桐乃「もうすぐバレンタインかぁ・・・」:132


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132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:38:09.22 ID:HfZlBUzk0 [2/16]

―――


2月14日。

俺のように健全な男子高校生にとって、絶対に見過ごすことのできない超がつくほど重要な日。

そう。

今日は世の恋する女の子が男の子にチョコだの何だのを渡すバレンタインデーである。

放課後に至るまで、視界の隅にチョコを渡す女子の姿やチョコを貰う男子の姿が映っていた。

堂々としたやり取りは大抵義理の類から多いから、俺としてはあまり気にしないんだが、

本命のチョコを渡す女子は少なからず恥じらいがあり、人目につかない場所に男子を呼び出して受け渡しをする。

・・なーんて、ことが水面下で行われていると思うと、俺を含む蚊帳の外の男どもから見れば、

それはそれで色んなところが煮えくり返りそうになるのである。


「おい高坂、これ見てくれよこれ~」

「見えてるからグイグイ押しつけんじゃねぇよ、気持ち悪い。

 っていうか、それを見せ付けられるのはこれで5回目だ」


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:38:57.63 ID:HfZlBUzk0 [3/16]


意中の女子からプレゼントを貰った男子は、この赤城浩平のように大抵腑抜けになる(ここまで感情を表に出す奴も稀有だが)。

赤城が持っているのはバレンタインのプレゼントと思しき、赤のリボンやピンクの巻紙で綺麗に包装された長方形の箱。


「で、それを誰から貰ったんだ。おまえのふやけ具合を見りゃ何となく見当つくけどよ」

「よっくぞ聞いてくれましたっ!何を隠そう、愛しいマイシスターからのチョコレー・・」


Prrrr・・!


「ん、メールか」


シスコン野郎の終わりなきノロケ話に終止符を打ってくれた俺の携帯電話に感謝しつつ、

そのディスプレイを見ると、メールマークと共に人畜無害な俺の幼馴染みの名前が表示されていた。

赤城の話を聞き流しつつ、メールに目を通した俺は呪縛から解放されたように立ち上がる。


「おいコラ高坂、俺の話はまだっ、」

「分かったよ赤城、明日その味の感想も含めて聞いてやるから、そのバカになった口を明日まで閉じてろ」


135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:41:08.43 ID:HfZlBUzk0 [4/16]


ぶっきらぼうに捨て台詞を吐き、俺はそそくさと教室を出た。

これ以上付き合ってられるかっつーの、こちとら慈善事業じゃねぇんだ。

くそ、胃がムカムカする・・。


「ちっ・・」


バレンタインの儀式を執り行ってる男女がそこら中にわんさか居やがる。

俺は今日が平日であることを心の底から憎みながら、昇降口へと向かった。

当然のことだが、俺の下駄箱にチョコが入れてあるはずもなく・・。

俺は普段から「普通」を愛してやまない人間だから、女にアプローチをかけるなんてことはそれほどない。

そのツケがここで回ってくるんだよな、毎年のことなんだけどよ。


自分の心が荒んでいくのが分かるぜ・・。

こういう憂鬱な日はさっさと学校を出るに限るんだよ、ちくしょう。


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:42:19.25 ID:HfZlBUzk0 [5/16]

―――


時刻は午後4時半。

くさくさした気持ちのまま、俺は行き慣れた田村家に上がり込んでいた。

別にバレンタインの恩恵を受けられなかった悔しさから麻奈実の懐へ逃げ込んだわけじゃないぞ。

麻奈実にメールで呼び出されたから仕方なく来たんだ。うん、きっとそうだ。


「ごめんね、きょうちゃん。急に呼び出しちゃって・・」

「いや、俺としても学校に長居したくなかったからな、丁度良かったよ」


理由は言いたくないけどな。


「そ、そっか~・・丁度良かったんだっ」


む・・やけに麻奈実の様子がよそよそしい。

トイレにでも行きたいのか?


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:43:33.09 ID:HfZlBUzk0 [6/16]


「どうしたの、きょうちゃん?」

「・・いや、何でもねぇ」


出された煎餅を一枚頬張りながら、麻奈実の振る舞いを観察する。

う~ん、相変わらずおとなしい奴だ。

平々凡々をこよなく愛する俺だが、麻奈実には劣るぜ。


「そういえば、きょうちゃん。今日は何の日か覚えてるよね?」

「あぁ。糖分補給日だろ、イケメン限定のな」


綺麗さっぱり断ち切ったはずの赤城のドヤ顔が真っ先に頭に浮かぶ。

くそ、血縁関係のある女から貰ったチョコなんて数に入れて良いはずがねぇ。


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:45:14.93 ID:HfZlBUzk0 [7/16]


「・・き、きょうちゃん。もしかして機嫌悪いの、かな?」

「あ、いやそういうわけじゃねぇんだ。そう見えちまってたのなら謝る」

「うぅん、大丈夫だよっ・・ところできょうちゃんは今日ちょこれーととか貰った?」

「ぐぅっ!?」


ま、麻奈実よ・・俺の気持ちを理解してくれた上でそんなことを聞くのか。

純粋な奴ほど、懐に携える言葉の鋭さは半端じゃないぜ。

まぁ、相手は麻奈実だし、ここで見栄を張って嘘をつく必要もないよな。


「・・おまえの予想通り、ゼロだよ。ゼロ」

「えっ、そんな予想なんてしてないよぉ」

「・・名高い可憐な美少女が実は俺のことを好きで、影ながらいつも俺のことを見つめてくれていて、

 いつもは周囲の目もあって話をする機会すら設けられないけれども、今日はバレンタインだからと腹を括って、

 俺にチョコをプレゼントしてくれたりなんかしちゃって~、とかそういう展開もなかったしな」


139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:46:39.36 ID:HfZlBUzk0 [8/16]

「そうなんだ・・あの、きょうちゃんはさ、」

「ん、何だ?」

「・・美少女からじゃないと、ぷれぜんとを貰っても嬉しくない?」


んぁ?

いきなり何を言い出すんだコイツは。

そりゃ確かにプレゼントを貰うなら可愛い女の子であるに越したことはないけどよ。

美少女からプレゼントを貰って喜ばない奴が居たのならそいつは男じゃないし、俺が全身全霊を込めてそいつを殴りに行く。

・・まぁ、でも俺は自分の身の程を弁えている男だ。


「・・いや、相手が誰であろうと、俺は嬉しいぞ」

「そ、そっか・・それなら、」


姿勢良く正座していた麻奈実が、ふと立ち上がる。

俺はようやく麻奈実がトイレに行くと決めたのだろうと思い、

二枚目の煎餅に手を伸ばそうとしていたところだった。


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:47:47.96 ID:HfZlBUzk0 [9/16]

そのとき、俺の目の前に小奇麗に包装されたやけに細長い箱が差し出される。


「きょうちゃん、これ・・」

「何だこれ?」

「あのっ・・開けてみて」


何の疑いも持たずに俺はその箱の包装を剥ぎ取り、中のブツを確認しようとする。

伏し目がちな麻奈実が俺の手つきを恥ずかしそうに見つめていた。

心なしか、頬が少し赤らんでいるようにも見える。

その様子に対して疑問符を浮かべながら、いざ中身を見てみると、そこには綺麗な水色に染まった、


「ネクタイ、か?」

「うん・・」


ネクタイにこれといった説明なんて要らないだろう。

水色一色で、いくつもの白いラインが斜めに敷かれているとだけ言えば簡単に想像がつくはずだ。


141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:49:33.99 ID:HfZlBUzk0 [10/16]

普段制服の一部としてネクタイをつけてはいるが、これに関しては少し上品な香りがする。

一般庶民男子としては、いくらしたんだろうかと考えてしまうぜ。


「これどうしたんだ・・っていうか、もしかしてこれ、」

「きょうちゃんへの、ばれんたいんのぷれぜんと・・だよ」

「プレ、ゼント・・お、おう?」


参ったぜ、完全にやられた。粋なことしやがって麻奈実の奴・・!

俺がするには色合いが少し派手な気もするが、この際関係ねぇ。


「もしかして気に入らなかった、かな?」

「バカ野郎っ、そんなわけあるかっての・・嬉しいぜ、本気で」

「ほ、ほんとっ?・・わたしに気を遣わなくても良いんだよっ」

「気なんて遣ってねぇよっ・・!」


確かに麻奈実は恋愛対象に入るような、下心ある目で見れるような女じゃないが、これは正真正銘の贈り物だ。

学校に居たときにメラメラと燃え上がってた俺の嫉妬の炎も少しは鎮火してくれたよ。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:50:54.47 ID:HfZlBUzk0 [11/16]

「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ~」

「ん、そうか?」

「きょうちゃんには毎年ぷれぜんとしてるしね」

「・・あ」


諸君、俺は毎年誰からもプレゼントを貰っていないと言ったな。

あれは嘘だ。

一応、麻奈実からは毎年欠かさず贈り物をしてもらっている。

なぜ伏せていたかというと、幼馴染からのバレンタインプレゼントなど数に入らないと思っていたからだ!


「と、いうかこんなの学校で渡してくれれば良かったのによ」

「そ、それは・・ちょっと恥ずかしかったから」

「?」


ああ、なるほどね・・確かにバレンタインに麻奈実が俺にプレゼントなんて寄越したら、

周りの奴らに(特に赤城)勘違いされる可能性もあるしな。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:52:51.86 ID:HfZlBUzk0 [12/16]

「それにしてもどうしてネクタイなんだ?」

「ちょこれーととか甘いものはいつもうちで食べてるし、ばれんたいんはお菓子以外でも良いって聞いたから・・」

「だからネクタイを選んでくれたってわけか」

「うん、だからきょうちゃんが学校にいくとき付けてもらえれば・・って、あぁっ!」

「ん、どうした?」


にこやかな表情から一変、慌てふためき始めた麻奈実。

何だ、いまさら返せって言っても返さないぞ(><)


「いや・・学校に付けていけるネクタイって確か、学校指定のものじゃないといけないんだよね」

「あぁ、そういやそうだったな」


ウチの高校のネクタイの色は地味な青と紺の中間くらいのものと指定されている。

こんな明るい水色のネクタイをしていったら、速攻で没収されるのがオチだな。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:53:48.48 ID:HfZlBUzk0 [13/16]
「まぁ、確かに・・ちょっと無理かもしれねぇな」

「実用性のあるものをって思って贈ったのに、実用できないなんて・・抜けてるにも程があるよね」

「良いんだよ別に、数年後ネクタイを買う必要がなくなったって思えば」

「うぅ・・ごめんね」

「ばか、気にすんな」


ベタな言葉だが、こういうのは気持ちが大事っていうしな。

プレゼントされた側が文句を言う権利はないし、何より文句なんてこれっぽっちもない。

おまえの気持ちはプレゼント以上に伝わったよ、十分な。


「ありがとよ、大事にする。

 使う機会がない間も大切に保管させてもらうし、不安なら部屋の壁にでもぶら下げておこうか」

「い、良いよっ・・もうそれはきょうちゃんの物なんだから、どう扱おうがきょうちゃんの勝手だよ」


この年でネクタイをプレゼントされるなんて思ってなかったが、嬉しいことには変わりはない。

この世の男は異性にプレゼントを貰えば例外なく腑抜けになるのさ、もちろん、この俺もな。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:54:53.58 ID:HfZlBUzk0 [14/16]

「そうだ。ホワイトデーのお返し、何が良い?」

「え、えっと・・何でも良いよ、きょうちゃんがくれるものなら何でもっ」


う~ん、何でも良いってのが一番困るんだよな。

麻奈実は和菓子屋の娘だから、やはり食べ物系をあげても効果が薄い気がする。

まぁ、こいつの性格を考えるに何をあげても喜んでくれはするだろうが、

今回これだけのことをしてくれたんだ・・男なら恩も怨みも倍返し。

麻奈実が本当に心から喜んでくれるような贈り物をするのが、筋ってものだよな。


「そうか。まぁ楽しみにしといてくれ、あんまり期待はしないでくれよ」

「ふふっ、分かった・・きょうちゃん、もうちょっとゆっくりしていく?」

「いや、今日はちょっと早めに帰らないといけないんだよな・・」


言っていなかったと思うが、今日は木曜日だ。

お袋が習い事で家を開ける日であると同時に、我が妹とゲーム(不健全)をする日と決まっている。

もとい、決まってしまっている。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:56:38.64 ID:HfZlBUzk0 [15/16]

「そっか・・そういえば今日の夜は雪が降るって言ってたし、長居させちゃうのはまずいよね」

「ああ、俺としてはもうちょっとここに居たいんだが・・悪いな、プレゼントだけ貰いに来たみたいになっちまってよ」

「うぅん、大丈夫、気にしないで。来てくれただけでも十分だから」


ったく、本当に生き仏みたいな奴だよおまえは。

絶対死後は天国に行けるぞ。

などと、荒みつつあった俺の心が心優しい幼馴染のオーラに当てられていたそのとき、


Prrrr・・!


閑静な和室で携帯電話が空気を読まずにけたたましく鳴り響く。

麻奈実から贈られたネクタイを丁寧に箱にしまい、ポケットを弄って携帯を取り出した。


「な・・こりゃまた珍しい」


ディスプレイには『黒猫』と表示されている。

どういうわけかそれを見た瞬間、心臓が口から飛び出そうになった。


149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/14(月) 23:57:38.22 ID:HfZlBUzk0 [16/16]

「きょうちゃん・・?」

「悪いな麻奈実、もう帰るわ」

「あ、うん。ほわいとでー・・楽しみにしてるから」

「おう、任せとけ。また明日学校でな」


麻奈実が聖母のような微笑みで俺を送り出す。

俺はそんな聖母マリアがくれたプレゼントを左手で鷲掴み、ポケットに入れ、

玄関へと向かうと急いで靴を履き、田村家から出た瞬間に通話ボタンを押す。

かれこれ五十秒くらいは着信音が鳴りっぱなしである、失敬。


「もしもし、俺だが」

『出るのが遅いわ。ところであなた、これからの予定は?』

「・・・」


挨拶もなしかよ。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:00:20.41 ID:kndG4b6/0 [1/10]

『ちょっと、どうして黙るのよ』

「・・今の今まで友達の家に居たんだが、もう帰ろうと思ってたところだ」

『なるほどね、予想通り良くない方向だわ。

 いえ・・間に合った分、運が良かったといったところかしら』

「ん、何の話だよ?」


よく分からないことを言うな・・まあ普段から理解しづらいことばかり言ってる奴だが。

どうやら黒猫も外に居るらしく、向こう側からも車の音だの何だのが聞こえてくる。


『こっちの話。・・とりあえず、今あなたが帰宅することは私が許さないわ』

「は、何で?」

『何が何でもダメなのよ、代わりに少しの間は私に付き合いなさい』

「いやいや、ちょっと待ってくれ黒猫。木曜が桐乃のメルル開放デーであることは知ってるだろ?

 だから俺は今日もそれに付き合わなくちゃいけないんだよ」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:01:25.34 ID:kndG4b6/0 [2/10]

従わないと、桐乃は鬼のように怒る。

それはもう凄い勢いで。

まったく、理不尽極まりない話だ。


『良いのよ、”今日は大丈夫”だから』

「ん、どうしてだよ?」

『・・で、私に付き合うの、付き合わないの、どっちかしら?』

「何なんだよ・・ったく、分かったよ。付き合えば良いんだろ。ただし、ちゃんと説明はしろよな」

『ふっ、よろしい。従順な下僕は好きよ』

「で、どこに行けば良いんだ・・っていうか、おまえ今どこ居るんだよ」

『あなたの後ろよ』


つんっ。


「うおおわっ!!?」


その言葉と同時に背中を指で突かれた。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:02:20.59 ID:kndG4b6/0 [3/10]

今度こそ、心臓が口から飛び出たかと思ったぞおい・・気配も存在感もありゃしねぇ。

ゲンガーかおまえは。


「何よ、幽霊でも見たような驚き方をして。貴方という男は本当に不躾極まりないわね」

「メリーさんみたいな登場の仕方をされたら誰だってビビるっつーの」


相変わらず、その出で立ちもいつもと同じ「闇に染まったメリーさん」みたいなゴスロリファッションだ。

こんな静かな街中でこの姿を見ると、違和感を覚えずにはいられないな・・正直浮いてるぞ、その格好。

こんな奇抜な格好が自然体になる状況なんてこの地球上のどこを探しても稀だろう。


「その目は物凄く失礼なことを考えている目よね」

「そ、そんなことねぇよ・・で、何の用なんだ」


というか、どうしてここに居ることが分かったんだ。

そんな俺の疑問を知ってか知らずか、黒猫は思わせぶりな笑みを浮かべていた。

いつもの人を蔑むような、妖艶な目つきで。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:03:34.98 ID:kndG4b6/0 [4/10]

「・・そうね、ただの暇潰しよ」

「ひ、暇潰しぃ?」

「尻尾を振って喜ぶが良いわ、私のような高貴なる存在と時を共にできることをね」


いきなり何を言い出すんだこいつは。

こんな日に男一人捕まえておいて、堂々と暇潰しなどと言いやがる。

いや・・まぁ、ある意味いつも通りの調子なんだけどよ。


「ところで、人間界の男どもが総じて浮かれている日でも、あなたは相変わらず浮かない顔をしているのね」

「人間界の男どもが浮かれてる日・・バレンタインのことか?」

「そう、セント・バレンタインズデー。

 私のような存在から見れば、疎ましいことこの上ない制度だけれど」

「はぁ・・」


じゃあどうして自分が疎ましいと思うこんな日に俺を呼び出したんだよ、このお嬢さんは。


154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:04:33.92 ID:kndG4b6/0 [5/10]

いつも通りではあるが、だからこそこいつが何を考えているのかが読めない。

いや、一生読むことはできないだろうな、そして、読みたくはない。

読むことができるということはコイツと同等の世界観を持ってしまったということと同義だからだ。


「とりあえず、近場の喫茶店にでも入るとしましょう。私、こう見えて疲労困憊なのよ」

「何でおまえが決め・・、」

「ほら、早くなさい。私は喉が渇いたの。それくらい察知しなさいな」

「・・・」


・・いつも通りだ。

俺は財布の中身を確認しつつ、高飛車な黒猫嬢の後を追った。





155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:05:38.99 ID:kndG4b6/0 [6/10]




「ふぅ・・久々に長歩きをしたから、疲れたわ」


俺たち二人が入ったのは、緑と白の色遣いが目立つ某大手コーヒーショップだ。

こういう類の店には疎い俺だが、黒猫が入りたいと言うのだから従うしかない。

甚だ遺憾ではあるが、知らないうちに黒猫従属体質になってしまっていたらしい。甚だ遺憾ではあるが。


「で、俺が家に帰っちゃいけない理由ってのを教えてもらおうか」

「なっ・・そ、そんなこと誰が言ったのかしら。勝手な憶測で事を進めないで欲しいわね」

「さすがの俺でも分かるっての、それくらいはな」


二月の半ばというまだ肌寒い季節だというのに、黒猫は冷や汗を垂らしていたる。

その姿は、お互いの前に置かれたアイスコーヒーのグラスに似ている。

中身はキンキンに冷えているくせにその肌には水滴を垂らす。みたいな。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:07:26.52 ID:kndG4b6/0 [7/10]

「だ、だから言ったでしょう。私の暇潰しに付き合って、と」

「あぁ、そうかよ」


やっぱり、何かを隠してやがるなコイツ。

そうじゃなきゃ、わざわざ学校が終わってすぐにこんなとこまで出向く必要がない。

ただでさえ女王様気質の黒猫だ。何か特別なワケがあるに違いないんだが・・。


「っていうか今日はバレンタインだろ。おまえだって好きな男の一人や二人居るんじゃないのか。

 放課後になっても大好きなあの人を待ち続け、部活が終わった頃にようやく決心して渡しに行く・・みたいな、」

「ふん、私が人間の男に媚び諂うと思っているのかしら」

「媚びへっ・・あのなぁ、そういうモンじゃないだろ。

 良いか。バレンタインっつーのはな、日頃伝えられない想いを好きな男に伝えられる特別な日だぞ」

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:08:35.76 ID:kndG4b6/0 [8/10]

「ふぅん」

「この日じゃなきゃダメなんだ、だからこそ世の男女があれだけ意識してるんだぞ。

 外に出てもウチでテレビを点けてもラジオを聞いてもネットをしても、どこもかしこもバレンタインバレンタイン・・、」

「だから?」

「だから?・・って、そんな淡白な」

「さっきも言ったでしょう、バレンタインなんて低俗な制度に私が乗っかるとでも思うのかしら。

 巷でよく言われる『お菓子会社の陰謀』とか『メディアの勝手な流行作り』とかいう噂も聞くに堪えないわね」

「別に好きな男にだけあげなきゃいけないってわけじゃねぇ、日頃お世話になってる奴に贈り物をしても良いんだ」

「・・どちらにせよ、同じことよ」


言葉を唾のように吐き、足を組み直した黒猫は静かにストローに口をつける。

いつも通りといったが、いつも以上に接しづらいなおい・・。

麻奈実からの贈り物で少し浮かれていた心が冷めてきたぜ。

少しの間も幸福な気分に浸らせてくれないのかよ、人生ってもんは。

こういうめぐり合わせなのか?

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:10:40.85 ID:kndG4b6/0 [9/10]

「・・あなた、ポケットに突っ込まれたそれは何?」


そして、件の麻奈実からのプレゼントをピンポイントで指摘された。

丁度思っていたことや物事の核心を突かれると、途端に口ごもる俺である。


「あ、いや。これは」

「怪しいわね・・まさか、」

「・・バレンタインのだよ、悪いか?」


俺がネクタイの入った箱をちらりと見せながらそう言うと、黒猫は何か唸るような眼差しを向けた後、

何かを我慢するように再びコーヒーでその喉を潤し、一呼吸入れようとする。

少し慌てていた先程とは違い、今回は無理やり落ち着かせようとしているように見えた。


「なるほど・・あなたにプレゼントだなんて物好きな女も居るものね」

「あぁ、そうだな。そんな物好きからのプレゼントでも俺は嬉しいんだよ、ほっとけ」

「・・そう」

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/15(火) 00:11:27.50 ID:kndG4b6/0 [10/10]

黒猫の表情が悲しいような、辛いような、そんな表情に歪む。

あまり・・いや、今までに見たことのない表情だ。

どうしてそんな顔つきになったのかまでは分からないが。


「じゃあ、兄さんはもう満足というわけかしら」

「ん、どういう意味だよ」

「バレンタインに女の子からプレゼントを貰い、満足したのかということよ」

「・・まぁ、一つも貰えないと思ってたからな、満足といえば満足だ。

 まだ貰えるってんなら貰いたいが・・もう良いさ、俺は高望みをしないんでね」

「そう・・」


また、おまえはそういう顔をする・・。
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