グラハム「私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!」:592

592: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 02:26:16.87 ID:QB/i3zRT0

 第3話 『私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!』

秋葉原に出かけてから数日が過ぎた。
今の私は、とある任務の最終場面に入っている。
ここで下手を打つわけにはいかない。
諸君も、私の戦いをしばし観戦してくれたまえ。


【妹と恋しよっ♪】
グラハム「私は君の心を奪う!!世界などどうでも良い!己の意思でっ!!」
しおり「お兄ちゃんだって世界の一部なのにっ!」
グラハム「ならば!これは世界の声だっ!!」
しおり「違う!お兄ちゃんは、自分の性欲を押し通してるだけっ!
    お兄ちゃんのその歪み!あたしが断ち切る!」
グラハム「よく言った!しおりぃぃぃ!!」
しおり「うわぁぁぁぁぁあ!!」
グラハム「うぉぉぉぉぉぉ!!」

ドカーーーーーーン

                        fin

「良いゲームだった!」
ついに私はこの任務を完遂する事に成功した。
こういうゲームが初めてである私には難易度は高かったが
どうにかENDマークまでたどり着く事が出来たようだ。
私の分身である主人公と妹しおりとの最後のシーンは
まさに名場面と言っても過言では無いと断言するっ!
これならば我が妹が私に勧めた理由も判ると言うものだ。
早速、攻略した事を報告に行かねばなるまい。



597: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 02:45:50.43 ID:QB/i3zRT0

私は自分の部屋を出るとすぐ隣の妹の部屋の扉をノックした。

「なに?なんか用?」
「フッ、任務達成の報告に来ただけだ。中々興味深かったと言う言葉を送らせて貰おう」
桐乃は私からゲームを受け取ると、疑わしげな声色で言った。

「本当にちゃんとクリアした?」
「任務は達成した」
「ふぅん……で。面白かったの?具体的に言って」
「しおりの話の後半は非常に良く出来ていたと素人の私でも驚嘆に値した。
 しおりが家を飛び出して、主人公が追撃し、そこでお互いの信念をぶつけあい
 最後の戦闘に突入するところなどは……」
「ちょ、ちょっと待って!あんた違うゲームやってたんじゃない!?それ何っ!?」
「私が先ほど攻略したしおりシナリオの話をしているっ!!」
「………私が知らないルートが存在してる……?そんなバカな……」

妹が驚嘆の表情を浮かべている。
逆に問うが、このゲームにあれ以外の話があるのだろうか。
私はあのエンディングこそが唯一無二であると確信している。

「もう一回やってみる……ちょっとあんた来て!どうやったらそうなるのよ!」
「私が君にゲームの事を教える事になるとはな」

妹は私のアドバイスに文句を言いながらゲームの再攻略に勤しんでいる。
「はぁ!?そんな選択選ぶって有り得ない!」「何でそれ選べるのよ!」などと言っているが
私は私に取っての最善を選択肢したに過ぎない。故に妹は私の到達した極み(END)に到達しなかったのだろう。



601: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 03:04:07.05 ID:QB/i3zRT0

私は既に見た話であるため、暇を紛らわすために、妹に問いかけた。

「以前、知り合った沙織・バジーナと黒い少女とはあれからはどうなっている?」
「う~ん……一応両方ともやり取りしているよ。メッセとかメールで」

カチカチッとマウスをクリックしながら妹はそんな返事を返してきた。

「そうか。良い友が出来たな」
「友達って言うかぁー……話し相手?
 いちおー話はあうしさ。色々知らない事とか教えてくれるしー」
 まぁ、役には立っているかな」

敢えて言おうそれは友であると!!
しかし、私にでも、それは素直言えないだけであると理解出来た。

「まっ……今度の休みは暇だし。またオフ会やるって言うから行ってあげてもいいかなって感じ」

そう言って笑う妹の顔を見ていると今の私、『高坂京介』の人生相談は終了したと実感する。
全ては良い方に回っている。そんな事を私はこの時考えていた。だが、そんな私の思いは
所詮センチメンタリズムであったという事を、思い知ることになる。


603: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 03:44:11.46 ID:QB/i3zRT0

日曜日の夕方、私が山から帰って来ると、異変に気付いた。
静かすぎる。妙に張り詰めた空気が我が家を覆っていた。
さながら、戦場の張り詰めた空気に近いと言わせて頂く。
私は張り詰めた空気の出処を、探る。こういう時に戦いで得た感覚は役に立つ。
出処は……どうやらリビングのようだ。そして、このような裂帛の気をこの家で放てるのは……
親父殿をおいて他には無い。

「予感が当たらねば良いと言いたいが……」

既に私の第六感はこの時点で事態を予想しつつあった。
この空気の出所である、リビングの扉をこじ開ける。

「帰宅の挨拶。ただいまと言う言葉を慎んで送らせていただこうっ!!」

中に入ると妹と親父殿がテーブルを挟んでソファに座り対面している。
両者ともに無言。何をしているわけでも無い。お互いに向かいあいただ無言。
しかし、そんな事は関係ないッ!!

「私は挨拶をしている」

私のその言葉に「おかえり」と
親父殿は短くそう言うとまた黙り込んだ。
桐乃に至っては、俯いたまま反応しようとしない。
もっとも彼女は、少し前までは何度も呼びかけなければ挨拶はしなかったのだがな!

恐らくこういう状況になった原因は……やはりか。
二人の間の机の上には、『ほしくずうぃっち☆メルル』のDVDケースが置かれている。
そして開かれたケースの中には私も先日クリアした『妹と恋しよっ』が入っていた。
言わんことではない!やはり私の第六感あ告げた事態が発生している!
この状況、どう立ちまわるべきか。



611: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04:05:49.50 ID:QB/i3zRT0

「京介、ちょっと京介」
お袋殿が廊下から私に話しかけてくる。
「あんたはちょっとこっちにきなさい」
「良いだろう」

どうしてこういった状況になったのか私はお袋殿に問いただす事にした。
どうやら私と桐乃の間に起きたハプニングと同様の事が運の無い事に親父殿と桐乃の間でも発生したようだ。迂闊だぞッ 桐乃ッ!!

「京介……余り驚かないのね」
「驚いてはいるさ」
「もしかして、あんた桐乃がああいうの持ってるって知ってた?」
「見くびらないで頂きたものだな。当然知っているッ!!」
「はぁ~……本当にどうしてあの子があんなものをねぇ……あんなに怒ってるお父さん久しぶりよ」

そんな話をお袋殿としているとリビングより桐乃が飛び出して来た。
その瞳には涙が溜っているのを視認した。そして桐乃は脱兎の如く玄関より飛び出した。
追いかけるべきか……いや、ここはまずは親父殿に事の成り行きを確かめる必要があるだろう。
「きょ、京介……やめなさい」
「断固辞退する!」

お袋殿の静止を無視して私は再びリビングへと入室する。
親父殿は何故か掃除機をかけていた。フローリングの片隅にクリスタルの灰皿が転がっている。
どちらかが、この灰皿をひっくり返したと言う事か。私が目を離した間に何が有ったか語って頂くぞ親父殿!!
やがて親父殿が掃除機をかけ終わり、静かに私の方に振り返り言った。
「京介、ちょっとそこにすわ………」

敢えて言おう。既に私は座っていると。

「正座する必要は無い。ソファに座りなさい」
礼を尽くしたつもりなのだが。私はソファに座ると親父殿と対面した。


619: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04:45:07.27 ID:QB/i3zRT0

親父殿の第一声は次のようなものであった。
「京介、お前は知っていたのか」
「先ほど、お袋殿にも言ったが、見くびらないで頂きたい。当然の事だっ!」
罪人の口を割らすために研ぎ澄まされたこの世界での父の瞳。
なるほど。平凡な学生であれば、この瞳に呑まれてしまうかもしれないな。
だが、生憎私は見ての通り軍人だ。

「そうか。お前が何故知っていたかはきかん。喋るわけにはいかないのだろう?」
「良く息子の事を理解している。私はそれについては断固として答える気は無い」
「………幾多の人間を尋問してきたが……お前のような男は初めてだ」

それは褒め言葉として受け取らせて頂こう。

「俺はこういった物をお前達に買い与えた事はない。何故か判るか?」
親父殿をDVDケースを持ち上げ、アニメも中のR18ゲームも一緒くたにして言った。
「それについて考えた事は無かったと言わせて頂こう」
私自身も父にそれらをねだった事はない。
「こういう物はお前達に悪影響を与えるからだ。ニュース等でもよくやっているだろう。
 ゲームをやっていると頭が悪くなる。犯罪者の家からいかがわしい漫画やゲームが見つかったと
 ――もちろんTVの話を全てを鵜呑みにしているわけではないがな」

どうせ碌でも無いものなのだろう。親父殿の顔はそう言っているように見えた。


620: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04:51:15.20 ID:QB/i3zRT0

「真偽はともかくだ。悪影響があると言われている物をお前達に買ってやるわけにはいかん」
「敢えて言わせて頂こう。あれは桐乃が、桐乃自身の得た報酬により買ったものだ。」
「それはそうだな。だから俺は、アレが自分の金で買った物に関しては、それ程口うるさくいうつもりはない。
 化粧品だの派手な服だの、バックだの……本来ならばああいった子供らしからぬ物もどうかと思うがな
 母親と一緒になってそれが友達付き合いに必要なのだと言われれば、俺にはもう何も言えん。
 勝手にしろと諦めるしか無い」
「1つ問わせて頂きたい。化粧品やバッグとアニメやゲームを同列に扱えない理由を」
「あんな世間で良くないと言われる物を桐乃に持たせておくわけにはいかん。
 特にアレは俺が言うのも何だが出来た娘だ。下らん趣味にうつつをぬかしているならば
 駄目になる前に道を正してやらねばならん」

親父殿の論旨はこうだ。オタク趣味は桐乃を駄目にする、だからやめさせると。

「論旨は理解した。」
「そういう事だ。」
親父殿は立ち上がり、リビングを出ていこうとした。
「しかし、納得は出来ない。私が納得出来ない以上はその論旨は間違っていると断言するッ!!」

親父殿は振り返り私の方をジロリと睨むと珍しく大声をあげた。
「京介……!これだけ言っても判らんかっ!!」
「理屈は良い。私は感情で喋っているっ!!」
「ここでお前と喋っていても無駄なようだ」

再びリビングを出ようとする親父殿。
私の第六感が告げている。このまま行かせるわけにはいかないと。

「どこへ行くつもりだ親父殿」
「桐乃の部屋を調べる。他に隠している物があるかもしれない」



628: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 05:54:28.59 ID:QB/i3zRT0

まずいな。あそこには桐乃のコレクションがある。
親父殿であればものの数分もあればコレクションの隠し場所を探り当てるだろう。
そうなれば……言葉を尽くしても恐らく今の私と親父殿は分かり合う事は出来ないだろう。
しかし、桐乃がいない所で桐乃のコレクションが発見されるのは阻止せねばならない!

「もしも、そこに隠している物があったらどうするつもりだ」
「全て処分する。そうすればアレも眼が覚めるだろう」
「ならば私は、貴方を行かせるわけにはいかない」

私は階段を上がっていく父を追いかけ、その前に回りこむ。
「そこをどけ、京介」
「退くわけにはいかないな」

隙を見せれば、警察官である我が親父殿は私をひねり上げ押し通ろうする可能性もある。
ここは私も隙を見せるわけにはいかない。私も伊達に軍人として生きてきたわけではない。
親父殿の眼と私の眼が真っ直ぐに向かい合う。その状況が数分続いただろうか。

「もう一度言うどけ」
「ならば私ももう一度言おう。退くつもりは無いと」
「………何故だ?」
「どんな事情があろうと、本人の許可無く部屋に押し入り家探しするのは
 道理に反すると私は考えているからだっ!」

何故、私がコレほどまでに妹のコレクションを庇うのか。
恐らく理由など無い。私は自分自身の感情で動いている。


630: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 06:02:56.09 ID:QB/i3zRT0

「……良いだろう。俺は桐乃の部屋には入らん。」
「その代わり、京介。お前が責任を持って全て捨てるように桐乃に伝えておけ」
「断固辞退しよう」
「お前は……!」
「私は既に桐乃と約束をしている。男の誓いに訂正は無い。
 一度言った言葉を曲げないのは、貴方の教えでもあるはずだ」
「…………」

親父殿は難しい顔をして考え込んでいる。

「判った。お前にはもう言わん。
 桐乃が帰ってきたらもう一度俺から言おう」

そう言って親父殿は階段を降りて行った。
親父殿も私と同じく自分の言葉を曲げる男では無い。
故に、桐乃の部屋に許可無く立ち入る事は無いだろう。
私と親父殿も似たもの同士と言うことだ。この世界では親子なのだから当然か。

さて、取り敢えずの緊急事態は回避した
そして、現在の状況についても把握する事が出来た。
次は出て行った桐乃を探さなければならないだろう。
どちらにしても、親父殿が桐乃の趣味を認めたわけではない。
これは桐乃の問題だ。彼女が今、どう考えているのか。どうするつもりなのか。どうしたいのか。
それを会って確認しなければならないだろう。

家を飛び出して行った妹の行き先に心当たりはない。
当然ながら『人生相談』が始まるまで、私は妹とそこまで親密だったわけでは無い。
故に、こういう時にどこに行くかなど皆目見当がつかないと言うのが正直なところだ。
ならば!これは戦いの中で培われた勘を信じるのみ!
イノベイターである少年ほどではなくてもな!



710: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 01:06:15.21 ID:wikDxXW20

私の勘も捨てたものでは無かったようだ。
夕暮れの駅前商店街。その中のゲームセンターにて、ほぼリズムを無視して
無茶苦茶に太鼓を叩く妹の姿を見つけることができた。

「死ね死ね死ね死ねっ!!みんな死ねっ!」
「怖い顔だな」
私は背後から彼女に話しかける。
「誰っ!?」
ブンッ! 振り返りざまに太鼓のバチを振るう桐乃
パシッ! 私はそれを受け止めた。中々の太刀筋だ。
だが、私の顔面を捉えるにはまだまだ未熟。

「何だ……あんたか……何しに来たの……」
バチを振り回す姿は威勢が良かったが、口を開いた桐乃は
とても弱々しく見えた。先ほどの出来事が尾を引いているのだろう。

「君を追いかけて来たという回答では不服かな?」
「キモ……何それ……ゲームと現実を一緒にしないでよね……」
「私は私の意思に従って行動しているに過ぎないさ」
「い、一々格好つけないでよ……」

そういうつもりは無いのだがな。
まぁ、良い。取り敢えず桐乃には彼女が出ていってからの一部始終を伝える必要がある。
私は、親父殿が桐乃の部屋に入りグッズ類を捜索しようとした事。
帰宅次第それを全て処分するように言うであろう事を伝えた。

「な、何それ……何で……そんなのって……無いよ……」
ここまで弱々しい桐乃はオフ会一次会の時以来か。
いや、あの時以上と言っても過言ではないかもしれない。
だが、私は事態を打開するためにも桐乃に確認しなければならない事がある。



716: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 01:27:26.07 ID:wikDxXW20

「君は、親父殿と何を話していたんだ?」       
桐乃は顔を真赤にして、握った拳をブルブル震わせながら
搾り出すように言った。悔しさ。哀しさ。そういった感情を全て吐き出すように。

「下らんって言われたの…!あたしが好きなアニメもゲームも今日行ったオフ会も……!!
 全部!全部全部全部!!……がうのに……!!………なんじゃないのに……あ、あたし……何も……」
その先は殆ど嗚咽となり聞き取る事は出来なかった。
しかし、その気持ちは伝わった。

「あ、あたし……おかしいのかな?こういうの好きでいちゃダメなのかな……」
泣きはらした目で、答えを求める桐乃。しかし、私がそれに回答するわけにいかない。
「それは私が決める事では無い。ましてや、親父殿が決める事でも無い。
 君が、君自身で決める事だ。そして……かつて言った事だが敢えてもう一度言おう。
 男の誓いに訂正は無い……と。」
「グスッ……そ、それって……どういう……」
「逆に私から問う。君は自分の趣味という道を貫き通すのか
 それとも、それを捨てるのか。確かに君は文武両道、眉目秀麗。
 この趣味さえ捨てれば両親共に完璧である君に安心するだろう。
 しかし、君は……桐乃はどうしたい?」
「分かってるよ……あたしが凄いのはあたしが一番知ってる……オタクやめれば
 何もかも上手く行く……そんなの最初から分かってる……」
桐乃はそこまで言うと真っ直ぐに私を見つめ、それまでとは違い落ち着いた声でこう言った
「でも……やめないよ!絶対にやめない!好きなんだもん!すっごい好きなんだもん!!
 それなのにやめるなんて……嫌だ!!お父さんの道理が正しいのは分かってる!でも……」

「そんな道理……あたしの無理でこじあけてでもやめないっ!!」

「良く言った!!桐乃ッ!!!」
ならば、君がその趣味を決して捨てないと言うならば
おとめ座の私は『人生相談』に則り、この道を切り開く必要がある。



723:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 01:51:53.37 ID:PxOtSUwr0

乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない
自分が乙女座であったことを、これぼど嬉しく思 ったことはない!
好意を抱くよ。興味以上の対象だということさ
モビルスーツの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではない
身持ちが堅いな!!
抱きしめたいな!
まさに眠り姫だ
堪忍袋の緒が切れた…許さんぞ!
私の顔に何度泥を塗れば気が済むのだ!
そんな道理、私の無理で抉じ開ける!
今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!!
私は我慢弱い!
逢いたかった…逢いたかったぞ!!
私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ!!
この気持ち、まさしく愛だ!!
愛を超越すれば、それは憎しみとなる!
生きてきた…私はこの為に生きてきた…!とんだ茶番だ
私の道を阻むな!
私は純粋に戦いを望む!
なんという僥倖…!生き恥を曝した甲斐が!あったというもの!!
引導を渡す!
武士道とは、死ぬことと見つけたり!
もはや愛を超え、憎しみも超越し、宿命となった!
これが私の望む道…修羅の道だ!
いざ、尋常に勝負!
戦いに集中せんか!
私を切り裂き、その手に勝利を掴んでみせろぉ!!



733: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 02:22:13.12 ID:wikDxXW20

桐乃には、1時間程したら戻るように言い含め私は帰路についた。
……戦うだけの人生を送った私。しかし、私と同じだと思っていた少年は最後には対話する事を選んだ。
それが彼の選んだ極み。ならば……彼を超えるために……いや、そういった理屈は関係無いッ!
私はこれより、親父殿と対話しよう。私の感情の赴くままに!!
自宅に戻った私は、お袋殿にも協力を仰ぎ、切り札も手に入れた。
いざ……尋常に勝負っ!!私は親父殿の待つリビングの扉をこじ開けた。

「本日二度目のただいまと言う言葉を慎んで送らせて頂く親父殿!」
「………おかえり」

……一言だけ挨拶を交わすと親父殿は無言で私を見据える。
「桐乃は見つかったのかのか?」とその目がいっている。ならば答えよう。

「桐乃は見つかった。1時間もすれば戻るだろう」
「そうか」
「だが、その前に私は親父殿に話がある」
「……言ってみろ」

低い声で親父殿は私に発言を促す。
この気。彼が私と同じ時代に生まれていれば恐らくかなりのフラッグファイターとなれただろう。

「桐乃の趣味をやめさせたりなどはさせないとここに宣誓する」
「その事についてはお前と話すつもりは無い。もう俺の理屈は述べた」
「敢えて言おう!その理屈は間違っていると!
 確かに桐乃の趣味は私にも理解出来ない部分はある。
 だが、その趣味を通して得たかけがえの無い友……それを貴方は否定したッ!」

親父殿は黙って日本酒を飲みながら私の言葉を噛み締めるように聞いてい



808: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00:10:55.95 ID:+geDAOgR0

「私はこの目で見てきた。桐乃のかけがえの無い物を。
 沙織・バジーナに黒い少女。初めて桐乃が出会った、腹を割って話せる友だ。
 夢中になって好きな事をする事の何を否定出来る!?」

それは私も同じだった。志を同じとする者の存在は力となる。
カタギリ、ハワード、ダリル、ヴィクトル、イェーガン、アキラ、ネフェル、ルドルフ。
ワンマンアーミーを気取った時でさえ、私の隣には良き理解者が居た。
桐乃はオタクという道において、ようやく理解者を得た。
その事は彼女の人生において、きっと大事な事なのだ。断言しようっ!!
ならば、私は親父殿と云えどもそれを否定させるわけにはいかない。

少し前までは、桐乃は私にとって理解出来ない存在と言っても差し支えなかった。
お互いのバックボーンが違いすぎた。私自身も積極的に彼女とは関わらなかった。
だが、ここ数日間の『人生相談』は良くも悪くも私の運命を変えたのだ。
敢えて言おう……彼女は……この私、グラハム・エーカーの妹であると!!
故に私は彼女を……彼女の得た物を守ろう!!

「だから……許してやれと言うのか?悪影響しか与えない下らん趣味を」

この瞬間を私は待っていた!!

「悪影響のみ……?その見解は却下させて貰おう。これを見て頂きたい!」

私は親父殿の前に桐乃の成績表、トロフィーを表彰状をつきつける。
人呼んで、桐乃スペシャル!!!

「…………」
「これだけの戦果を挙げているのは誰だ!?他ならぬ貴方の娘だッ!!」



815: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00:37:16.25 ID:+geDAOgR0

「知っている。それがどうした」
「言わずとも判っているはずだ親父殿。貴方の娘はこれだけの人間だ。
 そして、その人間が最も大事にしているもの。それが親父殿の否定する趣味だッ!
 それが悪影響しかない?それは桐乃の人生を否定するも同じッ!!!」
「………何故、お前がそこまで桐乃を庇う?」
「見てしまったからだ。桐乃の本当の笑顔と言うものを。」

私は更に突きつける。
桐乃の過去から現在までが収められたアルバム。
全て親父殿の手によって撮られたものだ。これだけでも
親父殿が桐乃をどう思っているかなど一目瞭然!!

「それとそのアルバム、どう関係がる」
「慌てずに、次を見て頂こう」

そして更に私は1冊のスクラップブックを取り出した。
「……!!」
「これは親父殿の宝だと伺っている。」
スクラップブックには桐乃のモデルとしての活躍が
大事に切り抜かれ何十ページにも渡り保管されていた。

「貴方は娘の活躍が嬉しかったはずだ。故にこうして何よりも大事に保管している。
 口では、下らないと言いながらもッ!」
「バカを言うな。娘の仕事を親が確認せずにどうする」
「フッ、その結果がこれと言うわけだ。判っているはずだ。桐乃の仕事が決して世に憚られるものではないと!」
「……そうだな。憚る必要の無い仕事だ」



818: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00:49:27.29 ID:+geDAOgR0

「そう。そして、同様に私はこれも憚る必要の無いものと言っている!!」
私は最後の写真を突きつけた。
桐乃の出会ったかけがえの無い友人たち。
桐乃と黒い少女と沙織・バジーナがそこには映っている。
桐乃は仏頂面をしつつも、その口元は笑っている。本当に楽しそうに。

「…………」
「これが悪影響だけのものかどうか。私以上に桐乃を見てきた貴方ならば判るはずだ。」
親父殿は黙って私の突きつけた写真を見ている。

「敢えて言おう……これら全てが高坂桐乃だ。全て揃って高坂桐乃なのだっ!!」

かつて私は恩師と仲間を奪い空を汚したガンダムに対する憎しみを持った。
しかし、それを超越する程にその圧倒的な性能に心奪われた。
私自身矛盾を抱えて生きてきた。桐乃も自分の中で優等生でクラスの中心という自分と
オタクな趣味を持つ自分という矛盾を抱えている。しかし、その矛盾も含めて一人の人間なのだ!

「……お前の話は判った。下らんと言ったのは一先ず取り消してやる。
 確かに俺は何も知らん。偏見で言った事は認めよう。お前に免じて、桐乃の趣味を許してやっても良い」
「その旨を良しとする」

どうやら、私は対話を成し遂げる事が出来たようだ。
言葉のみで伝える……戦うだけの存在であったかつての私では出来なかっただろう。
少年……私は少年に近づく事が出来ただろうか?

「だが……一部だけだ」



824: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01:04:47.77 ID:+geDAOgR0

「あのケースに入っていたような、いかがわしい物を許すわけにはいかん
 これは良い悪いの問題でも、俺が偏見を持っている事も関係ない。18禁の意味を考えろ」

くっ!どうやら対話はまだ終っていなかったようだ。
確かに桐乃の年齢は14歳。これに関しては親父殿が正しい。
しかし、私はかつて誓ったはずだ。何か問題が起きた場合は、その問題は私の無理でこじあけると!!

そう……今日の私は……エロゲすら凌駕する存在だっ!!!

「違うな。親父殿」
「何が違うと言うのだ?」

「そのソフトは……【妹と恋しよっ!】はいかがわしい物などでは無いっ!!」
「貴様……この期に及んで……!」
「ならばっ!!今、それを証明しようっっ!!!」

私は最後の切り札……ジョーカーと呼ばせて貰う! それをこの手より解き放つ!!
私はノートパソコンを親父殿の目の前に差し出す。

「何のつもりだ」
「そのゲームの中身。私と共に確認して貰おう!!
 私がエスコート役を勤めさせて頂く!」
「む、むぅ……」



828: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01:07:19.00 ID:+geDAOgR0

私と親父殿は並んでノートパソコンの前に座る。
そして、私はDVDを起動させる。
再び会ったな……しおりッ!!!」


【妹と恋しよっ♪】
グラハム「私は君の心を奪う!!世界などどうでも良い!己の意思でっ!!」
しおり「お兄ちゃんだって世界の一部なのにっ!」
グラハム「ならば!これは世界の声だっ!!」
しおり「違う!お兄ちゃんは、自分の性欲を押し通してるだけっ!
    お兄ちゃんのその歪み!あたしが断ち切る!」
グラハム「よく言った!しおりぃぃぃ!!」
しおり「うわぁぁぁぁぁあ!!」
グラハム「うぉぉぉぉぉぉ!!」

ドカーーーーーーン

                        fin

桐乃は結局。このエンディングには辿りつけなかった。
そう一切如何わしい描写など無い!これは私と少年……いや、しおりとの愛の物語。
そう、この私、グラハム・エーカーのみに許された特別なエンディング!!
敢えて言おう。システムすら凌駕し、既にこのソフトは私の物であるとっ!!



840: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01:24:53.99 ID:+geDAOgR0

「このソフトは如何わしいものなどではない。
 そして、今見てもらったようにこれは私がプレイしたものだ
 それを桐乃に貸し与えていた。余りの美しい物語故にっ!!」
「貴様は……こんな……兄が妹を性欲の対象としているような物を…妹に貸したと言うのか……」

だが、私は見逃していない。
親父殿もこう言ってはいるが、この美しい物語に心動かされていたと言う事を。

「その通りだ。付け加えさせて頂くならば私はこの作品に……いや、アニメやゲームに心奪われた!
 かつて……この気持ち……まさしく愛だっっっ!!!!」

「こ、この……この……」
頭部に強烈な一撃を見舞われたかのように親父殿はこめかみを抑えながら言った。
「バカ息子がっ!!勝手にしろ!!俺はもう知らん!!」

かつてないほどの大絶叫。ここまでの気迫、私が戦ってきた敵の中でも多くはない。
はぁはぁ、と肩を上下させていた親父は、私に背を向け足音を立てて去っていこうとする。

「親父殿」
「なんだっ!!!」
「敢えて聞こう。貴方はこの物語をどう思った?」
「……下らんとは言わんっ!!」

それだけ言うと親父殿は今度こそ立ち去った。
そう……今度こそ私は対話を成し遂げた。
フッ――我侭なお姫様もこの結果には恐らく満足して頂けるだろう。



853: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01:43:09.23 ID:+geDAOgR0

こうして高坂家を賑わせた騒動が一件落着した、翌日の夕方。
私が学校より帰還すると、何時ぞやのようにソファで寝転がりながら妹が電話していた。

「帰宅の挨拶!ただいまという言葉を送らせて貰おう!」
「あーーもう……五月蝿いのが帰ってきた……ちょっと待っててよ……
 はいはい、おかえり。」

少しだけ変わった事が有るとすれば、こうして一度の挨拶で妹が返事をするようになった事。そして――

「悪かったわね。待たせて。で…それで………はぁ!?ちゃんと見たのあんた!!
 DVD版の方だよ!?それで何でそういう結論になるわけ!?信じらんない、これだから邪気眼女の感性は……
 もういい、いい加減あんたは厨二病卒業した方が良いよ。じゃあね」

こうして妹が本気で語り合える友人と憚る事無く電話出来るようになったと言う事だ。
これからも、彼女はかけがえの無い友人と時にぶつかり合いながらも上手くやっていくだろう。
これで桐乃の悩みは解決。だからこそ、私の『人生相談』もこれでお終いだ。
安心感と満足感、そして少しのセンチメンタリズムな気持ちを感じながら、私はその場を後にしようとした。


855: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01:44:04.88 ID:+geDAOgR0

「ねぇ」
「何かな?」

ドアノブに手をかけた所で呼び止められて私は振り向いた。
「人生相談……まだあるから」
事もなげにそんな事を言う。どうやらもはや運命を超え宿命にまでなってしまったのかもしれないな。
良いだろう。男の言葉に訂正はない。どんな相談だろうと私の無理でこじ開けるだけだ。

「それと……一応……敢えて言うんだけど……」
そんな私に桐乃は口ごもりながら目を合わせたった一言。照れくさそうに微笑み
「ありがとね、兄貴」
それから、ふいっとそっぽを向く。心なしか彼女の顔は赤く見えた。
私は自分の耳を多少疑いながらも、こう想った。




私の妹がこんなに可愛いわけが――否!可愛いわけがあるとっ!!


ED クオリア♪

                                   第3話 完

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最終更新:2011年03月08日 13:19
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