霞のかかった夢の中で


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「…なるほど、そんな事があったんだね」
「うん、とっても良い子だったから仲良くなれるといいな♪」
「それじゃあ、そろそろ時間だからここまでだね」
「来週もいっぱいお話しようね先生♪」
「うん、来週まで元気にしててね」
「はーい!」
今日は週に一度の先生とお話の日、私のアイドル活動であった出来事とか、
嬉しかった事や悲しかった事を全部先生に話す日なんだ。
二ヶ月位前に私がオーディションに連敗して倒れちゃった事があって、
アイドル活動でストレスが溜まったのが原因だから誰かに話してスッキリするようにって社長が紹介してくれたんだよ。
私の話を聞いてくれる先生はとっても美人で、私の話を何でも聞いて的確に答えを返してくれる凄い人、
いつか、私も先生みたいにキレイな女の人になれるかなぁ……?
あ、自己紹介がまだだったね、私の名前は秋月涼、今は普通の女の子だけど
いつかトップアイドルになって日本一可愛い女の子になる予定だよ、りゅんりゅん♪


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
「ううん、とっても楽しいから何にも問題は無いよ、りゅんりゅん♪」
「そう、なら良いんだけど……」
先生と話すところから帰る車の中で私に質問してきたのは、私のいとこでトップアイドルの律子姉ちゃん。
やっぱりトップアイドルともなるとストレスが溜まるらしくて私と同じ位の時期にここに通い始めたんだって。
そして車を運転してるのは律子姉ちゃんのプロデューサーさん、
姉ちゃんに言うと真っ赤になって違うって言うけど、姉ちゃんが好きになった男の人だよ。
ちょっとだらしないところもあるけどカッコイイ男の人だし、姉ちゃんとはお似合いだと思うんだけどなぁ。
「なぁ律子、心配なのは分かるがあまり過保護にするのも良くないぞ?」
「いえ、確かにそうなんですけど、そのせいで涼が……」
「なぁに、私のお話?」
「ううん、大した事じゃ無いの、涼は気にしないで良いのよ」
「律子は涼ちゃんがまたストレスを溜めてないか心配なんだよ、大事な従妹だしね」
律子姉ちゃんは元々世話焼きさんだったけど、私が倒れてからは特に私に世話を焼いてくれるようになったんだ。
昔みたいにいっぱいお話出来るのはいいんだけど、なんだか私に悪い事をしてそれを隠そうとしてる時の態度に似てる気がする。
確かに倒れる直前の事は全然思い出せないし、それより前の事もなんだかぼんやりとしか思い出せないけど
それで生活に困った事は無いし、私はいつでも元気なんだけどなぁ……
「大丈夫だよ姉ちゃん、今回のオーディションでは友達も出来そうなんだよ」
「へぇ、どんな友達が出来たの?」
「桜井夢子ちゃんって言うの、とっても礼儀正しくて可愛い子なんだ♪」
「桜井夢子、どこかで聞いたような気がするわね……ま、友達が出来たのは良い事よね」
姉ちゃんを心配させないように明るい話を振ってみると、さっきまで曇っていた表情を元に戻して
私の話に乗ってくれる。うん、やっぱり姉ちゃんはいつもの表情の方が可愛い♪
そうして今日は姉ちゃんやプロデューサーさんとお話しながら家まで送って貰ったよ。

「すいませんっ!秋月さん!私……何かカン違いしてたみたいで……」
「もう、夢子ちゃんはおっちょこちょいさんなんだから♪」
私はそういって夢子ちゃんの額を軽く突く、夢子ちゃんがメールで送ってくれた会場変更が勘違いだったらしくて、
危うく遅刻で不合格になるところだったんだ。でも、誰にでもミスはあるし、これでチャラだよね?
「お?…いやいや、許してくれるんですか?」
「うん、何とか合格できたしね、次は私も夢子ちゃんみたいなキュンキュンなステージやりたいな♪」
「今時キュンキュンって……」
「夢子ちゃん、どうしたの?」
「……いえ、次もお互いがんばりましょうね」
「えへへへ♪頑張ろうね」
夢子ちゃんの歌、すごい上手だったし次は完全な状態で一緒に歌いたいな♪


「……それで、遅刻しちゃったけどなんとかオーディションには合格できたんですよ♪」
「うん、不合格だったらどうしようかと思ったけど良かったね」
「でも夢子ちゃんもおっちょこちょいですよね、オーディションの場所変更を勘違いするなんて」
「あれ、桜井さんは場所を間違えた訳じゃ無いんだよね?」
「うん、勘違いに気付いたけど連絡するのを忘れちゃったんだそうです」
「それは……ううん、なんでも無い、また来週ね」
「はぁい♪」
今日の先生、最後に何か言いたそうだったけど何だったんだろう?
誰にだってミスぐらいあるし、夢子ちゃんを責めるって訳じゃ無いと思うんだけど……


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
「ううん、全然問題ないよ、ただ……」
「ただ?」
先日のオーディションの事はなんとなく言わない方が良い気がするし、違うことを相談しようかな?
「私の胸、まだ大きくならないのかなぁ。姉ちゃん、どう思う?」
「それは……」
律子姉ちゃんが言葉に詰まるのは、やっぱり私の胸が小さすぎるからなのかな?
私自身は余り気にした事は無かったけど、アイドルデビューするときに
社長から「真っ平らはまずい」って言われてパッドをつけるように言われちゃうくらいに私って胸が無いの。
「律子姉ちゃんくらいとは言わなくても、パッドが要らなくなる位は欲しいなあ、ファンの人を騙してるみたいで悪いもん。
 それに、バレない様に他の女の子とは別に着替えるように言われちゃってるから、着替えるのも大変だし……」
一人で着替えるのは結構寂しいんだけど、愛ちゃんや絵理ちゃんにも秘密にしてるから一緒に着替えられないんだよね。
「涼ちゃん、成長には個人差がある物だし、そのうち大きくなるさ」
「プロデューサー!そんな無責任な事を言わないで下さい!」
言葉に詰まる律子姉ちゃんに代わってプロデューサーさんが答えてくれたら、姉ちゃんが急に怒鳴りだしちゃった。
昔から怒鳴る事は良くあったけど、最近は昔の怒鳴り方と何かが違う気がする、なんでだろう?
「まあ落ち着け律子。……涼ちゃん、そう言う訳で焦っても仕方ないから、間違っても豊胸エステとかサプリとかに手を出したら駄目だぞ?」
「ああ、そう言うこと……涼、あなたみたいに成長期の時期に変に大きくしようとすると悪影響の方が大きくなるから絶対に手を出しちゃだめよ?」
「そう言うものなの?」
「そう言うものよ。ま、大きくしたかったら規則正しい生活を送ることね」
「ふーん……」
雑誌でみた女性ホルモンとかを試してみようと思ったけど、姉ちゃんとプロデューサーさんに止められちゃったからやめとこっと。

「夢子ちゃん、私、なんとか合格できたよ、りゅんりゅん♪」
「そうね……」
「それにしても、あのステージ本当にすべりやすかったね、貰ったすべり止めもほとんど効果がなかったし」
「…………」
「夢子ちゃん?」
「あなた、まだ気付かないの?」
夢子ちゃん、私が合格した後からずっと険しい表情してたけど、今度は呆れたような顔に変わっちゃった。
「なに?何の事?」
「あきれた、本当にぜんぜん気がついてないのね……」
「私、何か見落としてる事とかあった?」
「そうよ、私がニセのすべり止め渡して転ばそうとしたこととか、あなたを遅刻させる目的で違う場所を教えたこととかを見落としてるわね」
「えっ……?」
「ここまできて気付きもしないのは流石に驚いたけど、このまま良い人のフリを続けるのも面倒だし教えてあげるわ」
夢子ちゃんの言葉は聞こえて来るけど、真っ白になった頭がそれを受け付けてくれない、私、どうしちゃったんだろ?
「私があなたに近づいたのはあなたをワナにはめるため、隙だらけで面白いくらい引っかかってくれたわね」
「…………」
「私がトモダチごっこをするために近づいたとでも思ってたの?この世界はいつでも真剣勝負、油断したあなたが悪いのよ、秋月涼」
「そんな……そんな……!」
「怒った?アタマきたなら仕返しでもなんでも、してごらんなさいよ」
「ひどいよ……う、うわぁぁぁぁぁん!」
ひどいよ、信じてたのに、友達になったと思ったのに全部ウソだったなんて……
そう思うと、自然に涙が溢れてきて止まらない、私はその場で泣き崩れちゃった。
「あ、あれ?怒らないの……?」
「うわぁぁぁぁぁん!ひどいよ、ひどいよぉぉぉ!」
「どうしよう、この反応は予想外ね……」
涙で滲んで良く見えないけど、夢子ちゃんは困ったような顔をしてるように見える。
「これじゃ完全に私が悪者に見えるじゃない、実際そうなんだけど……」
「うわぁぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁん!」
「桜井さん、秋月さんが泣いてるようだけど何かあったんですか?」
どうやら私の泣き声を聞いてスタッフさんの一人が駆けつけてくれたみたい。
「え、ええ、得意のダンスで実力を出せなかった事が悔しかったそうです、秋月さんには私がついてますからお気になさらずに」
「そうですか、それではお任せしてよろしいですか?」
「ええ、任せて下さい……秋月さん、ここじゃ迷惑になるから控え室に行きましょ?」
「うわぁぁぁぁぁん!」
夢子ちゃんはそう言って私に手を差し伸べてくれる、私は泣きながらその手をつかんで控え室につれていって貰った。

「うっ……ひっく……」
「そろそろ落ち着いた?」
「うん、なんとか……」
私達以外全員帰った控え室、一通り泣いてようやく落ち着いた私は夢子ちゃんと二人っきりになっていた。
「今までも何人かハメて来たけど、大泣きされたのは初めてだわ」
「夢子ちゃん、今までもって、他の子にも嫌がらせをして来たの?」
「そうね、何人かにしてきたわ」
「そんな、夢子ちゃんがそんな子だったなんて……」
「ま、犬に噛まれたと思って忘れなさい。探せば友達になってくれるお人よしも見つかるんじゃないかしら?」
「でも、夢子ちゃんもお人よしだよね?泣いちゃった私の事、ちゃんとなぐさめてくれたし」
「まあ、放っておいて私の事を話されても面倒だしね」
夢子ちゃんは口ではそっけないけど顔を少し赤らめて目をそらしてる。もしかして根っからの悪い子ではないのかな?
「ねぇ夢子ちゃん、そういうの、もうやめにしない?」
「本当、おめでたい頭をしてるのね、こんな目にあっても私を説得するつもり?」
今まで戸惑ったような顔だった夢子ちゃんの顔に、いじわるな笑みが戻って来たけど……
「ほら、アイドルがそんな顔しちゃダメだよ?」
「……へ?」
「そんないじわるな顔じゃなくてもっと嬉しそうに笑わないと!こんな感じでさ、りゅんりゅん♪」
「あなた、私を説得するんじゃなかったの?」
「そうだよ、アイドルは人を楽しくする仕事なんだから自分も楽しまないとだーめ、嫌がらせで勝っても楽しくないでしょ?」
そう、アイドルはとっても楽しいお仕事、自分で思いっきり楽しんで、それでファンの人たちにも楽しんでもらって
その声援を聞いて自分ももっと楽しくなれるお仕事。なのにそんないじわるな顔をしてたら楽しくなくなっちゃうよ?
「楽しい楽しくないは関係無いわ、私はどんなことをしても勝ちたいの。遠い先の目標を目指してね」
「目標?」
「そうよ、目標……せっかくだし特別に教えてあげるわ。『オールド・ホイッスル』よ」
「オールド・ホイッスル……」
「知ってるでしょう?天才プロデューサー『武田蒼一』が仕切ってる、日本最高の音楽番組よ」
「うん、私は最近見るようになったけど、武田さん、カッコイイよねぇ」
武田さんはどんなときも冷静で表情を崩さないけど、近寄りがたい感じは全然しなくて
私みたいな普通の女の子にもわかりやすい言葉で大事な事を話してくれる、とってもカッコイイ人なんだ。
「何かミーハーっぽいわね……ともかく、その『オールド・ホイッスル』に出演する事が私の目標よ」
「あれ?今までアイドルが出たのって一人だけじゃなかった?」
「ええ、アイドルが出演するのは厳しいわ……でも私はそれに出たいの!その夢をかなえるためならなんだってする!」
「アイドル活動が楽しくなくても?」
「ええ、アイドル活動は夢をかなえるための手段、楽しいも楽しくないもないわ!」
「そっか、夢子ちゃんはそんな夢をもってたんだね……」
夢子ちゃんは、夢に向かって本当に一生懸命なんだね、
嫌がらせを認める気にはなれないけど、やっぱり根っからの悪い子じゃないみたい。

「さて、私の夢は話したし、あなたの夢も聞かせてもらおうかしら。あなたの目標は……なに?」
「私の目標?」
自分の夢を語った夢子ちゃんは翻って私の夢を聞いてくる。
でも私の目標はハッキリしてる、夢子ちゃんの夢にも負けないくらい大きな夢がある!
「まさか、なにもないわけじゃないでしょ?」
「もちろん!私の目標は……トップアイドルになって、日本一可愛い女の子になること!」
「……は?」
夢子ちゃんが力なく聞き返してくる、良く聞こえなかったのかな?
「だから、トップアイドルになって日本一可愛い女の子になることだよ?」
「ええっと……日本一可愛い女の子になることが目標なの?」
「うん!アイドルって可愛い子が集まった世界だから、その中で一番になったら日本一可愛い女の子って事になるでしょ?」
夢子ちゃんは不思議そうな顔で聞き返してくる。トップアイドルが日本一可愛い女の子って常識だと思うんだけど、私、そんなに変な事を言ってるのかな?
「まあ、その理屈はわからなくはないけど……」
「えへへへへ♪そうでしょ?」
「いまどき小学生でももっと具体的な目標をもってるんじゃないかしら……でも、出任せや冗談でいってるわけではなさそうね」
「もちろんだよ、私はみんなを楽しくさせる日本一の女の子を目指してるんだよ♪」
「で、私を説得しようとしたのも、日本一可愛い女の子になるのに必要な事なのかしら?」
「うん、周りにいるみんなを楽しく出来るくらいじゃないと、日本一可愛い女の子なんで言えないからね。りゅんりゅん♪」
そう、ステージの前だけで可愛くてもそれは本当の美少女じゃ無い、
いつでも周りのみんなを幸せにできる魅力を持ってこそ本当の日本一の美少女だって私は思う。
「……秋月涼、あなたなかなか面白い夢を持ってるのね。ロクな目標も持ってない甘ちゃんだとおもってたけど見直したわ」
「そんな、えへへへ♪」
「でも、私の夢の邪魔をするなら容赦しない、次の審査ではあなたを真正面から潰してあげる」
「えっ……」
「それが嫌ならレッスンを欠かさないことね。私は一日も怠けないわよ?」
「……うん!私も夢子ちゃんに負けないように頑張るね!」
その後、夢子ちゃんはさっさと帰っちゃって話は終わっちゃった。
夢子ちゃんは真正面から潰すって言ったけど、裏を返せば嫌がらせは使わないって事。
完全に改心したとは思えないけど、私の言葉、少しは届いたみたいで良かった♪

「……そんな事があって、明日は夢子ちゃんと勝負する日なんですよ♪」
「そっか、そんな事があったんだね」
「私、夢子ちゃんとはいい友達になれる気がするんですよ。えへへへ♪」
「話を聞いてる限りだと、根っからの悪い子ではなさそうだし、友達になれるかもしれないね」
「はい♪ところで、夢の話をしてて思ったんですけど……」
「なにかな、話してみて?」
私は夢子ちゃんの話している内にどうしても気になった事を聞く事にした。
「私、どうして自分が今の夢を見るようになったか全然思い出せないんですよ」
「ふむ……」
「思い出そうとすると昔は全然違う夢を見ていたような気がしてきて……」
「それは無理に思い出そうとしたらダメ!」
「えっ?」
先生が強い口調で窘めてくるなんて珍しいなぁ、なんでだろ?
「思い出せない事を無理に思い出そうとすると秋月さんには刺激が強すぎるの、絶対無理はしないで」
「そうなんですか?」 
「うん、思い出す時がくれば自然に思い出せるから、今は気にしないようにしてね?」
「…………」
「そうだ、別の話をしましょう、私、学校の事も聞きたいな」
「そうですね、学校では……」
気にしないようにと言われても気になるものは気になるけど、先生と色々お話する内にあまり気にならなくなっちゃった。
はぐらかされた気もするけど、先生も時が来れば思い出すって言ってたし、大丈夫だよね?


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
いつものように律子姉ちゃんが聞いてくる。
今週は問題があるか無いかと言われたら問題はあったと思う。
夢子ちゃんの事もそうだし、自分の夢のルーツが思い出せない事もそう。
だけど、夢子ちゃんとはきっと友達になれると思うし、ルーツが思い出せなくても夢への思いは強くなった。
夢に向かって友達と競い合いながら進める、こんなに良い環境はそうそう得られないんじゃないかな?
このまま進めば本当に日本一可愛い女の子になれるかも♪だから私はこう答えるの、
「ううん、とっても楽しいから何にも問題は無いよ、りゅんりゅん♪」