決意:7スレ目28


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28. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/01/20(木) 21:40:31.58 ID:ESsn0w5F0
荷造り――

深夜、俺は桐乃の部屋で明日に備えて荷造りをしていた。
当然俺の横には桐乃がいる。
不安そうな表情を抱えて、俺の作業をジッと見つめている。

「なあ、桐乃……お前の気持ちに変わりはないな」
「ずっと考えていたことだから……あたしは、兄貴さえ一緒なら……」

ひと月前に桐乃から話を持ち出され、俺は悩みになやんだ挙句、決意した。
もう後戻りは出来ない。

「ねぇ、飛行機のチケットは兄貴が持ってて、あとホテルの予約も兄貴の名前でしてあるから」
「桐乃……俺に甲斐性がないばかりに……何からなにまですまねぇ」

無言で首を横に振る桐乃。
俺たちはこのひと月の間、ずっと話し合ってきた。
万が一にも親父やお袋に知れたら反対されるのは眼に見えていた。
なにしろ俺たちは実の兄妹なのだから……。

「持ち出す物はこれぐらいでいいだろう。
 明日は親父やお袋が起きる前に……家を出る。……いいな、桐乃」

桐乃は部屋をゆっくりと見回した。
俺と一緒にエロゲーをやったデスクトップパソコン、メルルのポスター、
そして、コレクションの詰まった……押入れ。
車のない俺たちに持ち出せるものは自ずと限られている。

「ねぇ、兄貴……これは、持っていったらだめかなぁ」
「……着替えとかでめいっぱいだからな。……でも、お前にとっちゃ大切なもんだろ。
 俺が持っていくから安心しろ」

ひと通りの荷造りを終えて、俺は桐乃と明日の最終確認をした。

「朝、5時になったら俺が壁を叩く、準備が出来ていたら叩き返せ」
「わかった。……でも……兄貴は本当にあたしとなんかでいいの?」

もしかしたら、これが踏みとどまる、最後のチャンスなのかもしれなかった。
明日、家から一歩出てしまえば、俺たちは世間の笑いものになるかもしれない。
実の兄と妹のくせにと。
しかし、桐乃の本心を知ってしまった以上、俺にはもう……。
返事の代わりに桐乃の頭に手を載せて、優しくなでてやった。

「じゃあ、5時だから……忘れんなよ」

少しだけ頬を赤く染めて、桐乃は頷いた。

29. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/01/20(木) 21:41:11.19 ID:ESsn0w5F0

決行――

俺は着替えを済ませ、時計を確認してから桐乃の部屋側の壁を小さく叩いた。
それを待っていたかのように、桐乃からも合図のノックがあった。
廊下に出て、俺は一度だけ部屋を見回し……ドアを閉めた。

「……桐乃、俺が先に下りて様子を見るから、お前は俺のあとから降りてこい。
 分かってるとは思うが、絶対に音を立てるなよ」

両手いっぱいに荷物を持ち、俺の言葉に無言で頷く桐乃。
下の様子を伺いながら、俺は慎重に一歩ずつ階段を下った。
廊下にもリビングにも人の気配は無かった。親父もお袋もまだ寝ているのだろう。
桐乃に降りてくるよう手招きする。

「……兄貴、大丈夫そう?」
「ああ、二人ともまだ寝てるみたいだ」

桐乃の顔は、まだ早朝で廊下が薄暗いにも拘らず、期待と不安で紅潮しているのがわかる。
俺が先に靴を履き、桐乃の荷物を持ってやる。
桐乃が玄関の框を降りて靴を履こうとしたそのとき……。
真っ暗なリビングの扉が開き、無表情の親父が顔を出した。


発覚――

「京介、こんな朝っぱらからどこへ行くつもりだ」
「お、親父……起きてたのか」

靴を履きかけていた桐乃の顔面が一瞬のうちに蒼白になり、身体が硬直しているのが分かった。

「聞こえなかったのか? 俺はお前に、どこへ行くのだと聞いたんだが」

地底から湧き上がるような親父の声。予想外の展開に、俺も桐乃も声が出ない。
俺達が俯いて黙っていると、親父の背後からお袋の声がした。

「あんたたち、福岡へ行くつもりでしょう」
「お、お袋、なんでそれを……」

お袋に代わって、親父が口を開いた。

「母さんはな、最近お前たちの様子がどうもおかしいと、ずっと気に掛けていたそうだ。
 それで先日、桐乃の部屋を掃除した際に航空機のチケットを見つけたそうだ。
 ……今日の福岡行きのな」

桐乃が眼を見開いてお袋を見つめた。
しかし、お袋は親父の陰になっていて表情が窺い知れなかった。
再び親父が口を開く。


30. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/01/20(木) 21:41:54.41 ID:ESsn0w5F0

「なあ、京介……それに桐乃もよく聞いてくれ。
 お前たちがやろうとしていることを見て、世間はなんて言う。
 それが分からんお前たちではなかろう」

それまでジッと黙っていた桐乃が、初めて親父に噛み付いた。

「だって好きなんだもん! 愛してると言ってもいい」

桐乃は以前、親父にオタク趣味がばれたときに、なにも言い返せなかったと悔し泣きした。
しかし、今日は自分の気持ちを真正面から親父にぶつけた。
そんな桐乃を見て、俺だって黙っていられるわけがねぇ。

「そうだよ親父、桐乃が好きなんだからしょうがねぇじゃねぇか!
 いくら親父が止めたって、俺たちはもう後戻りはできねぇ」

桐乃は胸にずっと溜まっていた気持ちを、親父にぶつけたことで勇気付けられたのか、
一気に捲くし立てた。

「お父さん、それにお母さんもよく聞いて、
 あたし……本当に好きなの。考えただけで、もう胸がいっぱいになんの。
 だから正直にあたしの思っていることを、兄貴に伝えたの……」

そこまで言うのが精一杯で、桐乃は手で顔を押さえて嗚咽した。
そんな娘の姿を目の当たりにした親父は、言葉が継げずに腕を組んで瞑目した。
俺達の間に重苦しい時間だけが過ぎてゆく。
やがて、親父は諦めたような口調で……。

「お前たちのことを認めるわけじゃない。しかし、家を出る前にこれだけは聞いてくれ……」

まさか、俺達を油断させておいて、二人を引き離そうというんじゃ……。
そうはさせてはなるものかと、俺はゆっくりと桐乃と体勢を入換え、親父との間に割って入った。

「京介、心配するな。お前たちを引き離そうなんてことは考えていない。だが、これだけは聞いてくれ」

親父は溜息を吐くと、苦渋に満ちた顔でゆっくりと口を開いた。

「京介、桐乃。……お前たちの着ている、その背中に漫画が描かれたピンクの半纏だけは脱いでいってくれ。
 それから京介、お前が頭に巻いている……バンダナも。
 福岡で三日間開催される……アニメフェスティバルに参加するのに、なにも家から着てゆくことはあるまい」

俺はてっきり、この前のように殴られるものと覚悟していた。
親父の言葉に全身の力が抜けてゆく。
お袋が親父の背後で、リビングの壁を叩いて大笑いをしている。

桐乃が襟首に挿し込んでいたメルルの団扇が、ポロリと玄関の床に落ちた。


(完)
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