最高の、最愛の妹

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mioazu

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「梓、どうしたんだろう?学校が終わるとすぐ帰っちゃったみたいだけど・・・」

私は家路に着きながら、妹の事を考えていた。
今日は部室に顔を出さず、早々に家に帰ったようで何だか少し心配になる。

皆の勉強の邪魔にならないように先に帰ったとも考えられるけど、それなら帰る前に一言私に声を掛けに来るだろうし・・・。

「そういえば今日は朝から妙にソワソワしてたし・・・何か悩み事でもあるのかな・・・」

梓は色々と一人で抱えて悩んで、袋小路に陥る所があるから尚更心配だ・・・と言っても、自分にも似た節があるからあまり人の事を言えはしないけど。

そういえば最近は受験勉強で忙しいからと、梓とは必要最低限の会話しかここ数日してなかったから淋しがってるのかもしれない。
けどここで一番勉強を頑張っておかないと、受験に失敗でもしたら目も当てられないし。今は自分の事だけで正直、手一杯だしな・・・。

そうして色々な事を考えている間に、私は家の前まで帰ってきていた。

「とにかく、何かあるなら聞くだけ聞いてみるか・・・」

何か悩み事があるならまず聞いてみて、よほど急を要するような事でなければ何とか受験が一通り終わってから一緒に解決してあげる、という感じに今はするしかない。

そう考えをまとめ、玄関のドアを開ける。

「ただいまー・・・あれ?」

家に入るが、返ってくる言葉はない。梓はもうとっくに帰ってきてるはずなのだけど・・・。

「いないのか?それとも部屋でギターでも弾いて・・・って音は聞こえないしな・・・」

不審に思いながら、リビングの方に顔を出してみる。

と、リビングに入った瞬間。




―パーン!

「ひゃあっ!!な、なんだ!?」
「澪お姉ちゃんっ、お誕生日おめでとうっ!」
「梓!?な、何がどういう・・・!?」

いきなりの炸裂音に何が起こったか一瞬分からなかったが、

「・・・ん、誕生日?」
「やっぱりお姉ちゃん、自分の誕生日の事忘れてたんだね」

今の炸裂音はクラッカーだったようで――それを撃った梓に言われ、咄嗟に近くに貼ってあるカレンダーに目をやり今日の日付を確認する。

――1月15日。
それが自分の誕生日だと、今になって私は気付いていた。

「でも、おかげでお姉ちゃんを驚かせるのは難しくなかったかな」
「というと今日すぐ家に帰ったのも・・・」
「うん、誕生日を祝うために色々と準備をしないといけなかったから」
「梓・・・」

テーブルを見るとケーキに・・・それにあとは、私が好物とする料理が多く並んでいる。

梓は料理がそれほど得意な方ではないから、きっと家に帰ってきてから私が帰る辺りまでずっと台所で料理にかかりっきりだったのだろう。
高い所にある食器棚から食器を取り出したりするの、梓の背丈なら大変だっただろうと容易に予想も出来た。

「お姉ちゃん、今が一番受験に向けて大事な時だから、能天気っていうか不謹慎に思われるかもしれないけど・・・でもだからこそ私に出来る事で誕生日を祝うのと同時にお姉ちゃんを応援してあげたいって、そう思ってて・・・」

お前ってやつはそこまで私の事を考えて・・・。

「お姉ちゃん?」

――ああ、そうだった。
体は小さいくせに気が強いおかげで、何かと損をする事が多くて。

でも・・・私が思っている以上に梓は強いだけじゃなくて、すごく優しくて、いつも私の事を考えてくれていて。

――だから自慢の妹だし、何より、大好きな妹なんだ。

「や、やっぱりこんな事やってる暇なん・・・!?」

気がつけば、私は梓の体を抱きしめていた。




「おっ、お姉ちゃん!?」
「ありがとうな・・・梓」

一方的な抱擁。
身長差がある分、梓はすっぽりと私の腕の中に納まっていた。

「最近ずっと受験の事ばかりで、梓に構ってなかったから淋しがってるんじゃないかって・・・心配しててさ・・・」
「お姉ちゃん・・・」
「もし梓が悩み事とか抱えてても今の私じゃ自分の事しか考えられないだろうから・・・すぐには力になれないって思うと、もどかしい思いでいっぱいだったんだ」

腕の中にいる梓に、私は家に帰ってくるまでに思っていた心情を吐露した。
そんな私に対して、

「だってお姉ちゃん、今が一番大事な時期だから・・・私なんかに構えなくても仕方ないし、それも当然だってちゃんと分かってるよ」
「梓・・・」
「それに、私なら何も悩み事なんてないから安心して。
お姉ちゃんの事、心配ならしてるけど不安には思わないよ?
だって私、お姉ちゃんなら大丈夫だって信じてるから」

そう言うと、梓も私の背に腕を回しギュッと私を抱きしめてきてくれた。私の事を信じてくれる思いも、また何より嬉しかった。

「そ、それで・・・やっぱり嫌だったかな・・・今年は誕生日なんて、やってる暇ないって」
「ふふっ、嫌なわけないだろ?
梓がそこまで考えて、こうして誕生日を祝おうとしてくれてるのにそれをむげになんて出来るわけないし、何より本当に嬉しいぞ」

最近構ってあげられなかった分を取り返すかのように、梓を抱きしめる腕に力を込める。

こうして梓を抱きしめていると梓の体は華奢で小さい事が改めてよく分かる。
それでも、体の芯からはとても温かな優しさを感じられた。

「ごめん、苦しいか?」
「ううん、お姉ちゃんに抱きしめられてると何だかすごく温かくって安心しちゃって・・・」

腕の中にいる梓は頬を赤くしながらも柔らかく微笑んでいた。




「え・・・?おねえちゃ・・・」

顔を近付ける。
自分でもどうしてそんな事をしたのか、よく分からない。

梓もそんな感じだったと思う。
それでも、ゆっくりと瞳を閉じて・・・。

「んっ・・・」

――私の口づけを、そっと受け入れてくれた。

「さてと・・・手洗いうがいをして部屋で着替えたらすぐ戻るから、待ってて」

唇を離すと、私は何事もなかったかのように――私の顔は真っ赤になっているだろうが――平静を装いながら体を離す。

「待って、お姉ちゃん」
「え?」

洗面所の方に向かおうとした所、梓に袖をつかまれた。

「その前に・・・」
「?」
「・・・その前に、もう一度。今度は私からお姉ちゃんに、キスしたい」

梓は頬を赤く染めたまま、そんなお願いを口にしていた。

「・・・ああ、分かった。じゃ、今度は梓から」
「お姉ちゃん」
「なんだ?」

まっすぐな瞳で梓は私を見上げ、

「・・・大好き、澪お姉ちゃん」

くすぐったくなるような笑顔でそう言うと、小さく背伸びをして私の首に腕を回し――


私には最高の・・・最愛の妹が傍にいる。
ならきっと受験にだって、何にだって打ち勝てる。

どんな壁にも、どんな困難にも。
私達ならきっと――

(FIN)
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