すごいよ! わくわくさん!


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1

事務所に顔を出したら、アイドルの一人とプロデューサーが鬼ごっこをしていた。
もっとも、普通の鬼ごっこならば
「やろう、ぶっ殺してやる!!」
なんて台詞は中々出てはこないだろうが。
「おはよう。で、一体あれは何の騒ぎ?」
「あ、おはようございます和久井さん。いつもの通りプロデューサーさんが向井さんにパイタッチしただけなんですけどね」
「飽きないわねあの二人も。一々必死になって反応を返すから面白がって手を出される事をいい加減学習してもよさそうなものだけど」
「いやあでも向井さんのあのバストは女の私でもちょっと触ってみたくなる何かがありますよ」
そう会話を続ける二人の横ではまだ追いかけっこが続いている。
とはいえ今までの事を思い返せばそろそろ
「破壊力ぅー!」
の声と共に渾身の右ストレートを炸裂させる事だろう。
そこまでされると後々面倒なので(プロデューサーの蘇生とか)程々の所で止めるべく動き出す。
狭い事務所の中をどたばた走り回るプロデューサーの前に立ち、
「おはようございます和久井さ」という挨拶も聞かずに天井ギリギリまで放り投げ、
背中を下に落下してきた所を両肩でキャッチして首、背、腰を極める。
これぞ某軍隊直伝スーパーアルゼンチンバックブリーカーである。
もちろん地面に叩きつけた後エルボーを決めるのも忘れない。

「楽しい追いかけっこもいいけど、程々にしておきなさいね」
「あースンマセンでした……ところでソレはドコで覚えたんすか?」
「秘書なんてやってるとね、セクハラに対抗する手段も色々覚えるのよ」

2

事務所に顔を出したら、同年代のアイドルの一人である木場真奈美がなにやら難しい顔をしていた。
普段は不敵な笑顔が多い彼女にしてはこの表情は珍しい。
「おはよう。どうしたのそんな難しい顔をして」
「ああ留美か、おはよう。今度撮影に使うから慣れておけとスタッフからコレを渡されたんだが……」
そう言って手元の銃を持ち上げるが、その眉は訝しげに潜められている。
「こいつをどう思う?」
そう言って渡された銃を一瞥して受け取る。少し手の中で弄んでいたがふと何かに気づいたようで
マガジンを外し、スライドを引いて薬室に残っていた弾丸を取り出す。
そうして取り出した弾丸を観察して、
「銃自体はモデルガンだけど、少し弄れば普通に撃てるようになってるわね。で、弾は本物」
と結論付けた。
「やっぱりそうか……」
「貴方なら向こうで見たことあるんじゃないの?」
「いくら向こうに居たからといってそうホイホイ見られる訳が無いだろう。無いとは言わないが片手で数えられる程度だよ」
此処は法治国家日本である。持っているだけでも違法であり、
然るべき所に届け出るだけでもかなり面倒な事になるのは想像に難くない。
「さてこれをどうしたものかな……」
解決策も思い浮かばずに頭を抱えていると意外な所から救いの手が差し伸べられた。
「昔の知り合いにこのテの事に詳しい人が居るから聞いてみましょうか?」
「そうしてもらえると助かる。どうしていいかわからなくて途方にくれてたんだ」
物が物だけに会話を聞かれたくはないのか、隅の方に移動して懐から携帯を取り出しアドレス帳から目的の番号を呼び出す。
「携帯取り出しポパピプペと……繋がれば良いけど」
どうやら目的の相手には繋がったようで話し声が聞こえてくる。
「どうも和久井と申します。…ええ、お久しぶりですねオールドギース……」
しばらく何事か話していたようだが断片的に聞こえてくる会話からは想像しようが無かった。
やがて話はついたのかこちらへ向かってくる。
「話はついたわ。これから橿原さんという人の使いがくるからその人に渡してちょうだい。後は向こうがうまくやってくれるから」
「ありがとう。しかしいろんな人と知り合いなんだな君は」
「秘書なんてやってると色々知り合いは増えるものよ」

3

事務所に顔を出したら、お手伝いの人が受話器を手にして困っていた。
「おはよう。いったいどうしたの?」
「おはようございます和久井さん。どうも間違い電話らしいんですけど海外の方らしくて話が通じないんです」
「英語なら貴方も出来ると思ったけど」
「私だって簡単な英語くらいならできますけど、どうも英語じゃないみたいなんです。というかヨーロッパ圏じゃないかも」
それは確かに難題かもしれない。ジェスチャで代わるように指示してとりえず受話器に向かって呼びかけてみる。
「hello?」
そうして聞こえてきた相手の言葉に耳を傾ける。幸運なことにその言語には聞き覚えがあった。確かにこの言語は普通の人にはわからないだろう。
記憶の中から言葉を掘り返してなんとか間違い電話である旨を伝えると
ようやく相手は納得したのか謝罪の言葉を言いながら電話を切ってくれた。
「凄いですね和久井さん」
「秘書なんてやってるといろんな言葉も覚えなきゃいけなくてね」
「ところで今のってどこの言葉なんですか?」
「ナメック語よ。久しぶりだから思い出すのに時間がかかったわ」

4

事務所に行ったら、車関係のイベントにコンパニオンとして参加したアイドルを迎えに行くよう頼まれた。
久しぶりにMT車を運転する。やはりATよりこっちの方が楽しい。
イベント会場の出口で目的の人物を探す。
丁度良く会場を出てきたばかりの姿を見つけてクラクションを軽く鳴らしこちらの存在を伝えると、
助手席にアイドルの原田美世が滑り込んでくる。
「あれ? 和久井さん?」
「連絡、行ってなかったかしら。プロデューサーが別件で動けないから私が迎えに来たの」
「ごめんなさい。着替えに忙しくて」
「まあいいわ。出るわよ」
走り始めてしばらくは順調に走っていたが、少し声のトーンを落として運転席から声がかけられる。
「ごめんなさい。頭動かさないでミラーで確認して欲しいんだけど、後ろの車、運転手とかに見覚えある?」
「……いえ、ありませんけど……もしかして尾けられてるんですか?」
「会場出てからずっとだからそう考えるのが自然でしょうね。
逆に考えればこういうのが付くぐらい有名になったとも言えるけど、面倒だから振り切るわ。シートベルトして頂戴」
「え? シートベルトはもうしてますけど」
「そっちじゃないわ。四点式の方」
「は? え?」
「少し揺れるけど我慢して頂戴」
「いやちょっと待っ」
ギアを落とした車はその声を最後まで聞かずして甲高いスキール音を響かせながら急加速する。
それからの後ろの車を振り切るまでの僅かな時間は、遊園地の絶叫マシンなど比べ物にならない程の衝撃だった。
助手席に座る美世は果たして気づいただろうか。運転中タコメータの針がパワーバンドから動かなかった事に。
そして数十分後。
「はい到着」
何も無かったかのように涼しい顔をして運転手は告げる。
「疲れてるところ悪いんだけど1つ頼み事いいかしら」
「なんでしょうか……」
「もうちょっとサス硬く出来ないかしら」
「小さい子も乗るんです。私はしませんからね」
「そう。残念だわ」
言葉とは裏腹にその呟きにはさして落胆した様子は見受けられない。
「それにしても、一体どこでこんな運転覚えたんですか」
「秘書なんてやってると車の運転もしなきゃいけなくてね」