アブシジン酸


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概要

  • 名称は、「脱離(abscission)」に由来する(abscisic acid)。
  • 器官脱離、休眠芽形成、種子の成熟の促進, 水不足環境に対する反応, 気孔閉鎖, 種子の発芽抑制など、植物の生活環全般にわたって重要な働きを担う。
  • 全ての種子植物及びシダ類、蘚類、菌類に普遍的に存在する。しかしある種のコケ類や藻類にはABAの代わりにルヌラリン酸が含まれる。
  • 主に成熟した果実,,(の白色体内)で、メバロン酸から合成される。
  • ABAの受容体は原形質膜の表面にある。
  • ABAは不安定な物質なので、農業上の利用価値はさほど高くない。
  • 鏡像異性体と幾何学異性体が存在し、天然に存在し活性のあるものは(S)-2-cis-ABAである。これに強い光を照射すると(S)-2-trans-ABAになる(両者の混合物になる)。
  • 合成されたABAは他の器官/組織に運ばれる。同時に2つの経路で代謝される。
1つは…ABAがグルコースと結合し、ABAグリコシドになる経路。このABAグリコシドには生理活性は無いが、分解されると活性のあるABAになる。
1つは…ABAは酸化され、6-ヒドロキシメチルABAを経てファゼイン酸, ジヒドロファゼイン酸に変化する。

歴史

  • オーキシン、ジベレリン、サイトカイニンに次ぎ4番目に発見された植物ホルモン。
  • アベナテスト…オーキシンを含む植物成分をエーテルで抽出、濃縮後に寒天片に含ませてアベナ(カラスムギ)芽生えの幼葉鞘の切り口の片側に載せ、幼葉鞘の成長を調べる方法。
    →このアベナテストは、オーキシンが発見されて間もない頃に頻繁に行われた。その中で、オーキシンの成長促進作用を阻害する成分が植物体内に存在することがわかってきた。
  • 1940年代:T. Hembergが、オーキシン阻害物質はそれ自身何らかの機能を持つホルモンであることを実証。彼はジャガイモ塊茎中の阻害物質の分布を調べ、休眠芽近くの表皮組織に多く存在することを発見した。この阻害物質は更に、休眠が終わる前になると減少することがわかった。故にこの阻害物質は休眠と発芽に重要な働きを持つと結論付けられた。
  • 1950年代:ペーパークロマトグラフィーにより、植物の成長促進物質(オーキシン)と成長阻害物質を分離。3つに分画した(フロントから順に、インヒビターβ, オーキシン, インヒビターα)。このインヒビターβは様々な植物に広く存在する成長阻害物質であることがわかった。
  • 1960年代:F. T. Addicott(リワタの果実の脱落を促進する物質を研究)らは、225kgのワタの未熟果実よりリワタの芽生えの器官脱離を引き起こす物質を9mgの純粋な結晶として単離することに成功。アブシジンⅡと名づけた。
       P. F. Wareingらは、カエデやカンバなどの樹木の休眠芽を誘導する物質の単離を進め、これをドルミンと名づけた。
       R. F. M. van Steveninckらは、ルーピンマメに落花を促進する物質が存在することを明らかにし、これをルーピン因子と名づけた。
   ⇒1965年に大熊和彦(Addicottのグループ)がアブシジンⅡの構造を決定。ドルミンもルーピン因子も同一化合物であることが明らかとなり、アブシジン酸という名称に定められた。

(3)生理作用
 ①離層形成と器官脱離
  • 離層形成を促進する。これはABAの直接的な作用ではなく、ABAの投与により合成が促進されるエチレンの働きに因る。従って器官脱離の調節機構で中心となっているのはABAではなくエチレンと言える。
 ②休眠芽の誘導
  • 日長変化と休眠芽形成との間の連絡係となる化学信号として、ABAはdormancy(休眠)誘導に寄与する。
  • しかしシカモアカエデの葉の中のABA含量を季節を追って調べたところ、春先の新芽が出る頃にむしろ増加していた。このことからABAは必ずしも休眠誘導に関与するのではないことがわかった(植物種によって休眠誘導をするか異なる)。
 ③種子の発芽を抑制
  • 種子の発芽を抑制する。ジベレリンは、ABAの発芽抑制効果を解除する。レタス種子の果皮にはABAが含まれており、種子内のジベレリン濃度が上昇してABAの発芽阻害作用が解除されると発芽をする。
  • ジベレリン濃度を高めるのは環境要因や光要因。
 ④水不足に対する反応
  • 土壌内の水分量が少ない(水ポテンシャルが高い)と植物は吸水成長(細胞が水を吸って体積を増やすこと)ができない。このような水不足の状態になると、植物体内のアブシジン酸濃度が上昇する。
  • アブシジン酸が増えると、植物体内の各細胞は水不足に対処するための成長/代謝パターンに切り替わる(気孔を閉ざす、など)。
 ⑤気孔を閉じる
  • サイトカイニンは気孔を開き、アブシジン酸は気孔を閉ざす。
  1. 蒸散により水不足となると、葉の組織内のABA量が増加。
  2. 孔辺細胞のカリウム-水素イオンポンプが作動し、カリウムイオンが孔辺細胞から放出される。
  3. 孔辺細胞内の水ポテンシャルが上がり、孔辺細胞の吸水力が無くなる。結果、孔辺細胞内の水は周囲の細胞に移動し、孔辺細胞の膨圧は低下。気孔が閉じる。
  4. サイトカイニンの作用で孔辺細胞はK+を取り込み、細胞内の浸透圧が上昇する。
5. 水が存在するならば、浸透圧に従って孔辺細胞は水を吸収する。
6. 膨圧が高まり、気孔は開く。

 ⑥種子の成熟
  • イネやインゲンマメが受精した後、未熟な種子を親植物から切り離して試験管内の培地で培養しても種子は成熟しない。しかしABAを含む培地で培養すると種子の成熟は進む。故にABAは受精後の種子の成熟に必要なホルモンであると考えられる。
 ⑦オーキシン, ジベレリンの作用の阻害
  • ABAは、細胞伸長に対するオーキシンの作用を阻害する(オートムギ芽生えの幼葉鞘の切片を水に浮かべてオーキシンを加えると、切片は伸びる。しかしこの溶液の中にABAを与えておくと、オーキシンによる切片の成長は起きない)。
  • ABAは、種子発芽に対するジベレリンの作用を阻害する(ジベレリンによるα-アミラーゼの合成を阻害する)。
 ⑧α-アミラーゼの合成の阻害
  • GAはDNAからのα-アミラーゼmRNAの転写を誘導、ABAはこの転写を阻害する。
 ⑨胚乳内の貯蔵タンパク質遺伝子の発現を誘導
  • ダイズ種子の子葉には主として2種類の貯蔵タンパク質が詰まっており、その1つであるβ-グリシジニンはα, α’, βの3つのサブユニットからなる。このβサブユニットのためのmRNAの転写を、ABAは促進する。
  • コムギ胚乳の中にはEmという貯蔵タンパクがあり、胚乳内でこれの合成が始まる前の未熟朱しないの胚を取り出して試験管内の培地で培養しても、Emタンパクは合成されない。しかし培地にABAを加えておくと、Emタンパク質ができる(Emタンパクの転写のためのmRNAの転写を誘導している)。正常な種子形成の過程では、種子の成熟と共に種子内のABAの濃度が高まることがEmタンパク質の合成の引き金となっていると考えられる。
  • 他にもワタやトウモロコシでも、ABAはタンパク質を誘導している。

主な生理作用

-気孔の閉鎖と乾燥耐性の獲得
  • 植物は水ストレスに晒されると、体内の水分を保つために気孔を閉鎖し蒸散を抑えることが知られている。
  • アブシシン酸は気孔の閉鎖を誘導する作用を持つことが知られており、アブシシン酸の感受性や合成に欠陥を持つ突然変異株には、蒸散量が多く萎れやすい表現型を持つものが多く存在する。
  • 高等植物では、水ストレスに晒されるとアブシシン酸を体内に蓄積することが知られているほか、アブシシン酸が関与する気孔閉鎖の分子メカニズムの解明も近年急速に進んできている。
  • また、細胞の水分状態を保って生理機能を維持する働きを持つタンパク質(LEAタンパク質など)や適合溶質の蓄積を促進することで、植物の乾燥耐性を向上させる作用があると考えられている。
-種子の発達と成熟の促進
  • アブシシン酸は種子の発達過程において、胚の形態が完成された頃に最も蓄積が見られるとされている。
  • アブシシン酸の感受性や合成に欠陥を持つトウモロコシの突然変異体では、種子が成熟する前に穂上で発芽してしまう現象(穂発芽)が見られるものがある。これは、アブシシン酸が未熟種子の発芽を抑制し、種子成熟が正常に行われる上で必要な物質であることを示す良い例である。
  • また、種子の貯蔵物質の中には、アブシシン酸により貯蔵が誘導されるもの(貯蔵タンパク質や脂質など)が存在することが知られている。
-種子休眠の誘導
  • 発芽が誘導される際には、発芽を促進する作用を持つ植物ホルモンであるジベレリンにより貯蔵物質の分解が誘導されるが、アブシシン酸はこの誘導を阻害することが知られている。
  • このように、アブシシン酸は ジベレリン とは逆に、発芽を抑制する作用を持ち、休眠の誘導に重要な働きをしていると考えられている。
-芽の休眠の誘導
  • アブシシン酸の単離には冬眠芽を誘導する作用を持つ物質としての発見がきっかけの一つとなっているが、アブシシン酸と芽の休眠現象の関係については不明な点が多く、アブシシン酸量と休眠誘導との間に相関関係がないという報告もある。
  • また、アブシシン酸の感受性が関与しているという報告も存在する。
-器官離脱(落果、落葉など)の促進
  • 器官離脱や老化を促進する場合もあるとされるが、この効果は必ずしも顕著ではなく、アブシシン酸の作用としては不明な点が多い。器官離脱の誘導に関してはエチレンを介した二次的な作用である可能性が高いと考えられている。