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よくある話。本当にありふれていて、どこかで聞く話。
女の子が、担任を好きになる、それだけの話。
そして、結末も。

年齢があるから叶わない。現実を見て叶わない。
――――先生に恋人がいて叶わない。
一つの恋の終わりを捉えながら、それでも私は後悔はしていなかった。
ただ、今にも泣きそうな私を誤魔化して。



―――――――――
先生は鈍感だ。これはもう間違いない。私の感情にずっと気づかなかった。
6年生の時からずっとだ。私が高校生になるまで気づいていなかったのだ。
ずっとずっと、先生の部屋に通い続けて。
そのうち先生のご飯も作るようになって。
お掃除もして。何気なく体を寄せながら。
それでも先生は、私の恋慕を確信に変えられなかったらしい。一体女の子をなんだと思っているんだろう…。
それよりも、気づいていたことがある。

女の子が買いそうな小物があること。

私が贈ったものじゃない。置いた覚えもない。趣味は似ているが、やっぱり私が用意した覚えのないもの。
これは一体何なのか。怖くて怖くて聞けなかったそれを、彼女になった今、私は思い切って聞いてみた。

「あ、それねー、生徒からもらったんだよー」

……。この人は……。変わってない。とっても優しい先生で、男の、先生。
だからこそ今の私が居て、先生の彼女になったのだ。
そして、やっぱり性質が悪いのだ。女の子の気持ちに気づかないから。
きっとこの人は、ただくれただけだよ、と言うのだろう。本気でそう思っているだろう。
誰が好き好んでただの先生に物を贈ったりするだろうか。少しだけ自分の主張を入れたりするだろうか。

私〈恋した女の子〉が居る。この贈り物には、私が居るのだ。昔の、淡く先生を好きだった私が。

私は、私の幸運に感謝しながら、それでも単なる偶然に目が眩む。
私が最初だからココに居るのだ。居ることができたのだ。
ただ、先に出会えていたから。最初の生徒だったから。たったそれだけのことで。
もし逆だったら?淡く恋をし、その後も思い続け、それなのに、先生に恋人が居たら?
順番が逆なだけで…叶わないもの。

私はきっと、耐えられない。だからこそ。私は、贈り物をした女の子〈昔の私〉に謝った。
あなたの想いは、叶わないのだと。今ならば淡いままで終われるのだと。

――私が切り捨てるから。


――――――――――――

「はい先生これどうぞ」
「えっと、どうしたのこれ…?」
「今日は遠足の日だって言ってましたよね?だからお弁当準備して持って来ました」
「ええ!これひとはちゃんが作ってくれたの!?女の子の手作り弁当なんてほんとに存在したんだ…」
「何か物凄く悲壮な響きが聞こえてきたんですけど…」
「だってこんなの初めてもらったし!」
「そ、そうですか…」

なんにせよ物凄く喜んでくれたらしい。
目的が目的なだけに後ろめたいことはあるが、そもそも先生に手料理を出したいのも本音だ。
それに、彼氏にお弁当を作るなんて…うん…。むふぅ…。

「?ひとはちゃん、どうかしたの?」
「はっ、な、なんでもありません、なんでも…!」

思わず浸っていた自分を誤魔化す。少し恥ずかしい。

「そういえば今日平日なんだけど…ひとはちゃん、わざわざ…?」
「…はい」
「そっか、うん、すごく嬉しい。ありがとう」
「そこまで喜んでくれると作り甲斐もあります」

ごめんなさい…。

「じゃ、行こうかひとはちゃん」
「あ、そうですね。私も遅刻したくないですから、行きましょうか」



――――――――――――
「お弁当、どうでしたか?」
「うん、とってもおいしかったよ!」
「…良かった、です」
「あはは、すっごく茶化されたけどねー。なんか僕、彼女ナシだと思われてたみたい…毎年のことだけど」

でしょうね。先生は変わってないですから。でも、確かめないと。

「みんな驚いていました?」
「うん、かなりね」
「そのあともきちんと遠足は無事に終わりましたか?」
「えっと、あー…しんどそうな子がいたけど…何かあったの?」
「いえ、何も…」

私という存在の主張。
きっと、これだけで。

淡く埋まり、根を這わせ、芽を出して、けれど花を咲かせることなく。一つの恋が終わったのだろう。
自身の幻影を捉えながら、それを私は見ぬ振りをして。
今にも泣き出しそうな自分を理解しながら、笑顔を張り付かせた。



―――――――――――

いつも以上の疲労を感じながら帰宅する。きっと早起きをしてお弁当を作ったせいだ。
そう自分に言い聞かせながら、部屋に入る。

「ひと、何かあったっスか?」

…いきなり分かったんだろうか。一先ず誤魔化してみよう。

「何もないけど…?」
「泣きそうな顔しながら帰ってきておいて何もないって笑えないっスよ?」

さすがふたば…。伊達に一緒に暮らしてない。こうなると隠すだけ無駄なのだろう。それにふたばであれば…。

「ん…先ずはご飯にしよう?」
「そうっスね。じゃあその後で」


――――――――――――
「んで、どうしたっスか?」

食後。私たちの部屋。少し早めに食事を切り上げてふたばに相談する。

「あのね…」

私は何があって何を思ったかを語る。
私が先生の彼女であること。単なる偶然に過ぎないこと。
幼い私。見てみぬ振りをする私。切り捨てようとする私。
…また泣きそうになってきた。

「んー…病んでるっスねぇ…」
「自分でもそう思う…」

否定しようがない。

「まぁ…小生から言えることは、気にしすぎってことっスね」
「え、軽…」
「ねぇ、ひと、小生の相手、だーれだ?」

言うまでもない、しんちゃんだ。
……。あぁ…そうか…ふたばは…。

「そう。しんちゃんが人気者だから、そんなの一々相手にしてたらもたないの。
ほんとに最初の頃は気にもしてなかったんだけど、男の子として好きになって。
しんちゃんを想っている他の子がいることを気にしだして、それでもしんちゃんと付き合って。
でもひとはと同じように、それって偶然だけなのかな、他の子が小生の立場だったらどうだったのかなって思い始めたから…」

私と同じ悩みだ。ふたばは…もう通り越していたんだね…。

「だから、素直に言ったの。
小生が最初じゃなかったら?とかもっと別の立場にいたら?とか。
そんな不安全部。そうやって話したら、どうでもよくなって…」
「どうして?」
「それはいくらひとはでも教えてあげられないっス。しんちゃんには、小生だけの大切な言葉を言ってもらったから。
……交換ならいいっスよ?」

…ぐ。それはつまり先生にも自分の不安を言えと…。

「矢部っちなら多分、しんちゃんとは別の答えが返ってきそうだし、ちょっと聞いてみたいっス」

うぅぅ…なんという余裕。ちょっと…いや、かなり羨ましい。
考えてみれば、しんちゃん相手だと私の比ではないぐらい、多くの女の子の影が見えるのだろう。
それでも余裕でいられるふたば。私にも、そんな余裕が欲しい。

「うん…私も話してみるよ」
「それが一番っス。悩んだ時はその相手に伝えるのが一番!」

私は相談することのできる姉がいる偶然に感謝した。

ガチャ

「あんたたち、何の話してんの?」

あ、みっちゃん。…くす。

「みっちゃんにはまだ早いっス」
「まだ早いね」
「ちょっとコラー!!」


――――――――――――

「先生」
「ん?どうしたの、ひとはちゃん」

不安だとか嫉妬、もしもの話。私は押しつぶされそうになりながら、それでもやっぱり先生と話すことにした。

「聞いて欲しいことがあるんです」
「なんだろ?」
「私の、不安だとか、狭量です…」
「…うん、聞かせて欲しいかな」

あぁ、ひょっとしたら気づいていたのかもしれない。私が不安定なことに。
月のお客さんのこともあるから、女の子は難しい時もある。あえて聞かない時もある。
……ワガママを言えば聞いて欲しいんだけれど。それよりも。

「…私は偶然、先生に出会えたんです。そして好きになったんです。
それは最初だったから、一番が私だったから今、先生の隣に居れます。
けど、そうじゃなかったら…?私が好きになるよりも先に先生に恋人が居て、私が隣に居られなかったら…そんなことを…」
「んー…僕にそんな人はいなかったから…」
「そうです、そうなんですよ。全部私の妄想です。仮定の話なんです。
それでも、私は先生を好きになって、なのに叶わなかったと思ったら、私は、私は…」

この前の女の子。彼女は叶わない恋だった。それが幼い私であったなら。

「ごめんね、どうしても想像つかないや」
「…え?」
「もうひとはちゃんの居ない生活なんて考えつかないし、他の人が好きな僕も想像つかない。
一番だとかそうじゃなかったらだとかで、順番なんて考えられないかな」
「えっと…」
「それぐらい、僕はひとはちゃんが好きだし、ずっとひとはちゃんと居たいんだよ」

…ず、ずるい…!答えになっていないのに…!あぁ、でもふたばの言ってたことがよく分かる。
仮定に仮定を重ねた私の不安は、先生の言葉だけで消え去っていく。
これは私だけへの言葉だ。他の誰にも譲れない、先生の大切な気持ちだ。私の心をとても温かくする―――。

事実なのだ。私が先生の一番であることが。どうしようもなく現実で、だからこそ彼女の花は咲くことができない。
あの女の子が私であったなら。諦めるしかない、奪うしかない。非情でも、それだけしかない。
幼かった私は、どうしようもなく幸運だった。ありふれた話で、どこかで聞く話。
私は、一番に先生に会えて良かった。ただそれだけでいいのだ。その幸運に感謝すればいいのだ。

「…って言っても、逆にひとはちゃんにとって僕でいいのかなーってのは若干…」
「もう、何度目ですかそれ。私には最初から先生しか見えていませんよ?」
「いや、やっぱりひとはちゃんって、可愛いからさ…」

っ!うぅ…やっぱり好きな人にそう言ってもらえると嬉しい…。
もう何度か言われているが、やっぱり先生から言われるのは特別。
それに、あぁ、先生が自分でいいのかと言っていた理由もよく分かった。
やっぱり不安なのだ。相手が良く見えるとその分だけ、他の人も同じように見ていると思うから。
きっと色々な人に思われている中で、なんで自分なのか?自分が選ばれたのか。そう考えてしまうからなんだろう。

「くす、私は先生にそうやって想っていてもらえれば充分です」
「あ、あはは…」

ふぅ…私にも少し余裕が出てきた。
そうだ、こうして彼女として居られる時間を、先生を想いながら過ごしていこう。
私をこんなにも好きで居てくれるのだから。

「そういえばひとはちゃん、なんでそんな風に不安になったの?」
「…このプレゼント」
「えっと、それがどうかしたのかな?」
「……」

余りにも野暮なことを言いそうになった私は慌てて別の言葉を紡ぐ。

「なんとなく、女の影がしたからです」
「あはは、そんなわけないよー。僕がもてないのだって知ってるでしょ」

うわぁ…。うわぁ…。ちょっとこれは…自覚させないと不味いかな…。
というか、これはもう私にも責任がある気がしてきた。なんとかしてみよう。

「…先生、私、もてるんです」
「えっ!あ、あぁうん!そうだよね!うんうん!」

焦ってる…。

「で、ですね、先生」
「な、なにかな!」
「先生は、そんな私が好きになるような人なんです」
「うっ…」
「つまりですね、先生はそれぐらい魅力的なんです。素敵なんです」
「え、えーっと…」
「あんまりそのままでいると、他の子が本当に寄ってくるんです。もうちょっと自覚してください。
でないと、先生を好きになった女の子が可哀想…」
「うぅぅぅ…だってホントにそんなイベントなかったからさー!」
「じゃあ私は全然ダメな人と付き合ってるんですか?そんなこと、本気で思ってますか?」
「いや、そんなことは…」
「ちゃんと自分のいいところを理解して女の子に接してください。勘違いされますよ?
それに小学生だから~ってのはナシです。目の前に実例がいるんですから」
「はい…」

少しは自重して欲しい。と言ってもあんまり改善しそうにないんだけどね。
やっぱり私の相手だって主張できるものを。…今度考えておこう。


――――――――――――

「あ、ひと、おかえり」
「ただいま」
「大丈夫みたいっスね!」
「…ん。ありがと」
「別にいーっス。…そいでぇ、どんなこと言ってもらったっスか?」

!!?

「な、ないしょ」
「ふっふー、やっぱそういう気持ちになったっスね。よく分かるっス」

全く…。しばらく敵わないかな…。

「ねー、あんたたち、何の話してんの」
「「みっちゃんにはまだ早いよ」」
「またかー!!」



おしまい