とあるダメダメプロデューサーのおはなし


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あるところに、いつまでもトップアイドルになれない雪歩がいました。

雪歩は、事務所でいちばん臆病でへなちょこで弱虫なアイドル。
ろくにランクも上がれないので、プロデューサーは数週間単位で変わってばかりです。

雪歩を目にした審査員は、雪歩を静かにさとします。

『君は多分、アイドルじゃない道のほうが、歩きやすい女の子なのかもしれないな。
 トップアイドルのステージなんて、普通の女の子なら縁が薄い場所だからね』

アイドルに向いていないと言われた雪歩は、やっぱりトップアイドルになれませんでした。

ある日雪歩は、ピンときた社長に声をかけられました。
不在のプロデューサーに代わって、アイドル候補生を担当してくれないかと言うのです。

気がつけば、小さな事務所は、前よりずいぶんボロボロになっていました。
資金も底を尽きかけており、プロデューサーはみんな辞めてしまっていたのです。

社長は雪歩を責めませんでしたが、小鳥さんと相談しているのを見かけたことがあります。
弱小事務所の765プロは、もはや弱小を超えて、倒産寸前まで追い込まれていたのです。

ひとりのダメダメアイドルが、765プロをボロボロ事務所にしてしまったのです。
そんな悲惨な結果を前に、逃走なんて許されません。

お姫さまティアラを受け取った雪歩は、ひとりのアイドル候補生にそれを託しました。

なるべく真剣な顔で、「今日から私があなたのプロデューサーです」と告げましたが、
頼りなさそうな雪歩の本性を、女の子は一目で見抜いてしまいました。

あっさり本性を見破られた雪歩は、今すぐスコップ片手に仕事を放り出したくなりました。
けれど今の事務所にひとつ穴をあければ、たちまちビル倒壊が引き起こされてしまうでしょう。

得意な穴掘りさえ封じられた雪歩は、プロデュース活動を始めるほか無かったのです。

雪歩が事務所に穴を掘れなくなって、早二ヶ月が経ちました。

自分が叱られないレッスンと、ステージに立たなくていいオーディションは、
ダメダメアイドルだった雪歩にとって、すこしだけ安心できる仕事です。

大きなステージを前に、ガチガチになって後ずさりする女の子を励ますこともありました。
なにしろ雪歩は後ずさりどころか、穴を掘って逃げたことさえあるのです。
アイドルのダメっぷりなら、そのへんの誰にも負けません。

765プロの、ダメダメへなちょこアイドルなんて、雪歩の他には存在しないのです。
饒舌になったダメダメ話から、雪歩が我にかえった時には、女の子は大笑いしていました。

雪歩のダメダメだった武勇伝が、女の子の自信と勇気に変わったのです。

女の子から感謝されて、雪歩はなんだか頬のあたりがくすぐったい気分になりました。
それは雪歩が、女の子のプロデューサーになって、初めて浮かべた笑顔でした。

ダメダメだったことで誉められた経験なんて、雪歩の思い出にはひとつもなかったのです。

ダメダメアイドルだった雪歩の目には、女の子がとても立派で素敵なアイドルに映りました。
プロデューサーが自信をもって絶賛する女の子が、オーディションで輝かないはずがありません。

女の子は立派なアイドルに成長していきました。名のあるステージを片っぱしから渡り歩きました。
事務所はスタッフでいっぱいになり、雪歩がいくつ穴を掘っても平気なくらい立派になっていました。
それでも、雪歩が穴を掘って埋まりたくなる機会なんて、あれからとんと来なかったのです。

雪歩は、このままずっと女の子がアイドル活動を続けてくれたらいいなと思っていました。

でも、それはあっさり否定されてしまいました。女の子は他にも夢があるというのです。
言葉をなくした雪歩を前に、女の子は素敵な笑顔で尋ねます。

「叶えたい夢はありますか?」

雪歩は少し考えてから、「あなたをトップアイドルにしたいです」と言いました。
女の子は「そうなの」と言ったきりでした。

雪歩は笑って頷きましたが、内心とてもしょんぼりしていました。
女の子がアイドル活動をやめたら、もう一緒に仕事ができなくなることが、急に寂しくなったのです。

そしてとうとう、雪歩が恐れていた日がやってきました。

立派になった765プロの社長室で、これまた立派な椅子に座った社長が、
「今まで本当によく頑張ってくれた。最後にアイドルのお別れライブを開きたまえ」と告げたのです。

雪歩は気乗りしませんでしたが、女の子は活動停止をしっかり受け止めました。
しょんぼりした気分を隠しつつ、雪歩は最後のステージをプロデュースします。

その日の夜の、きらめく舞台は、普段のステージより遥かにキラキラしていました。
雪歩が立ったことのない、トップアイドルだけが歌うことを許された特別なステージ。

何十万もの歓声が、その倍の数のペンライトが、女の子とその歌声を称えています。
けれど女の子は、その素敵な場所さえも、夢のためなら惜しくはないと言うのです。

成功したアイドルを、うらやましく思う気持ちなんて、もうずっとずっと昔に忘れていたはずなのに。
雪歩は、ほんの少しだけ、あの女の子がうらやましくなっている自分に気づきました。

ライブを終えた女の子に夢のことを尋ねると、女の子は雪歩をある場所に連れ出しました。
そこはかつて、雪歩が何度も穴を掘った、オンボロだったはずのビル。
リフォームされた内装に至っては、まるで現在の765プロにいるようです。

女の子は、独立してマネージャーの仕事に就きたかったことを、雪歩に明かしたあと、
ここが765プロの傘下におかれる事務所で、雪歩が望めば社長にだってなれることを伝えました。

雪歩は驚きました。社長になりたい気持ちなんて、これっぽっちもなかったのです。
女の子の夢は輝いていましたが、16歳で社長になるプロデューサーなんて聞いたこともありません。
社長になることを望んでいない雪歩に向かって、女の子は以前とまったく同じ表情をして尋ねます。

「叶えたい夢はありますか?」

雪歩は少し考えてから、「トップアイドルになりたいです」と言いました。
女の子は、「そうなの」と言って、そして。

「今日から私があなたのプロデューサーです」と、満足そうに告げました。

                         (おしまい)