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「止めて下さい」
 梓は唐突ともいえるタイミングで、澪の話を遮った。
「ん?いきなりどうしたんだ?」
 普段と変わらぬ話しか澪はしていないが、
常日頃から梓はその話題が気に入らなかった。
「律先輩の話は、止めて下さい」
 澪の展開する話題は、その殆どが律で占められている。
澪に対して好意を抱く梓は、
恋の宿敵と目している存在を嬉々と語る事に不満を抱いていた。
「何で?」
 長い脚を組んで椅子に座る澪は、
意地の悪い笑みを浮かべて問いかけてきた。
梓のこれ見よがしな好意を、澪が気付いていないはずがない。
否、気付いているからこそ、澪の顔には意地悪い笑みが張り付いているのだ。
「いつも言ってるじゃないですか、私は澪先輩の事が好きだって。
なのに何で、他の女の話をするんですかっ?
今は私だけに集中して下さい。
二人っきりの時は、私だけの澪先輩で居て下さい」
 今、澪の部屋に律は居ない。
自分だけが呼ばれた状況、
だからこそ今だけは梓だけの澪で居て欲しかった。
 対する澪の返答は冷たかった。
「酷いな、律の事を蔑ろにするなんて」
「あぅ……ごめんなさい」
 澪に窘められて、梓は俯いた。
意気消沈した梓に対し、澪は優しい声音で語り掛けてくる。
「そうへこむなよ。梓の言う事も尤もだしさ。
でも、私にとって律は た・い・せ・つ な存在だ。
だからその存在を僅かな時間でも私から消したいなら、
梓も頑張らないといけないよ?」
 声調とは違い、内容までは優しく無かった。
大切という言葉にアクセントを込めて、律の存在を澪は表現した。
その事に深刻な心理的苦痛を齎されながらも、
梓は期待を込めて問いかける。
「頑張れば、私だけの澪先輩で居てくれるんですか?
頑張れば、あの女の存在を澪先輩から消せるんですか?」
「一時的には、な。
でも、それで構わないよね?
愛も恋も、刹那的な快楽にこそ趣がある。
カタルシスをバックボーンにした一時だからこそ、美しく燃え上がる。
ほら、美しく燃えてみな?」
 律と秤に掛けて梓を試す自身の行為を、
澪は悲劇の醍醐味に擬えて正当化していた。
それでも梓は、澪が好きだった。
だから縋るように問いかける。
「……具体的に、私は何を頑張ればいいんですか?」
 澪は組んでいた脚を解くと、梓の前に差し出す。
そして無言のまま、注目を促すように足を揺り動かした。
「あの?」
 意図を判じかねて訝しげな声を発する梓に対し、
澪は大仰な溜息を吐いた。




「察しが悪いね、ヒントまで上げてるのに。
律ならすぐに分かったんだけどね?」
 律に負けたような悔しさを感じ、梓は唇を噛み締めた。
澪はそんな梓の表情に満足したように笑むと、言葉を続ける。
「足が疲れたからさ、舐めて癒して欲しいんだ」
 その行為に抵抗が無いわけでは無かった。
だが、僅かな時間であっても澪から律を追い出せるならば、
いかなる行為にも及ぶ心算であった。
加えて、行為にこそ抵抗を感じているが、
澪の足という対象に対しては性的な興奮すら湧いてくる。
だから梓は了承を返す。
「……分かりました」
 梓は跪くと、靴下に手を添えて脱がそうと試みる。
それは澪の美しい足のラインを強調する、黒いソックスだった。
「何やってるんだ。靴下の上から、だよ。
生足を舐めようなんて、まだ梓には早いよ」
 澪は跪く梓を見下ろしながら、妖艶な笑みを浮かべて続ける。
「でもね、もし上手く舐める事ができたのなら、
ご褒美として次の機会には生足を舐める権利を与えてやってもいいよ」
「ごめんなさい、調子に乗ってました」
 梓は素直に謝ってから、問いかける。
「あの……舐める前に、匂いを嗅がせて頂いてもいいですか?」
 膝下までを覆う黒いソックスにも、澪のエキスが染み付いているだろうと。
梓はそう考えていた。
「ふふっ、舐めながらでも嗅げるのに。
でも、そうやって逐一許可を求める態度は嫌いじゃない。
梓も自分の立場が理解できてきたって事だからな。
いいよ、スニッフしなよ」
「有難うございます」
 梓は澪の爪先に鼻を押し付けて吸引した。
途端、強力な刺激が鼻腔の奥まで突き抜ける。
嗅覚を嬲る刺激に梓は脳まで揺さぶられながら、陶酔に満ちた声を絞り出す。
「あぁっ……」
 梓は澪の匂いを求めて、貪るように何度も何度も鼻吸引を繰り返した。
「梓ー、そろそろ足舐めてくれない?
さっきも言ったけど、舐めながらでも嗅げるだろ?」
「あぅ……ごめんなさい」
「分かればいいよ。
で、どうだった?私の匂いは」
「はい、甘酸っぱい匂いでした。
甘酸っぱい芳香が嗅覚に押し寄せるたび、脳がクラクラしちゃって……。
陶酔の一時でした」
「ふふっ、少しは気の利いた事が言える舌を持ってるみたいだな。
その舌、喋る性能は分かったけど、舐める性能はどうなのかな?」
「ご堪能下さい」
 梓は澪の足に舌を這わせた。
爪先から土踏まず、そして足の甲へと舌を這わせる。
次に踵を舐め、足首へと舌を移した所で上目に澪を見上げた。
瞬間、梓は硬直した。
視界に映る澪は如何にも退屈しきったような表情を浮かべて、
梓を見下ろしている。




「はぁ、やる気ある?それとも私と相性悪いのかな?
いや、スレイブとしての自覚が無いのかな?」
 梓を謗る澪の声は冷たかった。
「あの……お気に召しませんか?
一所懸命にやってる心算ですけど……」
「何?私に口答え?
ふーん、梓も生意気になったな」
 澪の視線は口調同様、突き放すような冷たさを帯びて梓を射抜く。
そして、梓が最も恐れていた言葉が放たれた。
「これなら、律の方が上手だったな」
 梓を見舞った衝撃は深刻だった。
「澪先輩……お願いします。チャンスを、チャンスを下さい。
私を見捨てないで下さい……」
 梓の双眸には涙が滲み、澪の姿を霞ませた。
「そうだな……。
可愛い後輩の頼みだし、もう一度チャンスを上げるよ。
でもその前に、涙を拭いてあげないとな」
 澪は足を梓の瞳に押し付けて、靴下で涙を拭き取った。
辱めるような行為であるにも関わらず、
梓は救われた思いで礼を述べた。
「有難うございますっ」
 可愛い後輩と言われた事も嬉しかったが、
何より涙を拭いて貰った事に感動していた。
足で行うという高圧的な方法だったにも関わらず、
今の梓には澪から手向けられた優しさとすら思える。
「梓、私を気持ち良くさせないと駄目だ。
直に生足を舐めるなら、その程度の強さでもいいかもしれない。
だが靴下越しとなると、その程度じゃ感じないよ、イケないな。
もっと力強く舐めろ。それとテクニックも駆使した方がいい。
舌先で擽るように舐めれば、大した力を使わずに私を満足させられる。
私から一時でも律を追い出して、私の中にお前の居場所を作って欲しいなら、
私を退屈させるな。飽きさせるな。感じさせろ」
 澪の弁を傾聴した梓は、まずお礼を述べた。
「ご教示頂きありがとうございます」
 次は実践だった。
梓は澪に言われたとおり、舌の表面を強く押し付けて足の甲を舐めた。
骨の感触がソックス越しに伝わってくる程に、強く激しく舌を動かす。
爪先は口に含んで舌で転がし、足の裏は擽るように舌先を這わせた。
「んんっ、いいぞ、梓。その調子だ。はっぁっ」
「ふふっ、澪先輩、足の裏が弱点なんですね。
いいですよ、重点的に攻めます」
「生意気なっ梓だなっ。ひゃぅぅっ、いいよ、梓ぁ」
 澪の頬に紅潮が差し、声も喘ぐような激しさを伴ってきた。
澪に訪れた変化は、梓を悦ばせた。
「澪先輩、顔が紅いですっ。気持ちいいですか?」




「はっぁ、生意気なっ。お仕置きだ」
 澪は視界を塞ぐように、足の裏を梓の顔に押し付けてきた。
澪の足の匂いを嗅ぎながら、梓は一心不乱に舌を這わせる。
唾液に塗れて、澪のソックスは次第に湿っていった。
それは梓の顔を蹂躙する、澪の足の感触が示していた。
「ふふっ、いいぞ、梓ぁっ。上手だっ」
 澪は興奮した声で梓を称揚した。
声から察するに、澪の精神は高揚へと達しているらしい。
結果、精神の昂ぶりが齎す澪自身の発汗と相俟って、
ソックスは濡れるという形容が似合うぐらいに体液を含んでゆく。
 体液を含んだソックスに蹂躙されている梓の顔は、次第に濡れていった。
水分を含んだソックスが圧された時に発する独特の音すら、
淫猥な響きを以って梓の耳朶を擽った。
(澪先輩……澪先輩……澪先輩……)
 胸中で愛しき者の名を繰り返しながら、梓は只管澪の足を舐め続ける。
「梓ぁ、いい表情しているよ。唾液塗れの顔が、艶やかに映えてる。
綺麗だよ、私の梓」
 澪の物として呼びかけられ、梓は感極まった。
顔に纏う粘つく感触でさえ、澪に褒められたのなら勲章として誇りたい気分だった。
「もういいよ、梓。ありがとな、すっかり癒された」
 梓は舌の動きを止めると、上目で見やりながら問いかける。
「あの……もう片方の足は?」
「ふふっ、今日はいいよ。
それはまた今度だ」
「はい、楽しみにしています」
 足を舐める前までは、その行為に抵抗を感じていた。
だが今は、次に舐める日を楽しみにしている自分が居た。
自分はすっかり澪に調教されたのだと、梓は今更ながら自覚する。
しかし、そこに不満は無かった。寧ろ喜びがあった。
自分が澪の物として、完成に近づいているのだから。
「今は、もう梓の事しか考えない。他の女の話はしないでいてやる。
そういう約束だからな」
 澪はそう言うと、ウェットティッシュを手に取った。
「ベトベトだな。今、綺麗にしてやる」
「あの……唾液塗れの顔を綺麗と感じるのなら、このままで構いませんけど」
 先程澪に褒められた事を思い起こしながら、梓は言った。
自分の快や不快を度外視してでも、澪から愛慕を得られる状態でありたかったから。
「うん、今の顔だって充分魅惑的だ。でも、普段の梓の顔も見たいからさ。
そう、今は艶やかな液を纏っていない梓が見たい気分。
私って気まぐれなんだ。付いてこれるか?」
 梓は肯いた。
「どうぞ、澪先輩のお好きなように私を扱って下さい」
「ふふ、いい子だ」
 澪は右手で梓の頭を撫でつつ、左手で顔を拭いてくれた。




「ありがとうございます」
「何、礼には及ばないよ。
そうだ、梓は私の物なんだから、その証をやるよ。
ご褒美も上げたいしな」
 澪はそう言うと梓の手を取り、薬指を口に含んだ。
足を舐めたお礼に手を舐めてくれるのだろうか、
呑気にそう考えていた梓を激痛が襲う。
「っ」
 堪らず絶句したが、澪からの褒美という事で手を引かずに耐えた。
付け根側の節から、澪が歯を立てている感触が痛みと共に伝わってくる。
相当強く噛んでいるのか、痛みは尋常では無かった。
「ん……」
 抑え切れなかった梓の声を受けて、澪は特徴的な吊り上がった瞳を向けてきた。
「大丈夫……です……」
 痛みに声を途切れさせながらも、梓はそう返した。
(痛いけど……澪先輩の顔が近い。
顔をじっくり観察するチャンスだよ)
 梓は絶えず押し寄せる痛みの中、そう考えて澪の顔に見入り続けた。
切り揃えているサイドや前髪は、澪の端整な顔を強調して映す。
梓は暫し見惚れていた。
この端整な顔立ちを間近で見れるのなら、
どのような痛みも払う代償に値すると思った。
 澪は唐突に梓の指を解放した。
「痛かったか?」
「はい、でも大丈夫です……」
「ふふ、良く耐えたな。
でもこれで、梓にプレゼントを上げられたよ。ご覧」
 澪は梓の薬指を指差した。
「付け根付近に、私の歯形が刻まれただろ?
これは契の証、指輪みたいなものだ。
梓が私の物になったという、証だよ」
「指輪……」
 梓は自身の薬指に付けられた傷を見つめた。
滲んだ血さえ、澪にバージンを捧げたかのような錯覚を齎して多幸へと誘う。
「有難うございます、澪先輩」
「それで終わりじゃない。おいで、可愛い可愛い私の梓」
 その言葉と共に、梓は澪の胸に抱き寄せられた。
豊満で柔らかい肉の感触を受けて、梓は恍惚の声を漏らす。
「あぁっ」
「ふふ、いい声で鳴くね。暫くこのままで居てやるよ」
 それは勿論幸せだが、それだけでは物足りない。
梓は胸中で自身を図々しいと痛罵しながらも、欲を曝け出した。
「あの……お願いがあるんですけど……」
「何だ?言ってご覧?考えてあげるから」
「もっと……私の梓って……言って下さい」
「お安い御用だ」
 澪は梓の耳元に口を寄せて、囁いた。
「可愛い私の梓……従順な私だけの梓……」
 梓は滾る興奮に身を震わせた。
澪の胸に抱かれながら。




.
 未だ傷の痕が残る指を見せながら、梓は律に言った。
「私、澪先輩から足を舐めるのが上手だって言われました。
ご褒美に、薬指に指輪代わりの歯形を付けてもらいました」
 梓は嘲弄するような笑みを浮かべているが、
律の顔には興味無さそうな表情しか浮かんでいない。
悔しがるかと思っていただけに、意外だった。
「そりゃ良かったな」
 素っ気無い言葉だけ返して、律は踵を返し歩き出す。
「いいんですか?貴女が澪先輩の一番だと思ってましたが」
 律は足を止めて振り向いた。
「アイツの中のヒエラルキーに興味無いし。
お前こそいいのか?」
 梓は自信を漲らせて、首肯した。
「あっそ。ならいいんだ。お前が良いと思ってるなら」
 律はそれだけ言うと、再び歩き出した。
もう振り向かなかった。
 律が浮かべていた無関心な表情を、梓は澪に見せてやりたかった。
律はもう澪に関心を持っていない事を、理解させてやりたかった。
そうやって震える絶望を叩きつけてやれば、
自分だけが恒久的に澪の物になれると思った。
 澪震わせる策略に思いを巡らし、梓は身を震わせる。
(私以外、要らないよね?澪先輩……)
──頑張れば、私だけの澪先輩で居てくれるんですか?
──頑張れば、あの女の存在を澪先輩から消せるんですか?


<FIN>