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そりゃ、俺だってそのために努力しようと思った事はある。
誰だって、自分の幸せのために頑張ってるんだ。当たり前だろう?


「そしたら佐藤の奴、本当にしょっぴかれちまってよー」
「わはは。ひでーな、それ。しっかし相変わらずだなぁ、あいつの不幸体質は。
でもまぁ、差し引きで考えりゃ、それでもプラスか?」
「そうそう。イケメン様はあれでちょうどなんだよ。
んで、十分お灸を据えてもらったろうと思ったから、30分後に迎えに行って弁明してやったんだが、
結局その後、また緒方の兄ちゃんに…」
「ちょっといいかな?」

昼休み、田渕と駄弁ってると、知らねー野郎に声を掛けられた。
線が細い、佐藤とは違うタイプの美少年って感じだ。背は160ちょいくらいか?
見た目もオーラも『優等生です』って感じの、まぁ、俺と[女子から野人扱いされてる千葉とは正反対なタイプだな!]
うっせーよ、田渕!心の声に割り込むな!誰が野人だ!!つーかお前、人の事言えんのかよ!
…ゴホン。まぁそんな、俺とはまるで縁がなさそうな奴が突然声を掛けてきたって事は…。
ひいっ。いくらエロスの探求者を自認する俺でも、ソッチの趣味はねーぜ!!
などと、どこかの眉毛のような事を考える訳は無く、このパターンの先は読めている。
「あ、突然ごめん。僕はA組の って言うんだけど、その、
丸井さんの事で聞きたいことがあってさ…。ちょっとだけいいかな?」
ほれ、予想通りだった。
「そんなの、本人に聞けばいいじゃねーか」
「いや、うん。そりゃそうなんだけどさ。丸井さんには聞き難いっていうか、でさ。
それに丸井さんは一人のタイミングが無い…。いや、いつも誰かといるわけじゃないんだけど、
一人になると消えちゃってるっていうか…。あぁ、変な事言ってゴメン」

ちょっとイライラするしゃべり方をする奴だ。
まぁ、三女さん一人のタイミングが見つからないって話は本当だろう。
あの三つ子はそれぞれ変わって来てる。
でも、基本スキルは継承してるんだよな。
あれだけ人目を引き付ける美人なのに、三女さんがその気になると(?)なぜか真後ろに居ても
認識できないくらい、見事に存在感を消してしまえるのだ。
(さすがに大勢から同時に注目されていると、そうはいかないようだが)
結局、俺達のような一部例外を除いて、男子がサシで会うためには、下駄箱に手紙を入れておくしか無いらしい。
この辺、既にウチの高校の七不思議になっている。
ごく稀に、大勢の前で告白した、どこぞのバスケ部員のような真性のアホもいるようだが。…ったく。

…まぁ、そういう訳だから、俺達以外にはあの二人の事が未だにバレていないのだろう。
というか、バレてたらそれこそ新聞沙汰である。
俺も元3組のドタバタ面子とは言え、その程度は分かっているのだ。

いかん。脱線しすぎたな。
「…んじゃ、場所変えっか。いいよ田渕。俺一人でさ」

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さぁーて、今日も学校終わったし、川原にエロ本拾いでも行くかぁ。それとも公園に行ってサッカーにするかな。

ガー

お、本屋から出てきたのは…
「あっ、三女さん!!」
「今度は何の本買ったんスか?その大きさは…また雑誌っスね!?」

なんだか、前にもやったやり取りだ。いや、前回は俺の独り相撲だったんだが…。
「…やっぱエロっスか?エロなんですね?」
また俺の独り相撲になりそうな…。
「前も聞いたっスけど、一体いつもどうやって手に入れるんスか…?」
……また、透明人間になった気がして来た。

「だから、嫌われてんじゃね?」
いつも思うが、このイケメン様はもうちょっと人の心を学んだ方がいいんじゃねぇか?
バレンタインチョコを本当にいらなそうに寄こしたり、所かまわずふたばとイチャついたり。
世間様(?)じゃぁ、俺のいたずらが非道いみたいな論調もあるが、あのくらいは優しいもんだと思うぜ…?

おぉっと。訳の分からん事を考えてるうちに、三女さんがずいぶん先に。
えぇい、こうなったら意地だ。何としても三女さんに返事をさせてやるぜ!!
「三女さん、あそこで雌豚が拾い食いしてますよ!」
「三女さん、お荷物重そうですね。ランドセルお持ちしましょうか?」
「三女さん、あそこにスーパーの割引券が落ちてますよ!」
「三女さん、ガチレッドがあそこを歩いてますよ!!」
ゼイッ、ゼイッ…。
くそ、ことごとくスルーされたっ!なんという鉄壁のガード!!
「やっぱ、嫌われてんじゃね?」
うるせー!黙れイケメン!!
くそっ!まだまだ!!
「三女さ「先生」 うおっと」

やっと口を開いてくれたと思ったら、先生?
三女さんが挙動はそのままに、速度を上げたと思ったら、その先には…矢部っち。
「あ、ひとはちゃん。それに千葉君に佐藤君。みんなで一緒に下校かい?」
「先生は独り寂しく徒歩で帰宅なんですね。いい加減隣を歩いてくれる女性を見つけたらどうですか?
やっぱり、車の一台も所有できない甲斐性では、だれも相手にしてくれないんですかね。ご愁傷様です」
「いきなり非道い!ていうか、放っといてよ!」


「あれ?どうしたの千葉君。何だか顔色が悪いよ?大丈夫?」
……
「別に何でもねーよ!何にもねーんだよ!!放っといてくれ!!!」
自分でも、なんでこんなにイライラするのか分かんねー。
「うーん…そう?」
「そうだよ!」
矢部っちが本当に心配そうな顔で聞いてくる。
そんな相手に怒鳴ってしまうのは悪いとは思うけど、どうにも止められない。
「…うん。大丈夫なら良かった。でももし何かあったら、何でも相談してね。これでも一応、みんなの先生なんだから」
「一応って、自分が頼りない自覚はあったんですね」
「ひとはちゃん!!」
………!
「それじゃーな!!」
「あ、おい!千葉!」
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「それで、丸井さんの事なんだけど…」
「無理だからやめとけ」
「…まだ何も言ってないじゃないか……」
「何をやっても、何があっても、無理なんだよ。
だから、お前が何を聞いてきても返答は変わらない。
噂はくらいは聞いた事があんだろ?どんなイケメンでも玉砕してるって。
それとも、自分は特別だって、そう自惚れてるのか?」

確かにこいつはイケメンだ。穏やかそうなインテリってのは、三女さんと気が合うかもしれないし、
ポイントだって高いだろう。100点を出す女子だっているに違いない。
でも、100点を出しても、300点を出しても。頑張って10点や50点をさらに稼いでも。
1000000000000000000000点から見れば瑣末な事なんだよ。
いや、違う。きっとそもそも、そんなつもりで見てくれる事すらないんだろう。

だから、男の自己満足のために、優しい三女さんに辛い思いをさせないでくれよ。

「…………。
でも、僕は。
あの時、丸井さんが差し出してくれた手の温かさが忘れられないんだ。
僕だって、こんなに誰かを好きになったのは初めてなんだ!
だから、せめて一度だけ、自分の全力で頑張ってみたいんだ!!」

やれやれ、こいつもか。

そうなのだ。中3の頃からだろうか。
三女さんはたまに、男女関わらず人助けをするようになった。
さっき言った消えるスキルや、いたずらに使ってた気転を生かして、ちょっとした手助けをする事があるんだ。
おかげでこいつのように勘違いする男が量産されてしまっている。
まぁ、その代わりじゃないが、男を振りまくってても、女子連中から悪女扱いされないで済んでいるわけだが…。
(それに関しちゃ杉崎のおかげもあるんだろうが。)

…。そりゃ、当然理由を聞いたよ。だってそうだろ?昔の三女さんからは考えられない行動だし、
正直マイナス要因(って言っちゃあ、助けられた奴らには悪いんだけどよ)の方がでかいし。



―――うん。そうだね。『私』らしくないね。…でも、だから変わらなきゃって思ったんだ。
―――先生のパソコン。今の…、ううん。これまでの生徒達の事が、すごく細かく書かれてた。
―――先生は私にとって特別な、最初に居る人だけど、それはきっと特別な事じゃなかったんだと思う。
―――先生にとって、誰かを助けるっていうのは、誰かの幸せのために頑張るっていうのは当たり前の事なんだよ。
―――先生と一緒に居るには、『私』のままじゃふさわしくないんだって、そう思ったの。
―――先生みたいになりたい。いきなりは無理だけど、できる事からやってみようって、そう決めたんだ。
―――先生が、
―――先生へ、
―――先生を――――――――



俺は。

きっと、ただの登場人物Aで。
それはもう絶対に変えられないのだろうけれど。
それでも、その想いを語る横顔は、尊いと思ったんだ。

誰かに手を差し伸べて、それなのにこの娘が傷つくなんて、悲しい事だと思ったんだ。

だから、俺は。

「あのよ。あんまり詳しくは言えねぇ。
でも、三女さんには絶対に変わらないものがあって――」