わず悩むように首を傾げた一条は、瞬間空より降ってきた赤と青の流星を見た。

124:紅涙(前編) 投下順 124:紅涙(後編)
時系列順
一条薫
小野寺ユウスケ
紅渡
津上翔一
擬態天道
左翔太郎
名護啓介


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最終更新:2018年05月12日 15:04