ふたりの食卓


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「そうなんだ。それでどうなったの?響」
 フライパンの温度を探り探りしながら、ソファにあぐらをかいてる響に訊ねる。響がボクの家に来るのももう3度目か4度目で、勝手知ったるなんとやらって感じ。
「いやー危機一髪だったさー。ねこ吉が気づいてくれて、こっち帰ってきてくれたんだ」
「そう、よかったぁ」
 今日は二人でスポーツ特番の収録だった。まだまだ駆け出しのアイドルとなると収録現場もなかなかハードで、なんかめちゃくちゃお腹へったねって話になって。
 ちょうどボクの家のほうが近くて、父さんも母さんもいなかったから都合いいやって思って、誘ってみた。
「まったくさー。ネコのくせに落ちて怪我でもしたら一大事だったよ」
「ボクが言ってるのは響のことだよ」
「え、自分?」
「きみのネコ吉ももちろん心配だけど、響が怪我したらそれこそ大変じゃない」
「え……真、きみ自分のこと心配してくれてるのか?」
「そりゃそうだろ」
「……」
「?」
「えへへ。ありがと、真」
 ヘンな間。まあ、ボクもだけど響も野生の勘で動いてるトコあるし。
 冷やごはんと玉子、野菜がいろいろあったから、ちょっと遅めの昼食は『菊地家特製・全部入りチャーハン・真風』。もともと母さんが得意で、ボクも手伝いしてるうちに憶えたスペシャルメニュー……って言えば、聞こえはいい、かな。
「自分もなんか手伝おうか?」
「ん、だいじょぶ。切ったら炒めるだけだしね」
「ふえ、そんなに野菜入れるんだ?」
「キライなもの、ある?響」
 肩越しに聞くと首を振って、興味深げに手元を見つめてる。
「細かく切っちゃえば全部食べられるし、野菜で分量稼げるから、炭水化物も抑え目にできるんだ」
「彩りもよさそうだ。こんなのできるなんてすごいな、真」
「へへっ、そう?」
 注意するのは固いものから先に火を通すことくらいで、実際難しい料理じゃない。それでも一人暮らししてる響から『すごい』って言われると、なんか嬉しい。
「すぐできるからテーブルで待っててよ」
「ん、そしたら準備してるね」
「ああ、ありがと」
 フライパンをあおりながら、お皿やスプーンの場所を教えた。
 そうして、やがて料理が完成。食卓で取り分けるので、フライパンのままキッチンを回って……絶句した。
「うわ?」
「おお!おいしそうだな、真。びっくりしたぞ」
「……びっくりしたのはこっちだよ」
 振り返った景色は、見慣れたボクの家のダイニングではなかったのだ。ふだんはシンプルな白いテーブルと木の椅子の食卓が、響の手で魔法のように飾り付けられていた。
 カウンターの端に置いたままになっていたランチョンマットの色を組み合わせて、センタークロスとディッシュスペースに。同じく使い途を失っていた紙ナプキンはカトラリーレストに仕立ててある。
 よく見れば大げさなことはしていないのがわかる。でも、ごくごく簡単な工夫で、あちこちにツボを押さえたドレスアップを施してあった。父さんがときどき使ってるワインクーラーにはワインボトルではなく、帰りがけに買ったペットボトルの水。
 その隣にはガラスのボウルに浮かべた、庭のガーベラ。
「きれいだったから、2輪だけもらっちゃった。可哀想だったかな?」
「そんなことないよ。それならボクたちでたっくさん見て褒めてあげればいい」
 用意されていたお皿に盛り付けながら聞くと、響は自宅でもけっこう、こんなことをしているそうだ。
「こっち来たときはバタバタしてて、ハム蔵たちといっしょにごはんかき込んでレッスン行ったりしてたけどね。しばらくするうちになんか、これじゃ違うーっ!ってなってきて」
 彼女にとっては友達で、仲間で、家族でも、その動物たちと同じレベルで食事のしていてはいけない、と感じたのだそうだ。響は続ける。
「それにね」
「うん?」
「食事することって、ヌチグスイだからな」
「ヌチグスイ?」
「ん、島ではそう言うんだ。なんだろ、生命の源とか、生きてくパワーとか、そんな感じ」
 だから、ただ栄養を補給するんじゃなくて、居心地のいい場所で、浮き立つような心持ちで、美味しいものを笑いながら食べられれば、それだけで元気は倍増するのだと。
「なるほど、なんか、わかる。一人で黙って食べるより、二人でおしゃべりしながら食事したほうが、楽しい」
「うん、そういうこと!」
 はじけるような響の笑顔。うん、そうだね。やっぱり二人のほうが楽しいや。
 いつの間にかセロリの葉と中華だしで響が作ってくれてたスープと並べて、そうして二人で食卓について。
「「いただきまーす」」

 生きてくパワーの源に、二人で一緒に手を合わせた。


おわり