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十二月に入り、街はどんどん煌びやかになっていき、自然とクリスマスムードに包まれる。
少し派手な装いも多いが、それでも私はこの時期が好きだった。
十月の終わりの頃から既にクリスマス商戦のスーパーには若干辟易したが、
結局はそんなことを繰り返しながら盛り上がっていく。
そうしてクリスマスは特別な日なんだと思うようになる。
特別な日を特別な人と過ごすこと。家族と過ごすこと。
…好きな人と過ごすこと。
その日をどのように過ごすのであれ、この空気が何らかの感慨を与えるのは間違いない。

だから、毎年変わらぬ人混みが、いつもと変わらぬ光景が、やけに違って見えるのもきっと、クリスマスのせいなのだ。

やけにチラつく恋人たちを視界に捉えながら、何のためかも分からない言い訳をしていた。


―――――――――――――
十日。十二月も中ごろに入り、ツリーやシャンパン、ケーキの宣伝が増えてきた。
街並みはとても綺麗に染まり、私を塗りつぶす。
毎日通る道で、楽しげな男女という日常が私を澱んだ気分にさせる。

―――私は。



―――――――――――――

二十日。早いもので今週で今年の登校日も終わり、もうすぐ冬休みだ。
つまり、教室に居るチクビと会えなくなる。
先生の家に行けばいいのだが、私たちが休みだからといって先生まで休みになるわけではない。
流石に主の居ない部屋に入るのは躊躇ってしまう。

だから必然的に……会えなくなる。
そのことがとても寂しくて。
クラスのみんなが冬休み前で浮かれている中、私は一人だけ沈んでいた。

そしてこの朴念仁は、そんなことを見逃すような人ではなかった。

「ひとはちゃん、どうしたの?」
「先生…」
「ひぃっ、一体なんでそんな暗いの?」
「分からないんですか?」
「うーん…思いつくのは、チクビに会えなくなるから、かな」
「…分かってる、じゃないですか」
「へ?う、うん」

そのものズバリを言われた割りに、私にはそれがどうしても物足りない。
それが何なのかもう分かっているけれど、私はその気持ちを押しつぶす。
心にもやがかかる。それでも私は、心の中にしまっておきたい気持ちだと判断した。

帰り道、浮かれている街並みが。手と手が。酷く私に突き刺さった。

―――――――――――――

二十三日。今日は祝日。先生は部屋に居る。
早朝の凍える空気を体に受けながら、それでも私の足取りは軽やかで。
二人きり。その事実が押しつぶしていたものを膨れ上がらせる。

ガチャ

「先生、来ましたよ」
「おはよう、ひとはちゃん。寒かったでしょう」
「…はい、おはようございます」

私はチクビに会いに来ているのだ。これまでそうだった。チクビにおはようを伝えて、それから先生に。
でも、やっぱりそれだけじゃない。それだけじゃないのだ。私は、二人きりで先生に会えてとても嬉しい。
簡単なことなのだ。
澱んだ気分も。突き刺さった街並みも。全部、私がそれを認めなかったからだ。


――街並みが羨ましかったから。


恋人たちを目で追いかけて。
先生の顔ばかりを思い描いて。
今は繋げない自分の手を眺めて。

それを押し込んで。

そして押し込んでいた気持ちが先生に会えた嬉しさに、真っ先に、私が来たことを伝えさせた。
そして返ってきた言葉が、たったあれだけの言葉が、先生と一緒に居ることを私に染み渡らせ。

どうしようもないものだ。これはどうにもならない気持ちだ。私は、先生が、

「…?ひとはちゃん、どうしたの?入っておいでよ」

…今はまだ伝えても通じない気持ち。だから伝えない。
でも、なかったことにするのは止めよう。無くしちゃうのは止めよう。
会えない日もあるし、手だって繋げない。
不満はある。それでも、寂しい不安はない。
自分の気持ちを理解して、だからこそ得られる先生の側。今はこれだけで、少し前よりもずっと晴れやかだ。

「おーい」

考え事をする時間もくれない。…人の部屋に来てぼうっとしている私も問題だが、私にだって色々あるのだ。

「あ、はい。今入ります」
「うん」

まったりと過ごす時間。毎週のことだけれど、今日はいつも以上に穏やかだ。そしてそんな時に限ってこの朴念仁は。

「そういえば」
「なんですか?」
「明日はもうイヴだねー」
「そうですね、唐突に思い浮かぶなんて、彼女が出来て予定アリの自慢ですか?」
「そう!実は僕にも!」
「っ!?」
「あれっ、何その反応」

…このタイミングで、こんな冗談を…全く笑えない。

「…。誰も騙されてくれない冗談だったでしょうから、驚いてあげたんです」
「えぇー、なんで誰もって…」
「じゃ、できたんですか?明日の夜はキメるんですか?デートプランとかは?」
「え、えーっと、それは今から考えるよ!」
「どう考えても彼女居る人のそれじゃないですね。
童貞の癖に初彼女!の時にデートプランを前日に考えるとかありえないじゃないですか」
「う、うぅぅ…」
「どうせ冗談を言うなら、私を笑わせる方向でお願いします」
「んー、じゃあ明日は二人で過ごそう!」
「!?!????」
「え、何その反応」

絶対に顔が赤い。冗談だって分かってる。でも先生はその意味に気づかない。
笑えないのは同じだ。同じなんだけど…顔が…しまらない。

「…あれ?ひとはちゃん、頬が赤いね。やっぱり外は寒かったんだねー。何か暖かい物、入れようか」
「お、お願いします…!」

鈍すぎる。童貞のままだというのも頷ける。というか、こじらせすぎだと思う。
どうせ彼女もいないことだし、私にも都合がいいので、しばらくは鈍いままでいてもらおう。

彼女…自分で考えておいて何だが、今月のとても羨ましかった光景がフラッシュバックする。
どうせいい雰囲気の女性もいないだろうし、さっきの仕返しに少し弄っておこう。

「はい、お茶」
「ありがとうございます。時に先生」
「なにかな?」
「先生は明日のよt「仕事だよ」
「次の日土曜でs「仕事だよ」
「じゃ、ロンリーイヴですね」
「さっきの冗談って分かってたでしょ!それに僕には教職と言う立派なお仕事があるんだ!頑張るよ!」

分かりやすい…。

「でも夜は何にもないですよね」
「う、うぅぅ…ぼ、ボクだって一緒に過ごしてくれる人が居て欲しいよ!」
「イヴはそういう人たちいっぱいですもんね」
「そうだよ!学校からの帰り道にだって居るし、ていうかイヴだけじゃなくて今でも普通にいるし!」
「ただでさえ寂しいのに、イヴは殊更寂しい夜になりそうですね」
「いいじゃない!ほっといてよ!」

別に私は恋人じゃない。けれど、それでも。

「そうですか、先生は部屋に居るんですね」
「そーだってば!」
「じゃ、私がチクビに会いに来るのは何の問題もないですよね」

土曜にはもう冬休みだ。だからチクビは先生の部屋に居る。

「…え?」
「呆けないでください。明日はイヴです。大切な存在と過ごしたいと思うのは普通ですよね」
「え、う、うん」
「だったら私はチクビと過ごすのが普通ですよね」
「え、でも家族の人とだって…」
「それは朝だって昼だって構わないわけです。というか、泊まるわけじゃないんですから、夜更けでもいいんです」

ふたばはサンタさん目当てに間違いなく寝ているが。それに聖夜なんだから、本来は夜のはずだけど。
けれどそれは毎年してる。毎日できる。特別な日ならば…少しぐらい、外れちゃってもいいんじゃないかな。

「それとも、泊まって欲しいんですか?」
「ひひひひひ、ひとはちゃん!何言ってんの!」
「くす、さすがに冗談です」
「もー、心臓に悪いよ。それに女の子が軽々しくそんなこと言っちゃ…」
「あ、泊まるのは冗談ですけど、チクビには会いに来ますよ?」
「えええ!?」
「だから先生。私以外の予定、入れないで下さい」
「うぅぅ…分かったよ…どうせ独りだし…」

半分殺し文句のつもりで言ったのだが、全然伝わらない。さすがというべきか、私が全く相手にされてないというべきか…。
むぅ、なんだか気分が悪い。でも折角なんだから…。

「ふぅ、特別な日ですから、せめて料理は作ってあげます」
「え、いいの?」
「はい。ただ、家の分も用意しないとだから、余り期待されても困りますけど…」
「あはは、ひとはちゃんは料理上手だから、楽しみだなー」

聞いちゃいない。無論楽しみにしてもらえるのは嬉しいのだが…。うん、嬉しい。嬉しいからいいか。
どうせ明日のお昼は暇だ。私の料理を楽しみにしてくれるなら、それでいいんじゃないか。明日が今から楽しみだ。


――――――――――――――――

イヴ。お昼は部屋に先生は居ないので、きちんと許可を貰っておいた。先生は仕事があるため、そんなに早くは帰れない。
もう家のご飯は済ませてきた。みっちゃんはニヤけながら送り出してくれ、ふたばはちょっと寂しそうだった。パパは仕事。
後顧の憂いは全くないわけだ。そのため、私はこれから全力をだしても問題ない。
こうして男の人ためだけに料理を振舞うのは初めてだ。先生、喜んでくれるかな…。
とんでもない乙女チックな自分に若干戸惑いながら、それでも浮かんでくるのは先生の嬉しそうな顔だった。

ちょっと作りすぎたかな…?まぁイヴだしいいか。
それにしても料理を作って男の人の帰りを待つなんて、どんな、か、か、彼女…なんだろう。
多分先生、そんなこと絶対思ってないけど…。ふぅ…。

ガチャ

あ、先生かな。

「っと。いい匂い」
「はい、お帰りなさい」
「あ、えっと…。ただいま!」

…?若干挙動不審だ。どうしたんだろう?

「とりあえず料理、出来てますよ。一緒に楽しみましょう」
「うん…。あぁー、うん、その、これ、はい」
「…?なんですかこれ?」
「く、クリマスプレゼント!」

あ、かんでる。ていうか私相手になんでこんなに緊張してるんだろう?
それよりも…。

「えっと…私に?」
「うん、そ、そう!」
「…ありがとうございます」

…嬉しい。先生からのプレゼントだ。

「開けても…?」
「うん」

ゴソゴソ

「写真立て…?」
「そうだよ」

これはそういうことだろうか。私と先生の…。いやいや、先生に限ってそれはありえないから…。

「えっと…」
「ひとはちゃん、最初の頃に比べて皆と一緒に居るようになったでしょ。友達と撮る写真もあるだろうし、ね」

あ…。

この人は本当に私のことを良く見ている。
友達と呼べる存在が居なかった私にとって、クラスの人たちと撮る写真は集合写真ぐらいだった。
それが今では、先生のおかげで…友達ができた。
…本当に、この人は…。どうしようもなく私の中で存在が大きくなる。

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
「うん、そうしてくれると嬉しいかな」
「そういえばさっき若干挙動不審だったのって」
「あ、あはは!うん、いいんじゃないかな!それよりひとはちゃんの料理食べたいよ。僕この匂いでお腹ぺこぺこだよ!」

ものすごく誤魔化された。一体何があったんだろうか。
でもまぁ、私もお腹が空いてきたし、この提案には乗っておこう。
先生からのプレゼントを抱きしめながら、私の心はイヴを二人で過ごす楽しみで溢れていた。
いつか絶対にこれを日常にしたい。そんな願いを込めながら。

…Merry X'mas.