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~ 発見(ひとは視点) ~

ひとは「……で、松岡さん、私達どこに向かってるの?」

松岡「とりあえずは……墓地ね!」

私は大きく嘆息する。

嘆息した理由は二つ。
ひとつは、松岡さんと墓地……嫌な思い出はあっても、言い思い出なんてひとつもない。
もうひとつは、今の状況。どうしては私は松岡さんと行きたくもない墓地に行くために、みっちゃん達とは別行動しているのだろう……と言う呆れから。

松岡さんの急な行動には、いつも調子を狂わされる。
主たる原因は私が天才美少女霊媒師である――と誤解されていることなのだけど、この誤解を解こうと思ったところでいつも失敗に終わるのだ。
まぁ、その誤解のおかげで、有意義と感じることもあるわけだけど……。
それでもそれは、一万円で五円チョコを買うようなもので、迷惑という名となった大量のお釣りが帰ってきてしまう。
そのため有意義な経験は、有効桁数の遥か下に位置する端数に過ぎない。
つまり実質迷惑の一言で片付けてしまっても良いくらいだ。

松岡「今年も墓地で張り込んでみようかな? どう思う三女さん!」

そんなこと、私に聞く事じゃない。それとも、私が随伴することは決定事項だったりする?

ひとは「……そうだね、私は張り込まないし、どうだっていいよ」

私は冷たく言い放つ。
いつものような失敗をしないためにも、今日はハッキリと主張してみた。これなら墓地で一夜を明かすなんて過ちを犯すことにはならないだろう。

松岡「わかったわ! 幽霊が確認できたら電話で呼ぶね!」

……いや、呼ばなくいいから。別に幽霊が出るまでの時間が勿体無いとか暇とか思ってるわけじゃない。
でも……電話ならいいか。状況によっては暇つぶしの話し相手になるかもしれないし、様は誘いに乗らなきゃいいわけだし。
最悪受話器を上げておけば良いだけの話だ。

そんなことを考えてる時だった。

松岡「あれ? あそこに居るのって……杉ちゃんと、みっちゃん?」

ひとは「え?」

松岡さんの言葉から予想していない意外な人物の名前二人が上がり、私は彼女の指差す方向に視線を向ける。
そこには本当にみっちゃんと杉ちゃんが居て驚いた。
いや、それじゃ言葉が足らない。驚いたのは“二人を見た”からではなく、“二人だけで居るところを見た”からだ。

確か、私が松岡さんに拉致される前に二人を見たときは、なんとかさん達も一緒だったはず。
その時、遠くから聞こえた会話も、一緒に帰るであろうことを想定しての会話だった気もする。
それがどうして?
更に思考をめぐらそうと考えていた時――

松岡「二人だけで? 妙ね……は! もしかして霊の仕業!」

――松岡さんはそういって目を輝かせる。

私はそんな松岡さんを見て思った。
……今の松岡さんなら変な誤解されずに上手く誘導できる。

私は、松岡さんが二人に視線を向けているところの隣に行き、囁く様に呟く。

ひとは「そうかも知れないね……後を付けよう」

松岡「っ! そ、そうね! 二人が心配だしね」

二人の動向が妙に気になった私は、松岡さんを焚き付け、後を付けることにした。


~ 尾行(松岡視点) ~

ひとは「この方向は……恐らくデパートだね」

松岡「そっ、そんな人通りの多いところにいって一体如何するつもりなの!」

私は一般市民の心配をしながらもテンションを上げていた。
三女さんのお墨付きの幽霊。そんな幽霊に出会えるなんて今日は非常についてる――いや、憑いてる!
それに三女さんが一緒にいるっていうのも嬉しいことだ。

幽霊は杉ちゃんかみっちゃん、もしくは両方に憑依してるようだけど心配要らない。
だって、三女さんが一緒にいるんだ。これ以上心強い助っ人など居ない。

ひとは「(松岡さん身を乗り出しちゃダメ! ……とりあえず、今は見つからないように尾行しよう)」

ええぇ!? 三女さんですら手に負えないくらい危ない霊なの!

前言撤回。私は一抹の不安を覚える。でもそういう展開も有りだと思う私もいた。
三女さんと力を合わせて難敵を打ち破る。良い展開だと思う。

しばらく後を着けていくと三女さんの予想通り、二人はデパートの中に入っていく。
そんな二人を三女さんは不安そうに見ていた。

そりゃそうだよね……なんたって実の姉が憑かれてる可能性があるんだから。

私は少し複雑な気持ちになる。
憑かれた二人を見て運がいいとか羨ましいとか思っているからだ。
二人を心配する人だっている。私だって二人に何かあったら嫌だ。
それが三女さんのように実の姉が……という立場ならもっと辛いはずだ。

二人がデパートに入って直ぐ、三女さんもデパートに向かい、私もそれに続く。

そうやって見つからないように後を着けると着いた先は洋服売り場。
三女さんは衣装ラックの影から二人を覗き見て「ったく……二人して何やって――」っと独り言を呟いていた。
幽霊が洋服売り場に来るということに、本当に幽霊がついてるかどうか、私は若干の違和感を感じた。

でも二人に鋭い視線を向け、黒いオーラを出しながら何か小声で呟く――――呪術かもしれないわ!――――三女さんを見るとやはり何かある?
今の私の位置からは二人を見ることができないので、後ろから三女さんの肩を掴み、声を掛けながら覗き見た。

松岡「なになに? やっぱりあの二人に悪霊が憑いてるのね♪」

そう言って私も覗いて見ると……えっと、服選び? 三女さんが鋭い眼光を向けていた二人は、特に目立った悪行をしているわけではないようだ。
私がそんな肩透かしを食らっている時、三女さんが視線だけ私の方に向け声を掛ける。

ひとは「そうだよ、危険な霊だと思うから絶対に二人に気付かれちゃダメだから」

三女さんはそう言って視線を二人に戻す。
危険か……そうは見えないけど、三女さんにはなにか思うところがあるのかもしれない。

私は二人に視線を向けず三女さんの方を見てそんなことを考えていた。
すると急に三女さんが驚いた顔つきになる。
私がその理由を理解する前に三女さんが動く。

ひとは「松岡さん! こっち!」

そう言って私の手を握り、別の衣装ラックの陰に隠れた。

私は混乱しながら声を出す。

松岡「あ、ちょ、三女さん!?」

ひとは「(いいから静かにして)」

三女さんは私の手を握っている方とは違う方の手で、人差し指を口の前に立てながら答える。
私が状況を把握出来ないで居るとさっき居た辺りから声が聞こえてきた。

みつば「――ったく、誰が見惚れたりなんか……まぁ、でも可愛い服が似合うってのは羨ましいわね……」

みっちゃんの声だ。
そっか、みっちゃんが移動してきたから身を隠したわけか。
それにしてもいつも通りのみっちゃんの喋り方……もしかして私達勘違いしてる?

ん? 三女さんがジェスチャーで指差す。
えーと、杉ちゃんの居る方……とりあえずあっちの様子も探るってことかな?

そして私は三女さんに手を引かれなが――ってまだ手を引かれたままだった!
杉ちゃんの見える位置まで移動してからタイミングを見計らって三女さんに小声で尋ねる。

松岡「(さ、三女さん? もう手、離してもいいんじゃないかな……)」

ひとは「(あ……、ごめん)」

今気が付いた様だった……三女さんも結構抜けてるところあるんだな……。
三女さんが気まずく視線を逸らして黙ってしまったため、私から声を掛けることにした。

松岡「(……なるほどね、みっちゃんが言ってた服、確かに可愛いし杉ちゃんに似合ってるね……)」

三女さんは何も答えなかったが、聞こえてはいるようだった。
それにしても、杉ちゃんも普通だな……憑依されてるようには見えない。ただ――

松岡「杉ちゃん……あんなに気にして可笑しいよね」

私は、杉ちゃんが鏡の前で色んなポーズを決めて居るのを見て軽く笑ってしまう。
杉ちゃんは本当、みっちゃんの事となると色々本気になる。それが周りの皆には気持ちが悪いくらい面白いわけだけど。
それはある意味幽霊より厄介なものに憑りつかれているのかもしれない。

みつば「んー、これでいいわね」

っ! みっちゃん!?
背後からの突然の声……振り向くとみっちゃんの姿が確認できた。
持ってる服を見ているためか、まだこちらに気が付いていないがそれも時間の問題――

<ドンッ!>

突然、強い衝撃を受けバランスを失い倒れる。
えっとなに? 何が起きたの?

私は衝撃で一時的に瞑っていた目を恐る恐る開く。

……。

えっと? なんか三女さんが私の上に乗ってるんだけど?

……。

えぇぇぇーーーー!!!

私はあまりのことに叫ぼうとしたが口は三女さんの手によって塞がれていた。
なに!? 何この状況!?

と、完全にパニックに陥ってる私だったのだが、左手の方の壁の向こう側から布擦れの音が聞こえてきた。
すると三女さんは音のするほうに視線を一瞬だけ向けた後、直ぐに私の方へ戻し何かを訴えかけるようにしてきた。

その意味深な動作がパニックになっていた私の精神状態をどうにか戻してくれて、今の状況が少しずつ理解できてきた。

私の居る空間……一方はカーテン、その正面の壁には鏡、両サイドは服をかけるフックの着いた壁……更衣室だ。
だとすると、隣で聞こえた布擦れの音は、恐らくみっちゃんが着替える音……つまり、三女さんは私を押し倒して更衣室に一緒に隠れた。そういうことだろう。

私は三女さんに視線を合わして状況を理解したことを伝えるため、軽く頷く。
その行動で私が伝えたいことは上手く伝わったようで、口を押さえていた手をゆっくりと放す。
ただ、隣からの布擦れの音は未だに聞こえているため、下手に音を立てることが出来ず、体勢はそのまま……。

な、なんか私ドキドキしてる? 見つかりそうだから?

私はなんだか良くわからない緊張を覚えて、口から湧き出た生唾飲み込んだ。
状況からして、みっちゃんに見つかりそうだからドキドキしてるって言うのは、きっと正しい。
でも、それだけじゃない……それだけじゃこの顔の火照りは説明できない……。

更衣室の証明は上に付いており、私の上に覆いかぶさるように三女さんが居るのだから当然、私の赤面しているであろう顔を影になっている。
それに加えて、三女さんの状態。視線自体はこっちに向いているが、私の顔を正しく視覚的情報として認識してるかと言えば、そうでもない。
この状況により身動きとれずに固まっている三女さんは、ただ、こちらに視線を向けているだけのはずだ。

そのお陰で私の真っ赤になっているであろう顔を認識されていないとは思う。
それでも私はその視線がどうとか関係なく、三女さんの顔を見ていられなくなり顔ごと視線を逸らす。

こんな状況じゃなかったら三女さんを跳ね除けて、近くの穴に飛び込みたいくらいの気持ちだった。
っていうか、隣でみっちゃんが着替えてるなら、今のうちに出ていけるんじゃ……。

そう考え至った矢先、隣でカーテンの開く音がして、足音が遠くに移動するのが伺えた。
みっちゃんが出て行って数秒の間があった後、そのままの姿勢で三女さんが口を開く。

ひとは「ま、松岡さん、その……ごめん」

松岡「え、あ、……さっきのはしょうがないと思う。うん」

私も顔を逸らしたままではあるがそう答えた。

私の答えを聞いてすぐ、三女さんは私の上から退いて更衣室のカーテンを少しだけ開ける。
どうやら外の二人を確認しているようだ。

私はその隙を突いて、何度か深呼吸して落ち着きを取り戻す。

そして、私は三女さんに提案を持ちかける。

松岡「……えっと、三女さん……帰らない?」

ひとは「え?」

私の提案が意外だったのか三女さんは軽く驚いた表情で疑問符をあげた。
私は更に続けた。

松岡「二人とも普通に買い物っぽいし、なんかストーカーみたいで悪いよ」

そう、悪霊が憑いてるようには見えない。
二人で居ることは珍しいことだけど、流石にそれだけで「悪霊が!」っていうのは飛躍しすぎだった。

三女さんは私の問いに更なる驚愕を受けていたようだが、直ぐにいつもの冷静な顔に戻り、視線をカーテンの外に移しながら答えた。

ひとは「ま、松岡さんも共犯だよね?」

……え?

松岡「わ、私も!?」

あ、いや、確かにそうなんだけどね。
急に共犯とか言われるとそんな反応してしまうのは仕方がないことだ。

それにしても、こうもあっさり悪霊でないことを認めてしまうところを見るに、三女さん最初から知ってたんじゃないかと思う。
だとするとその本意は……。

ひとは「共犯者としてこのことは他言無用ということで……」

そう言う三女さんを見て私は答える。

松岡「……二人だけの秘密って…ことね?」

それはストーカーの様な行動をした事……共犯者としてでなく、三女さんがどういう理由であの二人の後を追いかけてきたか……。
それを秘密にしてあげるという意味で発した。

ひとは「そう、二人だけの……」

三女さんは私の言葉を真似るように途中まで続けて、その言い回しの違和感に気が付いたようだった。
私の考えが読まれたかな――と思ったがなにやら見当はずれなことを考えていたのかわからないが、
特に気にすることもなく考えるのを止めたようだった。
それからすぐ、三女さんは二人に見つからないように更衣室から出て、私もそれに続いた。

~ 遭遇(ひとは視点) ~

ストーカーみたいと言われてまで付いて回るのも嫌だし……帰ろう。

更衣室から出て、見つからないようにデパートを後にする……はずだった。

もちろん、あの二人には細心の注意を払っていたのだから見つかることはなかった。
でも、別の予想していない人物がまったく別方向から来てることに気が付いていなかった。

???「あら、三女さんに、松岡さんじゃない! どうしたのこんなところで?」

そう、私達が気がつけない角度から声を掛けてきたのは――杉ちゃんのお母さんだった。

……不味い。このままだとみっちゃんと杉ちゃんに見つかる。
そう感じた私はすぐさま杉ちゃんのお母さん――――呼び名が長くて面倒なので以下麻里奈さんって呼ぶことにするよ――――に声を掛けた。

ひとは「え、えっとですね、立ち話もなんですし少し場所を――」
杉ママ「――あら? あっちに居るのはみくちゃんと、それにみつば様ね!」

ダメだった。一足遅かった。
二人に見つかる前に逃げる? ――だめだ、結局麻里奈さんの口から私たちのことが知られる。
どうしようもない……そう思って諦めかけていた時――

松岡「ちょっと、待ってください! 先に話だけこっちで聞いてください」

――松岡さんがそう言って麻里奈さんに声を掛け、手を引いて店の衣装ラックの影に移動する。
幽霊関係以外では余り強引ではない方だと思っていただけに、私には意外な行動に見えた。
私は少し遅れて二人に付いて行く。

杉ママ「あらあら、なにかしら?」

松岡「えっと、私達に出会ったことはあの二人には黙っていて欲しいんです……」

杉ママ「えぇ? どうして?」

当然の疑問だ。
私は隣で松岡さんがどう説明するか黙って聞いた居た。

松岡「ふ、二人が幽霊に憑かれてるんだと思って後を付けてきたんだけど、どうやら勘違いだったみたいで」

杉ママ「そうなの? それで?」

松岡「え、あ……」

それだけじゃ私達がここに居る理由にしかならない、本来説明すべき点とは若干ずれが生じる。
松岡さんは私に、目配せをした。つまり言っていいものか私に気を使っているのだろう。
私はそれを見て、自分から口を開くことにした。

ひとは「つまり、結果から見ればただストーカーしていたようなものです……嫌じゃないですか、そんな風に思われるの」

正直、自分のことをストーカーに見えるとか言いたくなかったんだけど、この際仕方がない。
例え、幽霊が憑いてると思ったと説明しても、私を霊媒師と認識している松岡さん意外に通じる訳がない。
だから、松岡さんから「三女さんも憑いてるって言っていた」なんてことを口にされる前に、私も松岡さんに巻き込まれた被害者なのだと錯覚してもらう必要があった。
私には万人を納得させるだけの、二人の後を付けて来た、都合の良い言い訳が存在しないのだ。
そうなると私が後をつけた本来の意図に気が付く人もいるかもしれない。

だったら本人達に知られるよりは此処で少し嫌な思いするくらい気にするに値しない。
私から話すことで松岡さんもこれ以上詳しく麻里奈さんに話すことはない。つまり本来の意図が周りにばれる可能性も、限りなくゼロに近づく。

私の言葉を聞いた麻里奈さんが不思議そうな顔をして言った。

杉ママ「私は嫌じゃないわよ? 軽蔑されるような視線もいいものよ?」

疑問に感じたところ、そこですか! そしてそれは貴方だけです!

杉ママ「それに、みつば様たちがそういう態度したとしても、本当に軽蔑したりなんかしないとおもうわ」

……かもしれない。
杉ちゃんに至っては人のことをいえる立場にないわけだし、軽蔑までされることはまずない、と言うより出来ないはずだ。
でも、例えそうであっても、私が困るのだから仕方がない。

杉ママ「ふふ、二人とも純粋でいいわね」

それだけ言うと杉ちゃんのお母さんは、衣装ラックの影から出て行き、みっちゃん達のほうに向かおうとする。

ひとは「あ、ちょっと――」
杉ママ「大丈夫よー、黙っておくわね。それと、二人とも少しそこで待っててもらえるかしら?」

麻里奈さんは、私の呼び止める声に先回りして答えたあと、意図の読めない台詞を言う。

ひとは「えっと……わかりました」

意図は読めなかったが、断る理由も特になく、更に言えば秘密にして貰えたわけだし恩もある。
とりあえず了承しておくことにした。



松岡「ここで待っててって言ってたけど……なにかな?」

ひとは「さぁ……あの人の考えることは常識を遥かに逸してるときがあるからね」

そう言って思い出されたのが腹痛プレイと言う非常に高次元の変態プレイ。
そんなことを考えていると、何をされるか若干不安になるけど仕方がないか。

私が「はぁー」っと軽く嘆息したとき待ち人が現れる。

杉ママ「お待たせ、それじゃ行きましょう♪」

松岡「え? 行くってどこに?」

私も松岡さんと同じ疑問を抱いた。
そして、麻里奈さんは驚愕の返答を返す。

杉ママ「どこって、あの二人をストーカーするに決まってるでしょ♪」

……。

全然決まってません!

杉ママ「二人にはデパートの出口で待ってるように言ってあるわ。気が付かれないようにいきましょう♪」

そういって麻里奈さんは先頭を歩き出し、私達は今の異常な状況に混乱しながらも後に続いた。

しばらく歩いてデパートの出口付近まで来ると、ちょうど出入口のところにみっちゃんと杉ちゃんの姿があった。
二人は微妙に距離を置いて、視線は二人とも同じ方向――つまり視線を合わせず外に向けられている。

松岡「や、やっぱり二人に悪いんじゃないかな……」

……松岡さんには悪いがやっぱりあの二人少々気になる。

杉ママ「もう少し近づいてみようかしら」

そう言うと上手く隠れられ、会話も聞き取れる位置を見つけたらしくそそくさと移動する。
私もそれに続くと、松岡さんも「(ちょっと三女さん!?)」と言いながらも付いてきた。

みつば「……」

杉崎「……」

無言だな……全然会話がない。
まぁ、あの二人が二人っきりって言うのは無理がある。
仲は良いが、犬猿の仲なのも事実。言葉だけ聞けば矛盾しているようだけど、あの二人の場合は上手く混在できている。
でも、やっぱりそれは安定的な関係ではなく、不安定であり、いつもと違う状況下、ましてや、二人っきりなんて状況には対応できない。
それ故にどうして二人で行くことになったのか気になる。
あの二人だってこんな状況に陥ることは容易に想像できたはずだ。

そして、その状況に耐え切れず一人が根を上げた。

みつば「わ、私もう帰るわね!」

杉崎「え……あ、そう…ね」

みっちゃんだった。
まったく、雌豚の癖に心はチキンだからね。

そう思いながらも正直に言えば私はホッとしていた。
……やっぱり私はあの二人がデートらしきことをしてるところを見るのが嫌だったらしい。
みっちゃんは私の姉だ。杉ちゃんや他の誰でもない私とふたばだけの大切な姉だ。

ひとは「はぁー」

自分に呆れて嘆息する。
……みっちゃんからしたら私って嫌な妹なんだろうな。
そんなことを考えてた時だった。

杉崎「み、みつば、きょ、今日は楽しかったわね!」

ひとは・松岡・杉ママ「「「!?」」」

杉ちゃんの発言に私を含めたみんなが驚く。

みつば「ば、ばかじゃないの! デ、デート終わった後みたいな台詞いわないでよ!」

その後みっちゃんの慌てた声が聞こえてきた。

杉崎「あ……」

杉ママ「(あらあら、みくちゃん……セリフ選択、間違えちゃったのね)」

……杉ちゃんは馬鹿なの? 天然なの?
いったいどれだけ混乱していればそんな間違い方できるのか……。
何か言わなくちゃいけない、で思いついたのがドラマとかであるデートで別れた後のセリフというわけだろうか?
つまり杉ちゃんの中ではやはり、この買い物は無意識なのか知らないがデート認識だったということ。
逆に言えば本来デートではなかった……まぁ、当たり前の事な気もするけど。

みつば「あんたは……楽しかったのね」

確認とも挑発とも取れるセリフをみっちゃんが言う。

杉崎「っ! 楽しい訳ないでしょ! あんたと二人っきりだなんて疲れるだけよ! さっきのは、言葉の誤なんだから本気にしないでよ!」

杉ちゃんらしい反応だね。でも――

みつば「そう……そんじゃ帰るわね」

――みっちゃんはそうじゃなかった。
私も麻里奈さんも、松岡さんでさえ黙って今の状況を見守る。
私は……何となく嫌な予感を感じていた。
それは周りにとっては、期待や好奇心となりうる展開。

そしてみっちゃんが杉ちゃんに背を向けた時だった。

杉崎「っ! ま、待って!」<ガシッ>

杉ちゃんがみっちゃんの腕を掴み引き止める。

杉崎「嘘よ……確かに疲れはしたけど……それ以上に楽しかったわ」

っ……!

杉ママ「(みくちゃん……そんな大胆に……)」

みつば「す、杉崎?」

杉崎「私は楽しかったわ! ……あんたは! あんたは楽しかったの!? どうなのよ!」

私の隣で麻里奈さんと松岡さんは興味津々といった具合で覗き見ている。
そんな中、私だけが違っていた。覗き見ることをやめ、私は複雑な気持ちでいた。
杉ちゃんの正直な気持ち……楽しかった。
私から見ても今日の杉ちゃんはどこか楽しそうに見えた。

つまり杉ちゃんは今日のことをデート認識していて、そして楽しめたということ。
それがどういう意味なのか、分かってるみっちゃん?
そして、その気持ちになんて答えるの?

しばらくの沈黙の後、声が聞こえてきた。
でも、口を開いたのはみっちゃんではなかった。

杉崎「……楽しくなかったのね……あんたは」

杉ちゃんが沈黙に耐えかねて先に答えた。

みつば「あ、ちょっ……」

<~~♪>

杉ママ「ぁ! (もしもし?)」

急に麻里奈さんの携帯が鳴り慌てて小声で応答する。

杉ママ「(え、ひとりで大丈夫? ……そう気を付けてね)」

松岡「(……杉ちゃんからだよね)」

松岡さんが私に確認するようにそう言う。
杉ちゃんから……さっきのやり取りから推察するに、先に帰るんだと察することができた。
杉ちゃんは、きっとみっちゃんが今日のこと楽しめてないと思ってる。
本当はどうなのかわからない。けど、少なくともみっちゃんは杉ちゃんのこと嫌ってはいないはずなのに。

みつば「ちょっと! 杉崎!」

私も覗き見る。
杉ちゃんはみっちゃんに背を向けて逃げるように帰っていく。

半分は私が危惧していたことにはならなかった……でもこれじゃ――

松岡「……三女さん、行こ!」

ひとは「え? ちょ!」

松岡さんはどういうわけか私の手を掴んでみっちゃんの方に歩みを進める。
そして、杉ちゃんが消えていった方向を見つめていたみっちゃんの背後に立って口を開いた。

松岡「今のはみっちゃんが悪いわね」

その言葉にみっちゃんは振り返る。あーぁ、見つかっちゃったよ……。

松岡「すぐ追いかけるべきだよ……ね、三女さん!」

ひとは「なんで、急に飛び出すかな……松岡さん……っていうか、手、放して!」

私は呆れながら答え、手をつないでるところをみっちゃんに見られるのがなんとなく嫌で、手を振りほどく。

松岡「あ、ごめん。でも共犯だから出頭した時も一緒じゃないとね!」

っ! 何言ってるの松岡さん!

みつば「なんで、あんた達……っていうか共犯ってなによ?」

松岡「それは私達が――むぐぅ」
ひとは「ちょ! 他言無用って言ったよ!」

私はこれ以上余計なことを言わないように後ろから手で口をふさいでやる。
……松岡さん地味に背が高いからやりにくい……。
その行動を見ていたみっちゃんは怪訝な顔をしていたが、深く突っ込んでは来なかった。

そして私はこの状態を長く続けたくないこともあって、みっちゃんに伝えるべきことをさっさと口にすることにした。

ひとは「みっちゃん……追いかけなくていいの? 杉ちゃん、きっと悲しんでるよ?」

それはきっと松岡さんも伝えたかった言葉。

みつば「な、なんでそんなこと判るのよ!」

わかるに決まってる。私だったら――……でもそうは口にしない。だからみっちゃんが身を以て体験したであろうことを口にした。

ひとは「みっちゃんも杉ちゃんに楽しくないって否定された時、悲しくなかった? 杉ちゃんも、きっと一緒だよ」

みっちゃんはその言葉を聞き終わると下を向いてしまい、デパートの光の影で表情が見えなくなった。
時間にして3、4秒した後、みっちゃんは口を開く。

みつば「……ひとは」

私の名前を呼び終わると同時にみっちゃんは勢いよく顔を上げた。
その顔はいつもの――周りの人を巻き込んで突き進んでいく、みっちゃんの表情だった。

みつば「私の分の夕飯ちゃんと残しておきなさいよ!」

みっちゃんは私を指さしながらそう言ったかと思うとすぐに背を向けて駆け出して行った。
お世辞にもその歩みは早くない――――私も人のこと言えないけど――――……
でも、あんな走りなのになんでも手に入れてしまいそうな、そんな走りにも見えた。

松岡「ぷはぁ! 三女さん口蓋し過ぎ! 超苦しかったわ!」

松岡さんが私の手から抜け出す。
どうやら、私はみっちゃんが走っていく姿をみて無意識に手の力を緩めていたみたようだ。

ひとは「あ、ごめん」

私は反射的に謝ったが心の中では自業自得だと思っていた。
秘密って約束したはずなのにサラっと言おうとするなんてひどい話だ。

杉ママ「ふふ、松岡さんも三女さんも意外にお節介焼きなのね」

隠れたまま様子を伺ってたであろう麻里奈さんが現れてそう言う。
別に好きで焼いたわけじゃない。松岡さんに連れられさえしなければ――。

そう考えたが、もし、松岡さんが飛び出さなかったら私はどうしていたのか……。
あのまま立ち尽くすみっちゃん、……そのみっちゃんとすれ違ってしまった杉ちゃん。
松岡さんの判断は正しい。
私は――

杉ママ「さーて、私はみくちゃんの様子確認してくるわね♪」

そう言って携帯を何やら操作し始める。

杉ママ「あらあら、道草してるみたいね」

……なるほど。
どうやら携帯のGPS機能を使用しているみたいだ。

杉ママ「三女さんたちも一緒に……あ、夕飯の準備しないとだめなのね、残念」

別に夕飯の準備とかなくても、もうストーカーする気なんてない。

それにしても杉ちゃんが道草……か。
みっちゃん見つけられるといいんだけど……。