※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

==========


久しぶりの回転寿司で、お腹も心も幸せいっぱいになった帰り道。
まだすこし冷たい春の夜風だけど、コートの中は別世界みたいにあったかいから、家までのお散歩が楽しくてしょうがない。
月に向かって歌いだしたくなるくらい。

「夜空の星を見上げると~♪」
「なんだひとは、ご機嫌だな。歌まで歌って」
いけない、ほんとに歌っちゃってたか。
しかも前を行くパパにまで届いてたってことは……。

「あんたあいかわらず歌が下手ね」
「次はアーミレンジャー歌ってー!」
当然左隣のみっちゃんにも、右隣のふたばにも聞こえちゃってるよね……。

「ほ…ほっといてよ。今日はこれからお皿洗いも何もないからね。
ちょっとくらい機嫌よくなってもいいでしょ」
顔色を見られてなるものか。
私はフードを目深にかぶりなおす。

……でも、そもそも今日は機嫌よくなるなって方が無理だよ。
友達と家で楽しく勉強会して、宿題全部終わって、進路もはっきり決められて。しかも明日は日曜日。

幸せ過ぎて怖いくらいだよ。

「いつもありがとう、ひと!」
「この方が楽だっていうなら、私も毎日お寿司でいいわよ。
回転するのじゃなくて、静かに落ち着いて座れるところならもっと」
「みっちゃんが食べる量を100分の1にしてくれるなら、考えてあげるよ」
「あんただって今日は8枚食べたでしょ!4枚しか違わないじゃない!」
「1.5倍はかなりの差だよ」
「ケンカしちゃダメっス!
せっかく今日は師匠と仲直りできた、すっごく特別な日なんスから!!」

「なんだ、今日はいい事があったのか?」
もう1度パパが振り返って、今度は私たち3人に問いかける。

当然答は、

「別に」
「うん!」
「あいつが度々遊びに来るとか、ぞっとするわ……」

みんなバラバラ。

「けどま、私の宿題を片付けされる下僕ができたって考えれば、悪くは無いか」

もちろんみんな一緒だけどね。

「だから今日は……あ…ありが……」モニョモニョ
いいよ、わかってる。
声がモニョモニョ小さくても、顔が私の反対向いてても、はっきり聞こえるよ。
すごく嬉しいよ。

「え、なに?
蟻がみっちゃんのおやつを運んで行ったの?
それはダイエットを手伝ってくれてるんだよ。よかったね」
「あんたね~!
……ったく。
余計なことばっか言ってないで、あんたは前見て歩くことだけに集中してなさい。ただでさえこけやすいんだから」

ギュッ

「あ……」

今日は完勝だと思ったのに、さすがはみっちゃんだ。
左手に…指と指の間にまでギュッと温もりを押し付けられたせいで、不覚にも一瞬フリーズしてしまった。むぐぐ……。
しかも…マズイ。あったかすぎて口元まで熱くなってきた。これじゃフードでも隠しきれないよ。

「あー!小生も小生も!!」

ギュッ

おまけに右手まで。
あーもうっ!
パパもチラチラ見ないで!背中が震えてるよ!

「あったかいね!楽しいね!」
「「…………」」

ま、いいか。
今日はこのままあったかくして、ぐっすり眠…れるかなぁ?
明日、先生に話すことが多すぎて、楽しみでなかなか寝付けないかも。
むふぅ。
早く会いたいな。


ガラッ
「ちょっ…ちょっと外で酔いを醒ましてきますぅ~~…」

神様もたまにはお願いを聞いてくれるみたいだ。
手を繋いで真っ直ぐ進む道の先、居酒屋さんからふらふらと、赤い顔の男の人が。
まだ遠いけど、薄暗い街路灯しかないけど、間違えるはずなんてない。

今日は本当に、

「大丈夫ですか矢部先生!?
お水もらってきましたから、飲んでください!」



~~~~~~~~~~



「道のど真ん中に座り込んで、なっさけないわね。
しかもこの寒い中シャツだけとか、変態なの?」
「あっ、ごめんなさい!
職場の先輩なんですけど、お酒に弱いのに私の同期が無理に勧めて……」
「ごめ…んね、みつばちゃん」
「え?
お知り合いの子たちなんですか、矢部先生?」
「ああ、うん。真壁先生も聞いたことあったでしょう?
丸井みつばちゃん。それに……」
「大丈夫っスか、矢部っち?」
「わっ、丸井ふたばさん!
キャーすごいすごい!テレビ見てます!握手してください!!」
「へっ?
あ…押忍…じゃなくて、ありがとうございます……!
おおっ!96.3のF!!」
「え…キャッ!?
なんで知って……!?」
「ややこしくなるからふたばは黙ってなさい。
童貞、誰よこいつ」
「この…人は……うぷっ」
「矢部先生!
お水お水!ゆっくり飲んでください!」
「あり…がと……。うぅ……」
「少し休んでいてくださいね。
えっと…それで私ですけど、去年度から鴨橋小学校に赴任した真壁かおりっていいます。
丸井さんたちのことは先輩の先生方からよく聞いてますよ。
とっても元気で可愛い三つ子ちゃんたちだったって。
でも本当に全然似てないのね…あっ、ごめんなさい。変な意味じゃないのよ」
「ふ~ん」
「会うことができて本当に嬉しいわ。
丸井さんたちのことは、職員室でもたびたび話題にあがってて…野田校長なんて、
『丸井さんたちがいなくなった学校は、まるで火が消えてしまったみたいだ』って、よく寂しがってるのよ」
「へえ、そう」
「そう、なのよ……。
あの…私なにか……」
「どうでもいいけど、こいつ凍死しそうになってるわよ」
「ああっ!?ごめんなさい矢部先生!
今すぐコート取ってきます!頑張ってください!」

ガラッ ドタドタ

「良かったじゃない、巨乳で可愛い後輩ができて。
あんたもやっと卒業できそうね」
「ま…かべ、せんせ……は、そんな……」
「いいけど別に。帰るわよ、ふたば」
「え…でも、みっちゃん……」
「ふたば」
「おす……」
「待って……。
あの……ひとはちゃんは……?」
「あんたの姿があんまりにも情けないから、呆れてパパと先に帰った。
呆れすぎて家で泣いてるかも知れないわ」
「……そう、なんだ……。
そりゃそうだよね…はは…は……」
「…………それだけ?」
「え?
それだけって……ボクは…ボクらは………。
ボクには……」

ガラッ

「コート持って来ました!
それでこっちはあったかいお茶です。ゆっくり飲んでください、先生」
「す…すみません、真壁先生。んぐ…ふぅ」
「あら、丸井さんたちはお帰り?」
「帰るわ、家に。当然でしょ。
ひとはが待ってるんだから」
「ひとは……ああ、丸井ひとはさん。もうひとりの三つ子ちゃんね。
その子にも会いたかったな~。残念。
こうやって実際に会える機会なんて、そうそうないから……」

「ひとはちゃんに!!」

「矢部先生?」
「わっ、びっくりしたっス」


「……………なによ」


「……ひとはちゃんに伝えて。
ボクの部屋……ボクなんかの事はもう「嫌よ」 …え?」

「嫌よ。
あんたが自分で言いなさい。自分で本人に面と向かって伝えなさい。
会えるわ、いつでも。
狭い町だもの。駅でもスーパーでも、どこでだって会うことはあるわ。普通に。
あんたが逃げなきゃね」
「………そっか、そうだね」



「そうよ。はっきり伝えなさい。
あんたは先生なんだから」



~~~~~~~~~~
==========


カチャカチャ パタン...

日曜の早朝。
いつものように合鍵を使い、先生の部屋に入る。
先生を起こさないよう静かに、静かに……。

「…………」

いつものように壁にコートを掛ける。
いつものようにベッドに腰掛け、可愛い寝顔を眺める。

「先生……」
「ぐお~……」


私と先生。


他に誰もいない。
先生への言い訳を気にする必要もない。
先生を私だけのものにできる。

先生が起きるまでの、短い、私だけの時間。

「うぅん…みず……」
「……昨日はずいぶん飲んだんですね」

ひとり口にする言葉は差し込む朝日で溶かされて、どこにもたどり着けずに消えていく。
これも、いつものこと。
私はこれでじゅうぶん幸せだよ。

「ぐか~……」
今日は特別ぐっすりだ。口は半開き。涎れまで垂らしてる。
シャツもズボンも昨日のままだ。
お酒に弱い先生がこんなになるまで飲むなんて珍しいな。

「そんなに楽しかったんですか?」
「ぐ~……」

私の知らないところで、知らない人に、知らない笑顔を見せていたのかな。
その姿を思い浮かべ…ようとして、やめる。
そんな事できない。
胸が張り裂けちゃうよ。

「ふぐ…お~…」

先生は寝てる。
だからなんだってできる。

「先生……」

先生のアゴに触れる。ふわふわ。指先に柔らかいヒゲの感触。

「先生、好きです。大好きです。
ずっと傍にいて。もっと近くに来て。その手で触れて。
世界一大好きです」

先生に告白する。こんなに簡単。
幸せだよ。
幸せなんだ。

「がー…」

…………笑っちゃうよ。なんて不毛なひとり遊びだろう。
結局私は出会った頃のままなんだ。
みんなは外に踏み出しているのに、ひとりだけずっと壁に隠れてる。
みんなには偉ぶって追い立てるくせに、自分の番になるとすぐ言い訳して逃げ出しちゃう。

いつまでも、誰かに手を引いてもらわなきゃ何もできない小さな女の子。
わかってる。

「先生、好きです。大好きです。
世界一大好きです」
「うむぅ…………ゃん…」

今、どんな夢を見ているんですか?
楽しい夢ですか?
幸せな夢ですか?

傍に私はいますか?

「先生、好きです。大好きです。
世界一大好きです」
「う……好き、だよぉ…」

……栗山(旧姓)先生ですか?それともあの真壁さんって人ですか?



「ひとはちゃん…」




「え?」




「せ…先生、誰が…好き、なんです?」
声が、震える。
声だけじゃない。指が、身体が、視界が、心が。世界の全てが震えて、すぐ目の前すらはっきり見えなくなる。

「ひとはちゃん…だい、すきだぁ…」

!!?

私は身を乗り出す。
先生の顔をはっきり見つめるために、目の前よりももっと近くへと。
吐息がくすぐったくなるくらい、傍へ。

「ぐおぉ~…」
今日は特別ぐっすりだ。口は半開き。よだれまで垂らしてる。
寝てる。少なくとも見た目では。

「…ふん。その手には乗りませんよ。起きてるんでしょう?
そんな子供のいたずらに引っかかる私じゃありませんから」

「すか~」

「いい加減寝たふりはやめて下さい。怒りますよ」

「ぐ~」

「セクハラと名誉毀損で訴えます。いいんですか?」

「か~」

「辞典カバーに隠したDVD。1枚だけ髪の長い女子高生ものがありますよね。
あれってどういう事なんですか?」

「ぐご~」

………。

「寝てる…という事は本当にただの寝言か。まぁ、そんなところだよね」

「私のひとり言を反復しただけに決まってる」

「そもそもどんな『好き』なのかもわからないんだから」

「生徒として『好き』になってもらってるのは、最初からわかってたことじゃないか」

「2番目かも。5番目とか10番目かも。どうせ1番好きなのはおっぱいの大きい女だよ」

「こんな小さな子供、相手にされるわけないって」

「まったく…変な勘違いしてうろたえて。みっともないなぁ」

「………雨漏り…?」

天井を見上げる。
穴なんて無い。そもそも今朝は雲ひとつ無い青空だ。今もほら、カーテンから光が漏れてきてる。

……?

じゃあこれは何だろう?
ぼたぼたとすごい勢いで水滴が落ちて、先生の顔とシーツを濡らしていく。変だな。

ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。
すごい勢い。

「あ…れ……?」

何だろう?私も変だ。
こんなに近づいてるのに、また先生が見えなくなった。
それに苦しい。胸が張り裂けそうなくらい。息もできないよ。


ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。
水滴は止むことなく降り続ける。

……これ、なんだっけ…こないだ見たような……?
確か……あぁ、そっか。



「わたし、の…なみ……」



ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。
止まらない。

後から後から溢れ出てくる。
当たり前だよ。
5年分もあるんだから。

「あ…ぅ……。
まいった…なぁ……」

こんな顔、先生に見せられない。ものすごく心配されちゃう。
『もう来ないで』って、言われちゃうかも。
まさか起きてないよね。

もう目では何もわからない。
だから両手で先生の輪郭をなぞる。

「ぐおぉ~…」
今日は特別ぐっすりだ。口は半開き。よだれまで垂らしてる。
寝てる。ぼたぼたと頬に当たる雨に気付きもせず。

「先生…」

ひとさし指に吐息を感じる。
先生の口は半分閉じられてる。
先生の唇が、すぐ傍にある。

「ん……」
吸い寄せられるように、重ねる。
大丈夫、軽く触れるだけ。

だけどはっきりとぬくもりが伝わってくる。
だから触れたところに想いが伝わっていく。触れた分だけ私で染まる。気が、して。

「むぐ…ん……」
先生は寝てる。

「れるっ…んぅ…」
唇はカサカサになってる。お酒を沢山飲んだから渇いてるんだ。
このままじゃ可哀相。
舌でなぞって濡らしてあげなきゃ。

「ふぁふぅ………」
先生は寝てる。

「ちゅ…ずるっ……ぅん」
口は半分開いている。ずっと開いてたから中まで渇いてるかも。
もしそうだったら大変だ。
舌を差し入れて確認してみよう。

「ん……ぅ……」
先生は寝てる。

「じゅる……ぴちゃ…じゅぅ……」
喉も渇いてるはずだ。とっても渇いてる。
そうに決まってるよ。
可哀相な先生。今すぐ奥まで濡らしてあげますね。

「んふっ…せんせ……じゅち…」
両手で先生の頬を包んでしっかり捕まえ、溢れ出てくる唾液を舌を伝わせ送り込む。
たくさんたくさん注いでいく。
ふわふわ。手のひらに柔らかいヒゲの感触。
手の中に、私の好きな人がいる。


「…こくん」
先生の喉が鳴る、のと同時に、私の背筋が震える。


気持いい。


「ん…じゅるっ……。んくっ……ぅ…」
もっと飲んで。もっと私で染まって。私だけの先生になって。



「んくっ…んくっ……くっ……こくん…。こくっ…ぐ…ふぅ…」



あぁ…気持ちいい……!
ガクガクと背筋が震える。
ジュワッと唾液が湧く。
じんわりお胎が熱くなる。
こんなに簡単に、こんなに気持ちよくなれるなら、もっと早くやっておけばよかった!!

「ちゅずっ…くちゅ……ふ、ちゅずずっ、じゅる、じゅっ……ふ、ぅ…じゅるっ」

「……こくっ…はぁっ、ふっ…くふっ……ぷあっ!
ふぁっ……あ!!!?」
先生が起きた。


しまった!!


「ぷぁっ…じゅるっ……!
ち…ちがうっ…んです!ちがうんです!!」

これじゃただの痴女だよ!変な子に思われちゃう!
早く離れなきゃ!
でもだめだ!

どうして!?

頬から両手が離れない!!瞳から目を離せない!!
離れてくれない!

離れたくない!!!

やっとこんな近くに来れたのに!!!


「ちがうんです!あんまり先生が間抜けで、いたずらを我慢できなかったんです!」
 そうなんです。あんまり先生が愛しくて、くちづけを我慢できなかったんです。


「勘違いしないで下さい!先生の事なんて何とも思ってませんから!」
 お願いわかって下さい。先生の事だけをずっと想ってきたんです。


「こんなに寂しい部屋に来てるのだって、ひとりじゃ哀れだからです!」
 こんなに優しい世界を知ってしまって、ひとりじゃ居れないんです。


「違います!」
 そうです。



「変態教師!」
 好きです。



「キモオタ!ロリコン!」
 好きです。好きです。



「ヘタレ!足臭い!カマっぽい!」
 好きです好きです大好きです。



「もう寄らないで!」
 ずっと傍にいて。



「どこか遠くへ行け!」
 もっと近くに来て。




「私に触らないで!」
 その手で触れて。





「とんでもない変態!!」
 世界一大好きです!!





「はぁっ、はぁっ、はあぁー…っ。
ふぅっ、く……はぁ…ぐすっ………」



ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。



「……そうだね。本当にその通りだよ」
私の手に先生の手が重なる。大きくて硬い手。ずっと欲しかったぬくもり。
私の手が先生の手と頬に挟まれる。ぬくもりに包まれる。
もうだめだ、これじゃ逃げられない。

「やっとわかった」

声は、瞳は、微笑みは、どこまでも優しくて。何もかもが夢みたいで。
いつか終わってしまう夢でしかなくて。
もういやだよ、こんなに苦しいのは。

「ずっとわかってたんだ」

ゆっくりと、身体を起こす、私たち。
いつも見上げてきた微笑み。いつも見上げてる私。
ずっと埋まらない差。

苦しくて、痛くて。
怖くて涙が止まらない。

ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。
だけど想いはいつまでも溢れ出てくる。

ずっと終わらせたくない。いつまでも、夢を見続けていたい。


ずっと『今』が続いて欲しいの!!


「ひとはちゃん」

「ひぅっ…!
や…やめてっ!お願い!!」

『今』を終わらせないで!!



神様!!!




「ボク‘も’大好きだ」




「え………?」


今、なんて……?


「ボクもひとはちゃんが大好きだ」
「うそだ……嘘、です」
「本当だよ」
「どうせ5番目とか生徒としてとか…大した意味はないんでしょう?」
「世界で1番好きだ。ひとりの女性としてのキミが、大好きだ。
ボクの全部をかけたっていい」
「ふざけないで下さい!どれだけ歳が離れてると思ってるんですか!」
「ふざけてなんかないよ。10歳以上離れたおじさんのボクだけど。
でも、好きだ。大好きだ。
いつだって、誰にだって、大声で言えるよ」
「嘘です!!
こんな子供を好きになるはずありません!好きになったとしたら犯罪です!!
ロリコン!さっさと死んで下さい!


死ね!!!!」


「いたたた……。
いやぁ~…うん。いや、犯罪と言われるとそうかもなぁ……。
というかその通りなんだけど……。
もちろん、出会ったときから好きでしたってわけじゃないよ。
だけど好きになったんだ。
『今』はひとはちゃんが大好きなんだ。
え~っと…そのう……本気で好きになった女性が、たまたまずいぶん年下だったって事で……。
なので、死ぬのは許してもらえないかなぁ…?」

「低い背!薄い胸!貧相な身体!心!!
いったいどこを好きになったっていうんですか!!?」

「ひとはちゃんと一緒に居る時間が好きだ。
テレビを見てる時、おしゃべりをしてる時、ふたりでボーッとしてる時。
心から安らぐ。心があったかくなる。ボクの1番大好きな時間だよ。
ひとはちゃんの優しい心が好きだ。
友達を…ううん、みんなを想って、みんなのために一生懸命頑張って。
みんなで笑ってるのがいいって想う、ひとはちゃんの心。本当に綺麗だ。
ひとはちゃんが作ってくれるご飯が好きだ。
毎週あんなに美味しいご飯が食べられるから、だらしないボクでもいつも元気に暮らせてる。いつも頑張れる。
ひとはちゃんの可愛い笑顔が好きだ。
あんなにびっくりするくらい可愛い笑顔を向けてくれるなんて…ボクに向けられてるなんて。
夢みたい「もういい!嘘です!嘘なんです!!」

何もわかってない。全然わかってない!
絶対そうだよ!だから今、こんなにゆったり優しく笑えるんだ!
こんな私をあったかく包みこめるんだ!

情けなくてみっともない先生!いい加減現実を教えてあげますよ!!

「うそうそうそうそ!ぜんぶ嘘!
私は悪い生徒なんです!嫌な女の子なんです!!
先生の気を引きたくて押し付けてるんです!見返りが欲しいんです!
私が優しい!?目が曇ってるんですか!!
良い子でいれば見てくれるって期待してたんです!
可愛いだって!!心の中はグチャグチャのドロドロなのに!!
バーカ!!見事に騙されましたね!!
そうだ!!
みんなみんな騙されてるんです!!」

「でも、みんながひとはちゃんに言ってるでしょう?
『ありがとう』って。
それはみんなが本当に嬉しかったからだよ。
ボクからも、いつもありがとう」

「みんななんて知らない!私だけでいい!!
ふたばが嫌いなんです!!あんな何でも持ってるなんてズルイよ!!
しんちゃんが嫌いなんです!!ずっと綺麗でなんていられないよ!!
みっちゃんが大嫌いなんです!!!
私もみっちゃんになりたかった!!なりたい!!

無理だよ!!

嫌い嫌い嫌い!大嫌い!!
だからひとりでいいんです!ずっとひとりが楽なんです!
余計な事しないで!!!」

「でも、ひとはちゃんはみんなに言ってるでしょう?
『ありがとう』って。
それはみんなが本当に大好きだからだよ。
ボクにはいつもはっきり聞こえてた。出会ったときからずっと」

「嘘つき!!そんなの聞こえない!!私なにも言ってない!!
おせっかいはやめて!!迷惑なの!!
私は先生なんて!先生なんて!!

先生なんて!!!」

「ボクも大好きだ」

「うるさい!!
勝手に決めるな!!勝手に私の世界に入ってくるな!!!
私は!

私は!!」

「そっか……そうだよね。
ごめんね」




ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。




「ボクはひとはちゃんが世界で1番大好きです」




「ふぐぅ……あ…ああっ……!
人、の…はなしっ…ひぐっ…」

「うん。わがまま言ってごめんね。
だけど好きなんだ。
キミにどう想われてても、ボクがキミのことを大好きなんだ。
キミがどう想ってても、ボクはキミの全部が大好きなんだ。
大好きだよ、ひとはちゃん」

「ぐすっ…ふ、くぅ……っ」

「情けなくてみっともないボクだけど…あぁ、そうなんだよなぁ。こんな時までかっこつけられない。
ボクは『先生』だから。キミを好きでいるために『先生』で居たいから。
だからやっぱり、今はまだ、いつも傍にいるなんて言えない。そんな嘘はつけない。
だけど、ずっと傍にいるよ。
だってボクは、世界で1番ひとはちゃんに泣いて欲しくないって想ってるだもん。
そうだ。今決めた。
もうひとはちゃんを泣かせない。絶対に幸せにしてみせる。
そのために、ずっと傍にいさせてください」


「ふぅっ…く……。ひ…あぁ…あ、うぅ…」


ぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼたぼた。


せんせい……。


「……え~~っとですねぇ…」
張り裂けた胸に、ゆっくりと優しい声が広がっていく。
胸に、心に染み渡って、少しずつ痛みが消えて行く。

「…ふぅっ……な…んです、か?」
「それで、ボクの…あのぉ~、あれです」
目はきょろきょろ、口はもごもご。顔を真っ赤にして、大汗をかいて。
いつも大慌てな先生。
だけど今向けられているこの表情は、初めてで。

「ぐすっ…なん、です……?」
「あーっと、そのぅ……うぅん……ますます泣かせちゃったみたいで、あれなんだけど。
うわぁ…やっぱりボクはダメだなぁ……。
いやいや、でも今は」
軽く深呼吸して、静かに私を覗き込んでくれる。キラキラ輝く瞳が目の前にある。
いつも優しい先生。
だけど私をこんなにはっきり映してくれたのは、あの頃以来で。

私に映る先生が、大きく息を吸い込んで。
そして、はっきり伝えてくれる。


「ひとはちゃん!
ぼっ…ボクの告ひゃくの返事はいかがなんでしょふか!!」


「!!」

告白。
先生が。

告白!私に!!


そうか!!そうなんだ!!!


「………そうだよ。
雨が通り過ぎたあとには、必ず、虹がかかるんだ。
やっと真っ直ぐ見ることができた」


声は、瞳は、微笑みは、どこまでも優しくて。何もかもが夢みたいで。


だけど両手に感じるこのぬくもりは、確かな現実なんだ!


「しょう、が…ないですね…」

「うん」

「せんせ…の…っく、相手をしてあげられるのは…うぅ…っ。
わたしくらいです……」

「うん」

「野良犬の世話を、し始めて…っ、途中でやめるのは、寝覚めが……悪い、です…から!
しょうがないしょうがないしょうがない!」

「うん」



「傍にいさせてあげます!!!!」



「ありがとう、ひとはちゃん」
「むぐ」

先生が私の頭を抱き寄せる。私を抱き締めてくれる。
先生に埋まる。顔が。全部が。

先生は全部を受け入れてくれる。

どくんどくん。

先生の心臓、すごい音だ。
本当に緊張してたんだ。本当に心から告白してくれたんだ。
何もかも本当の本当に本当なんだ。

どくんどくん。

先生の音、先生の匂い、先生のぬくもり。
むふぅ……気持ちいい。

溶けちゃいそう………。


あぁ………。



ああ!!!!




これがこの安らぎがぬくもりが全部ぜんぶゼンブ私のものずっとこのままいたい絶対離さない誰にも渡さないひとカケラだってわけてやるもんか…ッ!



…ああ。
そうだ。そうだった。

「先生!」

湧き上がって来たものと共に顔を上げ、先生を見据える。
先生の瞳に私だけを映す。

「はひぃ!?
な…何でしょう!?
…やっぱりさっきの無しとか…?もしかして、ほんとに実はからかってただけでしたとか?」

「証拠を下さい」

「え?」
「私が先生の恋人なんだっていう証拠を下さい」
「しょっ…証拠……。あー…」

ごくり。
先生が喉を鳴らす。
唇が近づいて来る。私に触れてくれる。

「ん……」

ただ触れ合うだけの、優しいくちづけ。恥ずかしがり屋の先生の精一杯。
だからこそ、先生の想いがはっきり伝わってきて。
さっきのひとり遊びよりずっとずっと気持ちよくて。

「………大好きだよ」
私もです。

でも、

「足りません」
私の5年を埋めるには。

「ええっ!?
え~っと他には……プレゼントとかは月末まで待ってくれないかなぁ~…。
いや、今でもそれなりに持ち合わせはあるんだけど、やっぱり恋人に贈るならちゃんとしたのを用意したいし……」
「そんなモノじゃありません。
先生がずっと一緒にいてくれるっていう証拠を下さい。
私の全部が大好きだって証明してください。
先生の全部で触れて欲しいんです」
「全部……触れ………………???
……プレゼントじゃなくって………………………………あっ!!?」
長い沈黙を経て昇ってきたすっとんきょうな声と共に、私を抱きしめている腕が身体が大きく震え、次いで目の前の顔が真っ赤に染まる。
正直、時間が掛かりすぎだ。
この状況でこの台詞なら、意味するものなんて簡単にわかりそうなものだけれど、やっぱりこの人にははっきりと口にしてあげないとダメか。
好きな男性の熱い体温と激しい鼓動を受け止めながらも、
私は頭を冷静に切り替え、ここまでに溜めてきた手札から使えるものをチョイスしていく。

「え…ええっ!?…っと、それは、そのっ、まさか……ぇ…ちするって事でしょうか…?」
「そうです」
しっかりと目をあわせ、腹筋を意識すらして声を張り上げる。
わざわざ口に出してまで確認してくれた親切心のおかげで、羞恥もムードへの希望も完全に塗りつぶすことができた。
期待なんて余計どころか邪魔だよ。これが私の先生なんだから。
想った通りの先生だから、ここからの展開を組み上げるのだって簡単にできる。

「う…うぅ……。
それ…は……っ。
ほらっ!ボクらにはまだ早いって言うかあれだよ!!
そういうのは先にとっておきたいというか!!心の準備があるし!!」
「いい歳して気持ち悪いこと言わないでください。
それに『まだ早い』って、私たちもう5年も付き合ってるんですよ。
本当に……」

まったく。本当に。


「どうしようもない素人童貞ですね」


「しろっ……!?
…………な…何を言ってらっしゃるでしょうか?
んも~!女の子がそんな言葉使っちゃだめだよ!
あはは……」
「パソコン。
見られてる自覚があるんなら、ネットの閲覧履歴も消さないと意味ないですよ。
あと携帯。
店の名前をそのまま登録するなんて、正気を疑います。
発信履歴を見れば、どのくらいのペースで行ってたかも丸わかりですよ」
「………………」
ぐるぐると先生の瞳が廻る。
わかりますよ。必死で言い訳を考えてますね。
私に隠し事なんて無駄な努力です。こっちは5年も見てきたんですから。

「…まぁ5年間付き合ってきたっていっても、はっきりはさせてませんでしたしね。
これまでの分は浮気としてカウントしないであげます。
先生の焦りもわかりますから、目をつむりましょう。
けど、今。
商売女にはできて、恋人の私にはできないって言うんですか?」

お願いします。わかって下さい、この気持ち。
このぬくもりを絶対離したくないんです。
だから『絶対』が欲しいんです。
苦しいのも痛いのも怖いのもここで最後にしたいんです。

此処で『今』を『ずっと』にしてしまいたいんです!!

「えぇ~~っとぉ………アレというかゴムというかもないし、またにしない?
そしたらきっとお互い落ち着いてる……と、思うし」
「私、今日は『大丈夫』です」ギリギリ。たぶん。
「…あのねひとはちゃん、それはちゃんと大丈夫ってものじゃないんだ」

む…小学校のとはいえ、さすが『先生』。ちゃんと知ってるんだ。

まずいな。

「……そりゃ絶対大丈夫なんて言えないですけど、先生こそせっかく経験を買ったんですから上手くやってください。
それとも遊びすぎて、私に伝染るのが怖いものとかあるんですか」
はっきりと口にして伝える。恥ずかしがってなんていられない。
恥なんてどうでもいい。
『今』、先生からもらう事だけが大切なんだから。

「いやいやいや!いつもちゃんと着けてた…って違う違う!!
そうじゃなくてね、例え…あの…アレを……中にしなかったとしても、
可能性はあるものだから…って、そういうことでもなくて!
ああもうっ、何言ってるんだボクは!
とにかくボクらにはまだ早い事だから……」
「できないんですか……?」
傷ついた表情をつくり、上目遣いで先生を見つめる。もちろん涙だって忘れない。
手段なんてどうでもいい。
『今』、先生にもらえなかったらつぶれてしまう。

ズルくても汚くてもなんでもいい。なにもかもどうでもいい。



このぬくもりが離れていってしまうかも知れない恐怖に比べれば、なにもかもくだらない事だよ。



「…………」
ぐるぐると先生の瞳が廻る。
お願い、迷わないで。

廻る、廻る、廻る、廻る、廻る、廻る。ぴたりと定まる。

神様。

「…わかったよ、ひとはちゃん」
「先生……」やった!!むふぅ!!

思ったとおりに行き過ぎて笑いを堪えるのがたいへ「でも」

「えっ…?」

『でも』?
『でも』何なんです?言ってください。早く。なんでもします。だから……!

「シャワー浴びてきていいかな?
ボク、昨日は帰ってきてそのまま寝ちゃったんで……ごめん」
「……………ついでにヒゲも剃ってください」