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――――――――――


「ご馳走様。ありがとう、時枝さん。
……結局ファミレスでケーキセット奢ってもらっちゃって…ごめんね」
「いいんだって。
髪長姫には色々世話んなってるから、1度ちゃんとお礼しときたかったんだ。
噂の『長女』も見たかったし。
それより……」

「食べた食べた。幸せや~」
「ここ、ケーキは中々なんだけど、紅茶はティーバッグしかないのが欠点ねぇ」
「こういうときは私みたいなコーヒー党の方が有利なんだよね。
今はどこも一応豆からいれてくれるから」

「信じられねぇのはこの取り巻きの雌どもだよ!!
マジで奢らせやがった!!」

時枝さんの怒声が駅前通りに響く。
うぅん…人目を集めちゃって、ちょっと恥ずかしいなぁ……。
放課後すぐにこっちに来たとはいえ、うちの高校は家から近いぶん駅とはちょっと距離があるし、
店内でも結構ゆっくりしてたから、もう人の多い時間帯になっちゃった。
…いまだに私は人ごみが苦手なんだよね……でも、
こうやってたくさんの友達とお店でお茶するなんて、昔の私からは想像もできなかったな。

……だけどやっぱりみんなと並ぶと、自分のサイズを否が応でも自覚させられてしまう……。
杉ちゃんもいつの間にか157センチもあるし。これでおっぱいまで裏切ったら、絶対祟ってやる。

「そんなに嫌なら払わなきゃよかったのに」
柳さんが軽く鼻を鳴らして、ゆったり笑う。…泣きボクロって、色っぽさを5割増にするなぁ。

「黙れ!
お前らがレジ前でエロ本談義とか始めるからだろ!あんな状況で居続けられるか!!」
「エロ本じゃなくて官能小説だよ。文学だよ」
「さすがは姫、いい事おっしゃる。
そうよトッキー、文学なの。芸術なのよ」
「私もエロは漫画しか読まんかったけど、最近は姫とヤナギンに借りて手ぇ出し始めたで~。
結構笑える。ファンタジー過ぎて」
「おかしい…絶対こいつらおかしい……」
「ウブっていうか、本当に気が小さいわね。
レジに居たのもみつばだけだったんだし、あんなにあわてる事なかったのに。
…けどみつばも子供よね~。真っ赤になっちゃって!ヒッヒッヒッ!」ピッピッ
携帯を操作しながら、杉ちゃんが自分も頬を赤くして愉快そうに笑う。
様子からして、画面に映っているのは間違いなく想像通りのものだろう。
……外ではせめてヨダレを我慢しようよ……。

「そうやでトッキー。
カマトトぶりやがってこのアバズレが」
「面白い事いうじゃねぇか。ちょっと表出ろや」
「すでに出てるでしょうが」
「さっきからうっせーんだよ杉崎!
大体お前、超金持ちなんだろ!貧民にたかるな!!」
「私の家が、ね。
私自身はみんなと同じくらいのお小遣いしかもらってないわ。だから厚意はありがたく受ける事にしてるの」
「そそそ。杉ちゃんはかっちりしとるんやから。
携帯も3年くらい前のモデルを綺麗に使い続けとるしな~」
「趣味のカメラとかね、こういう身近な道具こそ使い続けるうちに愛着がわくものなの。
もう違う機種に変えるのがもったいないくらいよ」
言って優雅に髪をひと掻き。
本当に優雅だ。さっき携帯いじってたときとは別人みたい。

……切り替え早いよなぁ…。

「今度は生徒会会計が良いこと言った!
トッキーもさ、むしろ杉崎さんにこそ感謝しなきゃ。
杉崎さんが努力して、備品代とかうまく圧縮して、その分部費が多めになったんだよ。
女子ハンド部だってその恩恵をうけてるわけじゃない。
だから私たちにケーキセットを奢ったのは、当然の事だったの」
「それでもお前と神戸に奢る理由にならねぇだろ!くっそー!
だいたい『貸し』にしたって礼くらい言えよな、お前ら!!」

時枝さんの怒鳴り声に、他の3人が一斉に足を止め、深々とお辞儀をする。

「「「ありがとうございます、姫様」」」

私に。

「ぜってー殴る!グーで殴る!!」
あらら、ついに切れちゃったか。時枝さんがぶんぶんコブシを振り回して3人を追い回し出した。

「きゃー、暴力はんたーい」
「生徒会報に載せるわよ~」
「カマトトぶりやがってこのアバズレが~」
「だーくそっ!チョロチョロすんなチビどもが!!」

体格的にも体力的にも簡単に追いつけるはずだけど、3人がバラバラに逃げては挑発してを繰り返すせいで、
良い様にあしらわれちゃってる。
私が言うのもなんだけど、不器用な子だなぁ。不憫……。

キャッキャッ

…ふふふっ……。
みんなと一緒にいると、ホントに楽しいな。

「あーくそっ!!
姫からもなんとか…ッ!」
埒が明かない状況に、時枝さんが援軍を求めて私へ振り返った。
瞬間、ビクンッと全身で震えて息を呑み、そのまま固まってしまう。

「ど…どううしたの、時枝さん?」
「あぁ…いや、マジで輝いてるわ。ていうか綺麗過ぎて一瞬背筋が冷たくなった……。
これなら、街でナンパが3桁行ったってのも信じられる…」モニョモニョ
珍しく歯切れが悪いな。目もあっちいったりこっち落ち着かないし……。
輝く?なにが??

「おっ!ホンマや!
久しぶりにキラキラしとる!」
「よかったよかった。
最近の姫、ちょっと元気なかったから心配してたのよね」
「えっ…?
そ…そうだったかな」
「ん…ちょっとだけ、昔の三女に戻ってた感じかな」
「前までは…特に週の初めと終わりはよくキラキラ光ってたのに、それがなくなってたからさ。
だからまぁ、姫に笑っていただくため、頑張って神戸のテンションに合わせてみました。
いやぁ~、疲れた疲れた」
「確かにねぇ…。
神戸って、よく常時こんな勢いでいられるわよね。私、ちょっとやせたかも。
…これで三女が無反応だったら、かなり悲しかったわ」
「人をアホの子みたいに言うな~!」

あ…それで最近、前にもまして色々話しかけてくれてたんだ。
みっちゃんを見に行ったりしたのも、話題を作ろうとして……。

……まいったなぁ…私、こういうの……。

「……みんな、あり……っ。
わ、たし……」
ダメだ。鼻の奥がツンとして、上手くしゃべれない。今、はっきりと伝えたいのに……。
もう…この身体は肝心なときにいつもこうなんだから。

「ほらほら、そんな顔しないの!
せっかくの超美少女なんだから、いつもニコニコしてなさい!
そんで私にカーディガンを貢がせなさい!!」

ギュム-

柳さんの指にほっぺを軽くつままれ、上へ引っ張られる。
表情を変えられる。

「悩んでることあるなら、相談してね。
私本気で、姫には笑ってて欲しいと思ってるから」
覗き込む瞳は本当に澄んでいて。溢れるほどのいたわりに満ちていて。
私を想ってくれてるんだっていうのが、はっきり伝わってくる。

…そうだ、笑わなきゃ。
友達が私を笑顔に変えようと頑張ってくれてるんだから。

「あひはほう、やなふぃふぁん」

「……なんかあたし、奢りにしとかなきゃなんない空気だな……。
はぁ~…今日は色々見れたし、よしとするか」
「トッキー偉い!気前ええのは出世するで!」

ギュム-

「…は、ええけどヤナギン。いつまでやっとるん?」
「ちょっと…姫のほっぺの感触がめちゃくちゃ気持ちよくて……。
なにこのモチモチ肌!びっくりなんですけど!」
「マジッ!?あたしもやらせて!」
「私も私もー!」
「あふぉふぁないへぇ~」


「ひとーっ!!」トテチテトテチテ


おや、この声、この足音は……
「ふふぁふぁ」
「ひとっ!」

キキキ-!

猛烈な勢いで走りこんできたふたばが急停止したせいで、靴が漫画みたいな摩擦音をあげる。
あぁ…あんなにすり減らして…。もったいない……。

「大丈夫っスか!?」
あわてた様子でこちらに振り向く…のに併せ、頭の左のサイドポニーとおっぱいが大きく揺れて、存在を主張してくる。
その姿はくそう腹が立…じゃなかった。昔あこがれたガチピンクこと白浜あずさを思い起こさせる。

「あふぁ…うん。違うって。みんな高校の友達なんだ。
みんなでお茶して、おしゃべりしながら帰るところだったの」
「なぁ~んだ、友達と遊んでたのか!びっくりした!
そうだよね、杉ちゃんもいるんだし」
「そうだよ、大丈夫だって。でも駆け付けてくれてありがとう、ふたば。
…あっ、紹介するよ。柳さんに神戸さん、それに時枝さん」
私の腕が示す方へ向かって、ふたばはビシッと敬礼して自己紹介。

「ひとはと三つ子のふたばっス!ヨロシクね!!」

その笑顔と声の明るさに、駅前全ての視線が集まるのをはっきり感じる。
とは言えうちの友人たちからのご批評は、いまひとつって感じだったから……

「私ファンなんです!お会いできて嬉しいです!」
「私もや!いっつもテレビ見てます!」
「あたしもファンです!握手してください!!」

こら。特に後の2人。

「ひょえ~、さすが『陸上界のアイドル』!
やっぱめっちゃかわええなー!」
「え…えへへ…。
そんな、照れるっス……」
「このノートにサインお願いできますか?
…わぁ、綺麗なサイン。ありがとうございます!
慣れてるんですねぇ」
「うん!小生、絵には自信ありっス!」
「絵…ですか、はぁ…?」
「そっス。
…実は小生、字があんまり上手くないんだけど、これは『絵』だから上手に速く書けるんスよ。
もちろん結構練習させられたっスけどね」
「ふたばさんは今日、部活だったんスか?」
「違うっスよ。うちの学校、月曜は部活が無いんス」
「へ…?でもジャージだし……」
「小生、ずっとコレなんス。一年中」
「……あんまりうるさくない学校なんスね…?」

ワイワイ

いつも通り、あっという間にふたばを中心にして人の塊ができる。
やれやれ……みんなも調子いいんだから。
まぁそれは別にかまわないけど………。


――*   *――
    *――
 ――* *―― *――


ううう…そろそろ辛い……。お肌がピリピリしてきたよ…。

「さすがに周りからの注目がすごいわねぇ」
「うん…ふたばはどうしてもね。
やっぱり曲がりなりにも『アイドル』なわけだし」
「……ふたばだけが理由じゃないと思うけど」
「柳さんたちも大騒ぎしてるもんね。
…ふたば、早く帰らないとしんちゃん待たせちゃうよ」

どうせすぐ会うんだから一緒に帰ってくればいいのに、とは思う。
帰りの電車で寝ないようにするのも大変なんだし。
…でもこれも、ふたばなりのケジメなんだろうな。

「ああっ!そうだった!!
ゴメンねみんな!小生、大事な約束があるんス!!
またねー!」

トテチテトテチテ

さすがはインターハイ王者。教科書の入ったバッグを担いでいるというのに、あっという間に見えなくなる。

ふぅ…おかげでちょっとマシになったよ。
とはいえあれだけ騒いだ後だから、まだまだ視線が多いけど…みんなと一緒だから、大丈夫。
……みんな、
「いつの間にファンになったの?初耳だよ。
そっちの2人は頭の栄養がどうなんだっけ?」
「いやぁ~…杉崎さんが言ってたのって、こういう事だったんだ。本当に生はオーラが違うや。
私、アイドルとの握手会に行く人たちの気持ちがわかっちゃった」
「しかもあのおっぱいやしな」
「ごめん、姫。これは完全に『丸井ふたば』の勝ちだよ。
もちろん純粋な美少女度は姫の方が上なんだけど、姫はちょっとデザインが完璧すぎて現実味が薄いんだよね。
いっそ、実は立体映像とか等身大稼動フィギュアでした、って言ってもらった方が納得できるくらい。
……早く自分の登場漫画に帰ったほうがいいですよ?」
「しかもあのおっぱいやしな」
「ついにフィクションの存在になっちゃったよ、私……」
「フィクションって言うなら、あっちスタイルの方だろ。首元までジャージで隠しててもすげぇインパクト。
あの背中の細さであんだけのおっぱいはありえねえって。アニメのキャラか、ヤツは。
あそこまで見事すぎると、嫉妬を通り越して若干引くぞ」
「さっきのファン宣言は何だったの」
「勢い」
「確かに声とか髪型とか、アニメっぽいよね。実際のキャラも。『小生』なんて素で使う子、初めて見た。
…だけどそれが嫌味なく似合っちゃうのが、真のアイドルなのかもなぁ~」
「しかもあのおっぱいやしな!」
「その上トップアスリートで毎週デートの彼氏持ちとか、『勝ち』を狙いすぎだろ!

もうちょっと手加減して生きろよ!!!!」

時枝さんがアスファルトに跪き、魂を揺さぶるほどの本気が籠もった叫びを上げる。目には薄っすらと涙すら浮かべて。
いやもう、何からつっこめばいいのやら。

「時枝……今日の一連の行動、あんたの小物っぷりが遺憾なく発揮され過ぎてて、私泣けてきたわ……」
「うぐっ…!とっ…とにかくだ!
あたしが言いたいのは、丸井家三つ子全員と会った上で姫派に決めました、って事なんだよ!」
「……それはどうも」で、いいのかな?
「なので明日、古文の宿題写させてください」
「私もやっぱり姫派に戻りますので、お願いします」
「しかもあのおっぱいやしな!!」
「もうっ!ちゃんと自分でやりなさい!
ほら、バカばっかり言ってないで、私たちも帰るよ」
「「「はーい」」」


「お願いつっ込んで~!」


絶対やだ。


――――――――――


「ただいまー」

誰もいない家に…おっと、今日は違った。

「ニャー」
「ただいま、チブサ。
お出迎えしてくれてありがとう」
「ニャム……」テテテ...
途端、あいまいな返事を残して奥へ行ってしまう。
チブサは昔から気まぐれで照れ屋だ。いったい誰に似たんだろう?

「……みっちゃんだな」

タンタンタン

階段を上がり、部屋へ戻る。私とふたばの共同部屋。
子供の頃はひとり部屋にもあこがれたものだったけど、
結局のところ、私とふたばは朝を除いてほとんど生活時間が重ならないから、このカタチが1番合理的だった。

「ふぅ……」
カバンを置いて制服を着替え、ベッドでひと息つく。
………友達と寄り道したぶん、いつもより帰宅が遅くなってしまったけど、
宿題は休日に終わらせてるし、晩御飯のしたくにはまだ早いから時間は十分ある。
パパはお仕事。みっちゃんはアルバイト。ふたばは勉強会。家族は8時過ぎまで帰ってこない。

「……………………………」

時間は十分ある。
8時過ぎまで私ひとり。

ゴソゴソ...

まくら元…敷布団とマットレスの間から、ポリ袋を取り出す。ジッパー付きの。匂いが逃げないように。

「………すぅ~……」
中身を取り出し顔に当て、ゆっくり息を吸いこむ。
たちまち鼻腔に満ちる、汗の匂い。

私の大好きな人。その存在感。

目を閉じてこれを着ている姿を想像すると、もうとっくに消え失せてしまったはずのぬくもりまで感じられる気がしてくる。
むふぅ……。


時間は十分ある。



「…………我ながらまずいことしてるよなぁ……」

自覚はある。

特に終わって落ち着いた後は色々考えてしまう。
『しんちゃんを笑えないなぁ』とか、『汚れてるからって持ち帰って、余計に汚してどうするんだ』とか、
『いい加減先生にバレないよう月一ペースで我慢しなければ』とか、
『ちょっと自分は回数が多いんじゃなかろうか』とか。
毎回考えてはいるんだよね……。

………………………クリは触りすぎると大きくなっちゃうって、迷信だといいけど……。

「……………とりあえず窓、少し開けとこう」

体臭は薄いほうだと思うが、同室の姉は五感が鋭い。普通じゃ考えられないくらいに。
ちゃんとしておかないと気付かれてしまう…といっても恐らくとっくに気付いてるんだろうけど。
でもお互いこの歳になったのだ。さすがにそういったところに踏み込まないくらいの常識は持ち合わせている。
アレもコレもマナーだよ、マナー。

「さて……晩御飯の用意しなきゃ……」
まだ若干気だるい身体を引きずりながら、台所へ向かう。
うあぁ…めんどくさい……。

『後があるのはわかってるんだから、ホドホドで止めとかなきゃ』。

うるさいよ私。


「みっちゃん、ふたばー。
お風呂沸いたよー」
一旦洗い物から離れ、階段下から2階に声をかける。

…姉妹とは言え、この歳になった女の子が一緒に入るのはやっぱり珍しいだろうな。
特にふたばは身体が大きいから、湯船には交互に入ってるみたいだ。面倒に違いない。
けれどひとりだとお風呂の使い方があんまり綺麗じゃないし、身体を洗うのも適当だから、いつも声をかけるのはふたり。

「ほーい!」

でも返事はひとつだけ。これもいつもの事だけど。
みっちゃんは自室で宿題相手にうんうん唸ってるんだろう。お疲れ様。

………アルバイトして、妹の世話もして、学校のこともちゃんとして。
みっちゃんは何でもしっかりこなす。しっかりしてる。
だからみっちゃんだけひとり部屋を持ってるのも、門限が1時間遅いのも、私たちは納得してる。

「ありがとう、ひとっ」トテチテトテチテ
……相変わらず家ではラフな格好だなぁ…。
ノーブラにTシャツ、パンツ丸出しって、大サービスにも程があるよ(別に誰に対するサービスにもなってないけど)。
外じゃあんなに人目を気にするくせに。
それに今日は…すんすん。この臭い。顔もちょっと赤いし。

「ふたば、部屋の換気してくれてる?」
「あっ!忘れてたっス!
めんごめんご」トテチテトテチテ
私の指摘に、ふたばがペロッと舌を出して階段を駆け上がっていく。

やっぱり。

いくら実の姉のとは言え…実の姉のだからこそ余計に、あんな女臭い部屋じゃ眠れないよ…。
この辺のマナーというか、気配りはもう一歩足りないなぁ…。

…………でも回数はあんまり無いんだよね…。やっぱり私、多いかな………。

「なにボーッとしてんのよ、ひとは」
「ぅあっ…!んぐっ…ううん、なんっ…なんでもないよ」
し…心臓が飛び出しかけた……。

痛いくらいに激しい動悸を手のひらで抑えつつ、いつの間にか下りてきていたもうひとりの姉へと振り返る。
みっちゃんに背後をとられるなんて、注意力散漫にも程があるよ私っ。しかもこの怪訝そうな顔っ。うあぁ…不覚!
などと鼻血が出そうなくらいグルグルしてる私の醜態に、
けれど我が家の長姉はさほどの興味を示さず、胸元に降りた自分の髪先をひと撫でしただけで、さっさと話を進めていく。
なんだかもう色々辛い。

「まあいいわ。私、先に入ってるから。
あとこれ今月分」
「あっ…いつもありがとう」
いつものように、みっちゃんからアルバイト代の入った封筒を受け取る。

高校生になってからアルバイトを始めたみっちゃん。洋服代も、お化粧品代も、携帯の料金も、しっかり自分で稼いでる。
人前に出るのが苦手な私からするとそれだけでもすごいのに、半分くらいを生活費として家に入れまでしてくれてる。
いらないと言ったパパすら説得して。
だから毎月受け取るこの封筒は、私にとってすごく重い……おや?今月はさらにちょっと重たいぞ?

「いつもより多いみたいだけど……」
「先月、ヘルプでちょこちょこ入ったからね。
今週も水曜日に入るけど、晩御飯はちゃんと食べるからちょっと待っといて」
さすが杉ちゃん情報は早くて正確。いつもどうやって調べてるんだろう…ってそれは置いといて。

「多い分はみっちゃんのお小遣いにして」
「いつもより多めに自分のもんにして、それでも余ったのよ。
だからそっちで使って」
「そんな…悪いよ。
家の事なんて気にしないで。こないだ、ふたばの出演料で結構大きな額も入ったし……」
そもそもふたばはスポーツ特待生になってくれてるから、
学費(だけじゃなく登校に使う電車賃や昼食代、その他もろもろまで)が浮いて、家計が相当助かってる。
みんなのおかげで貯金もずいぶん増えた。
みんな『外』に出て頑張ってる。

…………私は。

「使い道ないならしっかり貯めときなさい。
今がよくても、この先何があるかなんてわかんないんだから。
じゃ、私さっさとお風呂入ってくるわ。宿題の続きもあるし」スタスタ
「あ……」
「おおっ、待ってみっちゃーん」

ぽつん、と。私ひとりが廊下に残される。
手の中の封筒が重い。