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――――――――――


「THE・復活!!」


「そりゃよかったな」
「うん!!」

まだ小一時間しか経ってないが…ぐっすり寝れたんだろう、全開になったふたばが走りこんできた。
……今日はギアを落としといてくれてた方が安心できるんだが………。

「さあ一緒に遊ぼ!!」

ま、いいか。

「そうだな。とはいえ……」
今俺はサイドからボールを上げる係になってるから、一旦コーチに頼んでローテ変えてもらわないと……。

「お?その子、起きたのか」

「高杉コーチ」ちょうど良かった。
「おはようございまーす!!」
「うん、おはよう。いい返事だね。
さて…キミにはどうしてもらおうかな……?」
アゴに指をあて、軽い思案に入るコーチ。

「わくわく」
それを見上げるふたばは、ちょんまげごと体を揺するだけじゃ堪えきれず、口からも興奮がもれてきてる。
気持ちはわかるがちょっと落ち着け。

「まぁ女の子だし、簡単にシュート練習に混じってもら「ぜったいダメです!!」

間違いなく死人が出るぞ!!!

「コーチ、こいつにそんな心配いりませんから!」
「…そうか?
じゃああっちでコーンを使ったドリブル練習に「それもダメです!!」

こいつがマトモに順番とか流れを気にするわけがない!
巻き込まれてケガ人が出るに決まってる!!

「…………じゃあ何ならいいんだよ?」
「そうっスね……あんまりボールを飛ばさず、走り回らず、慣れてる奴が一緒になって制御できるヤツ……。
俺がペアになってパス練がベストですね」
「……お前、そこまで……。
ちょっと…普通に引く…………」
「なんスか?」
引きつった顔で。

「……ま、いいよ。そういう年頃もあるだろうから…という事にしといてやる。
とはいえ準備運動は必要だし、ちょっと実力見たいし、
ランニングくらいならしてもらってもかまいませんかね、佐藤さん?」
「……なんスか、その言い方……。
別にいいっスけど」
コーチまでなんか絡むな。

「じゃあえっと……ふたば…ちゃん。
ふたばちゃん、向こうの自転車道に沿ってグルッと一周、走ってきてくれるかな?
あ、あっちには近づきすぎないでね。護岸工事で危ないから」

コーチの指を目で追いかけて、設定されていくコースを確認する。
全部で400mくらいかな……よし、広めの道ばっかりだし工事の機械は全部止まってるから、これなら安心だ。

「オス!いってきまーす!

どりゃあーーー!!!」

デデデデデデデ...

コーチの指が元の位置に戻ってきたのを合図にして、漫画みたいな土煙がコースに巻き上がる。

「あはは、やっぱ女の子だな。
フォームもペースも無茶苦茶で…も速い!?
おい……おいおいちょっと待て!もう三分の一……半周…ペースも落ちないぞ!?」
「そっスね」
相変わらずデタラメなヤツ。

...デデデデデ!!

「すごい!さらに加速してる!!」
「げっ」

マズイ、あいつランナーズハイになってやがる。
このまま俺のところに帰ってくるだろうから、進行方向に…小夜ちゃん!!

「危ない小夜ちゃん!」グイッ ギュウ
あわてて腕の中に庇いこみ、背中を使って突風からガードする!
「え?あっ…わわっ!!」

デデデデデ ズザザァー!!!

「たっだいまーー!!!」

モクモク

ゲホゲホッ…!すげぇ土煙で喉が……!
いや、それより!!
「バカ!!ふたば!!
小夜ちゃん、大丈夫?」
「はっ…はいぃぃ!!!」
可哀相に、びっくりし過ぎで目が回っちゃってる。
大丈夫かな……うん、1人で立てるくらいには大丈夫みたいだ。

でも。

「ふたば!ちょっと来い!」
「あ…オス……」

トテチテトテチテ

そして隣に来たのは、なんで俺が怒ってるのか全然わからないって顔。
まったく!!

「いつも言ってるだろ!走ってるときはちゃんと周りを見ろって!!
あのままだったら小夜ちゃんにぶつかってたぞ!!」
「あう…でもちゃんとジャンプするつもりだったし……」
俺の怒鳴り声を受けて、ふたばが怯えた子犬のようにきゅ~んと身を竦ませる。

そんな姿を見せられると、俺は心臓が握りつぶされたみたいに痛んで、目の前が真っ暗になっちまう。
おまけに血管の全部に針を詰め込まれるから、口を開くだけでもぶっ倒れそうだ。
こんなに痛いんなら、いっそ死んだほうがマシってくらいだよ。

だけど、それでも俺は伝えなくちゃいけない。正しい事を、まっすぐに。
だって俺はふたばの幼なじみなんだから。

「それでも危ないだろ!
それに、小夜ちゃんこんなに小さいんだぞ!!」
「あっ!
そうスね、びっくりしちゃうっスよね。怖いっスよね……。
ごめんね、小夜ちゃん!」

「え?ああ…いえ、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫でしたから…」

「本当にごめん。
ふたばは集中しすぎで周りが見えなくなる事があって……でも悪気は無かったんだ!
信じられないかも知れないけど、こいつマジで人ひとりくらいなら簡単に跳び越せるから、かわす自信はあったんだよ。
ただその分、危ない事の基準がちょっと違ってて……次からは気をつけさせるから!
そうだな!ふたば!」
「オス!今度からはしっかり周りを見て、ちゃんと止まるっス!
怖い目に合わせそうになって…ううん、怖がらせて本当に申し訳なかったっス!!」
心からの『ごめん』と一緒に、ふたばが頭を地面に擦り付ける。
よし。自分の何が悪くて、次からはどうすればいいのか、ちゃんとわかったみたいだな。
なら俺も謝るのに集中して、精一杯頭を下げよう。

「ごめん!!」

「………いえ、そんな……。土下座までしてもらわなくても…。
信也さんも頭、上げてください……」
下げた俺たちの頭の上から、小夜ちゃんの困った…そして悲しそうな声が降りかかる。

悲しそう……?さっきのびっくりが後を引いてるのか。
…そりゃそうだよな、普通なら。
けどふたばもしっかり反省してるし、ちゃんと伝えて許してもらわなきゃ。

「ごめんね。俺がしっかりしてなかったせいで「おい!キミ!!ふたばちゃん!!」

…こっちもそうだよな。父親が怒るのは当たり前だ。

「待ってください。悪いのは走る前にこいつに注意しなかった俺で……」
「頼む!もう一度走ってくれ!!」

へっ?

「今度はちゃんとしたコースを設定するから、タイムを測らせてくれ!」
「あの、コーチ?」
「ちょっと後にしろ佐藤!
ねぇ頼むよふたばちゃん。さっきの走りがすごかったからさ、今度はちゃんとした形で見せて欲しいんだ」

……?あ、そっか。
土煙でゴタゴタが見えてなかったのか。
…だからって、やってしまった事をウヤムヤにする訳にはいかないんだ。ふたばのためにも。

「コーチ、聞いてください」
「いいから後にしろ!!
…ね、いいでしょ?」

……ふたばを怖がらせないための猫なで声なんでしょうけど……正直キモイっス。

「………しんちゃん……」
急な展開に、ふたばが人差し指をくわえ(この癖、なおさせなきゃな)、子犬のような目を向けてくる。
…わかってるよ。お願いされたら断れないんだろ。 

しょうがない。コーチも興奮してるし、落ち着いてからちゃんと謝ろう。

「いいよ、ふたば。今度は周りに迷惑かけないようにな」
「押忍!!!」フンガッ!
ぐっと拳を作った両腕を腰にあて、ふたばが鼻息荒く返事をする。
…うん、目にもしっかり力が入ってる。さっきの事、ちゃんと反省してくれてるな。
これなら今日は安心……だろう。きっと。たぶん。

「ありがとうふたばちゃん!
おーい、B班!ちょっとコーン片付けてくれー!!
小夜、ストップウォッチ取ってきてくれ。
ふたばちゃん、あっちのゴール前をスタートにするから、行ってくれるかな?」
「……はい、お父さん」 「はーい!」

トテチテトテチテ

「……コーチ、さっきの見てわかったと思いますけど、
普通からすると、あいつちょっと無茶苦茶なところが「それと佐藤、お前の事も見てたぞ」 …はい」

やっぱりか。女の子たちを怒鳴り声で怖がらせないよう、気を使ってくれてたんだな。
……大人っていろいろ見て、考えてるんだ。

「突然娘に抱きつくとは、どういうつもりだったんだ?1回死んでみるか?」
「えええ!?見てたのソコ…連続はやめてぇぇぇ!!!」


――――――――――


「痛てて……」
こめかみが割れるかと思った……。
あの人、やたら握力強いんだよなぁ。しかもそのまま持ち上げられたせいで、肩が余計に痛くなっちゃったよ。
この休憩中に治ればいいんだけど……。

「大丈夫ですか、信也さん?
タオル冷やしてきましたから、使ってください」
ベンチで休ませている体に、優しい声が掛かる。
そこには純粋な俺への心配が載せられていて、ありがたさで思わず涙が……っ。

「わ…わざわざありがとう。使わせてもらうよ」
「いえ、こっちこそすいません。
お父さん、変な誤解して信也さんにひどい事を……。
なのにロクに謝らずさっさと行っちゃって。
もうっ」
「あはは…俺は気にしてないって。
それだけ小夜ちゃんを大事にしてるって事なんだしさ」
「……あれからずっと、あの人の相手してるし……」
「……まぁある意味すごいヤツだからね」

あの後、やたら興奮したコーチはタイム計測だけじゃなくて、
ジャンプやシュート、ドリブル……と、ひと通りについてふたばの実力を確認し始めた。
そしてどの結果も大絶賛。俺だってあそこまで褒められたこと無いよ。
……実の娘の小夜ちゃんなら尚のこと、声が険しくなるのも仕方ない、か……。

…………しっかし、自分でも『すごい』とは言ったけど…実際すごいと思ってるけど。
「だけどあそこまで大騒ぎするほどかなぁ……?」
「………………………」

「おーい!佐藤!!」タッタッタッタッ
噂をすれば…ってやつだな。大興奮のコーチがこっちに駆け寄ってきた。
…1人で。

「なんスか?
…ふたばはどうしたんスか?」
「向こうでB班と一緒にリフティングしてるよ。すごいぞ、どんなトリックも一発でモノにしちまう!
いや、すごいのは何もかもだ!!体力も、瞬発力も、動体視力も、空間把握も!!
俺もガキの頃からサッカーやってるが、あんな底なしに出会ったのは初めてだ!!
『天才』なんてカワイイもんじゃない!!!」
「はあ…そうっスか……」

『天才』ねぇ……?

「そうだ!
で、聞いたら本格的には何もやってないって言うから、
知り合いの女子サッカーのチームを勧めてみたんだが……要領を得なくてな」
「でしょうね」
「けど、お前が良いって言うなら入ってみるって言っててさ。
1回だけでもいいから参加してみるよう、お前「嫌っス」 そう嫌なんだが……嫌?」

しまった。思わず。

「いえ…嫌っていうか無理っていうか……。
あいつ、ぜんぜん集中が続かないタイプなんです。
間違いなく『練習』になったら3分で飽きて、どっか行っちまいますよ。
それに……俺が言っていい事じゃないんスけど、あいつの家の事情とかあるし………」
「む…天才故のムラッ気か………。
確かにそういう感じは受けるが……あの才能、何もさせないのはもったいない…どころか犯罪だぞ!」
「大げさな……」
「お前もあれを見りゃわかる……ちょっと待て。
お前、あの子のすごさがわかってないのか?幼なじみなんだろ?」
ムッ!まるで自分の方がわかってるみたいな言い方!!
いくら高杉コーチでも……!!

「コーチこそわかってないっスよ!あいつ、ああ見えてすごくデリケートなんです!
全然知らない奴らと一緒にやらせて、あいつが傷ついたりしたらどうするんスか!!」

そうだ!
女子なんて他人の事はお構いなしの、自分勝手な奴ばっかりなんだ!
ふたばに何かあったらどうするつもりだ!!

「………??
いや…言いたい事はわからんでもないが、そうじゃなくてだな」
「わかってない!!
あいつすっげぇ真面目で優しいんです!だから余計に周りが気をつけてやんなきゃいけないんです!!
だいたい俺に言わせてなんて卑怯っスよ!あいつの気持ちとかどうでもいいって事っスか!?
バカにしてます!!!」
「!!
…そうだな、俺の先走りだった。スマン、ちょっと興奮し過ぎてたよ。
それに確かにあのタイプは、自分で興味もたなきゃ伸びないだろうしな……。
本当に悪かったよ。あの子にも、お前にも。
……けど、もしあの子が何か始めたいって言うようになったら、俺にも相談してくれないか?
サッカー以外にも色んなチームを知ってる。何かの形で力になりたいんだ」
「………覚えときます」
「ああ、頼む。
お前は納得行かない事もあるだろうが、とにかくこのままじゃもったいない…いけないんだ。
……A班は次はシュート練だから、後でな」タッタッタッタッ
頭をひと掻きして柔らかい表情に戻ったコーチが、最後にそう残してふたばのところへ戻っていく。
ふたばは誰だって引き寄せる。

「……わかってますよ」
あいつがすごい事くらい。

でもだからって、何でもいいからやらせてみるなんてわけには行かないよ。

連携とかに気を配れるタイプじゃないから、まずは個人競技から入った方が良いだろう。
それにできれば俺の目が届くところ………やっぱ中学の部活かな?
けど姉ちゃんが、男女でしっかり別れてるって言ってたし……違う。1番大事なのはあいつの気持ちだった。
あいつが誰かと『競う』なんて…そのために色々我慢しようなんて思うのは、きっとまだまだ先のはずだ。
だからそれまでにまずは俺が中学に慣れて、みんなにあいつをわかってもらって…ってのが理想になるな。

……あ~…なんかこの1、2年はやんなきゃいけない事が多いぞ……。

「ま、頑張るか。逆に言や1、2年はあるわけだし。
今はしっかり休憩して「しんちゃ~~ん!!」 やれやれ……」

タッ... グイッ

おっとっと。
駆け出そうとした瞬間に袖を掴まれたせいで、一瞬こけそうになっちまった。

「……信也さん」
「ん?
なに、小夜ちゃん?」
「……行かない方がいいんじゃないんですか?」
「…なんで?」
「その…さっき…ううん、今日はあの人のせいで度々ひどい目にあって……私にまで謝って。
だから行ったら多分、また同じ目にあうんじゃないですか…?」
「……俺もそれはわかってるけど、改めて言われると悲しくなるから言わないで欲しかったよ……。
まあいいや、それじゃ」
「『それじゃ』じゃないですよ!なんで行くんですか!?」

今日はマジで珍しい日だな。
こんなに何度もこの子の大声を聞くことになるなんて。

「『なんで』って…なにが?」
「え……?
いえ…だって信也さん、自分でも言ったじゃないですか。ひどい目にあうのわかってるって。
…それに今日だけじゃないんですよね?肩の事も聞きましたよ。
ずっとそうなんじゃないですか?」
「そうだよ?わかってるってば。
だから行かなきゃ」
「ちょっ…お話がつながらない……ッ!?
なんでそうなるんです!?なんで行かなきゃ『ならない』んですか!!」
「だってふたばが呼ぶし…一緒に遊びたいって言うし……それに色々フォローしなきゃ。
あいつのせいで誰かがケガとかしちゃったらいけないしさ」
そうなったら、誰よりも傷つくのは。

だから気をつけなきゃいけない。どんなに気をつけたって足りないくらいに。
そんなの当たり前の事なのに。

「………………」
なのに、俺に向けられる表情は晴れないままだ。

……?
さっきから何が言いたいんだろう?
こういうトコ、小夜ちゃんも完全に女子になっちゃったんだなぁ。さっぱりわからん。

「そんなの理由にならないですよ」

「あんなにすごい人なんですから、きっと信也さんが助けてあげなくても大丈夫です。
そこまで不安なんですか?」


  「そもそも今日はここまで1人で来れたんですから、
  そんなに不安になるほど頼りないわけじゃないと思います」

  「ちょっと子供っぽ…過ぎるところもありますけど、お父さんが……お父さんが天才って言う人なんです。
  ううん。運動の苦手な私だって、とっても特別な人だってすぐにわかりました。  
  だからきっとみんな、意識して協力してくれますよ」

  「私の友達にも、よく男子と遊んでる子はいますよ。
  ……男子の集まりってあんまり見ること無いですから、普段どんなふうに遊んでるのかわからないですけど……。
  でもその子、私たちとも一緒にお買い物にだって行きますし……。
  あんなに明るい人なら、誰とも仲良くなれないなんてこと無いですよ」

  「運動がすごくできて、明るくて……よく笑って。あの人何でも持ってます。
  きっとその気になったら何でもできる人だと思います」

  「……見てればすぐわかります。あの人も信也さんのことが大好きなんだって。
  その分、迷惑かけたくないって思ってるはずです。
  だからちゃんと言って、教えてあげた方がいいですよ」

  「結局信也さんがはっきり言わないから、いつまでも『一緒に遊びたい』なんて理由で呼ぶんですよ。
  でもそんなの、信也さんをこんなに走り回らせる理由にならないです。……ひどいくらいです」

  「恋人って、もっとお互いに助け合うものじゃないですか?
  信也さん、一方的に損してるじゃないですか。
  ……正直に言うと、信也さんがなんであの人をそんなに好きなのか、全然わかりません。
  先週みたいに落ち着いてる人の方が相応しいと思います。私は」

  「……信也さん?」


「信也さん!!」


―――――――ッ!!!


「うわあぁ!!?びっくりした!!!
な……なに、急に?」
「急にって…何度も呼びましたけど……」
「あぁ……そう、なんだ。ごめん、ごめん……ちょっと考え事してたよ……。
ごめんね、本当に……。
あは…は………」
「…?
だ…大丈夫ですか!?すごい汗ですよ!それに顔も真っ青……!」
「そ…そう?今日は練習頑張ったからかな…?
それ、に…ちょと暑い……かも……」
ていうか熱い…喉がカラカラで張り付いて、声が上手く出てってくれない……。
なんか、頭までグラグラするし……。

「今は休憩中じゃないですか!お昼はくしゃみするくらい「しんちゃーーん!!!」

「今行くよ!!
ゴメン、小夜ちゃん。後でね」
「あっ」

タッタッタッタッ

「今行く!」

行かなきゃ。


「……って何だふたば、そのポーズは!?」


  「……さっきよー」
  「何だよ」
  「ちょっと言ってあの子にかがんでもらってさ。覗いちまったんだよ」
  「ふ~ん」
  「そしたら見えた。全部。ピンクも」


「はぁ?ちょっ…高杉コーチ、なに教えてるんスか!!」


  「………感想は?」
  「そりゃもち『よっしゃあ!!』って思って………」


「しょうがないな、割るなよ」


  「そのあと、100倍へこんだ………」
  「だろ?バカな事したな」


「待て待て、ちょっと止まれ。……俺はいらねぇよ!!」


  「あの子、すごい笑顔で『教えてくれてありがとう』って……。マジ最低だ、俺……」
  「いや…わかるよ、俺もやったからさ……。やるって普通。
  ……3日ぐらいまともに顔合わせられなかったんだよな……」


「あっ…違う!うちのクラスで飼ってるハムスターの名前なんだよ!
ほんとだって!!担任も知ってるって!!
コーチは最初から聞いてたでしょ!なんで一緒になって引くんスか!!」


  「ごめん……ちょっとマジ、誰かに聞いてもらわねぇとキツかった……。
  ごめん……」
  「…別にいいって。
  ……にしてもホント、いつもスゲェよなあ。俺なら絶対1日も続かないよ。
  あれでも寄ってくる女子って、何見てんだろ?」


「違うんだ!俺は変態じゃない!!!」


――――――――――


「佐藤!頼む!!」
「まかせろ!!」
「ディフェンス!囲め!!」
おせぇよ!

高く上がったボールを胸で受けて地面に落とし、すぐさま自慢のドリブルで包囲網を突破する。
相手チームのディフェンダーが、反転して追いかけてこようとするのを背中に感じる。
けど、こっちはとっくにトップスピードだ。ついて来れるもんかよ!

「おおおっ!」
その勢いに乗ったまま、俺はキーパーとの一騎打ちになだれ込む!
相手の視線、踏み出された右足…ならそこっ!!

バスッ!

「おしっ!!」
思い描いたとおりにボールがネットを揺らした瞬間、
ゾワゾワ、グワァ~ってあふれ出してきたもんを、そのまま声に出してもっとはっきりした形にする。もっと体中にみなぎらせる。
あぁ~~っ、気持ちいい!!サッカー最高!!

「くっそー!また佐藤にやられた!!」
「始まったばっかなのに、もう2点目かよっ!」

練習の締め。最後のゲーム。
いろいろあった(マジでいろいろあったよ……)けど、試合になれば絶好調!
「どうだよふたば!今日はハットトリック……あれ?」

さすがにチーム外の人間はゲームに混じれないから、得点係をやってもらってたはずなのに……立ってるのは『1-0』のままなボードだけ。
どこ行ったんだ?

「なんだよ、せっかくいい動きができたのに………」
いないとわかった途端、指の先までみなぎっていたものがパッと消えてしまう。
肝心なときに何やってんだよ。ちぇっ。
一緒にいたはずの小夜ちゃんも……『小夜ちゃんも女子になっちゃったんだなぁ』 まさか!!

「おーい佐藤!さっさと戻れよ!
次は止めてやるからな!!」
「わりぃ!ちょっと便所!」


トイレ、水飲み場、ベンチ……2人はどこにも見つからない。
たまに出てくるんだよな、こういう事する女子!本当に……!!

「はぁ…はぁ…。
くそっ、どこだよ!」

落ち着け、もっと人が隠れられそうな場所……工事現場の方か!

タッタッタッタッ

「……うぶっスよ!しんちゃんは何でもできるから!!」
!!
ふたばの声……いた!あっちの岩山!

川原を整地したときのだろう。結構でかい岩も混じってる、3メートルくらいに積まれた山の陰。2人が何か話してる。

「そうじゃなくて、もうめいわ「おーい!ふたばーー!!」

「しんちゃん!!」

声に気付いてくれたふたばの視線に、手を振って俺へと固定させながら、ふたりの間に身体を割り込ませる。
これでこいつからは小夜ちゃんが見えないはずだ。
…と言ってもこんなのは気休めだし、早くなんとかしなきゃ。

俺のせいでふたばに痛い思いなんて、絶対にさせられない。

「ふた、ば……ぜっ…。
おま…得点係が、いきなり消えるなよ…かはっ……。みんな驚いてたぞ!」
「そうだったっス!ごめん!」
「まだそんなに気にしてないから……ふぅ…さっさと戻れ……!」
「おす!
あっ、でも小夜ちゃんのお話が途中…」
「後でいいって。
な、小夜ちゃん」
「わた「そうだってさ!ほら、早く戻らないとみんなに迷惑かかっちゃうぞ!俺たちは後で行くから早く!」
「……押忍!!
後でね、小夜ちゃん!しんちゃん!!」

トテチテトテチテ

さすがに納得してない顔だったけど、もらった仕事を途中で放り出してきた事の方が気になったんだろう、
ふたばは素直にコートへ戻って行ってくれた。
ふぅ……さて、問題はここからだ。
覚悟を決めて身体ごと振り返り、しっかりと相手を見ながら口を開く。

「どういうつもりだったの?」

女の子相手に険しい声を出すのはのは良くない。ましてこんな小さい子に。わかってるさ。
だけどしょうがない。
小夜ちゃんは可愛い妹分だけど、俺は可愛ければ何でも許せるほど単純じゃないんだ。

「………………」
そんな俺に返されるのは、うつむき、口をぎゅっと結んだ女の子の姿。

あぁ…くそっ。
いくら覚悟してたからって、痛いものは痛いんだよ。
だけどそれでも、俺ははっきりと伝えなくちゃいけないんだ。

「黙ってちゃわかんないよ」
「……あの人、に……もっとしっかりした方がいいって……。
信也さんに、迷惑かかってるから…」
「俺はそんなの頼んでない。勝手な事しないで」
「…………うぐ…っ……」
泣きそうだなと思ったときには、もう涙が溢れ出していて。

……ほんと女って理不尽だ。泣きたいのはこっちだよ。
俺が何したってわけじゃないのに、可愛い妹分だった子を怒らなきゃなんない。
きっともうこれまでみたいに笑い合えない。

本当に痛い。肩なんかより、よっぽど。

「だって変です……。
こ…恋人なのに、迷惑、ばっかり…。信也さんが可哀相……」
「ふたばは幼なじみだよ。友達だ。
そりゃ迷惑なときもあるけど、友達なんだから気にしないよ」

理不尽だ。
いいじゃん、友達で。
誰だって友達と笑い合える方が良いだろ?そのために頑張るのは普通だろ?

「とも……好き、なん…でしょう……?」
「好きだよ。嫌いなら友達にならない。だからふたばも小夜ちゃんも好きだよ」

理不尽だ。
そんなの当たり前の事なのに。わざわざ口に出すのも馬鹿らしいくらいなのに。
なのに、絶対こう返される。

「そ…んな、『好き』じゃない…っ、んです……。
そんな『好き』じゃ、あんなに、優しく……ふぐっ…」
「じゃあどんな『好き』なら優しくしていいの?
友達に優しくする俺って変なの?」

理不尽だ。
『恋人』、『彼女』……そんなめんどくさいヤツじゃなきゃ、優しくしちゃいけないのかよ?
いいじゃん、友達で。
ふたばはすごい。毎日新しい『楽しい』を見つけてくれるし、サッカーやれば歯応えのある相手になってくれる。
あいつと一緒なら、いつだってみんなで笑い合える。すごい友達だ。


一緒に居るのが楽しいから、一緒に居たいんだよ。ずっとそうなんだ。
いいじゃん、それで。
理由なんてそれで十分だろ?


「そうじゃないんです!あの人すごく自分勝手!なんであんな人に優しくするんですか!!」
「そんな事ないよ。あいつはいつも誰かのために頑張ってる。今日だって、俺のために弁当を届けてくれた。
想像してみて?道もろくにわからないこんな遠いところまで1人で来るって、どんなに怖いかを。
それにいつも、悪いところは素直に反省して直そうとしてる。
想像してたよ。もしあのまま走りこんでたら、小夜ちゃんがどんなに怖い思いをしただろうって。
自分勝手な奴にはそんな事できない」
「私だって頑張ってます!
休みの日なのにいつもお手伝いしてます!今日はお弁当、信也さんのために作ってきました!!
絶対私の方が頑張ってます!!
お弁当食べてくれたじゃないですか!美味しいって言ってくれたじゃないですか!!
だからもっと私に優しくして下さい!!もっと私を好きになってください!!」


理不尽だ。


「もちろんありがたいって思った。本当に美味しかった。すごく嬉しかった。
今日だけじゃなくて、これまでも何度かお弁当作ってきてくれてたよね?
それも嬉しかったよ」
「ぁ…知ってた、んですか……?」

そりゃあ俺だって、嫌な気分ばっかじゃないさ。
誰かに『好き』って言ってもらえるのは…想ってもらえるだけでもすごい事だってわかってる。
誰かが俺のために頑張ってくれたら、俺が誰かの頑張る理由になれるのなら、すっげー嬉しい。

でもさ。


「だからやっぱり、『だから』なんて言って欲しくなかった。
嘘でも『お返しなんていい』って言い続けて欲しかった」


それって『めんどくさいヤツ』と交換じゃなきゃいけないのかな?
返してもらうために渡すのは『プレゼント』なのかな?
だから俺は受け取らないようにしてるんだよ。知ってる奴からは、余計に。
明日からも顔を合わせて笑いたいじゃん。


「うぁ…ふっ…ぅ……!」


「知ってたよ。わかってたよ」お弁当の前で、目が言ってた。態度が言ってた。

「だから『ごめん』。『お返しするから』」欲しがってるものは返せないけど。

「ふたばの事も『ごめん』。俺のわがままを手伝わせちゃって」情けない俺で。

「タオル、いつもありがとう。
小夜ちゃんが頑張っていろいろしてくれるの、すっげぇ感謝してる。本当に。
俺たちのために…お父さんのためにいつも頑張ってるの、すごいって思う」


「うっ……ううぅ……。
そんっ……うぐっ…。い…ない……」
目の前で、今日までの可愛い笑顔が涙に塗りつぶされていく。


痛い。
…だからって、この女の子の告白をウヤムヤにする訳にはいかない。
そんな卑怯な男じゃ隣に居られない。


「でもごめん。小夜ちゃんを恋人にはできない。彼女にはできない」


「うぅ…っ。
ふううぅう……ぐっ…」
「ごめんね、辛い思いさせて。本当にごめん。
けど…俺のわがままだけど。できたら来週からも………ううん、ごめんね」

トテチテトテチテ

「うっかりうっかり!得点プレート置きっぱなしだったっス!!」

「あっ!ふたば待…っと!」やばい、あせって振り返ろうとしたら足がもつれて ガッ! 下に挟まってる小さな石を蹴飛ばして、

グラグラ

「うくっ……ぇ…?」
岩山が崩れて小夜ちゃんの上に「危ないっス!!」


嘘みたいな、スローモーションの世界の中、
ふたばだけがルールを無視してすごい速さで「キャッ!」 小夜ちゃんを突き飛ばして、


ドガドガドガ!! ガッシャー! ガランゴロン...

時間の流れが戻った時には、岩山と一緒にふたばの姿が消えていた。

「あ…あぁ……そん、な……」
「う…嘘だろ、ふ…たば………」

ちょっ…冗談だろ!!なぁ!?




「ふたばぁぁぁぁあぁぁ!!!!」




「はぁーーーーーーい!!」ドゴン!




「呼んだ?」
目に映るのは土まみれの…まぁ遊んだあとは大抵土まみれだから、結局何もかもいつも通りのふたばだな。

「…………ああ」

……デタラメで助かった………。

「あー、びっくりした!」
なんて気楽に言いながら、ふたばはぶるぶると身体を振って土を落とす。犬かお前は。

「びっくりしたのはコッチだよ。ったく……」
「ぁ……だい、じょう……?」

「うん!だいじょ ドパッ! おお?」
と、いきなり頭のてっぺんから噴水みたいに血が噴き出した!

「キャーッ!頭から血…血が!!沢山!!」
「どわぁ!!?おまっ…大流血してるぞ!!」

ピューピュー

「大丈夫大丈夫!
それより小夜ちゃん、突き飛ばしちゃってゴメンね!大丈夫だった!?」ピューピュー
顔中赤く染まってるってのに、ふたばは全然気にせず小夜ちゃんに声をかける。
血を拭け!血を!!
お前はこのくらい大したことないんだろうけど、普通は怖いんだよ!!

「私は見たとおりどこも…なのに、血が……!」
「大丈夫!こんなのツバを付けておけば治るっス!
ねっ、しんちゃん!!」ピューピュー
「バカっ!野球のボールがぶつかったのと一緒にすんな!」


「えーっ!一緒っス!
友達がケガしなくて良かったよ!!」
笑顔。
ふたばはいつも。


「………………はぁ~…。ま、そうなんだけど……だーくそっ!そうだった!!
ありがとう、ふたば。俺たちの友達を助けてくれて」

ふたばはいつもまっすぐだから、俺も簡単に笑顔になれる。

「あったりまえっス!小生たちの友達なんだもん!!」
「わた……とも、だち……」
「うん!
しんちゃんにお弁当くれてありがとう!
ぶつかりそうになったの許してくれてありがとう!
得点ボード、一緒に運んでくれてありがとう!

今日はい~~っぱいありがとう!!!」

「おーーい!!小夜ーーー!!!」

「あぅ…おとう……」
「大丈夫か!?ケガしてないか!!?」
「ご…ごめ……ふたばさん、ケガして………」
「え…うわっ!大丈夫かい!?
…いやでも、まずはお前だ!!本当に大丈夫なのか、小夜!!?」
「私…見たまま…ぜん、ぜん……なのに……。うぐっ…うえ~ん!!」
「あれっ!?やっぱりケガしちゃったの!?
ゴメンっス!!」


「うえぇえ~~~ん!!!」


――――――――――


「……じゃ、ふたばちゃん。もうちょっと待合室に居てね。最後にまた検査があるから。
間に合うとは思うけど、キミのお父さんにもう一度電話してる間に名前が呼ばれたら、ちょっと待ってもらって。
佐藤もスマンな、最後までついてきてもらって」
「いえ。
俺こそ一緒に連れてきてもらって…ありがとうございます」
「……バァカ、こういうときこそガキっぽくしろって」
「痛てて!こめかみ、後遺症残っちゃいますよ!」

軽く掴んでいた俺の頭を離し、コーチが携帯使用コーナーへ歩いていく。
めんどくせえけど、病院って電波で止まっちゃう機械とか多いんだったな。

「むぅ~…大丈夫だって言ってるのにぃ~!」
「こらっ!包帯解くな!!」

結局ふたばのケガは大したこと無かった…わけじゃないはずだったんだが、病院に着いた頃には完全に治ってた。
…………とことんデタラメなヤツだ。医者も自然治癒の速さにすげぇ驚いてたし。
頭の検査結果とかも特に異常なし。念のための再検査が終われば、今日は開放だ。
…って言ってももう日は暮れてるし、休日は終わりだな。

でも。

「今日はお風呂入っちゃダメって言うし~~!!」
「いやぁ残念!残念だなぁ!!
けどお医者さんの言うことはちゃんと聞かないとな!」
「……おす…」

よっしゃあ!!助かった!!


「ふたばさん」
呼びかけ。控えめに…だけどまっすぐ目を向けて、はっきりとした声で。


「あっ!小夜ちゃん大丈夫!?
病院じゃお医者さんとしかお話できなかったから、心配してたんス……」


「ごめんなさい!!!」
ふたばの前で小夜ちゃんがバッと頭を下げる。
心からの『ごめん』と一緒に。


「どっ…どうしたんスか、急に?」
「私、何もわかってませんでした。
何も知らずにただ憧れてただけでした。信也さんに、言葉に。
なのにふたばさんに嫌な態度とって、失礼な事言って……!」
「?????????」
急な展開に、ふたばがどうしたらいいのかわかんないって顔で、助けを求めて目を向けてくる。
…うん。お前の想ってるとおりでいいんだよ。

「……!!うん!!
小夜ちゃん、なんだかわかんないけど、ゴメンな事なんて何にも無いっス!
友達なんだもん!!
だからまた一緒に遊ぼうね!!」

「…はいっ!」
大きな声と一緒に上がってきたのは、今日までよりもずっと元気で可愛い笑顔。

「私、毎週お父さんと一緒に出てますから、いつでも遊びに来てください!」
「うん!たくさん遊びに行くね!!」
俺としてはそこそこ遠慮して欲しいんだが……。

キャッキャッ

……まったく、ほんとにすごいヤツだよ。
一緒なら、いつだってみんなで笑い合える。
一緒に居てくれるだけで全部が明るくなる。
まるで「それと信也さん」

「えっ?な…なにかなっ?」
ヤベっ、キザな事考えてたのバレてないだろうな。

「信也さんはやっぱり私の想ってた通り…ううん、想ってたよりずっとすごい人でした。
だから私、これまでよりずっと信也さんの事が好きになりました!
これからもずっとずっと友達でいてくださいね!」
「へ…ああ…うん、そ…そりゃもち……。うん、よろっ…ヨロシク……」モニョモニョ
不意にまっすぐ向けられたせいで、胸が詰まって返事すらまともに言えなくなってしまう。
なんだよちくしょう、小夜ちゃんまでずるいぞ!

「うふふっ、しんちゃん照れてる!」
「ほんとだ!顔、真っ赤ですよ!」
「うっ…うるせぇ!!」

「「あはははっ!!」」

「なんだなんだ?ずいぶん仲良しだな、小夜?」
「うんっ!当たり前だよお父さん!
だって友達なんだもん!」
「……そっか。よかったな、新しい友達ができて。
これからも仲良くしてやってね、ふたばちゃん。父親としてお願いするよ」

「丸井ふたばさーん!検査室までどうぞー!」

「おっと順番か。
佐藤、もう少しでふたばちゃんのご家族が来られるそうだから、ちょっと頼む。
それじゃ行こうか」
「はーい!」

トテチテトテチテ

「もうホントに元気だな。良かった」
「……本当に、ですね」


  「本当に信也さんはすごいです。
  私なんかじゃ釣り合えるほど強くなれません……綺麗じゃいられません。
  …………本当に、信也さんとふたばさんに出会えて良かった」


しかし家族…おじさん、こういう所に来ると「放してくれ!娘がっ!娘が大ケガしたんだ!!」「静かにしろ不審者!」 やっぱな。

大声のした方を向くと、おじさんが警備員に取り押さえられて…おっ?あれは……。

「んもーっ、めんどくさい!
コレはこう見えてもうちのパパなんだってば!いくら私が美少女すぎるからって……!」
向こうも気づいたみたいだ。

ポテチテト

「あの人、こっちに走ってきますよ?お友達の方ですか?」
「ああ…あいつ、ふたばのお姉さんなんだ。で、あっちの男の人がお父さん。
全然似てないけど。ほんとに」
「え?
……もうっ、いくら何でもそんなのに騙されませんよ!」

…まぁわかるけど。

ポテチテト

しっかしあいつ走るの遅ぇなあ。あれで全力……全力で。心の底からふたばを心配してるから。
……なんだかんだで結構『長女』やってんだよな。

「長女、ふたばならだい「死ね!この役立たず!!」 ごふっ!」

みぞおちに蹴りがっ!

「がはっ!ごほっ…!なっ…なにふぐっ!」
膝をついた俺の頭を、何か…長女の足が踏みつけ、強制的に土下座させられてしまった……。

「あんた何ふたばに大ケガさせてんの!!ちゃんと見ときなさいよ!!ほんっと役立たずね!!カカシ以下!!
変態の上に役立たずだなんて、マジで生きてる価値ゼロよ!わかってんの!!?」グリグリ

そのまま後頭部に、足の裏と蔑みの言葉がグリグリと押し付けられる。
前者は靴下だから全然痛くないけど、後者はかなり痛いところを突いてきやがった。

「うぐっ……!
………けどお前だって、度々ふたばにケガさせてんじゃねぇか…っ!」
「はぁ?変態パンツ男の分際で私と同じ立場主張するなんて、どんだけ思い上がってんのよ?
あんたの存在なんて、底辺でももったいないんだからね。地中で十分よ、地中で。
そのまま死んで養分になっときなさい!」グリグリ

りっ…理不尽っ!!
やっぱ女は…中でもこいつは最大級に理不尽だ!!

「あ…あの、ふたばさんは私を助けたせいでケガをして……」
「……あんたはケガしてないの?」グリグリ
「え?あ…はい。私は全然……」
「そ。
けどこいつが役立たずなのは変わんないから!
どうせまたドジでつまずいたかなんかして、今回はそれにふたばを巻き込んだんでしょ!
次やったら粗大ゴミで処分するからね!!」グリグリ

相変わらずめちゃくちゃないいがかりを『下に挟まってる小さな石を蹴飛ばして』 あ。


「うあぁぁあぁ……っ!!」
何やってんだよ俺!マジで俺がつまずいたせいじゃん!
しかもあんな小さな石が抜けただけで、全部崩れるなんて……!!


「ふんっ!泣けば許されるとでも思ってんの!!」グリグリ
「あれっ?
みっちゃん!!」

トテチテトテチテ

「……元気そうね。
あんたもあんたで、いちいち私の手をわずらわせるんじゃないわよ!バカふたば!!」グリグリ
「てへへ……申し訳ないス。
……ところで何してるんスか、2人で?」
「こいつが踏まれるのが好きって言うから、踏んでやってんのよ」グリグリ
「……そんなわけ………」
「す・き・よ・ね!!そ・だ・い・ご・み!!!」グリグリグリ!!
「あっ!パパー!!」

トッテチッテター


「し…信也さんの涙で水溜りが………」


――――――――――


キーンコーンカーンコーン

「おっはよー!」ズバァン!!

今日も、朝の教室に元気いっぱいの声が響き渡る。

「おはよ。そんな勢いだとドアが壊れるぞ。
……ケガ、大丈夫か?」
「ケガ?何のこと?」
「………なんでもない」

一晩中悩んでた俺が………もういいや。どうせ俺たちはいつもこんなもんだよ………。

「あっ、そうそう!しんちゃん!」
「…何だよ?」
「しんちゃんが踏まれるのが好きなんて知らなかった!
今日からたくさんグリグリしてあげるねっ!!」

ザワッ...

「おまっ…」



<おわり>