無題:7スレ目749

749 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:08:41.48 ID:uKk0C3M1o [2/18]

冬の寒さがなかなか和らいでくれない二月のある日。
あたし、高坂桐乃は大いに悩んでいた。
二月といえばバレンタインデー。あたしたち年頃の女子にとって大きなイベントだ。
とは言っても、誰か特定の異性にチョコをプレゼントしようなんて気はさらさらないんだけど。

あたしが頭を悩ませているのは別の理由――

去年、親友のあやせとは「友チョコ」と称して、互いに手作りのチョコを贈り合った。
あたしは一口サイズのプチチョコを、あやせはチョコクッキーを作ってくれた。
そして、あやせを家に招いてお互いのチョコを食べたんだけど、その時あやせはあたしの作ったプチチョコをすごい勢いで完食してくれたの。
よっぽど美味しかったんだろうと、単純なあたしは自分のお菓子作りの才能に有頂天になってたんだけど……

その後、残っていた最後のプチチョコを食べて廊下でのたうち回っていた兄貴の様子と、あやせが道端でお腹を押さえて苦しんでいたという兄貴の目撃情報から察するに、どうやらあたしのチョコは、美味からは遠く離れた……いや、ぶっちゃけ美味いとかマズい以前に、食べた人に腹痛を起こさせる、とんでもないシロモノに出来上がっていたみたい……
どういう風の吹き回しか、そんな状況でも兄貴は親指立てて「美味かった」なんて言ってたけど、うずくまって脂汗をかきながらの作り笑顔じゃ、さすがのあたしにもそれが本心じゃないことは分かる。

はぁ……あやせにも悪いことしちゃったな……


750 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:10:23.38 ID:uKk0C3M1o [3/18]

もう同じ失敗はできない――

汚名返上、名誉挽回のために、あたしは今年のバレンタインデーに賭けている。
もうあんな失敗作をあやせに食べさせないように、そして今度は本心から美味しいって言ってもらえるような、
そんなチョコを作れるように。
でも去年のプチチョコだって、一応レシピを調べて作ったはずなのに、どこが悪かったのかの見当さえつかない。
こんなあたしが独学で頑張ったところで、美味しいチョコを作れるとは到底思えないんだよね。
いままで自覚してなかったけど、あたしって料理のセンスはなかったんだ……

そして今、学校帰りのあたしは、家のすこし手前の曲がり角で、下校してくる兄貴を待ち伏せている。
いや、正確には兄貴“達”だ――

ああ、でも……どうしようかな……あたし、本当に頼むの?
っていうか、ちゃんとお願いできるかな……
一体どんな顔したらいいんだろう……


751 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:11:43.44 ID:uKk0C3M1o [4/18]

待つこと数十分、気の短いあたしが少しそわそわし始めた頃、
道の向こうから歩いてくる兄貴達の姿を見つけた。
兄貴はいつものように、幼馴染みの地味な女と肩を並べて歩いていた。
二人は何事か喋りながら、お互いに笑顔を振りまいている。
あ~あ、毎度のことながらデレデレしちゃって、ほんっとだらしないったらありゃしない。
そう、いつものあたしなら二人に冷たい視線を送り、知らん振りで通り過ぎていただろう。
だけども今日は事情が違う。

うーん、でも……あの二人の姿を見たら、なんだか……
今ならまだやめられるけど――

「あれっ、桐乃じゃねーか」

道端でぽつんと立っているあたしを見つけた兄貴は、素っ頓狂な声を出した。
あたしは目を堅く閉じてうつむき、自分の中の葛藤と戦っていた。
どうしよう……ホントにもう!

「なんだよお前、誰か待ってんのか?」

あたしに質問を投げながら近づいてくる兄貴、とその隣の地味子。
ううん、今日ばかりは地味子なんて呼んじゃいけないよね。

あたしは覚悟を決めて、二人の前に立ち塞がった。

「すみません、ちょっとお時間ありますかっ!?」
「はぁ?お前、何言ってんだ?」

もう、うっとおしい!いちいちしゃしゃり出てこないでよ。
あたしは舌打ちして、兄貴をジロリと睨んだ。

「あんたじゃない! た、田村……先輩に用事があるのっ」


752 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:14:12.80 ID:uKk0C3M1o [5/18]

兄貴は唖然とした様子で、ポカンと口を開けたまま固まっている。
なによ、そんなに驚くことないじゃない。

「えっ? 桐乃ちゃんが……わたしに……?」

二人が来るまでの間、あたしは悩みに悩んでいた。
あたしの身近で、お菓子作りを教えてくれるほどの腕前の人は、この“田村先輩”しかいない。
和菓子屋の娘さんだけど、いつも兄貴が手作りのチョコやらクッキーやらをもらってるのは知っている。
あやせもお菓子作りが上手いけど、チョコを贈る相手に習うわけにはいかないじゃん。

だけど、これまでずっとシカトこいてた相手になんて話しかけたらいいのか?
第一、この人のことを何て呼んだらいいんだろう。

麻奈実さん?――うーん、これはちょっと馴れ馴れしいよね。
田村さん?――無難だけど、なんだか白々しい感じ。
地味k――いや、いくらあたしでもさすがにあり得ないわ……

そんな感じであれこれ検討した結果、「田村先輩」に落ち着いたわけ。


753 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:15:55.77 ID:uKk0C3M1o [6/18]

あたしと田村先輩という、あり得ない組み合わせに困惑する兄貴を先に帰らせ、あたし達は二人きりになった。
まぁ、兄貴がいぶかる気持ちも分かるよ。
あたしだってまさかこの人にお願いをすることになるとは思わなかったし……


二人でスーパーに向かう道すがら、あたしは事情を話した。

「――というわけで、バレンタインのチョコ作りの相談にのっていただけたらなって……」

正直、今までのあたしの田村先輩に対する態度を考えれば、すごく虫のいい話だと思う。
そんな引け目があったので、ちょっと緊張しながら、恐る恐るお願いしたんだけど、

「そうだったんだあ……。うん!あたしでよかったら喜んでお手伝いするよっ」

田村先輩はわだかまりも感じさせず、笑顔で応えてくれた。

「あ、ありがとうございますっ!」

安堵したあたしの感謝の言葉は、思いっきり声が裏返っていた。


754 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:17:02.10 ID:uKk0C3M1o [7/18]

スーパーに着いたあたし達は、製菓材料コーナーへと向かった。
ここのスーパーは品揃えがいいので、手作りチョコの材料ぐらいなら難なく揃うだろう。

「えっと、桐乃ちゃんはどんなチョコを作りたいの?」
「それが……実はまだ決めてないっていうか……正直、自分に何が作れるかも分からなくて……」

ちなみに去年あたしが作った石ころのようなプチチョコは、板チョコを溶かして色んな調味料を入れ、アルミホイルで包んだだけのお菓子だった。
今にして思えば、あれを手作りチョコと呼んでいいのか甚だ疑問ではある。
そして、そのとき入れた調味料の中に、きっと入れてはいけない成分が含まれていたのだろう……
考え込んでしまったあたしを見て、田村先輩はポンと小さく手を鳴らして言った。

「じゃあ、チョコケーキに挑戦してみよっか~」

えっ、チョコケーキ!?
それって石ころチョコレベルのあたしにはちょっとハードル高すぎない……?

「あ、あたしなんかに作れますかね……」
「だいじょうぶだよ~。最初だから一緒につくろうよ。ねっ」


755 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:19:47.06 ID:uKk0C3M1o [8/18]

そう言うと、田村先輩は材料を次々に買い物カゴへ入れていった。
ココアパウダーに薄力粉、生クリームに粉砂糖、グラニュー糖に無塩バター。

「粉砂糖とグラニュー糖ってどっちも砂糖ですけど、両方要るんですか?」
「そうだよ~ この粉砂糖は飾り用に使うの」
「へぇ…… あたしそういうことも全然知らない……」

ハァ、自分があまりに無知で情けなくなってくる。
去年あんな石ころチョコを作って得意顔してた自分を絞め殺したいわ……

あたし達はチョコレート売り場に移動して、陳列されている板チョコを見比べる。

「ケーキに使うのは普通のチョコレートでいいけど、甘めとかビターとか、その辺は好みだよ」
「えーと、じゃあこのビターテイストなチョコにしてみます」
「あはは、桐乃ちゃん、大人の味だねえ~」

そう言って笑顔を向けてくる田村先輩。
あたしより3つも年上なんだけど、無邪気なその笑顔に、不覚にも可愛いと思ってしまった。

その後、会計を済ませたあたし達は、田村先輩の家へと向かった。
台所を借りて一緒にチョコケーキを作るために。
ああ、なんか緊張してきた……


756 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:22:55.13 ID:uKk0C3M1o [9/18]

あたし達は和菓子屋「田村屋」の裏手に回り、田村先輩が引き戸を引く。

「ただいまー」
「お、お邪魔します」

自分でお願いしたこととはいえ、まさか田村家にまで来ることになろうとは……
昨日までのあたしは想像もしてなかっただろう。
あたし達が玄関で靴を脱いでいると、ドタドタと廊下をかけてくる足音が聞こえた。

「ねーちゃんお帰り――って、あれっ!?」
「……あっ、お邪魔します」

そこに現れたのは坊主頭の元気そうな男の子。

「桐乃ちゃん、覚えてるかな?弟のいわおだよ」
「あ、はい。久しぶり~……」

あたしはぎこちない笑顔を作って、いわお君に手を振る。

「あ、うん。……じゃっ!」

そう言うと、いわお君はUターンして奥の部屋に引っ込んでしまった。

「あれっ? 桐乃ちゃんに会うの久しぶりだから恥ずかしかったのかなあ?……なんだかごめんね」
「いえいえ、別に……」

昔のいわお君は、黒縁メガネを掛けてる怒りっぽい男の子の印象だったので、随分とイメージが変わっていた。
でもまぁ、感じが変わったのはお互いさまかな。


757 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:24:06.14 ID:uKk0C3M1o [10/18]

あたし達は台所に並んでケーキ作りをはじめた。
……正確には、田村先輩のお菓子作りを、あたしが横でメモを取りながら見てる感じだったけど。

「まず最初は材料を確認して、それぞれの分量を計っておくの」

そう言うと、田村先輩は材料を取り分けて几帳面に計り始めた。

「こうしておけば、作りながらいちいち計る手間がなくなるし、台所も広く使えるし。
 作りながらその都度計ってると、焦って間違っちゃうかもしれないしね」
「なるほど。勉強になります……田村先輩」

あたしは、かしこまってメモを取った。
そんなあたしを見て、田村先輩は呟いた。

「……桐乃ちゃん、えっと、なんていうか……もっと普通でいいんだよ?」
「え、普通って?」
「うーんと、なんだか桐乃ちゃん、よそよそしいっていうか他人行儀っていうか……
 こうやってお話しするのも久しぶりだから、しょうがないかもしれないけど……」

そう言うと、田村先輩はちょっと寂しそうな表情を見せた。
「わたしね、桐乃ちゃんから頼ってもらえて嬉しかったんだ。これを機に桐乃ちゃんとまた仲良くなれたらな~なんて」
「……」
「だから、できれば……昔みたいに麻奈実って呼んでもらえたら嬉しいな」


758 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:28:33.18 ID:uKk0C3M1o [11/18]

そういえば、最後にこの人と普通のお喋りをしたのはいつだっただろう?
まだあたし達が小さくて、物心つく前だったかもしれない。
兄貴とあたしと、そして麻奈実さん――あたし達はよく一緒に遊んでいた。
だけどいつの頃からか、歳が離れていることもあり、兄貴と麻奈実さん、そこにオマケのあたし、というような構図になっていた。
そして次第に二人と距離を取るようになったあたしは、気付いたときには接し方すら分からなくなっていた。
むしろ、子供じみた反発の態度を取っていたりして……
ううっ、自己嫌悪が……

「そ、そうですね……じゃあ、麻奈実……さんで」
「うんっ、ありがとう!桐乃ちゃん」

麻奈実さんはえへへ~と笑顔を浮かべ、薄力粉とココアパウダーをふるいにかけている。
何年振りかに口にしたその呼び名に、あたしは照れくささから、少し顔が熱くなっていくのを感じた。

「粉はこうやってふるって、きめを細かくしておくと、ふんわりしたケーキが焼けるんだよ。
 で、チョコとバターは湯煎してやわらかく溶かしておくの」

さすがに手馴れた感じだ。
うちにふるいなんてあったかな……そんなことすら分かんないや……

「次にメレンゲを作るんだけど、しっかり角が立つぐらいにかき混ぜるのが結構大変なの」
「あっ、あたしがやりましょうか?」
「ううん、大丈夫。……じゃあ桐乃ちゃんは、別のボウルで卵黄と生クリームを軽く混ぜ合わせてくれるかな?」

あたしは慎重に材料をボウルへ投入する。
自分では卵黄と卵白を分けるのもままならないけど、それは最初に麻奈実さんが取り分けてくれていた。

カシャカシャカシャ――

静かな台所に、あたしと麻奈実さんがそれぞれボウルをかき混ぜる音が響いている。


759 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:30:27.05 ID:uKk0C3M1o [12/18]

会話が途切れると、急に気まずさが襲ってきた。
あたしは必死に話題を探したけれど、麻奈実さんとの間に共通の話題は思い当たらない。
あやせや加奈子なら、こういうときはファッションの話なんかをしてるんだけど、この人はそういうのに興味なさそうだし……
そんなことを考えつつ、ただひたすら泡立て器でかき混ぜて続けていると、慌てて麻奈実さんが声をかけた。

「き、桐乃ちゃん、もうそれぐらいでいいよ~っ」

ボウルを覗き込むと、中身は完璧に攪拌完了……いや、かき混ぜすぎてドロドロになっていた。

「うわっ! ごめんなさい……、これ大丈夫ですかね?」
「うん、ぜんぜん大丈夫だよ~。ありがとうね」

考え事をしながら料理しちゃダメだよね。ひとつ勉強になった……
麻奈実さんはあたしからボウルを受け取ると、溶かしていたバターやチョコ、そして作りたてのメレンゲと合わせて、チョコレートケーキの生地を作った。

「あとはこれをケーキの型に流し込んで、オーブンで焼きま~す」
「へぇ、混ぜるのは大変だっだけど、それ以外はそんなに難しくないんですね」
「うん、これなら一人でも作れそうでしょ?」

そうは言っても、溶かして固めただけのプチチョコを石ころチョコに変えてしまった実績を持つあたしだ。
絶対にミスらないよう、メモを取ることに抜かりはなかった。


760 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:33:40.44 ID:uKk0C3M1o [13/18]

ケーキが焼けるまでの間、あたし達は茶の間に移動して待つことにした。
そこはほんのりお線香のにおいがして、田舎のお爺ちゃん家のようで、なんだか懐かしさを感じさせる。
あたしは座卓を挟んで麻奈実さんと向かい合って座った。

「これ、お店で出してるものだけどごめんね~」
「いえ、この羊羹、美味しいです」
「えへへ、ありがとう~」
「……」
「……」

会話が続かない……
一緒にケーキ作りをして少し打ち解けたとはいえ、まともに話すのが数年ぶりのあたし達。
そりゃあ会話が弾むわけもない。
あたしはまた頭をフル回転させ、必死に話のネタを絞り出す。

「……えーっと、麻奈実さんはバレンタインのチョコは誰に作るんですか?」

話題に困ったあたしは、苦し紛れに変な質問をしてしまった。
そんなことわざわざ聞くまでもないのに。なんという愚問……

「えっ、へっ!? 誰にって……ええと、家族みんなの分でしょ? それと……」

あたしの質問に、麻奈実さんは気の毒なぐらい慌てて、

「……それと……きょうちゃんに……」

消え入るような声で恐る恐るそう答えた。
聞いといてなんだけど、そんなの分かりきってることだし、そんなにおどおどしなくてもいいのに。
それはまるであたしに怯えてるかのような反応だった……
まさかあたし、兄貴大好きのブラコン娘だとでも思われてるのかな……うええっ、気色悪っ!


761 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:34:26.25 ID:uKk0C3M1o [14/18]

「そ、そう言う桐乃ちゃんは、きょうちゃんにはプレゼントしないの?」
「ええっ、あたしが?? 兄貴に!?」

いやいやいや、なんであたしがあのバカ兄貴に……ありえないってそんなの!

「うちの兄妹はそんなんじゃないですからっ!」
「そうなんだ~? 桐乃ちゃん達って仲良しだから、てっきりプレゼントするのかと思ったけど」

どこをどこから見たら、あたし達が仲良し兄妹に見えるんだろう。
まぁ、ここ最近はあたしの“趣味”のこともあって、以前よりはあいつと話すようになったけどさ。
世間一般の基準で見れば、まだまだ不仲に分類される兄妹のはずでしょ?

それにしても、麻奈実さんはあの平凡で無気力面の兄貴のどこが良いのだろう……?
それに、いつも一緒に居るけれど、付き合ってるとか、そういう関係じゃないらしいし……

と、そこでまた会話が途切れて、あたし達は沈黙を取り繕うように、同時にお茶をすすった。


762 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:36:56.33 ID:uKk0C3M1o [15/18]

そうこうしているうちに、オーブンから焼き上がりを知らせるアラーム音が鳴った。
麻奈実さんはケーキを取り出し、竹串を刺す。

「こうやって、ちゃんと中まで焼けてるか確認するの」

ふむふむ、なるほど。メモメモ……
竹串に生地がついていないことを確認した麻奈実さんは、ケーキを型から外して粉砂糖を振りかける。

「あっ!これってもしかして……」
「うん、これでガトーショコラのできあがりだよっ」
「へええ~!こうやって作るんですね!」

褐色のチョコケーキに映える粉砂糖の白が綺麗で、まるでお店で出てくるようなガトーショコラだった。
ケーキショップではおなじみのケーキだけど、それが家庭で作れちゃうなんて……
チョコレートや小麦粉、卵といったありふれた材料からガトーショコラができてしまう、その工程にあたしは感動を覚えていた。

料理って本当にすごい。


763 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:38:19.70 ID:uKk0C3M1o [16/18]

麻奈実さんと一緒に食べたガトーショコラは、チョコが濃厚なのに生地がしっとりとしてくちどけの良い、
まさしくお店レベルの出来だった。

「すっごい美味しい~~!もうプロの味ですって!すごいすごい!」
「あはは、桐乃ちゃん大袈裟だよー」

テンションが上がり、はしゃぐあたしを見て、麻奈実さんも笑顔を浮かべていた。

その後、もう一度作り方のおさらいをしてもらって、あたしは田村家を後にした。
近くの道角まで送ってくれた麻奈実さんに、あたしはぺこりとお辞儀をする。

「えっと……麻奈実さん、今日は本当にありがとうございました」
「どういたしまして。桐乃ちゃん、ケーキ作りがんばってね」

手を振って見送ってくれる麻奈実さんにもう一度お辞儀をして、あたしは家路についた。

次からは、道端で麻奈実さんと会っても、普通に挨拶ができそう――
そんなことを思いながら歩くあたしの足取りは、自然と軽くなっていた。


764 名前: ◆kuVWl/Rxus[sage saga] 投稿日:2011/02/18(金) 04:41:31.24 ID:uKk0C3M1o [17/18]

そしてバレンタインデーの前日の日曜日――

あたしは朝からチョコケーキ作りに奮闘していた。
前回は麻奈実さんと一緒だったけど、一人で作るとなるとやっぱり上手くはいかないもので、何度も失敗を繰り返してしまった。

それでも午後には、ようやくそれらしいケーキを作ることができた。
麻奈実さんが作るような見栄えのいいケーキじゃないけど、初めて自分一人で作ったチョコケーキ。
不恰好だけど、眺めているだけで自然に笑みがこぼれる。
お菓子作りって思ってたよりずっと大変だけど、出来上がったときの達成感は相当なものだよね。

あたしはケーキを慎重に半分に切り、片方はラップして冷蔵庫に、もう片方はバスケットに入れた。
玄関で出掛ける準備をしていると、部屋で勉強をしていた兄貴が階段を降りてきた。

「お前、朝からずっとケーキ作ってたのかよ?」
「ふふん、まぁね~」

兄貴はなにか言いたそうにしてたけど、それよりも早く、あたしはバスケット片手に玄関を飛び出していた。
心配しなくても、あんたにも切れ端ぐらいは食べさせてあげるってば。


その前に、あたしのお菓子作りの先生に、出来栄えを報告しに行かなきゃね。




おわり

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最終更新:2011年02月19日 03:42
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