十五夜

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mioazu

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――日付も変わった現在、深夜一時。

 大学寮の自室の窓から空を見上げると、輝く星々の真ん中に一際輝く月が真円を描いてその存在を現わにしていて。
 どうやら日付が変わるまでずっと出ていた雲はようやく過ぎ去ってくれたみたい。

澪「綺麗だな……」

 私は窓際に置いてある椅子に座り、ただ満月を見上げている。
外は静かで、ちょっとした風流を楽しむのにはもってこいだ。

――と、

「んん……せんぱい……?」

 すぐ横にあるベッドの方から、いかにも眠たそうに私を呼ぶ声が聞こえてきた。

澪「ごめん、起こしちゃったか梓」

梓「どうしたんですか……? こんな夜中に……」

 そう言いながら梓はもぞもぞとベッドから抜け出すと、私に甘えるようにぎゅっと抱きついてくる。

澪「とと……私ならもうしばらくしたら寝るから梓は寝てていいんだぞ? 梓、明日は早くから講義入ってるんだし」

梓「澪先輩が夜中に何をしてるのかが気になって私、眠れないです」

澪「もう、しょうがないな」

 私は梓を自分の膝の上に乗せると今度はこちらからぎゅっと抱きしめる。
小さくもあたたかい梓の体はいつ抱きしめてもすごく心地良い。

梓「んっ……あったかいです」

澪「どういたしまして」

梓「それで、何をしていたんですか?」

澪「ああ、ちょっと月を眺めてたんだ」

梓「月……ですか?」

 私が月を眺めていたことを話すと、梓もまた外に目を向けて月を見上げる。

梓「あっ、月がまん丸……満月ですね! 綺麗です」

澪「今は雲が出てないからよく見えるだろ?」

梓「はい、でもどうしてまたこんな夜中に月を……?」

澪「今日は十五夜だからせっかくと思って、ね」

梓「? 十五夜ってなんですか?」

澪「ああ、十五夜っていうのは……」

――十五夜とは昔の旧暦でいう15日の夜、およびその夜の月のことをさす。

 旧暦での8月の異称を「仲秋」といい、さらにその真ん中に当たる旧暦の8月15日のことを「中秋」というのだけど。
 この旧暦8月15日、中秋の日の十五夜に出る月は「中秋の名月」と呼ばれている。

 俳句などで「十五夜」といった場合には旧暦15日の中でも特にこの旧暦8月15日のことをいい、お月見をする「十五夜」もこの旧暦8月15日の中秋の日の十五夜。

 旧暦では二十四節気の秋分は8月と決まっていて、旧暦8月15日は今の新暦での秋分の日……9月22日から約1ヶ月程のずれが出る。
 そのため、今の9月7日から10月8日頃の間で毎年変わるのだけど……。

梓「じゃあ今日が満月の出るその今年の……十五夜なんですか?」

澪「ああ、そういうこと」

梓「そうなんですか……でも澪先輩、十五夜のことよく知っていますね」

澪「こんな知識ばっかり持っててもしょうがないけどな」

梓「そんなことないですよ、私改めて澪先輩のこと尊敬しちゃいました」

澪「そ、そう……? ありがと」

梓「えへへ」

 梓から素直に誉められ、思わず私はバツが悪い感じに頬を軽く掻く。

梓「けどそういったことななら私も満月を見るのを誘ってほしかったです」

澪「ごめん、夜中になるまで雲が出ていたし明日は梓朝早くから講義入ってたからさ」

梓「……じゃあ少しだけ澪先輩に付き合って一緒に月を見てもいいですか?」

 目の前で梓がじっと私の目を見てそう懇願する。
 私は梓のこの目にはどうにも弱いんだよな……。

澪「わかった、一緒に見ようか梓?」

梓「はいっ!」

 私が了承すると梓は嬉しそうに微笑むので、思わず頭を撫でてあげるとくすぐったそうにしながら喜んでくれた。
 まったく、梓ったら本当に可愛いんだから。


……

――それから時間にして約10分程経って。

 お互いに何を話すでもなくただ月を見上げていたが、ふと私が気付くと、

梓「すー……」

澪「寝ちゃったな、梓」

 腕の中にいる梓がかすかな寝息を立てて眠ってしまっていた。

梓「くー……」

澪「気持ちよさそうに眠っちゃって」

 穏やかに、安心するように私の腕の中で眠っている梓を見てふっと笑みがこぼれる。
 梓が私なんかにこんなにも甘えてくれるなんて、改めて私は幸せ者だって思う。

澪「よいしょっと」

 梓を抱っこしながら私は椅子から立ち上がり、梓をベッドに寝かせてあげた。
 私も自分のベッドに戻って寝ようかとも思ったけど外から入る月明かりが梓の寝顔をより可愛いく、綺麗に見せていたので。

澪「ふふっ、おじゃまします」

 こっそりと今日は梓と一緒のベッドで、梓のすぐ隣で眠ることにする。
 朝起きたらすぐ目の前に私がいて梓、びっくりするかもしれないけどそれはそれで面白そうな感じ。

澪「ん……おやすみ、梓」

 寝ている梓の頬にそっとキスをした後、私もまた静かに眠りにつく。

 外からの月明かりとすぐ傍にいる梓の温もりを感じながら――。



 おしまい
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