無題:5スレ目863


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863 名前:以下、2011年まであと405秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:53:16.89 ID:VPXneIQ0
 三月初旬のある日、昨日の昼過ぎから天候が悪化し、関東地方から東北太平洋側にかけて、
今朝まで春の嵐が吹き荒れていた。

 俺と桐乃は昨夜から一睡もせず、リビングのソファーに二人並んで、身じろぎもせず、
肩を寄せ合って座っていた。リビングテーブルの上には、飲みかけのコーヒーカップが二つと、
無造作に折り畳まれた朝刊、電話の子機が置いてある。

 テレビはボリュームを落としてはいるものの、付けっぱなし…… 
カーテンは閉じられたままだったが、昨夜までの暴風雨が過ぎ去ったせいか、
その隙間からは穏やかな春の日差しが僅かばかり差し込んでいた。

 俺も桐乃も未明から、一言も言葉を交わしていなかった。 
お互い無言のまま、どちらからとも無く洗面を済ませると、再びソファーに腰を下ろした。
エアコンから噴出す温風の風切り音だけが、この部屋の静寂をより一層引き立てている様だった。

 化粧をしていない桐乃の素顔は、普段と比べて年相応の幼さが見て取れた。
虚ろな瞳で、壁に掛かっている時計を見詰めている。 だが焦燥感は拭い去れない。

 俺はNHKの昼のニュースを食い入るように見詰めていた。 
しかし、俺が待ち望んだ… いや、決して耳にしたくないニュースをアナウンサーが、
視聴者に伝えることは無く、画面は、昼のバラエティー番組に切替わっていた。

 俺は、両手を膝に置きやおら立ち上がった。

 「桐乃……、カーテン開けるぞ」

 「…………」

 「なんか店屋物でも取るか……」

 俺は誰に言うともなしに一人つぶやき、テーブルの上の電話の子機に手を伸ばそうとした。

 俺のその動作に、桐乃は一瞬、ビクッと反応し、かっさらうかのように子機を掴むと、
両手に持って胸に抱きかかえた。 これが唯一の命綱なんだとでも言う様に。

 『いま、架かってきたらどうするの!』

 桐乃は未明まで泣き腫らし、いまも涙で薄っすら滲んだ瞳を俺に向け、無言で訴える…

 「済まなかった……」

 俺はそう言って謝り、キッチンに置き忘れていた自分の携帯で近所のそば屋へ電話した。



864 名前:以下、2011年まであと353秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:54:08.46 ID:VPXneIQ0
 次のニュース放送までにはまだ時間があり、電話で頼んだ出前が来るのも昼時と重なり、
暫く待たねばなるまい。

 『俺たちに出来ることは、どっちにしろ、只待つだけ……』

 俺は桐乃の手前もあり、一切表情には出さず心のうちで自嘲した。

 ずっと押し黙っていた桐乃が、呟くように口を開く。

 「ねぇ、や、やっぱり…… あたしのせいだよね……」

 「そんなことあるわけねぇだろ。 きっと大丈夫だから、そんなに心配すんな」

 俺は少しでも桐乃を励まして遣りたかったが、状況の分からない今は、
どうしても、声のトーンが下がってしまう。

 「で、でも……あたしが…… あんなことさえしなけりゃ… ぅ……ぅぅ…」

 俺の左側に、浅く腰掛けていた桐乃は、右手に電話の子機を堅く握り締めたまま、
左手は俺の右腕の辺りのシャツを掴み、俺の胸に顔を埋め嗚咽を漏らした。

 いまの俺に、桐乃に対して出来る精一杯のことは、言葉ではなく…………

 俺は昨夜からここに至るまでの経緯に想いを巡らせながら、
両腕で桐乃を包み込むように抱きしめ、右手を桐乃の後頭部にそっと添えた。

865 名前:以下、2011年まであと298秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:55:03.32 ID:VPXneIQ0
 事の発端は、昨夜遅く架かってきた一本の電話からだった。

 時間は午後11時50分、俺も桐乃もそれぞれの自室に引き上げ、後は寝るだけというそのとき、
階下のリビングから電話の呼出音が聴こえてきた。

 日中なら何でもない聴き慣れた呼出音が、時と状況によっては妖怪の叫び声にも聴こえる。

 普段、この時間ならすでに階下の寝室で就寝しているはずの親父とお袋は、不在。
背中に奇妙な悪寒を感じ、不安が脳裏を過ぎる。

 そっと廊下に歩み出ると、桐乃も心配そうな面持ちで自室から顔を覗かせた。

 静まり返った室内に、呼出音が不気味に響き渡る。 5回、6回 ……

 桐乃と眼が合う、無言のコンタクト… 一秒、二秒…

 俺は階段を駆け下り、勢いよくリビングにある電話の受話器を掴み、耳に押し当てた。
桐乃は少し遅れてリビングに入って来ると、室内の明かりを点け、無意識に俺のパジャマの
上着の裾を右手で掴み、不安そうに上目遣いで俺の瞳を凝視した。

 「はい、高坂です……」

 『もしもし、京介君か? よかった、まだ起きていてくれて…』

 電話を掛けてきた相手は、親父が勤務する警察署の同僚刑事で、家にも幾度か訪ねてきた
こともあり、俺も見知っている人で、声だけでも聞けばすぐに分かる。
先ほどまでの焦燥感が潮を退くのと入替わりに安堵感が広がる。 

 「あぁ~、いつも父がお世話になってます」

 『いや、こちらこそ… 夜分済まない、用件だけ伝える。 
…京介君、落ち着いて聞いてくれ。 
京介君のお父さんとお母さんが乗った船が……、もしかすると遭難した可能性がある。
まだ海上保安庁に第一報が入ったばかりで、公式に発表されてないんだが、
とりあえず君と桐乃ちゃんには知られておこうと…』

 一旦後退していた感情の高まりが、再び俺の胸を締め付ける。

 「わざわざご連絡くださって有難うございます」

 俺は震える手で受話器を置くと、今聞いたことを有りのまま桐乃へ伝える。

 桐乃の表情がみるみる青ざめてゆくのがはっきりと見て取れた。

 日付が昨日から今日へと替わろうとしていたときだった。


866 名前:以下、2011年まであと245秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:55:56.55 ID:VPXneIQ0
 あれから何時間が経過しただろうか、睡眠不足の影響もあり時間の感覚が鈍っている。

 「あ、あたしがさぁー、カッコつけちゃってさぁー、お父さんとお母さんに……、
旅行をプレゼントしたいなんて、言い出したばっかりに……っぅ、
それもさぁー、たまには、船旅も良いじゃん…っなんて…っぅぅ」

 桐乃は大人びたその容姿や普段の言動に比べて、今回のような想定外の出来事には、
すこぶる脆い。 15歳の女の子という年相応の反応を露呈してしまう。

 俺は桐乃を両腕で包み込むように、やさしく抱きしめたまま囁く。

 昨夜から親父の携帯に何度架けても、まったく繋がらなかった。

 「まだ、遭難したってはっきし決まったわけじゃねーだろ、な。 昨夜の嵐の影響とか、
無線の故障とかなんかで、単に連絡がつかねーだけかもしんねーし、な…」

 「そ、そだよね。 まだ決まったわけじゃないもんね…っぅ」

 俺の慰めに、桐乃は少し落ち着きを取り戻したようだったが…、俺のシャツを掴む左手を、
さらにギュッと握り締めてきた。

 桐乃が両親に、旅行をプレゼントしたいと言い出したのには理由があった。
親父の心配を押切って、アメリカへスポーツ留学をしたにも拘らず、途中で断念し帰国したり、
偽彼氏騒動では、可哀想なほど親父をヤキモキさせたり…

 『物とかじゃなくてさぁー、何か想い出に残る品で、……返したいんだよね…』

 相変わらず、自分の気持ちを素直に表現するのが下手なヤツだな。
そう想いながらも、相談に乗ってやることにした。 俺にも原因があるしな…

 二人であれこれ思案した結果、一寸した船旅も経験できる北海道旅行に決定した。
茨城県大洗港を18:30に出航すると、船内で一泊し、翌日13:30に苫小牧に到着、
近郊の温泉なんかを満喫し、翌日は函館で一泊、函館朝市でカニ、イクラ、ホタテ三昧。
あとは新幹線で一気に帰る。

 そんな三泊四日の旅を桐乃からプレゼントされた親父の顔は見ものだった。
お袋も早速、本屋で旅行誌を買い込んで来て研究に余念が無かった。

 「京介~、カニ、イクラの食べ放題よ~、やっぱ持つべきは出来のいい娘ね」

 「へーへー、どうせ俺は甲斐性なしですよ! ケッ! お袋、フェリーで船酔いすんなよ」

 そんなお袋との会話も、今となっては想い出しても遣り切れない。


867 名前:以下、2011年まであと161秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:57:20.67 ID:VPXneIQ0
 俺は多少の疲労感を覚え、ソファーの背もたれに自分の身体を預ける姿勢をとると、
桐乃も両足をソファーに乗せ、右手に持っていた電話の子機をそっとテーブルの上に置き、
俺の左肩に身体を預けてきた。

 「昨日から寝てねーんだろ、少しでもいいから、寝てろ」

 俺がそう言うと、

 「うん、ありがと…」

 素直にそう言い、桐乃は身体を少しずらした。

 俺は自分の身体を少しだけ左側に向け、桐乃を背後から優しく包み込むように抱きしめた。
両腕を桐乃の胸の下辺りに軽く添えると、笑みを浮かべ、幼子が母の胸に抱かれて眠るように、
桐乃は眼を閉じた。

 テレビのリモコンを掴み、桐乃の眠りを邪魔しないよう、そっとミュートボタンを押し、
音声をカットすると、俺の腕の中の可愛い妹の寝息が聴こえてきた。

 そのままの体勢で、俺も浅い眠りに就いていたようだ、桐乃が身体を少し動かしたので、
俺も眠りから引き戻された。 壁の時計を見上げると20分程しか経過していなかった。
胸に桐乃の温もりと感触を直に感じる。

 膝を少し引き寄せ、その上で両手の指を弄びながら、桐乃が囁くように口を開いた。

 「ねぇ、兄貴は…覚えてるかなぁ…」

 俺も桐乃に合わせて、囁くように応える。

 「お前、いつの間にか呼び方が… アンタから兄貴に替わってんぞ」

 「まぁ…… いいじゃん。 今ね、少しウトウトしながら…… 昔のこと、想い出してた。」

 「……………」

 桐乃は俺達兄妹がまだ、どちらも小学生だったときの話を語りはじめた。
俺からは桐乃の横顔しか、それも少し後ろからしか見えないが、
少しだけ顔を紅潮させ、微笑んでいるよう見えた。

 俺は桐乃の当時の回想にゆっくりと耳を傾けるように、瞼を閉じた。


868 名前:以下、2011年まであと72秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:58:49.50 ID:VPXneIQ0
 「あたしが、まだ小学校2年生で、兄貴が5年生だったときのことなんだけど、
2年生位までって、授業時間が少なくてさぁ、いつも兄貴より先に家に帰るんだけど…

 まぁ、家にはお母さんが居るから寂しいなんてことは無いんだけど、そのときはたまたま、
あたしが家に帰ってから、お母さんが出かける用事があって、一人で留守番してなのね。

 その頃のあたしって、引込み思案で、人見知りが激しくてさぁ… 覚えてっかな。

 当時のあたしにとって、このリビングに一人で居るのってさぁ、もう怖くて怖くてね。
外で一緒に遊ぶような友達も居なかったから、兄貴が帰ってきてくれるのが待ちどうしくて、

 一端怖いと想っちゃうと泣きそうになっちゃって、でも泣いちゃったら余計に怖くなりそうで、
このソファーの上でガタガタ震えてたのね。 したらようやく兄貴が帰ってきてくれて…、

 兄貴がリビングへ入って来た途端に、あたしグシュグシュ泣いちゃってさぁ、
あたしの顔見て、兄貴は困った顔しちゃってさぁ、今みたいに後ろからギューッて、
抱きしめてくれて……

 泣きやむまで抱きしめてくれて…… とっても嬉しかった。

 その後、兄貴の友達が遊びに誘いに来てさぁ、兄貴は早く遊びに行きたいんだけど、
今度はあたしが、兄貴を逃がすものかーて、抱き付いて離さないもんだから、
兄貴のほうが泣きそうな顔しちゃって…… アハッ、ハハハハハ 覚えてる?」

 小学校5年生当時といえば、野球とサッカーが人気を二分していて、学校でも仲間が集まれ
ば盛んにやってた。 だが俺の場合は、放課後うちに帰ると妹が待ち構えてるもんだから、
友達もあんまり誘ってくれなくてな、いつだったか『高坂は男の友情より妹を取るのか』って、
よくからかわれたもんだよ。

 「そうだったな、あん当時はいつもお前とだけ遊んでたっけな、お陰で、
今も野球やサッカーのような団体競技は苦手だよ。 ハハハハ」

 共に小学生だったとき俺達兄妹は、いつも一緒に行動していた。 
遊ぶときも、出掛けるときも、桐乃はいつも俺の服の端を掴んでトコトコ付いてきた。
桐乃がべそをかいた時は、頭にポンと手を載せやると泣き止んで、ニヒヒヒと微笑んだ。

 沙織に誘われて初めて行った夏コミの時だって、文句たらたら言いながら俺のシャツの
裾を掴んで歩いてたっけ。 数年間お互い無視しあって、会話も無かった俺達なのに、
子供の頃の習慣や記憶ってもんは、決して忘れるもんじゃない、潜在意識のどっかに必ず、
残ってるもんなんだってつくづく思う。

 そういや、また俺は昔のように兄妹で一緒に行動してんなぁ、なんて苦笑していると、
桐乃が、ふと何かに気付いたように俺から身体を離し、姿勢を元に戻すと真剣な表情で、
俺の瞳を真っ直ぐに見詰めて、言った。


869 名前:以下、2011年まであと6秒。。。[sage] 投稿日:2010/12/31(金) 23:59:55.62 ID:VPXneIQ0
 「ねぇ、万が一、万が一にもお父さんたちに何かあったら…  どうする。」

 「どうする、とは?」

 「今後のこと…」

 そんな先のことまで考えるなと言って遣りたかったが、桐乃の求めている答えは、
もっと現実的なものだと分かっていた。 最悪の場合を想定し、今のうちに備える。
それは、物質的なものであったり、精神的なものであったり……

 最悪の場合が訪れなければ、それに越したことはない。 だからこそ、時間の余裕がある
今だからこそ、冷静になって考えられる。 現実的思考の持主の桐乃らしい考え方だ。

 「家のローンだってまだ残ってるし、あたしの部屋をリフォームしたときの支払いだって、
まだ少し残ってるって、お母さんから聞いたことあるし…」

 俺は桐乃の瞳を真っ直ぐに見詰め、やさしく語りかけた。

 「桐乃、お前は4月から予定通り高校へ通え。 後のことは俺に任せろ」

 「あ、兄貴は… 兄貴だって大学決まってんじゃん!」

 「俺は、働く」

 「そ、そんな、兄貴だけ働かせて… あたしだけガッコなんていけるわけないじゃん」

 「バーカ、俺は18だぞ、高校の同級生だって何人も春から社会人になるヤツは、
何人もいんだよ。 だから俺もその一人になるだけだ」

 「あ、あたしこそ高校なんか行かなくったって良いよ。」

 「なっ、なにを言い出すんだよ」

 「それに、あやせの事務所の藤間社長に、専属モデルにして貰えるよう頼んでみっから。
そうなれば、今よりもっとお金貰えるし、兄貴の学費ぐらい払ってあげられっから」

 「桐乃… 俺はお前の兄貴だ、兄貴を妹の”ヒモ”にするつもりか? 
いいから俺に任せろ」

 「あ、あたしは… あたしは… あ、兄貴さえ傍に居て呉れるんなら…っぅ…十分だから、
それ以上、なにも望んだりしないから…っぅぅ」

 そう言ったきり、桐乃は俺の胸に顔を埋めると、いつまでも嗚咽に咽んでいた。

 俺は、再び桐乃を両腕で包み込むように、やさしく抱きしめた…


870 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2010![sage] 投稿日:2011/01/01(クリスマス) 00:03:49.71 ID:BPwIgJo0
 俺は、これから桐乃を支えて生きてゆく、桐乃が大人になり、俺の手を離れるその時まで、
親父の代わりになり、時にはお袋の代わりとなって…

 心の中でそう覚悟を決めたとき、桐乃の傍らに置いてあった電話の子機の着信ランプが、
明滅するのが見えた。 俺は反射的に手に掴んだ。
間髪入れずに着信音が鳴り響く。 プルルルルル…、プルルルルル…

 桐乃の身体がビクッと堅くなるのが、密着した俺の胸を通して俺に伝わる。

 桐乃が俺の胸に右上半身を強く押し付けてくる。
身を丸める様に両腕を胸の前でクロスし、自分の二の腕を掴む手に力が入るのが分かった。
斜め上に顔だけを俺に向け、不安の入交じった真剣な眼差しで俺の瞳を見つめる… 

 子機の液晶ディスプレイに表示された番号に、思い浮かぶ人物はいない。
ただ、市外局番から県内から発信されたものだとしか分からない。

 5回目のコールで、俺はようやく発信ボタンを押した。 ピッ!

 タイムリミット、桐乃も覚悟を決めたなと思った。

 「もしもし……、高坂です……」

 『…あっ、京介君か? 昨日は夜分に済まなかった。 誤報だった……スマン!』

 スマン ???? ???? じゃなくて…………

 電話の相手は、昨夜の電話を掛けてきた親父の同僚刑事だった。

 相手は現職の刑事らしく明瞭かつ簡潔に事情を説明してくれたが、多少早口でしゃべる
癖があるのか、混乱している俺の脳は情報を処理するのに時間を要した。
今聴いた話を俺の頭の中で一つ一つ順序立てて整理してゆく。

 岩手県三陸沖で ????、 大型マグロ漁船が ????、 座礁 ????、 第一福栄丸 ????、

 「あ、兄貴……?」

 桐乃が俺に不安そうな眼差しを向けたまま、説明を求めてくる。
バラバラになった、多寡が数ピースのジグソーパズルを完成させるだけの作業なのに、
俺の混濁した脳が思考を停止する。 『大型マグロ漁船』というピースに違和感ありまくり。

 「い、今の電話な…… 親父の同僚の…… 刑事さんで」

 俺は焦点の定まらぬ眼で、桐乃の顔を見詰めながら一言一言、説明を試み始めた。

 そのとき、リビングテーブルの上に置いてあった俺の携帯が、着信音を発した。

 フラップにある液晶表示パネルには、『公衆電話』 の表示。

 桐乃を抱いたまま、身を乗り出して俺は携帯を手に取り発信ボタンを押した。 ピッ!

871 名前:あはっぴぃにゅうにゃぁ2010![sage] 投稿日:2011/01/01(クリスマス) 00:06:01.07 ID:BPwIgJo0
 『…あ、京介~ 連絡遅れちゃって、ごっめーん。 家に掛けたら話中だったんでさぁ~
いま公衆電話から。 桐乃も居るの~? ちょっと聴いてよ~、お父さんがさぁ~、
もう、やんなっちゃう! アハハハハ… 船の乗船時間は間違えそうになるし、、 
携帯は水溜りに落として使えなくしちゃうし… 京介聴いてる~、アハハハハ…
あんたのお父さんって、仕事は出来る人なのに、旅行とかに限って、使えないよのね~』

 「お、お袋? 生きてたのか?」

 『あんた、母親に向かって、生きてたのかって、なに言ってんの~? 頭ダイジョウブ?』

 使えねーのは、親父じゃなくて親父の同僚刑事だろーが!!!

 一瞬のうちに俺の頭ん中は真っ白になった。 正直安堵したのも本音だ、桐乃はと見ると…

 携帯から漏れるお袋の声は、桐乃の耳にも確実に届いているのは明らかだった。
その証拠に、口をパクパクさせながらも、見る見るうちに顔が真っ赤になってきた。

 俺は、桐乃の身体をそっとソファの背に預けると携帯を掴んだまま、
一目散でリビングから廊下へダッシュし、ドアを閉め、内側開かぬよう身体全体で押さえた。

 「あ、あ、アンタ!!! ちょちょちょっと待ちなさいよー!!!!」 ドス!ドス!ドスッ!

 リビングドアのガラス越しに見える桐乃は阿修羅と化し、怒声と共に追いかけてくる。

 「コッ、コッ、コッ、ここ開けなさいよー!!!」 ガチャ!ガチャ!ガチャ!

 「おっ、おっ、お前はっ、鶏かっつーの!」

 「なっ、なっ、なーんでっ、こ、このあたしが高校進学を断念してまで、アンタを大学へ
通わせなきゃなんないのよ! 信んっじらんない!」

 「そ、そ、それは!、お、お前が勝手に言ったんだろーが!」

 「あ、あ、アンタこそっ! は、春から働きなさいよね! 買ってもらいたいもん、
いっぱい有るんだから!!! 今からリストアップしとくから、か、覚悟しときなさいよっ!」

 俺の右手に握られた携帯から、お袋の声が聴こえてきた。

 『あんた達、ま~た喧嘩してんの~? 少しは仲良くしなさいよね~、
お土産買って、明後日の夕方までには帰るから~ 聴いてる~ 京介~ じゃね~』プーーーー

 お袋からの電話が切れると、インターホンが鳴った。 ピンポーン、ピンポーン

 『高坂さーん… 長寿庵ですー、出前お持ちしましたー』

 俺が玄関のドアの前まで来ている『カツ丼』を食える可能性は……


(完)
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