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「おい矢部っち! これは一体どういうことだよ!?」

 小学6年生にしては背の高い少女は声を張り上げて、真正面に指を突きつけた。背後に小柄
な同級生を庇うように、仁王立ちしている
 その指が向けられているのは、ベッドの上で目を白黒させる担任教師・矢部智。彼は狼狽え
て、とりあえずこの場にいる冷静な第三者に訊ねる。
「ど、どういうことって……むしろ何で宮…さんがボクの部屋にいるの、ひとはちゃん? 一
緒に来たの?」
「いえ。今朝ここに来る途中、ばったりと遭遇したんです。先生の家に行くと話したら、訳の
判らないことを言って勝手についてきて……」
 宮下の背で、不本意そうな顔をするひとは。
 彼女の前に立つ宮下は正義感溢れる表情で矢部を睨み付け、
「とうぜんだろ! 三女が──その、変なことをされているのを見過ごせるか!」
「変なこと……?」
「とぼけるな! こんな部屋に三女を連れ込んで、え、エッチなこととかしてるんだろ! こ
の変態ロリコン教師!」
「してないから! ひとはちゃんは、ただ単にチクビ(※ハムスター)と遊びに来てるだけだ
よ!?」
「嘘つけ! この前だって、ハムスターを見せてやるって言って女の子を家に連れ込んだ男が、
女の子に猥褻行為をした事件があったからな。そんな言い訳は通用しないぞ!」
  ※ http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100914/crm1009142146044-n1.htm
「ボクはそんなことしないよ! ちょっと、ひとはちゃんもチクビを弄ってないで、何とか言
ってよ!」
「おことわりです」
 ひとははそう言ったきり、いつの間にやらケージから取り出したチクビを手のひらに載せ、
ベッドに腰掛けて遊びはじめるる。あまりに冷淡な彼女の反応に、宮下も少し冷静さを取り戻
す。
 矢部は溜息をついて、
「……ほら、ね。ひとはちゃんはボクなんかにぜんぜん用はなくて、単にチクビと遊びたいだ
けなんだから」
「むむ……けど、教え子の女の子を家に入れるってのはどうなんだ? しかも合い鍵まで渡し
て、ほとんど……か、通い妻状態じゃないか」
「か、通い妻……」
 思わぬ単語に、矢部は真っ赤になった。宮下の背後にいるひとはも同じように赤くなってい
るのにはまったく気付かずに、
「合い鍵は、ひとはちゃんに勝手に作られたんだよ。まぁボクも、女の子が部屋に来るのはど
うかと思うけど、来たいって言っているんなら仕方ないかなって……ひとはちゃんの家には猫
がいるから、ハムスターは飼えないし……」
「むむ……」
 宮下はしばし、考え込む。
 ちなみにひとはは、「合い鍵は勝手に作られた」のあたりでじゃっかんむすっとしていたが、
言い合いに夢中になっている矢部と宮下は気付かなかった。
「……そうだ! なら、良い方法があるぞ。チクビは私が預かってやるから、三女は私の家に
遊びに来るといい! なっ、三女? それなら安心だろ?」
「ああ、まぁ、それでも良いけど……ひぃっ! ひ、ひとはちゃん……?」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべる宮下の背後から、ひとはがものすごい表情で矢部を睨んで
いた。宮下を、ではない。その視線の矛先は、完全に矢部を向いている。
「あ、あの、ひとはちゃん? そんなに睨まなくても……」
「おい三女、何でそんなに怒っているんだよ? 良いだろ、あたしの家に遊びに来れば」
「……帰ります」
 ひとはは凶相のまま無言で立ち上がり、チクビをケージに戻す。そしてケージを片手に提げ
て、そのまますいっと部屋を出て行ってしまった。
 残されたふたりはしばし無言だったが、やがて宮下が口を開く。
「とにかく、来週からはあたしがチクビを預かるからな!」
「う、うん。まぁ、それでも良いけど……」
 宮下の勢いに押されて、矢部はうなずいた。内心で、(この子はまともだと思ってたけど、
ひとはちゃんたちとは別方向におかしいなぁ……)と思いながら。


  * * *

 翌週土曜日の早朝。
 チクビは宮下の宣言通り、彼女の家に預けられることとなった。久しぶりに一人きりの休日
──と思っていた矢部だったのだが、

「……何でひとはちゃんはうちにいるの? チクビはいないよ?」
「知ってますよ」

 矢部が上体を起こしているベッドのへりに、やはり今日もひとはの姿があった。
 いつもと違うのは、彼女の掌上に小動物がいないこと。彼女はホラー映画の幽霊少女そこの
けの表情で神経質に爪を噛み、愛しいハムスターの名前を呟いている。
「チクビ……チクビ……」
「もう……そんなにチクビがいいんなら、あの子の家に行けばいいじゃない」
「そんなことをするくらいなら、死んだ方がマシです。チクビを拉致して私を誘き寄せるなん
て宮本さんの奸計に、乗るわけにはいきません」
「そこまで強情にならなくても……宮本さん、いい人じゃないか。親切だし、ボクみたいな足
のくさいキモオタ童貞なんかよりずっといいでしょ?」
 矢部はベッドから脚を下ろしてひとはの隣に座り、自虐気味に言う。
 しかし返ってきた反応は、まるで簡単な計算問題が分からない生徒を見る教師のような目だ
った。
「あ、あの、ひとはちゃん。ボク、何か変なことを言った?」
「……別に。それとも先生は、私がいると邪魔ですか?」
「そ、そんなことはないよ。ひとはちゃんが邪魔だなんて」
「なら、しばらくここにいさせて下さい。チクビがいなくても、ここにいると落ち着くんです」
「そ、そう。まぁいいけど……」
 言いながらも、矢部は落ち着かない様子だった。
(参ったなぁ……)
 一つには、やはり女子児童が男性教師の部屋にいる、という状況。「ハムスターを連れ出し
に来た」、「ハムスターに会いに来た」のであればある程度言い訳が立つものの、口実もなし
に女の子を部屋にあげるのはまずい。それこそPTAあたりに知られたら、減俸やら配転やら
の処分を喰らってもおかしくはない。
 さらにもう一つ。矢部にとって、差し迫った理由があった。男性特有の生理現象、いわゆる
朝勃ちで、彼のウインナーは真っ赤に茹であがって膨らんでいたのだ。スボンごしにもシルエ
ットが判ってしまいそうになり、彼はさりげなく股間を押さえる。

 ところが、
「……別に私のことは気にせず、好きなことをしてくれて構いませんよ」
「えぇっ!? いやその、ボクは何も……」
「朝の処理、まだなんでしょう? どうぞ遠慮なくオナニーしてください。私には構わず。何
ならお手伝いしましょうか」
「で、できるわけないし、手伝ってくれなくてもいいよっ!! だ、だいいち女の子が、そうい
うこと言わないの!!」
 矢部は極めて常識的な対応をするが、とたんに「何を今さら」と鼻を鳴らされた。
「隠しても無駄ですよ。机の下に座ってちょっと見上げると、先生の股間が目の前にあるんで
すから。先生が職員室で勃起していることがあるのとか、教室でも宮下さんが近くにいるとき
勃起していることとか、ちゃんと知ってます。ご安心を」
「えぇっ!! いやそのボクは別に……」
「……だから宮下さんは嫌いなんです」
 最後の一言だけ聞こえないように小声で言うと、拗ねたように顔を逸らす。
 矢部はむーんと頭を掻き、何とか話題を逸らそうと必死に頭を働かせる。しばらく部屋の中
を彷徨っていた彼の目が、あるものを見つけて輝いた。
「そうだ、ひとはちゃん。せっかくだから、二人でどこかに出かけない? 駅前の映画館で、
ガチレンジャーの新作をやってるよ」
「!? むむむ……」
 矢部は枕元のファイルから、パンフレットを取り出す。ガチレンジャーの五人と怪人たちが、
格好良くポーズを決めていた。
「むぅふーっ」
 鼻息荒く、目を輝かせてパンフレットを凝視するひとは。しかし、
「……いえ、今日はやめておきましょう。たまにはこうして二人でいるのも、悪くはありませ
んし」
「そ、そう?」
(今日はずいぶん素直で可愛いなぁ……)
 小学校の教諭になったくらいだから、矢部も変な意味ではなしに子供好きだ。ひとはのよう
な可愛い子からそう言われて、嬉しくないわけがない。

「というわけで、せっかくの二人きりです。さっそくオナニーを見せ」
「いやだってば!! ていうかもうそのことは忘れてよ!!」

  * * *

「……三女が来ない」
「なぜだ! 三女はチクビに会うためなら、矢部っちの部屋にだっていくくらいなんだから、
絶対あたしの家に来るはずなのに……チクビに会いに来た三女と仲良くなる計画が……」
「ちー? ちちー」(何言ってんのかなこいつ? どーでもいいから餌ちょうだいよ)
「ああもう、ハムスターの世話って何をすればいいんだよ! 三女が来たら教えてもらうつも
りだったからぜんぜん聞いてないし、ど、どうしよう……?」
「ちー! ちー!」(もうひとはさんのところに返してよ!! このハムスター攫い!!)
「そうだ、チクビを連れて、三女の家に行ってみよう! もしかしたらあたしの家に来るのを
遠慮しているだけかも知れないからな! チクビを連れて行ってやれば、きっと三女も喜ぶは
ずだ!」

  * * *

「卵と……あ、お米も買っておかなくちゃ。後は豆腐と、わかめと……」
「思い出すものから順番に買っていては、日が暮れてしまいますよ。とりあえず店の中をぐる
っと一周するようにして、目についたものから買っていきましょう」
 二人はいま、近くにあるSADYの食料品売り場にいた。二人きりで過ごそう、といったも
のの、矢部にとって週末は数少ない買い出しの機会である。何より昼ご飯もまだだというのに、
いまの矢部の部屋には、ほとんど食料品が入っていない。出前でも取らなければ、ずっと空腹
を抱えたままになってしまう。
 矢部は気をきかせて、せっかくの二人きりだしたまには外に食べに行こうか、と提案したの
だが、これはあっさりと却下された。かわりに、
「私が作ります。買い出しついでに材料を買って、少し待っててもらえればすぐにご飯に出来
ますから。そのほうが安上がりですし」
 けっきょく二人は仲良く買い物に来たのだった。
 カートを押す矢部の隣をひとはが並んで歩き、購入品目を確認する。
「牛乳はどうしよう。ひとはちゃんも、飲む?」
「ええ。あればもらいます」
「それじゃ、入れておくね。後は……」
「あ、三女さん!!」
 ふいに聞き覚えがある声がして、ひとははびくっと背中をすくませた。

 振り返ると、
「あら、三女じゃないの。ついでに矢部っちも」
 眉毛の太い少女と、短い縦ロールの少女。二人とも、ひとはのクラスメイトだった。
「杉崎さんと……吉岡さん」
 ひとはは目に見えて動揺し、ちらちらと矢部のことを気にしながら、とりあえずぱっと頭に
浮かんだ疑問をぶつける。
「ど、どうしたの、こんなところで。何で杉崎さんがこんなスーパーなんかにいるの?」
 吉岡はともかく杉崎家はブルジョワだから、SADYの食料品売り場などに用はないはずだ。
彼女の家の冷蔵庫に高級食材がひしめいているのを、ひとははよく知っている。
 杉崎も何故か狼狽えて、
「べ、別に……そう、庶民の食べ物を見に来ただけよ!!」
「もう、隠さなくたっていいじゃない。前にみっちゃんの家で食べたチ○ルチョコのきなこ餅
味が気に入ったんだよね。今日は、箱で買いに来たんだって」
「ちっ、違っ……なに言ってるのよ吉岡!! ばらすんじゃないわよ!!」
「あはは……」
 吉岡が微笑み、ひとはも釣られて笑った。「みつばの家で食べたものが気に入った」というのが、杉崎としては隠しておきたいポイントだったようだ。
 すると今度は、話題の矛先がひとはに向けられる。
「ところで三女さんは、先生とお買い物?」
「う、うん。あのね、これはその……」
「へぇー。ま、せっかく水入らずなのに、お邪魔しちゃ悪いかしらね」
「べ、別にそんなことはないよ!! 先生となんて、一緒にいても苦痛なだけだよ!!」
「はいはい、ほんとに姉妹揃って素直じゃないんだから。それじゃ、ごゆっくり~」
「またね、三女さん! 応援してるから、頑張ってね!!」
 ひとはの抗弁に耳を貸さず、二人はお菓子売り場に向かっていった。
 あまりにも予想外の反応に、ひとはは呆然と立ちつくす。それを心配そうに眺め、
「どうしたの、ひとはちゃん?」
「いえ、何でもありません。気を取り直して、お買い物を──」
「お、三女さん」
 またも呼び止める声に、ひとはと矢部は振り向いた。
 キャップの糸目少年と、整った顔立ちの少年。こちらもクラスメイトの、千葉と佐藤だ。そ
れぞれ手にはスポーツドリンクを握っており、佐藤はボール入りのネットを肩に掛けていると
ころを見ると、これからサッカーでもしに行くのだろう。
 彼らは、ひとはが矢部と並んで立っていることに驚いた様子もなく、
「三女さん、どうしたんですか。矢部っちとお買い物ですか」
「ち、違うよ!! これはその、先生に連れ回されてっ……!!」
「あー、三女。それ以上言うと冗談にならなくなるし、別に言わなくても判ってるから気にす
るな。けど矢部っち、あんまりこういうところを見られると、やばいんじゃねーの? PTA
とかさ」
「そ……そう、かな?」
「ったく、矢部っちは大人なんだから自覚しろよ……バレてクビになったら、三女がかわいそ
うだろ」
「な……私は先生がクビになっても、なんとも思わないし……!!」
「やれやれ。それじゃ俺たちは見なかったことにするからな。ふたばも待ってることだし、行
こうぜ、イケメン」
「お、おう。つーかイケメンってのいい加減やめろって」
 二人はやいのいやいのと言いながら、足早にドリンク売り場に消えていった。
 残された二人は、しばし沈黙する。やがてひとはが、ぽつりと呟いた。
「……私、そんなに露骨ですか?」
「え? 何か言った、ひとはちゃん?」
「何でもありません。早く、お買い物を済ませましょう」

  * * *

「お、みつばじゃないか。邪魔するぞ」
「宮……なんだっけ。あんたがひとりでうちに来るなんて、珍しいわね」
「宮下だよ!! まったく、みつばといい三女といい……」
「ちーっ、ちーっ!!」(やった、ひとはさんの家だ!! ブタさん、ひとはさんを呼んで!!)
「ん? あんたの持ってるケージにいるの、ハムスター? へぇ、あんたハムスターなんて飼
ってたんだ」
「何を言ってるんだよ。これ、クラスで飼ってるチクビだぞ」
「え……? チクビはあの童貞が持ち帰ってるはずでしょ? 何であんたが持ってるの?」
「矢部っちが預かっていると、矢部っちの部屋に行った三女が何をされるか判ったもんじゃな
いからな! あたしが預かっておいてやったんだ! で、三女はいるか?」
「ひとはなら、朝からいないわよ。てっきりチクビに会いに行ったんだと思ってたんだけど」
「ちー、ちちちー……」(そんなぁ。ひとはさんに会えると思ってたのに……)
「なんだって!? 三女が矢部っちの部屋に……ああ、いつものくせで矢部っちの部屋に行っ
たんだな。仕方ない、あたしが矢部っちの部屋まで呼びにいってやろう」
「……ねぇ宮下、あんたいつか馬に蹴られて死ぬわよ」

  * * *

 ビニール袋をそれぞれ片手に提げ、矢部とひとははSADYからアパートへの帰途について
いた。
「買い物はこれだけかな」
「ええ。それだけあれば、お昼ご飯くらいなら作れます。コンビニのお弁当を食べるよりも、
よほど健康的ですよ」
「悪いね。買い物に付き合わせた上、お昼ご飯まで作ってもらっちゃうなんて」
「いえ、毎日やってますから、特に大変ではありません。それに……誰かのためにご飯を作る
のは、嫌いじゃありませんから」
「うーん、偉いなぁ」
 そんなことを話しながら、大通りから住宅街にさしかかったときだった。

「あの、少々よろしいですか?」

「えっ……」
 不意に、若い警官が話しかけてきた。左目の泣きぼくろ以外に特徴のない、平凡な顔立ちの
警官だった。
 目の前に突き出された警察手帳に、矢部の表情が少し引き締まる。
「ええと、何でしょう」
「どうも。さっそくですが、こちらのお嬢さんとはどういうご関係ですか」
「ええーと、あの……」
 矢部は一瞬、しょうじきに答えたものかどうか返答に詰まる。すると、
「兄妹です」
 そんな声とともに、不意にぎゅっと腕をつかまれた。振り向くと、ひとはが矢部の腕にしが
みついていた。
「ね、智お兄ちゃん」
「あ……うん」
 矢部もすぐに口三味線を弾き、
「この子はボクの妹です」
「あ、ご兄妹でしたか。ずいぶんお年の離れたご兄妹ですね」
 何故か警官は、矢部に親近感を持ったようだ。にこにこと笑顔で、
「こんな妹さんがいると、さぞ可愛いでしょう。本官にも、その子くらいの妹がいるから判り
ますよ。もう、毎日でも一緒にお風呂に入って、一緒のお布団で寝たいくらい……」
「は、はぁ」
 矢部は間抜けな返事をした。こっそりひとはの様子をうかがうと、こちらも「常軌を逸した
シスコンだよ」といわんばかりの顔で呆れている。
「本当にもう可愛くて可愛くて頬ずりしたいほどなんですけど、さいきん妹は恥ずかしがって、
嫌がるようになってきちゃったんですよ。でもその照れている様子がまた可愛くて抱きしめた
くなると言うかなんというか、まぁその子くらい素直な子も、それはそれで可愛いでしょうけ
ど……」
「は、はぁ……あの、もう行っていいですか?」
 末期シスコン患者ののろけ長広舌に、さしもの矢部もドン引きだ。
「え……あ、失礼。ちょっと愛梨の可愛さを思いだしていたものですから。御手数を掛けて申
し訳ありませんでした」
「いえいえ。お役目ご苦労様です」
「ありがとうございます。ああ、最後に、ご職業とお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
 ややトリップ気味だった警官は、それでも職務を思い出したように訊ねる。
 矢部は一瞬狼狽えたが、
「矢部です。矢部智。近くの小学校で、教師をしています」
「ええと……ひょっとして、鴨橋ですか? 実は本官の妹も通っているんですけど」
「ええ」
「そうですか、いやぁ世間は狭いですね。そちらの妹さんのお名前は……」
「ひとはです。矢部ひとは」
 何気なく矢部が答えると、背後のひとはは真っ赤になった。むろん、警官に注意が向いてい
る矢部は気付いていなかったが。