無題8-149


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 この冬一番の寒波が街を襲っていた。早足で暖の取れる家へと急ぐ人々と心持ち重い足取りで寒さに耐えながら歩を進める人々に分かたれた雑沓というにはまばらな人影、その後者の中に二人のアイドルの姿があった。
ずびっ
「ちょっと涼、さっきから鼻、大丈夫?」
「熱はなかったし、駅まで我慢すれば大丈夫だよ」
 その内の一人、桜井夢子は隣に居るもう一人、秋月涼に心配半分呆れ半分の表情を向けている。
「何が“大丈夫”よ、まだ鼻水出てるわよ。ほら……はい、全く世話焼けるんだから。」
 取り出したティッシュで涼の鼻先に残っていた分を拭き取ると、窘めるように言った。
「こんな所撮られてごらんなさい、鼻水垂らしたトップアイドルなんてファンが見たら嘆くわよ」
「ははは……うん、ありがとね。」
 そんな事より、それを夢子ちゃんに拭いて貰ってた事の方が問題じゃないかなと考えながら礼を返す涼。その顔に浮かんだ軽い笑みに分かってるのかしらと訝しく思いながら夢子は言葉を繋げる。
「予報見ずにマフラーしてこないなんて、ちゃんと喉を守らないなんてアイドル失格よ全く。私には伝染さないでよね、明日収ろ」
ふあ…ックシュン!
 喋っている最中、涼のくしゃみが夢子の言葉を断ち切ってしまう。
「ごめん、離れてるね」
 距離を取ろうとする涼。その腕を抱えるように夢子は密着する。
「離れるより、こうした方が暖かいでしょ。」
 思い掛けない積極的な行動、伝わる体温に甘えそうになった涼だがやはり夢子に風邪をひかせてしまうかも、と身を離そうとする。
「動いちゃ駄目よ、こうして……。ほら、このマフラー短いから離れないでね」
 その機先を制し巻いていたマフラーを涼の首へと回す。ふわり、生地と共に夢子の香りが纏わるのを感じ動きを止めた涼に、夢子がぴったりと寄り添う。
「さ、行きましょ」
 あまり長くないマフラーでは互いの首を覆い隠すには至らず、時折強く吹く風が首筋を冷たく撫でる。それでも二人の体温は互いを守り――
「えっクション!」
 ビュウと一際強い風に涼は身を震わせると咄嗟に逆を向いてくしゃみをする。振り向くと夢子の諦めたような視線が突き刺さった
「ムードもへったくれもないわね。もう、駅まで急ぐわよ!」
 言うや、首ごとマフラーを引っ張り歩を早める。向かい風の吹く寒さを受け止めながら、二人は足音を重ね歩いて行った。

クシュン「夢子ちゃん、やっぱり僕」「いいからちゃっちゃと歩く!」