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ガチャン。

「……こんばんわ」
不意に矢部宅に訪れたひとはは、露出度の高いサンタの衣装を身にまとっていた。
「あぁ、ひとはちゃん?いらっしゃ……って何その格好?!」
「えぇ。……ちょっと杉崎さんの家でクリスマスパーティーをやっていまして……そこで着せられました」
「あ、あぁ、そういう事なんだ……。でも、寒かったんじゃない?そんな格好じゃ」
「はい。だから、ちょっと暖まろうかと思いまして」スタスタ
「うん、どう……」
どうぞと言う前には既にひとはは上がり込み、部屋に置いてあるストーブの前にいた。
「そうだ。ホットココアでもいれようか?」
「……お願いします」
カチッ、カチッ、シュボッ。
ガサッ、ガサッ。カチャン。
台所から、ガスコンロを点ける音や、袋を開ける音、食器が擦れる音が聞こえてくる。
「ハァー」
その音を聞きながら、両手に向けて、息を吹きかけ摺り合わせる。
「チー」
すると、チクビが鳴き声をあげて、膝の上に乗ってきた。
「チクビ……」
呼びかけに反応するようにチクビはまた短く鳴く。
「そうそう、さっきまでチクビもストーブにあたってたから、踏まないように気をつけてね」
台所から矢部の声が聞こえる。
それを聞いて、だからカゴから出ているのか、と納得した。
撫でてやると、チクビは気持ちよさそうに目を細めた。
「よしよし……」
自然とひとはの顔も綻ぶ。それにしても……
「クリスマス・イブにチクビと二人きりなんて、先生も寂しい人ですね」
「ぐっ、ほ、ほっといてよっ!!」
台所から矢部の叫び声が聞こえてきた。
「栗山先生でも誘わなかったんですか?」
「うぅぅ……」
今度は矢部の泣き声が聞こえてきた。
言い過ぎたかな、とひとはは少し反省する。
「まぁ、元気出して下さい」
「うぅ、なんか貶された後だと、素直にありがとうと言えないけど……はい、ひとはちゃん」
「あ……ありがとう、ございます……」
台所から来たひとはに湯気の立っているマグカップが渡される。
ふーっ、ふーっと熱を冷ましながら、ひとはは少しずつすすった。
「……美味しい、と思います」
「ほんと?まぁ、安物のココアなんだけどね。でも、料理上手なひとはちゃんから言われると何か嬉しいなぁ」
矢部からそう言われて、ひとはは少し俯いた。
「……」
「……あ、外寒いねぇ」
「あ、はい。そうですね……」
「……」
「……」
ズズッ。
ひとははココアをすする。
チクビが膝の上で鳴いている。
矢部はテレビを点けて、たまたまあっていた漫才番組ボーっと眺めている。

「……先生、」
「ん?どうしたの、ひとはちゃん?」
「……あの、迷惑、じゃないですか?」
「え?」
「いえ……いつも勝手に上がり込んだりしてるので……その……」
「あぁ……まぁ、プライベートがないなーとはたまに思うけど、大丈夫だよ。てゆうか、ひとはちゃんもそんな事思うんだね」
「えぇ、ふと思いまして……あ」
「ん?どうしたの?……あ」
窓から外を見ると、白い粒がゆらゆらと地上に舞い降りていた。
「わー、ホワイトクリスマスだねー。……うぅぅっ」
「」
自分の境遇を嘆いてか、また矢部は泣き始める。
それを見て、ひとははため息をついた。
「矢部せんせい、一人が寂しいなら、友達でも呼んだらよかったじゃないですか」
「うぅっ、そうは言ってもクリスマスに暇してる友達なんてなかなかいないんだよ~」
涙混じりに矢部は体操座りで膝に顔を埋めた。
ひとはは、またため息をつき、それからポツリと呟いた。
「……いるじゃないですか」
「え?」
矢部が顔を上げる。
「……ここに、いるじゃないですか」
「……え?ひ、ひとはちゃん……?」
ひとはの顔は真っ赤だった。それはきっと、ストーブのせいだろう。
「先生は、私の最初の友達ですよ……?」
「あ……」
始業式に自分が言った言葉が頭をよぎる。
生徒からのその言葉に矢部は再び泣き出した。
「今日は先生の気の済むまでいてあげますよ」
「うぅっ、ありがとうひとはちゃん」
「いえいえ」
そう言ってひとはは、矢部の頭をなでてあげた。

(今はここまでだけど、私が大きくなった時は……その時は、)


~Merry Christmas~