無題(298)


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「すいませんでしたっ!」
 九十度直角に頭を下げる、体が柔らかかったら逆さまになっている後の景色が見えていることだろう。
 あずささんは既にレッスンへと出かけている。
 そして俺は今、765プロの社長である高木順一郎氏の前で、解雇通知覚悟で頭を下げているというわけだ。
 しかし、社長の言葉は俺の想像とは全く違っていた。
「まあまあ、誰にでも失敗はあるものだ、これから我が765プロで活躍してくれたまえ」
 ああ、一生ついていきます社長。感謝の意思を伝えるためにフトモモの裏が痛くなるまで頭を下げた。
「そういえば、君はうちのアイドル達と顔合わせするのはまだだったね」
「あ、はい、あずささんとは繰る途中で会いましたけど」
 突然変わった話題に困惑しつつ答える。
 後々挨拶に回ろうと思っていたのだが、遅刻という大失態をしでかしたので、社長に謝りに行く前に会いに行くという選択肢が無かった訳なのだが。
「うむ、まずは高槻やよい君と会って来ると良い、彼女はうちの事務所の前を『掃除』しているはずだ」
 『掃除』という言葉が嫌に強調されている、恐らくこれは……
「あ、会いに行くついでに掃除手伝ってきます!」
 そういうわけなのだろう。

「えーと……事務所の前って言うとココだけど……」
 765プロの入っているテナントビルの前まで来ると、不意に鼻歌が聞こえてきた。
 見回すとツインテールの小さな女の子が箒とちりとりで茶色く変色した桜の花びらを掃除していた。
「ちょっといいかな? 君、社長に言われて顔合わせに来たんだけど」
「あ、はい! えーと、あなたは……誰ですか?」
 まあ、知らない人に声掛けられたら普通警戒するか。
 そうは言っても俺も今日から765プロのプロデューサーだ、アイドル(候補生含む)達と打ち解けるのも仕事のうちだろう!
「ああ、俺は今日から765プロに来る事になったプロデューサーだよ、よろしくな」
「ええ! じゃあわたし、デビューできるんですか!?」

「い、いや……実は遅刻した罰で掃除を手伝うように言われてね」
 でもかわいいなぁ……あずささんとは違う魅力だ。
 いうなれば妹……じゃないな、年下の後輩って感じだ。プロデュースするなら二人のうちから選びたいなあ。
「あうう……でも仕方ないですね、一緒にお掃除頑張りましょう!」
「じゃあそうしようか……ええと、やよい」
「はい! プロデューサー」
 ああもう、可愛いなぁ……俺、ロリコンかも。
 頭を撫でたくなる気持ちを抑えつつやよいの持つちりとりに茶色い花びらを入れていく。
 しかし、こんなに魅力的な女の子がいる765プロがなんでこんなに小さい会社なんだろう? ……金か?
 そういえば事務員が二人しか居なかったし、そもそも同期が一人も居ないって今考えると……
「あの、プロデューサー?」
「ん? ああごめん、ちょっと今日の昼ごはんについて考えてた」
「お昼ごはんですか? 私はお母さんにお弁当作ってもらってますよ」
 いけないいけない、変な考えは止めよう、そもそも弱小プロダクションなんだからそういうことは当たり前じゃないか。

 昼前には事務所前を綺麗にし終わり、俺は一人で社長室へ向かった。やよいは社長が用意してくれたレッスンジムへ向かうらしい、年の割にしっかりしてる娘だ。
「社長、そうj……やよいとの顔合わせしてきました!」
 うっかり掃除と言いそうになってしまった。いかんいかん……
「ム、そうかね、ではこの中から担当したい候補生を……」
 といいながら社長が取り出したのは明らかに三部以上ある書類だ。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺はまだ二人としか……」
「すまないが」
 社長の目が妖しく光った気がした。
「朝礼のときは全員居たのだがね、今は間借りしているレッスン場へみんな散り散りになってしまってねぇ……」
 ぐっ……それを言われると辛いっ……
 丁重に書類を受け取り、俺はそれに目を通し始めた。