俺の妹が身長180cmなわけがない:第七話


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168 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18:31:57.84 ID:vV91Zi7Ao [1/5]
「お? おまえ、出掛けんの?」

季節は巡り、ある冬の日曜日のもう昼になろうかという時間。
いつもより遅めに起きた俺は、玄関で今まさに出掛けようとしている沙織を見つけた。

「おや、おはようございますお兄様。遅い起床でござるな」
「ほっとけ」

こてこてのオタクファッションに身を包んだ沙織の口調は、いつものお嬢様口調ではなくいまどき時代劇にもでてこないようなござる口調。
この時点で誰とどこに出掛けるかってのは大体想像がつく。桐乃や黒猫と、大方秋葉原にでも出掛けるんだろうぜ。

「気を付けてな」
「はい! ありがとうございますお兄様! では、行ってくるでござる!」
「あいよ」

沙織が元気よく玄関を飛び出して行くのを見送り、キッチンへと足を運ぶ。
温かいお茶でも飲もうかと、お湯を沸かし始める。

「……くそ寒いってのによくやるよ」

こんなくそ寒い日の朝っぱらから出掛けて行くなんて、俺にはちょっと真似できない。
あいつらのバイタリティはどこから湧いてくるんだろうな。
……いや、考えるまでもないか。あいつらは大好きなアニメやゲーム、それにプラモなんかのためならこれくらいなんでもないいんだろうな。


169 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18:33:25.79 ID:vV91Zi7Ao [2/5]
ところで、俺はずっと疑問に思っていたことがあるんだ。

「沙織のやつ、いつまであのファッション続けるんだろ」

オタクのコミュニティのリーダーとしてふさわしい恰好を――それがあいつがあのファッションを選んだ理由だった。
だけど、桐乃や黒猫と遊ぶ時なんかも沙織はずっとあのファッションなんだ。

「そろそろ、普段の恰好で会っても問題ないと思うんだけどな」

あの恰好……心を開いていないってわけじゃないけど、なんか壁を作っているみたいに思えて気になってたんだよね。
あいつのことだからそんなわけはないとわかっちゃいる。わかっちゃいるが頭で理解できても納得はできない――そんな感じだ。

ただ、そんな沙織が一度だけあいつらに素顔を見せた時があった。
セーラー服やら、『今日一日は私たちが妹』というシチュエーションまで用意して落ち込んでる俺を励まそうとしてくれた時だ。
あの時、沙織は「今日はこのコスプレをするにあたってちょっと勇気を出してみたんです」と言った。
この言葉を額面通りに受け取るなら、セーラー服を着るのに勇気を出したという意味なんだろうが、俺はそうじゃないと思っている。

「帰ってきたら聞いてみっか」

それに…………妹にへんてこな恰好で街をうろつかれるのはいろいろと困るってのもあるしな。




特に予定のない俺は結局14時くらいまでだらだらと過ごしていた。
テレビをザッピングしながらすでに読み終えた雑誌を何気なく眺める。
すると、テレビで流れたあるニュースが目に留まった。

「お、ほこ天復活したのか」

ちょっと前に事件があって以来、中止されていた秋葉原の歩行者天国。
今日がその復活の日だったらしく、テレビのレポーターが現地中継をしているところだった。
テレビの画面では奇抜な恰好したオタク連中がレポーターに質問されている。


170 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/28(金) 18:36:51.95 ID:vV91Zi7Ao [3/5]
「しかし……テレビ局側もわざとへんてこな連中狙ってレポートしてやがるな。さっきからおかしな連中しか映ってねえじゃねえか」

さっきからテレビに映るやつらは、一様に何かのコスプレをしていたりしているやつらばかりだった。
……理由はわからないが、少しイライラとしてくる。
なんだろうなこの感じ。友達がさらし者にされてるみたいな……レポーターやコメンテーターの苦笑いや見下したような目つきがそうさせるのか。

少し前までの俺ならきっとこのレポーターと同じように苦笑いを浮かべていたに違いない。
なんだこいつら。こんなかっこして馬鹿じゃねえの――ってな。

「チッ……」

舌打ちをし、テレビのチャンネルを変えようとした時、俺の目にとんでもないもんが飛び込んできた。

「ちょ!? あいつらなにやってんの!?」

テレビの画面にはレポーターのインタビューを受ける沙織達の姿が写し出されていた。
桐乃が意気揚々とほこ天復活の嬉しさを語っていて、沙織もそれに続く。
黒猫は一際でかい沙織の陰に隠れ表に出てこようとしないが、毒を吐くのだけは忘れない。
まあ……テレビ局から見たら恰好のインタビュー相手だったんだろうな。
こてこてのオタクファッションに身を包んだ馬鹿でかい少女A、秋葉原とは一見縁遠そうに見えるオシャレな恰好をした少女B、そして、ゴスロリファッションに猫耳までついてる少女C。

「あ、あいつら……」

思わず顔が引きつる。公共の電波でなんて恥をさらしてるんだ。
でも、テレビの画面で嬉しそうにはしゃぐあいつらを見て、「ま、いいか」と思ってしまう。
こんな風に考えられるようになったのは、きっとあいつらの影響に違いなかった。
引きつった顔が次第に笑顔へと変わっていく。

「ふっ……悪くねえ」

誰に憚ることもない。決して自慢できるような趣味や恰好じゃないが、それでも。
あいつらの友情は憚らなきゃいけないようなもんじゃない。「どうだ、羨ましいだろ」胸を張ってそう自慢できる。そう思ったよ。
そして、気付けば俺はいつのまにか録画ボタンを押していたんだ。

190 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22:08:55.59 ID:zsC6SoaTo [1/4]
「ただいまでござる!」

元気よく帰宅を告げる沙織の声が俺の部屋まで響いてきた。現在の時刻は門限の少し手前の6時。
ばたばたと階段を駆け上がる音がし、続いて隣の部屋の扉の音がした。
ふむ……あの声と足音から察するに、今日はいつも以上に楽しかったみたいだな。
沙織はがさがさと音を立てて、自室で何かしているようだったが、やがてその音が途切れた。
そして音が途切れてからしばらくすると、バン! と俺の部屋のドアが開いた。

「お兄様! お土産ですわ!」
「ひいいいいいいいいいいいい!?」

ドアが開くと同時に素早く身を翻し、桐乃に渡されたノートパソコンの画面を沙織の視界から隠す。

「あ……ごめんなさい、お兄様。なんか…………入ってはいけないタイミングだったみたいですわね」
「い、いやそうじゃない、おまえは勘違いをしている! あ、あくまでもちょっとびっくりしただけだ!」
「うふふ、ではそういうことにしておきますわ」

にこりと微笑んで、そそくさと退室しようとする沙織。

「5分後……いえ10分後くらいにまた来ますわ」
「だ、だから違うんだって! 誤解だ!」

そんなに時間かかんねえから! …………って何言わせんだ!
俺の言い訳もむなしく、無慈悲にもドアは閉じられた。
くそっ……あいつのノックを忘れる癖は間違いなくお袋からの遺伝だろうな。
……お袋は沙織と違って、忘れてるわけじゃなくわざとしてない疑惑もあるけども。
ぐったり項垂れながら、PCゲームのデータを保存し、ノートパソコンとシャットダウンする。
……そもそも桐乃がこんなものを押しつけてくるからいかんのだ。


191 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22:11:07.33 ID:zsC6SoaTo [2/4]
けっこう前の話になるが、桐乃や黒猫と一緒に沙織の部屋遊んでいる時、沙織が席を外した隙を見計らって桐乃がこんなことを言い出したのだ。

「はいこれ、来週までにフルコンプしておくこと」
「はあ!? てめえ! 妹がいる兄貴になにやらそうとしてんだ!?」
「え? なにって……妹もののエロゲだけど」

きょとんとした表情で首を傾げる桐乃。何言ってんのこいつ? と、言わんばかりの態度だ。

「お、おま……これが家族に見つかったらどうなるかわって言ってんのか?」

間違いなく、親父にぼこぼこにされた上勘当されちまうわ!

「あんたの事情なんて知らないっての。で、やるの? やらないの?」
「ちょっとくらいは考慮しろ! …………まあ、俺はパソコン持ってないし土台無理な話だな」

落ち着いて考えればそうなのだ。
我が家でパソコンを持っているのは沙織だけである。まさかこいつも妹のパソコンで妹もののエロゲをやれなんていうとんでもないことは言い出すまい。

「そういうわけで諦めてくれ。すまんな、俺もやってやりたいのはやまやまなんだが」

いやー、なんにしても助かったぜ。

「はい、これも一緒に貸したげるから」

そういうと桐乃は一台のノートパソコンを俺に手渡してくきた。

「なんでそんなに用意がいいんだよ! おまえ、俺の部屋に入ったことねえだろ!?」

なんで俺がパソコン持ってないことを見越してんの!?

「っふ……それはね、邪眼の力よ」

驚愕する俺に声をかける黒猫。
邪眼で何をどうしたのかは知らないが、どうやらこいつが情報源であるようだ。
なんなのおまえら、そんなに俺に妹もののエロゲをやらせたいの?


192 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/01/30(日) 22:14:02.73 ID:zsC6SoaTo [3/4]
「ほらほら、早く受け取らないと沙織が戻ってきちゃうけど?」
「いや、これは桐乃がもってきたものだと言えばわかってくれるだろ」

沙織は桐乃がこういうゲーム大好きなの知ってんじゃん。その脅迫は意味をなさないぞ?

「あなたがいきなり私たちの目の前でこれをプレイしようとした……というのはどうかしら」
「今すぐ俺の部屋に片付けてまいります! コ、コンプは来週まででいいんだな!?」




と、まあこんな具合に妹もののエロゲをやらされる羽目になってからというもの、桐乃は定期的に俺にエロゲを渡しその都度、

「来週までにコンプすること」

という無理難題を押しつけてくるのだった。くそっ……素人が一週間でコンプなんてできるわけねえだろ。よほど時間かけねえ限りはな。
そんなわけで、俺は健気にも桐乃の言いつけを守るべく、せっかくの休みに出掛けることもせずエロゲにいそしんでいたわけだ。
……それを沙織に見られちまったのは計算外だけどな。くそっ……超気まずいぜ。

197 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17:44:23.10 ID:+ArswgcOo [1/5]
なんと言い訳したところで余計に泥沼にはまることは目に見えている。こういう時は全てをなかったことにしてしまうのが一番いい。
自分の部屋を出て、沙織の部屋のドアをノックする。

「おーい、沙織」

すると、すぐにドアが開き沙織が顔を出した。その顔は少し赤い。

「も、もうよろしいのですか?」
「ぐっ…………」

思わず「よくねえよ!」と突っ込んでしまいそうになるがギリギリのところでこらえる。
ここは話題を変えることが最優先だ。

「あ、あのさ、俺に用事……あったんじゃねえの?」
「そうでした! さ、入ってください」
「おう」

沙織に招かれて部屋の中へと入る。
相変わらずの女の子っぽい部屋。所々に見えるガンプラが、こいつがガンオタだということを再確認させてくれる。

「はい、お兄様。これ、秋葉のお土産です」

そういうと沙織は、俺に一つのガンプラを手渡してきた。

「……でるた……ぷらす?」

沙織の影響で多少ガンダムに詳しくなったという自負があったのだが、このプラモに関しては全く見覚えがなかった。
だが、よく見てみると、色こそ違えどその外見は沙織が大好きなあの金色のモビルスーツにそっくりだ。
たしか……百式とか言ったっけ?

「さすがお兄様! その通りですわ。その子はあの百式の親であり妹みたいなものなんです!」
「……わけがわからん」


198 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17:46:26.50 ID:+ArswgcOo [2/5]
親はなんとなくわかるが、妹ってなんだ。そこは普通、兄弟機(という表現であってるかは知らない)とか、せめて子供とかじゃないの?
ガンダムのことはよく知らないけど、なんでわざわざ妹と指定する必要があるんだ?
そもそも、親であり妹でもあるってどんな状況だ。このプラモを俺だとすれば、沙織が親と妹を兼ねてるってことだろ? ぐぬぬ……なんというカオス。
まあ、沙織が言うからにはそれであってるんだろうけど。

「でも……なんで急にお土産を? 今日、おまえらが秋葉原に行ってたのは知ってるけどよ」
「えっ? なんで知ってるんですか? ……まさか、私のことが心配で後を――」
「つけてねえ。おまえら、秋葉原でテレビの取材受けてたろ。ばっちりお茶の間に流れてたぞ」

思わず録画しちまったなんて、恥ずかしくて絶対言えねえけど。
録画したDVDは俺のコレクションBOXに隠してあるからバレる心配はないだろう。
おまえ達らしい、なんとも微笑ましい光景だったな。パッと見じゃ、あの微笑ましさは理解できないだろうけどな。
奇妙な優越感を感じながら、俺はこう続けた。

「で、なんで急にお土産を?」
「…………………………」

すると沙織は急に黙り、うつむいてしまう。先ほどまで感じていた優越感は、一転して不安と焦燥へと変わる
あ、あれ? 俺、なにか変なこと言ったかな?

「さ、沙織?」
「…………」

沙織からの返事はない。

「す、すまん。俺、何か気に障ること言ったか?」
「…………最近、お兄様がずっときりりんさんのお願いを聞いているからです」
「……え?」

沙織が、絞り出すようにして発した言葉は俺には理解できなかった。
俺が? 桐乃のお願いを? なんのことだ? 
俺の表情を見て俺の考えていることを察したのか、沙織がご丁寧に解説を入れてくれる。

「だって……最近はずっときりりんさんから渡されたえっちなゲームばかりしているではありませんか」

くおおおおお! せっかく話題を変えたってのに! 
……どうやらこの話を避けて通ることは不可能なようだ。
腹をくくり、返事を返す。


199 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17:49:13.50 ID:+ArswgcOo [3/5]
「あのな……あれはお願いじゃねえ。脅迫ってんだ」

エロゲをプレイしているのは、あくまでも桐乃にいわれたからで、決して自分の意思じゃない。
言葉の端にそういうニュアンスを漂わせる。明言を避けたのは、なんとなく言ってはいけない気になったからで深い意味はない。
もうこの論旨で行くしかない。ってか実際そうだしな。決して、嬉々としてプレイしてたわけじゃねえぞ。

「……同じことです。お断りにならなかったのでしょう?」
「う…………そう……だけどよ」
「……本当の妹は、私なんですよ?」

そうか。ここまで言われてようやく沙織の言いたいことがやっとわかってきた。
こいつは俺が桐乃ばっかり構ってるみたいで面白くなかったんだな。
たしかに最近は、エロゲばっかりやってたせいか、沙織と会話することが少なかった気がする。
もっと自分に構ってほしい。でも恥ずかしくて自分からは言い出せない。
だから、お土産にプラモを買って帰って、一緒に作って、構ってもらおう――そう思ったんだ。多分これで間違いない。
なにせ、こいつは超が付くくらいのブラコンだからな。

「すまん。時間見つけて作ってみるよ。今度は塗装のやり方教えてくれよな」

ぽん、と沙織の頭に手を置きそのまま撫でてやる。こんなに大きくなっちまって、お兄ちゃんは嬉しいぞ、ちくしょう。

「ありがとうございますお兄様! 愛していますわ!」
「うお!?」

大変なことを口走ったかと思うとそのまま俺に抱き着いてくる沙織。
ちょ……飛びついてくるんじゃない! や、柔らかいだろうが! 何がとは言わねえけど!

が、結論から言えば俺のリヴァイアサンが覚醒するようなことはなかった。
相手が妹だったから――というわけではない。

「ぐおお…………お、重いい」

堪え切れず、そのままベッドへと倒れこむ。そのまま、まるで沙織に押し倒されたみたいな恰好になる。

「あのなあ……抱き着くのはせめて心の準備が終わってからにしてくれ」
「うふふ、ごめんなさいお兄様」

苦笑いを浮かべる俺とは対照的に満面の笑みを浮かべる沙織。
こいつは本当にブラコンだな。ここまでブラコンの妹は他に存在するまい。
だから、俺は今なら胸を張ってこう思うことができる。つくづく俺はシスコンなんだなってな。
先ほどまでの苦笑いから、次第に純粋な笑顔へと変わっていくのが自分でもわかる。
だが、次の瞬間、俺の表情は凍りつくことになる。


200 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/01(火) 17:49:44.59 ID:+ArswgcOo [4/5]
「沙織。つや消しが切れた。すまんが貸してく…………」

ドアは、用事を済ませたらすぐ出ていくつもりだったこともあり、開けっ放し。
俺に抱き着き倒れたはずみで、少し乱れた沙織の衣服。
何より、沙織にベッドの上に押し倒されたというこの状況。

「ち、違うんだ! こ、これには深いわけが!」

無駄だとわかってはいるが一応の説得を試みる。

「京介……今すぐ下に降りて来い。話がある」

殺意の波動を全身から迸らせ、親父はそう言い残し姿を消した。
なんで俺だけなんだよ!? はい終わった! 今、俺の人生終わったよ!? 

「お、お兄様……」

俺の上に乗った沙織が不安そうな声を出す。

「ふっ……俺にまかせろ」

だから、そんな泣きそうな顔をするんじゃない。
ばっちり誤解を解いてきてやるぜ。そんな意味をこめて、ぐっと自分の顔を親指で指さした。
ところで、おまえはいつまでそのままでいる気だ? そろそろズボンの中が苦しくなってきたんだけど?

206 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19:55:57.05 ID:DsGORQ7xo [1/5]
「あははははははははは!」
「ふふ………くくっ…………なんという………」

ぱんぱんと手をならし爆笑する桐乃と、腹を抱えて悶絶する黒猫。
俺の左頬に湿布が張られている理由を説明したことに対するリアクションがこれである。

ちなみに今日は俺の部屋で集まっている。
普段は沙織の部屋に集まるのだが、夜遅くまで作業をしていたせいで散らかっているらしく、俺の部屋を使うことになったのだ。

「おまえら、笑いすぎだろ」

こっちゃあ大変だったんだぞ。荒ぶる親父を鎮めるのにどれだけの労力が必要だったことか。

「はぁはぁ……ごめんなさい。でも、いくらなんでも間抜けすぎないかしら」
「そうそう。笑うなってほうが無理だって……ぷぷっ」

くっ……確かにそうだけどよ。

「ちっ……ほらよ、これ。フルコンプしといたぞ」

話題を変えるべく、桐乃にある物を手渡す。いつまでも笑われてちゃたまらねえからな。
俺が手渡したのは、以前桐乃に渡されたエロゲである。1週間で――とはいかなかったが、2週間ほどかけてようやくクリアしたのだ。

「随分遅かったじゃん。なんで1週間でクリアできないわけ? あ、言い忘れてたけど、あたしのノートパソコンくんかくんかしてないでしょうね」
「しねえよ! どんな変態だ! あのなぁ、俺だって暇じゃねえんだよ。そればっかりやってるわけにもいかないの」
「はあ? 1週間でも妥協してあげてる方なのに、その上言い訳まですんの?」
「妥協だろうがなんだろうが、俺にも都合ってもんがあるんだよ」
「都合? これより優先すべき都合なんてあんの?」

なんという傲岸不遜っぷり。なんでナチュラルに自分の頼みごとが最優先してもらえると思ってんだよ。
まあ、いい。俺の“力作”を見ればその考えも改まろうというもの。


207 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19:56:38.00 ID:DsGORQ7xo [2/5]
「ふっ……実はな、最近はずっとあれ作ってたんだよ」

そう言って、俺の机の上に飾られたガンプラを指さす。そこには金色と灰色のガンプラが仲良く並んでいた。
ちなみに灰色の方が、俺が作ったガンプラだ。
なぜ金色の方も飾られているのかというと、沙織がこれも一緒に置いておいて下さいと言い出し、そのまま置いて行ったからだ。
なんでそんなこと言い出したかは知らねーけどさ。
それはさておき、

「見よ! この出来栄え!」
「へえ、思ったよりよくできてんじゃん」
「そうね。いつぞやのセーラー服着たガンプラとは見違えるようだわ」
「はっはっは! 当たり前でござる。今回は拙者が講師を務めましたからな」

そう。実はあれから5日ほどかけて沙織と一緒に作り上げたのだ。
今回は“合わせ目消し”と呼ばれる基本工作や、簡単にではあるが塗装も行っている。
そして、最後に“デカール”と呼ばれるシールのようなものを貼っつけて完成だ。
この“デカール”という代物、実に便利である。これを適当な場所に貼っただけですごく“それっぽい”雰囲気がでる。
沙織が言うにはなんでも「情報量」がどうのこうのらしいが、俺には難しいことはよくわからない。
手間がかかっているからか、単に組み上げただけのものとは愛着の湧き方が段違いだ。
褒められるとニヤニヤが止まらない。沙織がプラモに夢中になるのもちょっとわかるよ。

「しかし……実妹と義妹のお願いに挟まれて兄さんも大変ね」
「え?」

実は、『みんなのお兄ちゃん高坂京介とその妹たちご一行様パーティー』以来、こいつには「兄さん」と呼ばれ続けている。だから、俺が引っかかったのはそこではない。
ぎ、義妹? それが誰のことを指すのかはわかる。だけど……だけど、なぜこいつがそれを知っている!?

「なぜおまえがそれを知っている!?」
「あ、それ、あたしが話したから」

しれっと白状する桐乃。


208 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19:58:37.87 ID:DsGORQ7xo [3/5]
「ちょ、なんで話しちゃうの!?」
「え? 駄目だったの?」
「いや、駄目というか……話してもおまえにメリットなんかねえだろ」
「は? それ、あんたが決めることじゃなくない?」

……そうっすね。
でも、いつ話したんだ? 沙織は俺が口をすべらせるまで知らなかったところを見ると、あの後すぐにってわけじゃなさそうだ。
沙織にだけ話してなかったってんなら話は別だが。

「兄さん? この子だけを特別扱いするのはよくないわ。こういう手合いは優しくすればつけあがるだけよ」

俺がしばし黙考していると黒猫が声をかけてきた。
相変わらず桐乃に対しては容赦なく毒を吐くな、おまえは。

「いや、特別扱いしてるつもりは……」
「してるじゃない。この際だから言わせてもらうけど……あなたはシスコンだから実妹の沙織はしかたないにしても、この子に対してはちょっと度が過ぎてるわ。
……それもこの子が義妹だから? 私も義妹になれば特別扱いしてもらえるのかしら?」

語気を強め、俺を詰問する黒猫。赤く、禍々しく燃える瞳は真っすぐに俺を見つめている。
な、なんでいきなり不機嫌っぽくなってるんだ?

「シスコンなのは認めるが、それとこれとは関係ないだろ。……それともなに? まさか、おまえも妹になりたいとか言い出すんじゃねえだろうな?」
「っ! …………」

びくっと体を震わせ、目を丸くしたまま固まる黒猫。
あ、あれ? 適当なこと言ってはぐらかしてしまおうと思っただけだったのに……この反応……ま、まさか…………。

「お、お兄様も黒猫氏もその辺にしておくでござる。その話はこれまで!」
「そ、そうだって! せっかく久しぶりに4人集まったんだし?」

慌ててフォローに入る沙織。驚いたことに、今日は桐乃まで一緒になってフォローに入っている。
いつもの桐乃なら黒猫に茶々いれるか、俺を蹴り飛ばすかのどっちかだと思ったんだが、一体どういう風の吹き回しだ?

ともあれ、この場で真実を追求するなんて真似はチキンな俺にはできそうもない。
ここは沙織たちの言う通りにこのまま打ち切るのが正解だろう。
怒らせたまま逃げるみたいで、黒猫にはちょっと申し訳ないけどな。

結局、それからはいつものようにアニメ見たりゲームやったりして時間は過ぎて行った。

「そろそろお暇するわ」
「ん? ……もうそんな時間か」

視線を時計へと移す。時計の針は5時を告げていた。

「げ!? もうすぐメルル始まっちゃうじゃん!」

桐乃が慌てたように帰り仕度を始める。
今日は5時半から、桐乃が愛してやまない『星くず☆うぃっちメルル』と、黒猫が愛してやまない『maschera~堕天した獣の慟哭~』が放送されるため、少し早いお開きである。


209 名前: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga] 投稿日:2011/02/02(水) 19:59:29.43 ID:DsGORQ7xo [4/5]
「じゃあまたね!」
「はいでござる! また会いましょうぞ!」

玄関まで見送ると、桐乃は勢いよく走りだす。陸上やってるだけあって、桐乃の姿はあっという間に小さくなっていく。

「おまえは焦んなくて大丈夫なのか?」

俺は立ち止まって桐乃の後ろ姿を見つめていた黒猫に声をかけた。

「大丈夫よ。あの子ほど遠くないから」
「そっか」

桐乃の姿が見えなくなるのを確認すると、黒猫はくるりとこちらに向き直った。

「どうした? 忘れもんか?」

しかし、黒猫からの返事はなく、押し黙ったまま俺を睨みつけている。
う……やっぱり、まだ怒ってんのかなこいつ。
しかし、時折視線をそらしたりする仕草が、単に怒っているだけではないことを窺わせた。
さて、どうしたもんかな。と、思案していると、黒猫が沙織には聞こえないような大きさで俺に囁いた。

「………………優柔不断なのも結構だけど、いつまでも気づかないふりをしていると取り返しのつかないことになるわよ。まあ……あなたのことだから、ふりではないのかもしれないけれど」
「えっ?」

俺の返事を聞くこともなく、黒猫はさっと踵を返し歩き出した。

「お兄様? どうされました?」
「あ、いや……なんでもない」

なんだ? 俺が何に気付いてないってんだ?
黒猫の言うことは、いつだって回りくどく分かりにくいが、今回はとりわけ意味不明だった。

「何が言いたかったんだ? あいつ。……ま、いいか」

この時の俺は、いつものように電波を受信しちゃっただけかもな……なんて思っていたんだ。
あいつが意味もなくそんなこと言うはずないって、ちょっと考えればわかりそうなもんなのにな。



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