「お邪魔しまぁす!」
「あぁ、いらっしゃい」
「おぉ、しんちゃんのお姉さん!こんにちはっス!」
「こんにちは。信也まだ部活から帰ってきてないから、居間でゆっくりしててね。今麦茶出すから」
「はーい!」

夏休みの宿題を教わりに、ふたばちゃんがやってきた。長期休暇の日常風景とも言える。
この娘はとにかく弟に懐いていて、平日だろうが休日だろうが、暇さえあればとりあえず我が家にやってくるのだ。
もう中学生の彼女が、相変わらず遠慮なく同級生の男子の家を訪れることは、一般的にはちょっと問題なのかもしれないけど、
双方の親達は既にふたばちゃんと弟が結婚する、くらいの感覚で扱っているし、私自身、彼女は実の妹のような感じで好ましく思っている。
たまに、あぁ、普通に『お姉ちゃん』と言ってくれないかなぁ、と思うこともある。私の個人的な願望だ

丸井さん家の三姉妹は、少々性格とかに問題があるかもしれないが、間違いなくみんな可愛いらしいと思う。その中でも、ふたばちゃんは特に可愛い。
まぁこれは、小さい時から弟と一緒に遊んであげたりだとか、頻繁に会っているからとか、そういう補正もあるだろうけれど。

多分、三つ子の中でも一番綺麗になるだろうな。健康的で、笑顔の素敵な美人さんになってくれるんじゃないか、
と母さんと一緒に期待しているのは、本人にも弟にも内緒。それにしても弟も果報者だ。こんなに将来性のある女の子なんて、そうそういない。
色々考えている内に、麦茶の準備が終わった。今日は暑いから、ふたばちゃんも喉が乾いているだろう。美味しそうに麦茶を飲む彼女を想像して、頬が緩んだ。

「お待ちどうさま」
「ありがとうっス!」

ふたばちゃんにコップを渡すと、10秒も経たない内に一気に飲み干してしまった。淹れたこっちも嬉しくなる飲みっぷり。
ぷは、と一息ついた彼女は、まだまだ飲み足りない様子。コップを差し出してくるふたばちゃんがやっぱり可愛くて、私はにへらとしてしまった。

(……あれ?)

コップを受け取る時、不意にふたばちゃんの胸元に目がいった。彼女は将来性がある、と思う要素の一つ、それは彼女の発育の良さである。
この年齢にして、既に未来の魅力的な体型を期待させていることは、近しい人なら誰でも知っている。同じ女性としては羨ましい限りだ。
信也はそれで日々悶々としているみたいだけれど。男の子って難しい。でも確かに、彼女が無邪気すぎる部分もあるから仕方ないんだろう。

そんなふたばちゃんだから、本来は彼女自身気を遣うべきなのだ。小学生の時は、キャミソールにスパッツという恐ろしく挑戦的な格好をしていて、こっちが色々心配してしまった。
本人に自覚が無いこともあったが、アウトだけどギリギリセーフ扱い、という感じで周りが黙認していたのだから驚きである。
まぁ私と母さんも、軽装なのをいいことに色々試着させて楽しんでいたりしたので何も言えたものじゃないのだけれど。可愛いは正義でいいじゃないか。
しかし中学生になった以上、そこら辺はしっかりしないといけない。特に男子中学生なんて、ほぼ頭の中はエロスしかないの生き物のようだし。
誰とでも屈託なく接するふたばちゃんが、何かの間違いでいやらしい事件とかに巻き込まれないとも限らないのだ。大抵は相手がぶちのめされる気もするけれど

とにかく、私はふたばちゃんと言えど、中学生になったのだし、当然下着とかはきっちり身に着けているものだと思っていた

(……これ、付けてないんじゃないの……?)

しかし目の前の彼女を見るに、ブラはしていないんじゃないか。夏服だからキャミソールくらい見えるのは分かるが、その下の体のラインが少々生々しい気がする。

(セクスィー……いやいや、何考えてるんだ私……)

とりあえずふたばちゃんの胸元をさりげなく注視しつつ、麦茶のおかわりをコップに注ぐ。私の勘違いかもしれないが、ちゃんと観察しなくては。とその時。

「あ」
「おぉ?!危ないっス!」

ガン見し過ぎて手元がおろそかになり、ふたばちゃんに渡しかけているコップを、私は滑らせてしまった。とっさに彼女が反応してキャッチしてくれたので、コップは傷一つつかずに済んだけれど。

「あはは!びしょびしょ!」
「あ゛あ゛あ゛?!ごっ、ごめんねふたばちゃん、今タオルとか持ってくるから待っててね!?」

中身の方は盛大にふたばちゃんにかかってしまった。制服の白いシャツは、ちょっとシミが残ったりしてしまうかもしれない。
しかし申し訳ないと思う傍ら、私はさっきの自分の認識が間違っていないことを確信していた。この娘、ブラを付けていない。

(……濡れ透け……けしからん!)

これは刺激が強すぎる。信也みたいなうぶには特に。部屋からタオルのついでに色々持ってこよう。シャツは私の時から使っているものみたいだから、あげてもいいかもしれない。
そして今一番必要であろうアレは、とりあえずレンタルしてあげよう。

「千葉め……何てものを見せてくれやがったんだ……」

部活の練習が終わった帰り、偶然千葉に出会った俺は、いつものごとくあいつのルーチンワークに付き合わされることになった。エロ本探索である。
千葉曰わく
『エロ本収集は紳士のたしなみ……捨てる神がいて、それを拾う俺達も、いつしか子供に夢を運ぶ存在になっていくのです……』
だそうだ。あほか。
付き合うと言っても、俺は見張りである。そもそもそういう本に抵抗がある俺に何で手伝わせるんだあいつは。付き合う俺も俺だけれど。
結局は付き合いが深い俺を信用しているんだろう。こんな場面で信用されてもしょうもない気がするのは、気のせいにしておこう。

だが、今日の探索は一味違ったのだった。小学生の時からずっと続けているから、たとえ千葉がふざけて俺にエロ本を見せてきたとしても、
俺が拒否反応を示すことなんて分かりきっていることで、わざわざそんな無駄なことをするなんて、普通は無いのである。そう、普通は。

「おーい」
「ん?終わったのか?いつもより速いな」
「いやいや、まだ獲物はあるんだ」
「じゃあどうした?……俺は見ないぞ、先に言っておくけど」
「察しがいいなぁ。まぁ付いて来いよ」

強引に橋の下のスペースに連れて来られる俺。ここは歩道からは死角になっているのだ。橋の土台の部分は、スプレーの落書きで埋め尽くされている。
まぁ、よろしくない行為をしたり、そういう種類の兄ちゃん達が集まるような場所、ってことだ。今は昼間だから、そんな奴らは当然いないけれど。
ちなみに千葉は、いつぞやの不良達とここで会ったりするらしい。しかも結構仲良くやっているそうだ。中学の同級生とかも誘ってエロ本品評会を開催しているとか。
千葉曰わく『エロスを愛する気持ちに、卒業なんて無いんだ』とのこと。こいつら大丈夫なんだろうか。

「さて、このエロ本だ。ランクはA-。割と上物だな」
「だから見せんなって……」

千葉は近くの茂みに隠してあった一冊のエロ本を取り出す。ランクは保存状態や内容によって10段階程度あるとかなんとか言ってたっけ。どうでもいいけど。

「いやいや兄ちゃん、騙されたと思って見てみろよ!ほれほれ」
「あーもうやめろって!こんなもん見て……も……」

俺も一般的な男子中学生であって、そういうものに全く興味が無いわけじゃない。しかし、千葉を始めオープン過ぎる奴らに囲まれて育ったせいか、変に抵抗感があるのだ。
でもやっぱり本能には勝てないようで、チラッと千葉が開いているページを見てしまったんだ。本当にチラッと。

「……え?」
「ふふふ、やっぱり反応しやがったか」
「お、おい……それ」
「気になるならしっかり見りゃいいじゃん」
「……」

にやにやしている千葉から、エロ本を受け取る。一度閉じてしまったから、さっきのページがどこだか分からなくなってしまった。
1ページずつ確かめながら探す。問題の写真以外の女の子の写真が目に入って来て何かもやもやした気持ちになるけど、無理やり無視してひたすらページをめくる。

「……!あった……これ……」

ようやく見つけたページに写っていたのは、ちょんまげみたいに髪を結んで、体操服とブルマ姿の、大きい胸を露わにした女の子。肝心の顔の部分は破れていてよく見えない。

「……ふた……ば?…………いや、そんなわけあるか!」

冷静になるとそんなこと有り得ない。チラッと見てしまったせいで、勘違いしただけだ。実際細かく見ると全然違うじゃないか。

ふたばの脚はこんなに太くない。もっとバランスよくふっくらした感じで、綺麗な脚だ。写真の女の子は正直むっちりし過ぎで、エロ本としては逆効果なんじゃないかと思う。
次にお腹だ。中学から陸上を始めたから、あいつのお腹は引き締まっている感じなのだけど、こっちは弛んでいる 。
最後に胸。写真の子は確かに大きい胸だと思う。でも若干垂れ気味で残念な感じだ。この写真の子は、豊満と言うよりかは太っていると表現するのがぴったりだろう。
ふたばの胸は……もちろん、まだ見たことは無いんだけれど、でも多分、もっと綺麗な形で、適度に大きくて、柔らかくて……

「……おーい、さすがにガン見し過ぎだろ」
「……はっ?!」
「どうだ、ちょっとはグッと来たろ?」
「ばっ、馬鹿言うなよ!こんな脚も腹も太くて、垂れてる胸の女なんて、ふたばに似てるわけが……」
「ほー。自爆するとはなぁ」
「なっ?!」
「別にふたばに似てるなんて俺は言ってないぞ?……なるほど、つまりお前にとってのふたばは、脚が細くて、腹も引き締まってて、おっぱいにも張りがある、と」
「ち、千葉ぁ!」
「よっ!むっつり変態優等生!」
「違う!!」
「違わないって……そろそろ自分に素直になろうぜ?」
「バカ野郎!や、やめろよそういう言い方!」

とまぁ、こんな具合に終始からかわれたというわけだ。千葉は俺の取り乱した姿を見て、満足して帰っていった。無駄に時間を使わされたようなものだ。今日はふたばが来ると言うのに。
そう、あんなエロ本を見せられた後に、俺はふたばに勉強を教えてやらなきゃならんのだ。否応なく、さっきの写真とかが頭に浮かんでしまうだろう。
実際、好きな娘を連想させるようなエロ本なんて見てしまったら、下の方もある程度は反応するに決まっている。

(……あぁっ!?ダメだダメだっ……!考えるな、考えるな俺……)

さっきの写真と全く同じような、あられもない格好のふたばが簡単に想像出来てしまう。
綺麗な脚、引き締まったお腹、多分まだちょっと小振りだけど、女性らしい胸。
一番問題なのは、想像の中のふたばが、どんなポーズを取っていようと必ず『しんちゃん』と呼びかけてくることだ。
胸をさらけ出したふたばが、パンツ姿になったふたばが、寝そべって誘うような感じのふたばが……ことごとく『しんちゃん』と俺に笑いかけてくるのだ。

もう時間的に、ふたばは家で待っている頃だろうか。今日はやりづらいことこの上ないに決まっている。

ふと気づくと、ポツポツと雨が降り始めていた。天気予報では1日中晴れとか言っていたがどうだろう。通り雨とかで終わるんだろうか

(……ちょうどいいかもな)

色々と過熱気味な頭を冷やすにはうってつけかもしれない。雨宿りとか、どこかで傘を手に入れるとかいう選択肢は放っておこう。
だんだん強くなってくる雨に敢えて打たれるかのように、俺は家に向かって走りだした。

ふたばちゃんにとりあえず古い体操服を貸してあげてから、ふと気付くと雨が降り出していた。天気予報も派手に外れることはあるらしい。

「……午後練……あぁもう!」
「学校行くんスか?」
「もともと今日は午後からの練習だったからね。でもこのタイミングで雨はなぁ……」
「うわぁ……何か雨強くなってるみたい」
「そうね……準備はしてあるから、ひどくならない内に出ちゃおうかな。ふたばちゃん、信也が来るまでお留守番お願い出来るかな?」
「了解っス!」
「うん、いい返事。よろしくお願いね」

ふたばちゃんに見送られつつ、私は玄関を出た。こういう日はとにかく防具が蒸れる。ただでさえ急な雨で憂鬱だというのに、練習のことを考えると溜め息が止まらないのであった。

傘をさして学校へ向かう。雨だしたまにはバスでも使おうかな。そんなことを思っていたら、前から誰かが走って来てすれ違いになった。

「……信也?」

一瞬だったからはっきりとは分からなかったけれど、中学生くらいの男の子だった。振り返って確かめようとしたけれど、もう姿は見えない。

(まぁ、傘は持って無いよね……あの子の分の傘も持ってきておけば良かったかな)

この雨にどの程度打たれていたのかは分からないけれど、かなり濡れているのは間違いないだろう。風邪なんかに罹らなければいいが。
そう考えると、ふたばちゃんも危ないかもしれないな。彼女は元気な割に病気がちなのだ。信也からうつされてしまうかもしれない。

(……うつされるって……ちょっといやらしいかも……)

天気は雨だが季節は夏。そして2人はもう中学生だ。何か間違いが起こってしまうかもしれない…

……おっと、自分は何を考えているのか。邪推が過ぎる。こんなのいらない心配に決まっているのに。
雨のせいで思った以上に学校到着が遅れそうだ。こんな日に練習に遅刻したら、先輩から何を命じられるか分かったもんじゃない。
2人が少し気掛かりだったけれど、余裕が無くなってきた私は、とりあえず歩調を早めて学校へ向かった。空を見ると真っ黒な雲。これは本格的に急ぐ必要がありそうだ。

さっきすれ違いになったのは多分姉さんだったと思う。そういや今日は午後練だったっけ。ということは、家にふたばがいる場合、俺はあいつと2人きりになるわけだ。

(2人きり……いかんいかん危ない危ない!!)

また変な想像をしかけた頭を思いっ切り横に振って、無理やり空にする。わざわざ濡れ鼠になってここまで走って来た意味が無くなるところだった。
正直普段でさえ、ふたばと2人きりになる時は色々大変だ。嬉しいのは事実だけれど、無防備過ぎるあいつの仕草に翻弄されて、精神的に恐ろしく疲労する。
加えて今は、エロ本のショックがまだ残っている。これで変なハプニングが起きたりしたら、色々まずい。
何も起こりませんように、と願いつつ、いつの間にか着いていた我が家の玄関を開ける。すっかり見慣れた陸上用シューズを確認。やはりふたばはもう来ていた。

「ただいまー……」

とりあえず帰宅の挨拶をする。返事が無い。もう俺の部屋にいるんだろうか。そうなると一度部屋から出て貰わないとな。
あいつは俺が着替えはじめてパンツ一丁になったところで、全く気にしないのだろう。ぼけっと見ているに違いない。
でもこっちは滅茶苦茶恥ずかしいのだ。というか少しは恥ずかしがって欲しい。僅かばかりの俺のプライドがズタズタになってしまう。

「……おかえりー!」
「お?」

ちょっとばかり反応が遅い。どこにいるんだ、あいつ?

「おーい!ふたばー?」
「……おトイレー!」

あぁ、トイレにいたのか。少しでも顔を合わせるまでの猶予が伸びたと考えるならラッキーだろう。今の内に着替えておくとするか。

「雨で濡れちまったから着替えてるよー!そのまま部屋にいるからー!」
「……あーい!」

さて、急いで着替えだ。汗を吸ったユニフォームと一緒に、制服のシャツとかも洗濯かごに放り込む。ズボンは部屋で干すか。
パンツも濡れてしまったから、部屋に行ったらまずパンツを替えなくては。その瞬間ふたばが入って来たら目もあてられないが、さすがにあいつもノックぐらいするだろう。

部屋に入った俺は、ハンガーにズボンをかけると、大急ぎでパンツを替えた。これで大きな心配は無いだろう。
あとはTシャツを、とタンスに手をかけた時だった。階段を上がって来る元気な足音。間違いなくふたばだが、何でそんなに慌ただしいんだろうか?

「しんちゃーん!」
「げ?!おま……ノックくらいし……ろ!?」

勢いよく開く扉。反射的に手近にあった枕を抱える俺。ふたばよ、頼むからノックくらいしてくれ。幼なじみとはいえ、ここは男の部屋なんだぞ。
まぁ、妙に慌ただしかった時点で予想しておくべきだったか。しかし問題はそこでは無い。ふたばの格好だ。

「えへへー、しんちゃんのお姉さんのだよ!ほら、『佐藤』って!」
「あ、あぁ……そうだな、はは……」
「前は中学もブルマだったんだねぇ。小学生に戻ったみたい!」

よりによって、さっきのエロ本とほぼ同じ格好で出てくるとは全く予想外だった。ちなみに昨今の流れなのか、俺達の代から体操服はハーフパンツで統一されている。
つまり、本来中学生のふたばのブルマ姿なんて拝めないはずなのだ。しかも胸の名前欄には『佐藤』の文字。いやらしさ倍増である。

既に色々フラッシュバックしていて、俺のパンツはテントが張っているかのように膨らんでいる。とっさに枕を抱え込んだ自分を誉め称えたい。
とはいえ身動きが取りづらいので、さり気なくシーツを引っ張ってきて、下半身を隠す。後は適当に話でもして、俺のアレが鎮まるまでやり過ごさなければ。

「な、何でそんなの着てんだ?姉さんのって言ってたけど」
「麦茶こぼれちゃって……制服は今乾燥機にかけてるところだよ」
「ああ、そういや乾燥機回ってたかもな……」
「……しんちゃん寒いの?」
「え?」
「シーツ被ってる……」
「あ、ああ、そうそう!ちょっと濡れちまったからさ。うん。だから上も着替えないとな。風邪ひいちまうしな。あはは……」

シーツのことに触れられて一瞬焦ったが、うまく誤魔化せた。Tシャツは脱ぎかけで替えていないし、雨の水分で肌に張り付いて結構冷たいのは事実だ。
着替えをすると言って、ここは一度ふたばに御退場願おう。非常にピンチだが、ちょっと光が見えてきた気がする。

「着替える?」
「ああ、うん。だから……な?」
「ほぇ?」
「いや、その、恥ずかしいから……」
「うん」

「一度部屋から……」
「だったら私も着替える!」
「……はい?」
「私も着替えればおあいこで恥ずかしくないでしょ?」
「いや待て何だそりゃ!?色々間違ってるぞ?!」
「……もーう。しんちゃんはやっぱり恥ずかしがり屋さんだなぁ。私から先に着替えるよ?」
「話聞いてー?!」

光なんて無かった。どこで間違った。どうしてこうなった。しかしこういう時のふたばは何を言っても聞いてくれないのを分かっている自分が悲しい。

「実はちょっと……胸のあたりがきつくて……」
「あぁそらそうかもな……って何言わせんだよ!?」
「んー!!もう我慢出来ない!窮屈なの嫌!しんちゃんのシャツ貸してね!」
「ちょ、いや待て待て!!」

体操服に手をかけるふたば。止めようとしつつ腕で自分の視界を隠す俺。いや、落ち着け自分。ふたばは少なくともキャミソールは着ているはずだ。
発育が進んでいるとはいえ、キャミソール姿のこいつは小学生の時沢山見ているじゃないか。まだそっちの方が、俺も冷静になれるんじゃなかろうか。
そうすれば、とりあえず無理やりふたばを部屋から出すくらいは出来そうだ。大丈夫、まだ何とかなる。

絶賛混乱状態の頭を振り絞ってそう判断した俺は、視界を腕で遮るのをやめた。こういうのはチラチラ見えると余計にいやらしく感じてしまう。
発育が進んでいる分、小学生の時より刺激的なのは明らかなので、開き直って真正面から受け止めた方がいい。

さぁ来いふたば。俺は、お前のキャミソール姿なんて、見慣れているんだからな。取り乱したりするもんか。



「……あぁ!きつかったぁ……しんちゃんシャツ貸して?あと風邪ひいちゃうから早く着替えないと……しんちゃん?」
「……お、お前、キャミソール……は……?」
「濡れたから今乾燥機だよ?」
「……ぶ、ぶらじゃぁ……」
「ああ、これもお姉さんから借りたの!ねぇ、似合うかな?」

キャミソール姿を期待していた俺に、敢えて視界を遮らなかったのが災いして、ふたばのブラ姿がクリーンヒット。
上はブラジャー、下はブルマ。想像通りの綺麗な体のラインが丸分かりである。何だこのエロさ。それで無邪気に『似合うかな?』とかにっこりしながら聞いて来ないで欲しい。
あれか、顔も赤いしもしかして確信犯なのか。そうだとするとひどい天然か、とんだ小悪魔である。さすがの俺も、本当に飛びかかる寸前だ。

「お、お前なぁ!?いい加減にしないと、俺だって……」

我慢の限界だ、恨むなよ、とか俺は言いたかったんだろうか。でもそれは、ドカンという凄まじい音と光に遮られて、尻切れとんぼになってしまった。
同時に、明かりが消えて部屋が真っ暗になる。

「うお?!」
「きゃあ?!」

どうやら雷のようだ。音の大きさからして、相当近くに落ちたように思える。いきなり真っ暗になったのは停電したからだろう。
見事に何も見えない、というのは不安だったが、さっきまでの状況はリセットされた。正直助かったと言える。
あのままだと、冗談抜きでふたばを襲ったりしてしまったかもしれない。本当に良かった。ほっ、と胸を撫で下ろす。
今の隙に着替えようかとも考えたけれど、さすがに暗闇では動きづらい。まぁ少しだけ余裕が戻って来たし、状況を打開する何かを考えなくては。

「し、しんちゃあん……」
「……ふたば?」

暗闇からふたばの声が聞こえる。妙に弱々しい声。一体どうしたんだろう。

「おい、どうし……あ?!」
「怖いぃぃ……」

そういやこいつ、怖いものに耐性が無いんだった。いきなり真っ暗になってびっくりしてしまったんだろう。

(いやしかしこれは……やばい!)

身動きが取れない。雨に打たれてきて冷たかった体が、暖かいものに包まれる。いや、しがみつかれているのか。

「あばば……ふ、ふたば!ちょ、ちょっと離れて……」
「怖いよぅ……」
「うぁ……」

柔らかい肌が、直に接している感覚。ふたばの匂い。強く抱きつかれて、それらが更に強くなる。耳元で聞こえる、か細いふたばの声。
ちょっと収まっていたはずの下半身は、過去最大級の自己主張を続けている。もし、これ以上ふたばが動こうものなら、文字通り決壊してしまうに違いない。俺の理性も同じだろう。
唯一まともに動かせる腕をでたらめに動かす。正気でいる間に、ふたばを引き離したり出来ないだろうか。指先がふたばの肌に触れる。
一瞬びくっ、とふたばの体が反応して、しまった、と思い反射的に手を離す。その拍子に、指が何かに引っかかった感触があって、ぱさり、と軽い何かが落ちるような物音がした。

「きゃあっ?!」
「え!?」

パニックで色々よく分からなくなっていたが、決定的にやってはいけないことをしてしまった、という強い確信だけはあった。

次第に目が慣れてきて、ぼんやりと自分の部屋の輪郭が見えてくる。外は雨でカーテンも閉まっていたが、もともとそこまで暗かったわけではないようだ。
雷の強い光に目がやられてしまって、相乗効果で何も見えなくなっていた、というのが実際のところらしい。薄暗いとはいえ、はっきり物を認識出来る程度の光はあった。

さて、目が見えるようになったのはいいが、俺は爆弾に抱えられているようなものである。さっきの物音がしてから、ふたばは黙ったままだった。

恐る恐る視線を下の方に持っていく。お馴染みのちょんまげ。恨めしそうに見上げて来る瞳は、心なしか涙を溜めている。ちょっぴり赤いほっぺたが可愛いと思った。

更に視点を下げた俺は、大体のことを把握し、あぁやっぱり嫌な予感って当たるよなぁそうだよなぁ、と自分で納得して。


「……しんちゃんのえっち……」


好きな娘の生おっぱいを見た瞬間、鼻血を吹いてぶっ倒れた。

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最終更新:2011年03月06日 11:38