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 爽やかに晴れ渡った初夏のある日。水谷絵理のこの日の営業は、室内での写真撮りだった。
 PC用デュアルディスプレイの誌上広告。絵理のキャラクター性を余すところなく活用した、新製品のPR記事とその販促写真の撮影である。
 ネットアイドルとしても動画投稿者としてもファンの多い彼女にとって得意分野の仕事で仕上がりもよく、スポンサーや雑誌編集部の高評価を得て撮影は予定より早く終了した。
「ありがとう、ございました」
「絵理、お疲れ様」
 クライアントに挨拶を終えた頃、プロデューサーの尾崎玲子が彼女に歩み寄ってきた。
「いい仕事だったわ。モニターに映っていた方の表情なんか本当に電子世界の住人のよう」
「このシリーズ、私も使ってる。だから、感情移入?」
「それはラッキーだったわね。広報部のかたも満足してらしたわ、うまくすれば他の製品も引き受けさせてもらえるかも」
「ほんとですか」
「可能性の問題だけれどね。個人的にはもっとアクティヴなグラビアも入れたいところ
なんだけれど」
「アクティヴ?」
「だって夏じゃない。せっかく若い子がパソコンの宣伝ばっかりじゃね。キャンプとか、海とか」
「海って、水着?む、無理っ」
 今までも水着の仕事はあったがまずなにより恥ずかしいし、自分には日の光が似合わないといつも思ってしまう。仕事として受けることがあれば精一杯努力するし、仕事相手からの評価も悪くないものの、やはり自分はインドアの方がのびのびとやれる、と絵理は思う。
「ああ、無理にとは言わないわ、そういうジャンルは876プロでは日高さんが得意だし」
 そんな絵理の受け答えも予想の範囲内なのだろう、プロデューサーは笑顔を見せて話題を終えた。
「私自身がハイテク苦手だから、ときどきね。絵理にもそういうアナログな場面を楽しんで欲しいかなって」
「アナログ、ですか」
「ええ。自分の足で山登りしたり、釣りとかスイカ割りとか、絵日記とか」
「……私のこと、小学生扱い?」
「え?そ、そんなわけじゃ」
 ビックリさせられたお返しとばかりに、絵理はプロデューサーににっこり笑いかけた。
「冗談です。そういうのも、楽しそう」
「……絵理」
「時期的にはレジャーの企画も多いから、なんでもOK。いっぱいお仕事入れていい、です」
「そ、それは心強いわね」
「あ……でも、あんまり恥ずかしいのは……」
「ええ、もちろんそこは守ってあげる。まかせて」
 プロデューサーのこの言葉は信頼がおける。実際彼女は、絵理を辛い立場にしたことは一度もない。
「この後掲載位置の詰めがあるから私は残るけど、絵理は今日の仕事はこれで終了。送っていきたかったけれど……」
「だいじょぶ。帰れます」
「……そう。まあ、そうよね、まだ明るいし」
 尾崎プロデューサーは何かにつけ絵理の世話を焼きたがる。絵理をプロデュースしているのだから当然だろうという思いと、子供扱いされているのではという感情が交錯する。
「尾崎さん、私、失礼します」
「あ、はい。お疲れ様、明日はダンスレッスンね、17時にスタジオで」
「はい。お疲れ様でした」
 写真スタジオを出るが、まだ日が高い。デビューしたての頃は春先ですぐ暗くなっていたのに、最近は季節を強く感じることが多くなった。
「……そういえば、前は外の天気とか、無関係だったし」
 ぼんやりとそんなことを思う。学校に行った日も帰ってくればすぐ自室にこもり、PCの前に座り込んでいたのを思い出した。
「そうだ、携帯」
 思わぬ余暇をどう使おうかと考えていて、携帯電話に思い当たった。そろそろ年季が入ってきた彼女の端末はときどきストライキを起こす。ちょうど新機種が出揃ったところでもあり、買い替えを考えていると母に相談したところだった。
 ライトブルーの筐体に控えめなデコレーションを施した電話を両手で開く。
「え?」
 事務所の3人で撮った――正確には愛の発案に後の二人が巻き込まれて撮った――待ち受け画面が出るはずの液晶が暗転していた。首をかしげ、端末を閉じ、また開く。もう一度。スイッチもいじってみるが、状況は変わらない。
「……D.O.A?」
 思わず眉間に皺が寄る。真っ先に頭に浮かんだのは、『ゆうべバックアップを取っておいてよかった』ということだった。

「申し訳ありません、只今の時間、開通まで1時間くらいかかってしまうのですが……」
「あ、はい、わかりました」
 公衆電話で家とプロデューサーに連絡し、ショップで手続をする。今や商売道具でもある携帯電話が我が手に戻るまではしばらくのタイムラグが出来てしまった。時刻を確認し、街でもぶらつこうかとショップを出たとき、プロデューサーの言葉が蘇った。
 ――絵理にもそういうアナログな場面を楽しんで欲しいかなって。
 繁華街の坂を登りきったところに、日本有数の神社がある。海や山よりは手近でもあるし、たまにはそういう散歩もいい。そう思って絵理は進行方向を変えた。
 神宮の橋のあちらとこちらでは世界が違う。橋から下ってゆく道にはパフォーマーが並びキャラクターショップが続き、ブランド街が形づくられている。それがこなた橋を超えると一転、緑と静寂の霊場だ。こんな平日の夕刻でも向こう側と大差ない数の観光客で賑わっているのに、その質があちらとは明らかに違っている。
「少し、不思議かも」
 巨大な鳥居の足元で小さくつぶやく。そう言えば、何年か前の初詣で来たのが最後だったと思い当たる。
 しゃり、という足元の感触も不思議と心地よい。小さく深呼吸して、太い柱をくぐった。
 この広大な敷地には、花らしい花がほとんど植わっていない。宮参りをするための場所では心を落ち着けることが肝要で、そのためには心浮き立つ艶やかな花卉は不似合いとの由である。その代わり草木の緑の厚みは壮観で、わずか数百メートルの脇を電車が通っていることすら忘れさせる植相を呈す。
「都心なのに、マイナスイオン……なんだか、贅沢」
 マイナスイオンなどという横文字言葉じたい似つかわしくないと、絵理ですら思う鬱蒼。一人の道行きを声に出す習慣もなく、あらためて口をつぐんで進んでゆく。
 "リアルアイドル"としてはまだまだ知名度の低い絵理は、特段のカムフラージュをしないでも周囲の人は気づかない。ネットアイドル・ELLIEを知っている者はいるかもしれないが、その類の人物は現実世界では声をかけてこない。せいぜい一言ブログに『意外なところでELLIE発見なう』などと書き込むのが関の山だろう。こういう状況に唯一割り込めるのは携帯電話の着信であったがそれも今は存在せず、結果、相応の人ごみの中で彼女は誰にも干渉されることなく、緑の樹々と玉砂利の空間に没入することができた。
 いつも街を歩く時のように道の端を小股で進んでいたが、この環境が気に入った。少し勇気を出して、背筋を伸ばしてみる。
「……ってた?この先にね」
「ああ、あのナントカの井戸」
「なんか、すっごいパワースポットだって……」
 脇を通り過ぎる見慣れない制服の集団がそんなことを言いながらはしゃいでいる。以前出演した情報番組でも同じ話があったのを今さら思い出す。しかし、そこは確か……。
「あれ、でも整理券要るんだって」
「えー?先に調べといてよー」
 観光雑誌にも書いてあったようだ。絵理も少し興味を引かれたが、今のこの場で充分と考え直す。ここの風や緑の香り、ほの暖かい陽光で充分癒されているし、それに。
「そんな場所、入り込んだら、鼻血とか、出ちゃうかも?」
 誰にも聞こえないようにつぶやいてみるが、笑える要素がないばかりかティッシュを鼻に詰めた自分の顔が思い浮かび、さらに小さくため息をつくこととなった。
「お嬢さん」
 自己嫌悪にしばし立ち止まっていたところ、絵理は後ろから声をかけられた。
「……私?」
「ああ、すみません。お尋ねしてもよろしいですか」
 振り返ると、白髪の老人が立っていた。普段なら目を伏せてかぶりを振るところであるが、つい相手の顔をのぞき込んでしまった。
「本殿へ行きたいのですが、どちらへゆけばいいのでしょうかな?」
「あ、えと……えと」
 自分も詳しくないのだ、と言えばよかったのだが、なんとなくタイミングを崩されたようになってしまう。心のどこかで、この問いに答えねばならないような気持ちになっていた。
 道筋のヒントを求めて辺りを見回す。と、老人の肩越しに地図とおぼしき案内板が見えた。
「あの、ちょっと、待っていて、ください」
 断りを入れて案内板へ駆け寄り、現在位置と目的地を確認する。なるほどちょうど丁字路で、初めて来たのなら戸惑うかもしれない。神社に参る経験などわずかだが、参道と本殿は一直線につながっているものだと思っていた。
「あの、わかりました。こっちの道、です」
「こちらですか、ありがとうございます」
 元の場所へ駆け戻って老人に指を指して説明する。老人はにこやかに礼を告げたあと、不意に絵理に聞いた。
「お嬢さんもお参りに?」
「は、はいっ?」
「お嫌でなければ、そこまでご一緒してはいただけませんかな」
「あ……」
 そもそもぶらりと立ち寄っただけであって、参拝など考えていなかった。誰にも関わられずに一人でいられたのが心地よかったはずだ。この申し出にしても、黙って首を横に振れば済んだろう。
 しかし、なぜか。
「……は、はい」
 なぜか絵理はそう言い、老人が頬をほころばせるのを見て自分も笑顔になったのを感じた。
「こちらへは初めてですか」
「いえ、でも、ほとんど」
「私は近所なんです。よくこのあたりをぶらぶらするんですよ」
「いいところって、思いました」
「そうですか、地元が褒められると嬉しいものですな」
 老人の世間話は控えめで、普段ネットワークの中でやりとりされるあからさまな危険語や、マスコミュニケーションの世界で耳慣れ始めた思惑と戦術の錯綜するレトリックとは次元が違っていた。ごくふつうの語句をごくふつうに放ち、ごくふつうに受け止めてごくふつうに投げ返す、そんな言葉のやりとりを見知らぬ相手とするのはずいぶん久しぶりのような気がする。
 地元と言うだけあって老人はここに詳しく、神宮の成り立ちやあちこちの施設のことなどを説明してくれた。その話しぶりも観光ガイドやレポーターのようにくどくも早口でもなく、その感触が絵理には新鮮だった。いつもなら、情報は手元の端末からオンラインで不必要なほど入ってくる。老人の口から語られる言葉たちは、腹八分目の情報を絵理にゆっくりと咀嚼させていた。
「ああ、あの井戸ですか。この5年ほどで急に観光の方が増えましたね」
「パワースポット、って、みんな言ってます」
「そうだそうですね。昔から霊験があると言っていて、以前は水も飲ませていたのですが、今はいろいろと決まり事も多くなりました」
 ふいと視線を右に逸らせ、森の奥を指差した。
「あちらに菖蒲園があるのですが、そこの水が井戸からの湧き水です。あとでご覧になるといい」
「あ、ありがとうございます」
「ちょうど時期です。今年も見事ですよ」
 いくつめかの鳥居をくぐると、正面に神社の本殿が現れた。テレビやネットで映像を見るのと変わらないはずなのに、記憶のそれよりはるかに大きく、古く、荘厳で、そして優しかった。
「わ……」
「着きましたね」
 手水舎で老人に教わりながら手を洗い、口をすすぐ。この水も今は水道水なのだと残念そうな笑顔で教えられ、こっそり味を確かめたのを見透かされたのではと頬が熱くなる。
 大木戸をくぐろうという時になって、老人はこう言った。
「お嬢さんに謝らなければならないことがひとつ、あるんです」
「?」
「話しかけたとき。うっかり近づきすぎていて、あなたの言葉を聞いてしまった」
「……え」
「あなたの負担になりはしないかと、少し心配してしまったのです。つい出すぎたことをしてしまいました」
 どの言葉かは、一瞬後に舞い降りた。
 ──鼻血とか、出ちゃうかも。
「ここから先は少々『強い』ですが、どうか心配なさらぬよう。あなたは充分に元気だ、少し毒抜きが要るかも知れないが、大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう……ございます」
 自分でもつまらないと感じた冗談を聞かれていたと解り、むしろ今こそそのことで鼻血でも噴けばいいと自棄ぎみに思った。どう対処していいかわからずともかく頭を下げてみたが、そこで反撃をひらめいた。
「でも、楽しかったです。本殿の場所、ご存知だったのにわざわざ声をかけてくれたんですね」
「……気付いておられましたか」
「地元の人で裏の菖蒲園まで知ってたら、道に迷うほうが難しい、ですよね」
 老人は楽しそうに笑い、謝ることはふたつありましたなと深々と頭を垂れた。
「本当に申し訳ないです。決してからかうつもりではありません、勘弁してくれませんか」
「大丈夫、です。来てよかったって思いました」
「そう言ってくださってありがたいです」
 老人の表情はあくまで穏やかで、絵理がこのことを責め立てるつもりがないことも承知していたようだった。
 ただ絵理も、この人物には全部お見通しなのだとなんとなく感じていた。ごく自然に会話ができたのもむしろそのおかげだとありがたく思う気持ちの方が強かった。
「さて、私はそろそろ失礼せねば」
「え……お参り、しないんですか」
「本殿に来たのは仕事のためでしてね。あなたと一緒に行きたいが、私はここまでです」
「あ、そうだったんですか」
 意外な言葉に聞き返すと、これまた楽しそうにそう言った。
「じゃあ、私の方が案内して貰ったっていうことですか。お礼をいうのは本当に私の方、でしたね」
「いえいえ、私の務めのうちですから。では」
「さようなら。ありがとうございました」
 どうやら神職のいずれかか、ここで働いている人物であったらしい。本殿の建物の方にゆっくり立ち去る姿に、あらためて礼を告げた。
 と。
「……あれ?」
 顔を上げると、かの人物の姿が消えていた。見通しのよい境内で、まだ数メートルと離れていない筈だ。視線を落とした数秒のうちに、老人は人ごみにまぎれてしまったらしい。
 しばらくあたりを見回すが、やはり老人は見当たらない。絵理にかまけていて仕事の時間が迫っていたのかもしれないと、少し悪く思いながらも諦めた。
「でも、なんか、よかった」
 境内に立ち尽くしたまま、あらためてつぶやく。プロデューサーの言う『アナログ』も、たまにはいいものだと思える時間を過ごせたのは、やはりあの老人のおかげだろう。
 明日はまたプロデューサーにも会えるので、そのときにでもこの話をしようと決めた。
 ゆっくりと過ごしたので、携帯電話が開通するのももう間もなくだ。またデジタルデバイスと一緒の生活ということになるが、それはそれで悪くない。最後に本殿に参拝して戻ろうと、前方へ歩いてゆく。
 そして本殿の少し手前で、ふと体に異変を感じた。
「……わ、わっ」
 慌ててポケットを探る脳裏に、老人の声がこだまする。

――少し毒抜きが要るかも知れないが、大丈夫ですよ。

 準備がいるならいると、教えてくれておいてもよかったのに。
 絵理は老人を、ほんのちょっとだけ恨んだ。

 その夜、いつもの深夜チャット。今日の話を、絵理は友人のサイネリアにしてみた。
『あはははは、センパイ、それマジでスカ』
「うん、本当。正直、びっくり」
『服とかだいじょぶでシタか?』
「ティッシュ、間に合ったから。でも、さすがにそのままお参りしたのは、ちょっと恥ずかしかった?」
『行ったんデスか鼻ティッシュのまま!さすがセンパイ、そこにしびれるあこがれるぅ!』
「だって、それで帰るの、なんだか申し訳なかったし」
『つか、そのジイさんの言ってた毒抜きって!それで鼻血噴くとか男子中学生っスかセンパイ』
 そう、絵理は本殿にたどり着く直前に突然、鼻から出血をしてしまったのだ。自分の考えていたことといい老人の言葉といい、その符合のよさに思わず出してしまった話題だった。
『神宮のドコにそんなに興奮したんデスかセンパイ。神社萌えとはさすがレベル高いデスよ』
「サイネリア……言いすぎ?」
『あっあっ、ごめんなさいセンパイ怒らないで』
 自分で振った話題とは言え相手が面白がりすぎである。ここまでバカにされるようではトークの仕事では使えないかも、とリアルアイドルなりの考えも浮かぶ。
 PCの前でむくれていると、モニタの向こうでなにやら操作していたサイネリアが声を上げた。
『あ、ねえねえセンパイ、調べたら書いてありまシタよ』
「え……なに?」
『あそこのパワースポット。井戸だけじゃなくて、あのあたりで一番パワーがあるのは、本殿の10メートル手前、なんだそうデスよ』
「……え」
 ちょうど絵理が鼻血を出したあたり、ということだ。老人はそこまで見抜いていたということなのだろう。
『ということはあれですよねセンパイ、笑い話とかじゃなく、ELLIEセンパイは今日、そこの本殿でスピリチュアルパワーを身に着けて、それまでの悪い毒を体内から追い出して、スーパーELLIEセンパイに生まれ変わったっていうことデスよね』
「う、生まれ、変わった?」
『ハイ。これからのセンパイは今までの3倍はパワー出せマス』
「赤く塗って、ツノつけるほうがいい?」
『ひゃはははは、やめてセンパイそういうの真顔で即レスとかやめて』
 あの老人は、いったい誰だったのだろう。絵理はPCを上の空で操作しながら考えた。
 地元の者と言っていたが、神社のことをよく知っていた。最後には本殿に仕事で来たと絵理に告げ、目を離した隙に姿をくらました。それこそ、消えるように。まさか……まさか。
 いやいや、と首を振る。鼻血の話は偶然の可能性もあるし、オカルトじみた考えをするのも少しおかしい気がする。
 なぜだか絵理は、このことは単に不思議な話、として終え、深入りしない方がいいと感じた。なんだか不思議な、親切な人に会った、それでいいではないか。それこそプロデューサーの言う、アナログのよい部分なのだろう。
 いま向き合っているオンラインではおそらく、絶対に出会えない相手。それが、あそこにはきっとこんな風に存在しているのだ。
 そこで絵理は、こう決めた。モニタに向かって言ってみる。
「ね、サイネリア」
『なんデスかセンパイ』
「今度時間あったら、サイネリアも行ってみる?」
『え、いいんデスか?』
「そのあとで赤いツノ、一緒に選びに行く?」
『ちょ、センパイっ』
 サイネリアだけでなく、プロデューサーや事務所の友人も、別々に誘ってみよう。
 何度か行けばひょっとして、またあの老人に会えるかもしれないから。
 また会えれば、今度はもっとはっきりお礼が言えるかもしれないから。
 絵理はぼんやりとそんな風に考えながら、キーボードを叩く手を動かし続けた。





おわり