「むふー」
「……ちょっと、ひとは。まだ買う気?」
デパートの小さな本屋。その特撮コーナーに私とひとはは居た。
一緒に来ていたパパとふたばは今ゲームセンターで遊んでいる。
今日は、なんでもパパにボーナスが入ったらしく、珍しく好きな物を一つ、買ってくれるらしい。
私は後から服を買ってもらう予定だ。
ふたばは特に欲しいモノがなかったから、ゲームセンターで遊んでいる。
そして、ひとはは、本屋で今まさに何を買うか迷っているみたいだった。
「みっちゃん……どっちがいいと思う?この『大解剖!!これがガチレンジャーだ!!』か『ガチレンジャー・怪人大図鑑』なんだけど……」
「知らないわよっ!!ていうか、早くしなさいよねっ!!私は早く服を見に行きたいんだからっ!!」
「むっ。じゃあ、行ってくればいいのに……」
「離れたら迷子になるじゃないっ!!この年になって迷子はいやよっ!」
「じゃあ、迷い豚ならいいの?」
「そうね。それならいいブヒーって、くらっ!!」
「ノリツッコミ下手だね」
「余計なお世話よっ!早く選びなさいよっ!」
「うんっ……」
ひとはは本に視線を戻す。
全く、そんなにあの本が欲しいのかしら?
いつも、そんなに悩まないで買うのに……。
そういえば……たまに、ひとはとは買い物に行くが悩んでいる姿は見たこと無い。
……よっぽど欲しいのかしら?
ひとははまだ悩んでいる。
最近の幼児向けの本は高いらしく、ひとはの予算的に一冊が限度だった。
「ガチレンジャーが好きなんだから、ガチレンジャーが載ってる方を買えばいいじゃない?」
「はぁ。わかってないなぁ。みっちゃんは。怪人だってガチレンジャーに出てるんだよ。しかも、レッドやピンクやブラックからパンチを受けて、その身体にガチレンジャーの証を刻まれているんだよ?羨ましいよ……」
そう語って、ひとはは光芒とした顔をする。
「……そう」
妹の新たな一面を見たみたいで、私は青くなった。
「……でも」
ひとはが口を開き、怪人大図鑑の方を棚に直す。
「やっぱりガチレンジャーが載ってる方を買うべきだよね」
悲しそうな顔で、ひとははレジに向かっていった。
どうやら、よっぽど欲しいらしい。
(……あぁもうっ!しょうがないわねっ!!)
私は走り出す。行く先はパパのいるゲームセンターだ。
ゲームセンターは同じ階にある。
ブティック店の角を曲がって、時計屋さんの角を曲がり、雑貨屋さんを通過すると、もう着いた。
パパとふたばは目立つので、早く見つけることが出来た。
「おぉ、なんだ。みつば。そんなに息切らして」
パパとふたばはパンチゲームをしていた。
「パパ、その、私の分のお金ちょうだい」
「お金?もう買ってくるのか?ひとははもう買ったか?」
「まだよっ、その……今から買うのっ!」
「そうなのか?まぁ、あまり遣いすぎるなよ」
パパは財布から英世を二枚取り出す。
「ほら」
「ありがと、パパっ」
お金を受け取って、また私は走った。
バキィッ!!
……背後から物凄い音がしたけど、気にしない。
……急いで戻ると、本屋の前で本を胸に抱いて、ひとはが立っていた。
「あ、みっちゃん、どこ行って……」
その言葉を無視して、私は特撮コーナーに向かう。
えぇと、さっきの怪人大図鑑は……あった!
一つ隙間の空いた、本棚にあるその本を掴み、レジに向かう。
全く、この私がこんな幼稚な本を買うなんてっ!
店員が値段を読み上げているのを聞いて、私はさっき貰ったお札を差し出す。
「ありがとうございましたー」
……清算を済ませて、私はひとはの居た所にまた戻った。
「んっ」
押しつけるようにひとはに買ってきた本を渡す。
「え?」
ひとはは驚いて、押しつけられている物を手に取る。
封を開いて、中身を見ると、ひとはは更に驚いていた。
「これ……どうしたの?」
「買ったのよっ、見ればわかるでしょ?」
「で、でも……これ、もしかして、みっちゃんが買う分の……」
「うるさいわねっ、私がいいって言ってるんだからいいの!ほら、行くわよっ!」
私は背中を向けて、パパとふたばのいるゲームセンターに向かう。
「あ、あの……みっちゃん」
「……なによ?」
歩きながら、話しかけてきたひとはに私は返事をする。
「……ありがとう」
そう言ったひとはをチラッと見ると、大事そうに本を抱えていた。
欲しい服は買えなかったけど……
(まぁ、たまには悪くないわね……)
不思議と、私はそう思えたのだった。
~おわり~
最終更新:2011年04月09日 00:37