レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕(3)◆.ji0E9MT9g




 ◆


 敵が包まれた爆炎の熱を鎧越しに感じながら、キバは無感動にゆっくりと得物を構え直した。
 先代の王、つまりはもう一人の“キング”との戦いにおいても、似たような状況が訪れ、そして彼が戦う気力を十分に残していたことを鮮明に覚えていたからだ。
 正直認めたくはないがあの時の王と同等程度の力を誇る、今自分と対峙するキングも、この程度の攻撃では敗北を認めないだろうとそう高をくくっていたのである。

 「ハハハ……、アハハハハハ……」

 そしてキバの読みは、的中する。
 キングが恐らくは真の姿であろう、金色の甲殻に身を包んだ怪人に変じながら、嗤いを絶やさず煙の中から現れたのである。
 その笑いは弱々しいが、しかし先ほど闇のキバの鎧を纏い戦ったダグバという狂人とはまたベクトルの違う狂気を孕んだものだった。

 ひたすらに戦うのが楽しくて堪らないといった様子だったあちらに比べれば、キングのそれは例えるなら悪戯を楽しむ悪ガキのようなものというべきだろうか。
 信念や決意など微塵も感じられない、ただ今を楽しめればそれでいいという思いが見え隠れするそれに葛藤の中で生きるキバは苛立ちを感じたが、しかしそれで取り乱すことはしなかった。
 だがそんなキングに対して感情を抑えきれなかったのは、少しばかりの間蚊帳の外に押しやられていたユウスケだった。

 「お前、何がそんなにおかしいんだよ……自分が死ぬかもしれないんだぞ……?」

 「だっておかしくってさ……、僕はまだ本気も出してないのに、そっちの王様気取りは全力なんだもん」

 その言葉に、鎧越しにも伝わるほどに膨れあがったキバの怒気。
 だがそれを受けても、なおキングは何がおかしいのかヘラヘラと呑気に構えるだけだった。

 「あれが僕の全力だったかどうか……試してみるか?」

 「いや、いいよ。だって――」

 言ってキングは突如その手に握ったオールオーバーから殺意を乗せた真空波を放った。
 しかし所詮は見え透いた攻撃、その程度今のキバであれば容易に対処出来る。
 ……はずだった。

 「――僕の勝ちだもん」

 「えっ?」

 思わず漏れた間抜けな声を、しかし渡は抑えることなど出来なかった。
 まだ数分残っていたはずのキバの変身制限が突然限界を迎え、その生身を晒したのだから。
 王の威厳を以て悠然と攻撃に対処するはずだった渡に、最早何の回避行動を取る時間さえありはしない。

 呆然と立ち尽くす渡、ユウスケの絶叫、キングの嘲笑。
 全てが重なった、永遠にも感じられるその一瞬が過ぎた後。
 紅渡は、天を仰ぎながら大きく横たわった。


 ◆


 「渡ッ!」

 思いがけない展開に、駆け寄りながら叫ぶのはユウスケだ。
 助けたかったはずの命がまた、自分の目の前で奪われてしまった。
 それを思うだけで彼の心に確かに存在していたはずの聖なる泉は二度と恵みをもたらさぬほどに枯れ果ててしまいそうになる。

 困惑と敵への怒りと何より自分への不甲斐なさに、しかしもう溢れる涙さえ残されていなかったユウスケは、そのままキングに立ちはだかる。
 今しがた志し半ばに倒れてしまった渡と、そして――。

 「――キバット?」

 心中で呼んだその名前を、しかし実際に声に出したのは、ユウスケではなかった。
 それは自身が背に庇うように位置していた、致命傷を受けたはずの渡の、今すぐにでも消えてしまいそうなか細い絶望を秘めた声だった。
 その悲痛な声に、何が起きたかとキングのことさえ無視して勢いよく振り返ったユウスケの瞳に映ったのは、自分や仲間たちに分け隔てなく接し力を貸してくれた気の良い蝙蝠の身体が、左の羽の根元から消滅している痛ましい姿だった。


 ◆


 その時、渡には自分に何が起こったのか、皆目見当も付かなかった。
 何故正確に把握しているはずの変身制限が早く解除されるに至ったのか、何故攻撃を受けたはずの自分が生きているのか、そして何より、何故自分の親友であるキバットから片翼が失われているのか。
 何一つ理解の追いつかない状況の中で、ひたすらに積み重なっていく困惑がしかし自分に訴えかけてくるのは、『キバットの命が危ない』というただ一つの焦燥感だけだった。

 「――キバット?」

 思わず呼びかけた渡の声に、しかしキバットはただ漏れるような弱々しい呼吸を返すだけ。
 一体どうすればと頭が混乱した渡の耳に届いたのは、しかしこんな状況でも確かな存在感を有したキングの強い溜息だった。

 「ハァ、……驚いたよ。まさかそいつが君を庇っちゃうなんてさ、盛り下がるったらありゃしない」

 「何……?」

 緊張感の欠片も感じられないキングの声に思わず怒気を含み返した渡に対し、キングは変わらぬ調子で続けた。

 「気付かなかったの?君の変身が解けちゃった後、その蝙蝠くんは君を押し倒して自分だけで攻撃を受け止めたって訳。
 幾ら頑丈に出来てるって言っても、ダグバとの戦いで傷ついた今の身体に僕の攻撃を受けたら一溜まりもないことくらい分かるだろうに、馬鹿な奴」

 「馬鹿な奴……だと?」

 瞬間、渡より先にキングの声に怒りを露わにしたのは、ユウスケだった。
 渡の友として戦った彼のことも、別世界のワタルに仕える彼のことも、どのキバットも自分にとって友人であり、仲間だったのだ。
 そんな存在を侮辱されて黙っていることは、ユウスケには到底出来なかった。

 「あいつは、何をされたって親友を……渡を信じてたんだ!
 本当は他の世界を滅ぼすなんて望んでないって、渡は今も心優しい昔の渡のままなんだって……!ひたすらに信じてた!
 そんな風に信じられる相棒もいないお前が、あいつを馬鹿にするな!」

 「暑苦しいなぁ……、そういうのウザいって。それに、結局蝙蝠くんが馬鹿ってのは変わらないじゃん。
 キバが殺し合いに乗りたがってないなんて見当違いもいいところだし、信じる相手を間違った馬鹿だってのは、結局同じ事でしょ?」

 「――キングゥゥゥッ!!!」

 高まった怒りのままに、ユウスケはキングに向けて駆け寄り拳を振り抜いた。
 もしも今クウガへの変身に制限がかかっていなかったらアルティメットフォームになっていただろう。
 そう自分でも認めざるを得ないほどに怒りの衝動を込めて放たれたその一撃は、しかしソリッドシールドすらないというのにコーカサスの堅固な甲殻に傷一つつけることは叶わない。

 一打、また一打と甲殻を強く叩きつける度血が滲んでいく拳は、今にも壊れてしまいそうだと悲鳴をあげているかのようだった。
 しかしそれでも、ユウスケは手を休めることはしない。
 ただそれが自分に出来る最大の仕事だとばかりに、ひたすらに拳を振るい続けていた。

 「……ウザい」

 だがユウスケの必死の連打も、付き合うのに飽きたキングの気怠げな一言と共に力なく振るわれた豪腕によって呆気なく終わりを告げる。
 彼からすれば別段殺傷を目的にしていないはずの何気ないただの一撃で、ユウスケの身体は容易く吹き飛ばされてしまった。
 一方、“キング“という称号によほど執心なのか、先に渡を殺そうと彼にゆっくり歩み寄っていくコーカサスアンデッド。

 呆然と座り尽くし両手に握ったキバット以外の全てが意識に入っていないだろう渡を見て、ユウスケの身体は再び自然と動き出していた。

 「ああああぁぁぁぁ!!!」

 「邪魔……!」

 絶叫と共に後ろからコーカサスの腰に抱きつくようにタックルをかましたユウスケは、桁外れのパワーに何度も引き剥がされそうになりながらも、懸命に言葉を紡ぐ。

 「渡!逃げろッ!」

 その言葉に、ゆっくりと顔をあげる渡。
 未だ目の焦点は合っていないような気はするが、しかし今はそれでもよかった。

 「キバットを連れて、ここから逃げるんだ!キバットがくれたものを、無駄にしないためにも!
 行け渡!行けええええぇぇぇ!!!」

 ユウスケが今、無力であってもキングの前に立ったのは、渡にキバットとの最後を少しでも長く静かに過ごして貰いたいという思い。
 自分と姐さんに許されなかったその時間を、彼には与えてやりたいという、強い信念によるものだった。
 しかしそんな思いも虚しく、絶叫を最後に遂にコーカサスに捉えられ彼は今度こそ真正面から一撃を食らってしまう。

 彼方へと飛ばされていくユウスケを眺めながら、しかし渡はことここに至ってようやく思考力を取り戻した。
 今の今まで上の空であったとしても、しかしそれも、当然だったかもしれない。
 先ほどまでの渡の胸を占めるのは、キバットに傷を負わせたキングの怒りなどという下らない感情よりも、幼少の頃より悠久にも思える時を二人で共に過ごした唯一無二の相棒の命が消え行こうとする現状への対処だったのだから。

 ……この手の中で、消え行くような呼吸を繰り返す相棒を、こんな喧噪の中で死なせたくない。
 どこか歪ながらも芽生えたその思いが、渡の瞳に消えかけた芯を取り戻させていた。

 ――STAND BY

 そんな渡の心境に呼応するように、機械仕掛けの紫色をしたサソリが突如どこからか現れた。
 初めて出会ったはずだというのにどこか知っているような気がするそのサソリは、そのままキングのデイパックへ飛び込みその中身を散乱させる。

 「こいつッ……!」

 珍しく苛立った様子のキングが自身のデイパックの中身を抑えるより早く、紫色のサソリ――サソードゼクター――は幾つかの彼の所有物と共に目当てのものをそこから掘り出し既にそこから脱出していた。
 丁度その手に収まるようにゼクターから渡に向けて投げ渡されたのは、自身を扱える資格者の証明とも言えるサソードヤイバーであった。
 片手のひらに未だキバットを抱えている関係か、それとも単に資格者の手を煩わさせないためか、サソードゼクターが自力でヤイバ-に収まれば、渡の姿は三度異形へと変わっていた。

 ――CHANGE SCORPION

 闇に怪しく輝いた緑の複眼が表すのは、この会場で渡こそがサソードの資格者に相応しいと認められた証。
 彼が本来の世界の資格者である神代剣と同じく自分の死を以て完遂される望み故か、或いは死した最愛の女性の為に戦い続ける無私の愛故か。
 ともあれ重要なのは、彼はこの土壇場で新たな力を手に入れたというその事実だけだった。

 ――CLOCK UP

 そして次にサソードが選択したのは、キングとの更なる戦闘ではなく、友の安全を確保するための離脱であった。
 クロックアップを使用したそれに元から追いつくつもりもないのか、つまらなさそうに溜息を吐いたキングは残ったユウスケをいたぶってストレス解消でもしようかと彼に振り返る。
 しかしその瞳に映ったのは、自身のデイパックからこぼれ落ちた黒いデッキを拾い上げ鋭くこちらを睨む彼の姿だった。

 「変、身……!」

 息も絶え絶えに何とかデッキをVバックルに叩き込んだユウスケの姿は、先ほどキングも変じた仮面ライダーの姿へと変身する。
 とはいえ今の彼ではサバイブになったところで自分の相手ではあるまい。
 そう高をくくって破壊剣オールオーバーを構えたキングに、ナイトは勢いよくカードを引き抜いた。

 ――GUARD VENT

 しかし彼の用いた手札は、サバイブではなかった。
 先ほどドガバキフォームに変身したキバが強化変身による制限時間の短縮で予想外の展開を見せたことから、切り札を温存しようとしているのだろうか。
 どちらにしても結果は同じ、自分の勝ち以外にはあり得ないと威勢良くナイトが上段から振り下ろしたダークバイザーを、切り上げる。

 瞬間、ナイトが装着するマント、ウィングウォールに阻まれ一瞬視界を失ったキングが次に見たのは、空高く飛び自身に背を向けて彼方へと滑空していくナイトの姿だった。
 最初から渡を逃がして自分も逃げる算段だったのかと呆れながらも、手持ちの戦利品を一気に二つ失ったのもどうでもいいかのようにキングは笑った。
 どちらにせよ自分の本来の姿があれば十分にこの場を勝ち抜けるのだ、それ以外の変身アイテムなど能力で遊ぶためだけのもの。なくなろうが増えようが、正直どうでもよかった。

 「まぁでも、次はきっと面白くなるよ。……ねぇ、カテゴリーA?」

 故に、彼の関心は既にサソードヤイバーやナイトのデッキにはない。
 自分から飛び込んできた新しい遊具(おもちゃ)、レンゲルバックルを掲げて、キングは一人ニヤリと笑った。


【二日目 早朝】
【E-1 焦土】

【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、ゾーンメモリの能力1時間使用不可
【装備】破壊剣オールオーバー@仮面ライダー剣、レンゲルバックル+ラウズカード(クラブA~10、ハート7~K、スペードK)@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:さて……次は誰と遊ぼうかな……?
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
3:僕はまだ本気出してないから負けてないし!
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※ソリッドシールドが破壊されました。再生できるかは後続の書き手さんにお任せします。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。


 ◆


 F-1エリア、先ほど一条が自分を叱咤し病院に向けて出発した所謂スタート地点に辿り着いて、ユウスケはようやくその身体を地面に横たえた。
 本来であれば今すぐにでも一条が逃げた病院方向に向かいたかったが、キングのことを考えずとも、もう身体は体力の限界を訴えていて、かつもう中間地点であるE-1エリアは禁止エリアになってしまう時間だった。
 少なくとも放送までには到底合流が叶わない一条のことや、先ほどの死んだ目をした渡のこと、そして見るも無惨に打ちのめされたキバットのことなどが、次々に頭の中を過ぎっては消えていく。

 「結局俺は……全部中途半端だ……!」

 その末に導かれた自分の不甲斐なさを呪う声は、震えていた。
 一条のことを病院にまで送り届けるという使命も、渡を救うというキバットからの頼みも、キングを倒すという決意も、全てが満足に出来ていない。
 こんな中途半端で弱い自分をそれでも頼ってくれた人たちの思いに、何一つ自分は応えられていない。

 『君は君で良い』

 自己嫌悪に至りかけたユウスケの頭に刹那思い出されたのは、先ほどの一条の言葉。
 五代が持っていなかったという、自分と対等に語り合え悩みを打ち明け合える、門矢士という友の存在。
 それが自分と五代雄介とを分ける一つの違いなのだとすれば、彼がその五代を殺したかもしれないという懸念を、自分はどう一条に伝えればいいのだろうか。

 士が善意から五代を倒したのだとすれば、一条は彼を許すだろうか。
 もし悪意で以て士が五代を破壊していたとして、そもそも今の自分に彼を倒せるだけの力など残されているのだろうか。

 「姐さん、俺、どうすれば……」

 積み重なる不安に思わず助けを求めるかのように空に伸ばしたその腕は、しかし容赦なく迫り来る睡魔に負け、力なく大地に落ちた。


【二日目 早朝】
【F-1 平原】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、左脇及びに上半身中央、左肩から脇腹、左腕と下腹部に裂傷跡、アマダムに亀裂(進行)、ダグバ、キング@仮面ライダー剣への極めて強い怒りと憎しみ、仲間の死への深い悲しみ、究極の闇と化した自分自身への極めて強い絶望、仮面ライダークウガに1時間変身不能、仮面ライダーガタックに1時間10分変身不能、仮面ライダーナイトに1時間25分変身不能
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ディスクアニマル(リョクオオザル)@仮面ライダー響鬼、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド、ユウスケの不明支給品(確認済み)×1、京介の不明支給品×0~1、ゴオマの不明支給品0~1、三原の不明支給品×0~1、照井の不明支給品×0~1
【思考・状況】
0:(気絶中)
1:一条さん、どうかご無事で――。
2:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない……
3:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
4:渡……キバット……。
5:もし本当に士が五代さんを殺していたら、俺は……。
【備考】
※自分の不明支給品は確認しました。
※『Wの世界万能説』をまだ信じているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。
※クウガ、アギト、龍騎、響鬼、Wの世界について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛けられていることを知りました。
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。
自壊を始めるのか否か、クウガとしての変身機能に影響があるかなどは後続の書き手さんにお任せします。
※ガタックゼクターに認められています。
※地の石の損壊により、渡の感情がユウスケに流れ込みました。
キバットに語った彼と別れてからの出来事はほぼ全て感情を含め追体験しています。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※ギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※デイパックは音也のものに移し替えました。その際支給品の紛失についても確認しましたが、彼が覚えている限りの支給品はそのまま残っていました。


 ◆


 D-2エリアに在する小さな民家の一つの中で、紅渡はただ友を救う手立てはないかと一人奮闘していた。
 自分だけではどうにも出来ないと自分より余程キバット族について詳しいだろうキバットバットⅡ世を頼ってみても、その答えは「助かる見込みはない」というだけだった。
 ただ冷静に事実と推測される結果だけを述べ後は黙って息子の最後を見届けようとする彼の暗い瞳には、既に諦めしか映っていない。

 それでも一握りの奇跡を求めて物言わぬサガークや胸像と化したガルルたちにさえ解決手段を聞いていくその渡の姿は、あまりにも痛々しかった。

 「キングよ、何を期待しても無駄だ。俺の息子は、もう――」

 「その名前で僕を呼ばないで!」

 見ていられないとばかりに思わず再度渡へ忠告を行ったキバットバットⅡ世は、しかし渡のその言葉に耳を疑った。
 まさか今この男は……自分がキングと呼ばれるのを否定したというのか?

 自分の口をついて出た咄嗟の言葉に驚愕を隠しきれなかったのは、渡も同じだった。
 紅渡であることを捨てキングとして世界を救う決意を固めたというのに、その名前で呼ばれることが、キバットをこんな目に合わせた男と同じ名前で呼ばれることが、どうしても我慢ならなかったのだ。

 「へっ……、ようやく、自分の名前が何なのか思い出したのかよ……。
 ったく遅いぜ……渡……」

 自分自身の感情にどうしようもなく困惑する渡に対し、突如降り注いだのは自分がどうしても聞きたかった友の声。
 キバットバットⅡ世ともよく似ている、しかし暖かみを感じる聞き慣れた声だった。
 だが友の意識が戻ったことを喜ぶより早く湧き出たのは、彼の言葉を否定しなければならないという強迫観念にも似た感情だった。

 「違うよキバット……僕はもう紅渡じゃない……。その名前を名乗る資格なんてもう僕には……!」

 「馬鹿言ってんじゃねぇよ、親がつけてくれた自分の名前名乗るのに資格なんてあるわけねぇ。
 キングなんていう何人もいるありきたりなしょうもねぇ名前じゃなく、親父さんから受け継いだ“紅”て名字に、お袋さんがつけてくれた“渡”って名前。
 それがお前の名前だろうが。この先一生、何があったって背負っていかなきゃならねぇ、お前の……」

 「キバット……」

 ハァハァと浅く乱雑に呼吸を繰り返すキバットの姿を見て、もう渡は彼から目を離すことはしなかった。
 一瞬でも瞳を閉じれば、それが永劫の別れになってしまう気がして、ただひたすらどんな些細な点さえもその姿を目に焼き付けようと必死だった。

 「なぁ渡……最後に一つだけ、お前に言いたいことがあるんだ、聞いてくれるか?」

 「……」

 渡は、キバットの問いかけに何も返さなかった。
 返事をすれば、そしてキバットがその言いたいこととやらを言い切ってしまったらもうそれで全てが終わる気がして、どうしようもなくそれを先延ばしにしてやりたかった。
 だがそんな渡の些細な運命への抵抗に気付いた上でか否か、キバットは独り言のように続けた。

 「俺はな渡、お前の頑固なところが好きだったんだ。自分で決めたら真っ直ぐに突き進むことしか知らねぇお前のことを、俺が支えてやらなきゃって、そう思ってた。
 お前がキングになろうが何だろうが、お前が自分の気持ちに本当に素直に生きられるなら、俺はそれだって構いやしなかったんだ」

 遠い目をしてどこか記憶をたぐるように語りながら虚空を見つめていたキバットは、しかしそこで今にも閉じてしまいそうな右目を何とか渡に向けた。

 「……けどよ、今のお前は、ただ自分の気持ちに嘘ついてるだけじゃねぇか。
 キングだの世界を守るだのって理由ばっかこじつけて自分の本当にやりたいことから逃げてばっかのお前なんて、もう見てられねぇんだよ」

 「何それ……、そんなのずるいよ。僕が本当にやりたいことってなんなの?教えてよキバット……!」

 「俺に聞くまでもねぇよ、すぐに見つけられるさ、お前なら……」

 そう言われても、渡には自分の心が何を望んでいるのか訴える声は、一切聞こえなかった。
 その声をどうにか引き寄せようと藻掻く度、先ほどまでは鮮明だったはずのキングとしての使命も、どんどん霞んでいく。
 そんな靄の掛かった思考の中で、今鮮明に聞こえるのは、相棒が紡ごうとする最後の言葉だけだった。

 「だからよ渡、俺の言いてぇことってのは結局ただの一つだけだ」

 言って、キバットは大きく息を吸い込む。
 まさにそれに全ての魂をかけるかのように。

 「――俺は、今までお前と一緒にいられて、楽しかったぜ。わた……る……」

 それを満足げに言い切って、キバットの重い瞼は閉じた。
 深央に続いて、またも手の中で消えた掛け替えのない存在の命。
 自分が守りたい、生きていてほしいと願った者たちが、次々と死んでいく。

 キバットも深央も、自分が望みを叶え世界から存在を消したとすれば幸せになれるのだろうかと夢想する一方で、それは先ほどユウスケに指摘された“逃げ”ではないかと心が叫ぶ。
 自分と一緒にいられて楽しかったという言葉を最後に残したキバットの思いを尊重するなら、彼の生きた世界から自分を消すということを、果たして彼は望むだろうか。
 だが今更彼の分まで生き続けるというには、既に自分に関する記憶を消してしまった名護を始めとして、“紅渡”に戻るには取り返しのつかないことが多すぎるのではないか。

 誰にも邪魔されない、ただ一人の暗い部屋の中でキバットの遺体を抱き虚空を見つめ続ける渡の瞳が次に映すのは、全てをなかったことにするために他者に犠牲を強いる冷たい覚悟か、それとも全ての世界を救わんとする温かい優しさか。
 その選択を下すには、彼にはまだ時間が足りなかった。


【二日目 早朝】
【D-2 民家】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、精神疲労(大)、キバットの死への動揺、相川始の裏切りへの静かな怒り、心に押し隠すべき悲しみ、今後への困惑と混乱、仮面ライダーダークキバに15分変身不能、仮面ライダーサガに1時間変身不能、仮面ライダーキバに1時間10分変身不能、仮面ライダーサソードに1時間20分変身不能
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0~1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:キバット……。
2:大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件……?次会ったときは……。
4:始の裏切りに関しては死を以て償わせる(?)
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る……?
6:今度会ったとき邪魔をするなら、名護さんも倒す……?
7:キング@仮面ライダー剣は次に会ったら倒す。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キング@キバを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。
※レンゲルバックルからブレイドキングフォームとクウガアルティメットフォームの激闘の様子を知りました。またそれによってもう一人のクウガ(小野寺ユウスケ)の存在に気づきました。
※赤のゼロノスカードを使った事で、紅渡の記憶が一部の人間から消失しました。少なくとも名護啓介は渡の事を忘却しました。
※キバットバットⅡ世とは、まだ特に詳しい情報交換などはしていません。
※名護との時間軸の違いや、未来で名護と恵が結婚している事などについて聞きました。
※仮面ライダーレイに変身した総司にかつての自分を重ねて嫉妬とも苛立ちともつかない感情を抱いています。
※サソードゼクターに認められました。

【キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ 死亡】

129:レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕(2) 投下順 130:居場所~place~
時系列順
小野寺ユウスケ 140:夢に踊れ(前編)
紅渡 136:リブートpf答え、見つからず
キング 133:未完成の僕たちに(1)


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最終更新:2019年06月18日 00:03