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のつづき
593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:00:35.99 ID:JRhAmYhD0
年末、冬休みでとくにやることもない俺は、自身が一番落ち着ける場所、つまり田村家に連日のようにお邪魔していた。
クリスマスにあんなイベントが発生した今でもそれは変わらない。
翌日こそ爺ちゃん達の尋問をかわすのが大変だったが、それも無事に乗り越え、今は麻奈実の部屋でごろごろしているわけだ。
麻奈実「ねぇ、きょうちゃん。明日って暇かなぁ?」
ふいに、麻奈実がそう切り出した。
俺は半分眠ってしまっていた脳を起こすべく、麻奈実が入れてくれた茶をすする。
京介「ん~?唐突にどうした?」
麻奈実「あ、あのね。お買いものに付き合って欲しいんだけど」
京介「なんだ、そんなことか。わかった、それくらいならいくらでも付き合ってやるよ」
こうして連日お邪魔させてもらってうまい茶も出してもらってるわけだし、それくらいはしないとバチが当たるってもんだ。
でも、俺が付き合わなきゃならない理由はなんだろうな。
荷物持ちだろうか?でも荷物持ちをさせる気なら、こいつは初めからそう頼むだろう。
麻奈実「えへへ、ありがときょうちゃん」
そう言って麻奈実はふにゃっとした笑顔を浮かべている。
こいつの顔を見ているとさっきの小さな疑問なんてどうでもよくなってしまう。
明日は荷物持ちだろうがなんだろうが付き合うよ。
594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:05:05.11 ID:JRhAmYhD0
京介「ただいま」
桐乃「あ、今帰ってきたみたい。じゃあまた明日ね」
俺が田村家から帰宅し、玄関で靴を脱いでいると、リビングから桐乃の声が聞こえた。
来客者のものらしき靴は見えないし、また誰かと電話でもしているんだろう。
そんなことを考えていると、足音がこちらに近づいてきてリビングの扉が開かれた。
桐乃「あんた、明日暇でしょ?ちょっと買い物に付き合いなさいよ」
なんでお前の中では既に俺の予定が決まってるんだよ。
申し訳なさそうに聞いてきた麻奈実とはえらい違いである。
京介「あいにく暇じゃねえよ。俺だって用事があるんだ」
桐乃「はぁ?なにそれ?……まさか地味子と出掛けんの?」
ぐ…なかなか鋭いじゃないか。あと、地味子って言うな。
こいつはなぜか麻奈実のこと嫌いだし、できれば内緒にしておきたかったんだが仕方ない。
しかし、なんでそんなに麻奈実を敵視するんだ、お前らに接点なんてろくになかったろ。
京介「そうだけど、悪いかよ。それに俺だってお前と買い物に行くよりは麻奈実と行った方が楽だからな」
ふう、言ってやったぞ。たまには俺もはっきり言ってやらんとな。
それに桐乃には悪いがあっちが先約だからな。今回はお前のわがままを聞いてやれないよ。
桐乃「そうなんだ……あたしより地味子の方がいいんだ!?イブだって結局帰ってこなかったし!もう知らない!勝手にすれば!?」
そう言い残して桐乃は、階段をダンダン!と音を立てて駆け上っていく。
何をそんなにキレてるんだ?って言うかその言い草だとまるで俺が浮気したみたいじゃないか。
595 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:09:13.88 ID:JRhAmYhD0
麻奈実「おはよう~、きょうちゃん」
いつもの間延びした挨拶。
これを聞くだけで何だか今日はいい一日になりそうだと思えるから不思議だ。
京介「おはよう。で、買い物ってどこに行くんだ?」
麻奈実「うん、今日はでぱーとに行こうと思ってるの」
デパートな。あいかわらず横文字に弱いおばあちゃんである。
しかし、そういうことか。この時期だとセールとかやってるだろうし、荷物が多くなることは簡単に想像がつく。
俺を誘った理由も案外荷物持ちで正解かもな。
京介「じゃあ、行くか」
麻奈実「うんっ」
596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:14:39.14 ID:JRhAmYhD0
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桐乃「…」
黒猫「動き出したわね。私たちも行きましょう」
「兄貴が地味子と出掛けるから来れないって」
そう連絡を受けたのが昨日の23時。
電話を切ってすぐに予定を聞いたはずだから、私に連絡をよこす気になるまでおよそ五時間もかかったことになるわね。どれだけ兄のことが好きなのかしら。
桐乃「ちょっと、なにもたもたしてんの。尾行しようって言ったのあんたなんだから、しっかりしなさいよね」
連絡を受けた後、私は尾行を提案した。
別に地味子との仲が気になるとかではなくって、単純に面白そうだったからよ?他意はないわ。
黒猫「安心なさい、どこへ隠れようと私の邪眼から逃れることはできないわ」
桐乃「はいはい、邪気眼の間違いでしょ」
くっ…この子は……まぁいいわ。確かに今はそれどころではないのだから。
べたに電柱の陰から頭だけ出して…なんてことはせずにきっちりと一定の距離を保ったまま歩いていく。堂々としていた方が案外ばれないものよ。
さすがに二人が曲がり角を曲がるときなんかは隠れたりするけれど。
598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:19:17.94 ID:JRhAmYhD0
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普段ならバスを使うんだが、今日は天気がよく絶好の散歩日和だったので歩いてデパートまで向かった。
普段歩かないところをのんびり歩いてみるというのは色々な発見があって面白い。
こんな店があったのかとか、こういう店ってなんでつぶれないんだろうとか、実に下らない話をしながらデパートへ向かう。
そんな下らない話に麻奈実は「それはお店の人も頑張ってるからだよ~」と相変わらず曖昧で意味不明の返事をしてくれる。
俺にはこのくらい適当な返事がちょうどいいよ。
京介「結構遠いと思ったけど、話しながらだとすぐだったな」
麻奈実「うん。歩いてると思ったより寒くなかったね~」
デパートに到着すると俺たちは衣料品を見て回ることにした。
何でもそこに麻奈実のお目当ての品があるらしい。
京介「やっぱり年末は混雑してんな」
俺が一人ぼやいていると麻奈実からお呼びがかかる。
麻奈実「きょうちゃ~ん、ちょっとこっちきて」
京介「おう、どうした?」
麻奈実「これとこれなら、どっちがきょうちゃんに似合うかな?」
600 名前:>>597ベルフェゴールの初出が5巻だからここでは一応まだ地味子なんだごめんね[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:24:29.09 ID:JRhAmYhD0
そう言うと麻奈実は、二種類のマフラーを差し出してきた。
が、なんでそんなことを俺にきくのかわからない。
そもそも俺はファッションというものに興味はなく、最低限ダサくない恰好で十分だと思っている。
これは決して差し出された2種類のマフラーの違いがわからなかった言い訳じゃないよ?
京介「わからん。っていうか何で俺に似合う必要があるんだよ」
麻奈実「え~、それはいいからちょっと巻いてみて?」
麻奈実は制止する俺の言葉も聞かず、俺の首に手を回し、マフラーを巻いてくれた。
お前はどこの新婚さんだ。
そう頭の中で突っ込んでしまう……いかん、変に意識したせいか顔が赤くなってしまう。
くそ、今日は家の中でもないってのに妙に強気じゃないか。
麻奈実「う~ん、どっちがいいかな~」
俺が必死に羞恥に耐えているのをよそに、麻奈実はにこにことしながら悩んでいた。
601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:29:21.98 ID:JRhAmYhD0
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桐乃「あんた……大丈夫?」
黒猫「こ…これ…くらいなんでも…ないわ」
ようやくの思いでデパートの到着する。
まったく、なんでこの距離を歩くのかしら。
私は常に瘴気を発生させている分、ただでさえ人より純粋な体力面では劣ってしまうというのに。
桐乃「ほら、見失う前に行くよ」
黒猫「わ、わかってるわ」
わかってるから少し休ませて…。
二人は衣料品店を回っているようだった。
デパート内は年末のセールのせいもあってか、人はかなり多い。
これなら二人にばれることなくかなり近づくことができそうね。
そんなことを考えていると、魔王が生贄たる子羊の首に手をかけ、マフラーを巻く。
黒猫「く…あれは……さすがに」
こんな公共の場で見せつけるようにして戯れる二人。
いくら幼馴染とはいえ、やりすぎではないかしら?
この子の情報によるとイブは帰ってこなかったそうだし、二人はもうできてるのではなくて?
602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:33:25.17 ID:JRhAmYhD0
そう考えると胸がちくり、と痛んだ。…この子も同じような思いをしているのかしら。
しかし、その思いは隣を見てすぐさま撤回されることになる。
桐乃「ぐぐ……ぐぎぎぎ……はぁはぁ」
でたわね大魔王。
黒猫「あ、あなた、少し落ち着きなさい。今とんでもない顔してるわよ」
桐乃「う、うるさい!これが落ち着いてなんかいられるかっての!!」
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京介「なんかあっちが騒がしいな」
麻奈実「冬休みで子供も多いから、そのせいじゃないかなぁ」
子供にしたって騒ぎすぎだろ。
まったく、公共の場では静かにするもんだ。親の面が見てみたいぜ。
604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:38:19.50 ID:JRhAmYhD0
京介「しかし、それにしてもどっかで聞いた声だったような……」
そんなことを考えていると、あるものが目に留まる。
どこかで見たことのある茶髪と黒髪が棚の向こうに見えていた。
しかも、黒髪の方の頭にはご丁寧に猫耳のようなものまで見えている。
京介「俺の見間違い…じゃねえよな?」
あいつら…かなりおまぬけな状態だけど気づいてないのか?
俺は事実を確かめるべく行動に移す。
京介「麻奈実、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
わざと少し大きめの声で麻奈実に伝える。
麻奈実「うん。じゃあ私はここで待ってるね」
俺はトイレの方へ歩いていき、大きく迂回してあいつらの背後にまわる。
横目で確認したところあいつらはどうやら動く気がないらしい。
麻奈実を見張っていれば俺が戻ってくると踏んだのだろう。
京介「おう、お前ら。こんなところで奇遇だな?」
声をかけた瞬間、二人ともビクリと体をこわばらせ、ゆっくりとこっちを振り返る。
その動きは見事なシンクロ挙動を示していた。
こいつら、本当に相性いいな。
京介「で、何してるんだ?こんなところで」
605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:43:37.58 ID:JRhAmYhD0
少し嫌味っぽく言い過ぎただろうか。
黒猫は目を見開いて視線を右へ左へとさまよわせている。
まるで、悪いことをしているのが親にばれてしまった子供のようだった。
黒猫「あ……その……これは違うの…いえ…その……ごめんなさい」
一方、桐乃は最初こそ黒猫と同じ仕草をしたものの、キッと俺を睨みつけたかと思うと怒りあらわにする。
桐乃「な、なによ!あたしたちがどこで何しようと勝手でしょ!?」
いやいや、むしろ怒るのはこっちだろ、何でお前がキレるんだ。
そもそも俺はまだ文句なんて言ってねえだろ。
確かにちょっと嫌味っぽい言い方だったけどさぁ。
騒ぎを聞きつけて麻奈実がやってくる。
こいつらで頭が見えたのだから、俺なら麻奈実の位置からでも顔が確認できたのだろう。
麻奈実「きょうちゃん?どうかしたの?」
京介「いやぁ、なんか桐乃が友達と俺達の後をつけてきてたみたいでさ」
桐乃「つ、つけてなんかない!」
嘘がバレバレすぎるだろ。
正直、このときの俺は尾行されたこともあってかちょっと不機嫌になってしまっていた。
だってそうだろ?いくら兄妹とはいえプライバシーってもんがあるし、いや兄妹だからこそ、その辺はしっかりしておきたい。
614 名前:さるった…もっと投下間隔あけないとだめか[] 投稿日:2010/11/30(火) 21:57:51.69 ID:JRhAmYhD0
麻奈実「あ、桐乃ちゃん。久しぶり~。覚えてる?田村麻奈実です」
お、お前こんなときでも空気が読めないのか?
桐乃、黒猫「「……」」
だんまりを続ける桐乃と黒猫。
京介「はぁ…つけてないなら、何しに来てたんだよ。ここにはお前が買うようなお洒落なもんはないだろうが」
桐乃「う…そ、それは」
桐乃がなかなか答えられず言いよどんでいると、黒猫が意を決したように口を開く。
黒猫「……この子は、あなたが田村さんにうつつをぬかしているから拗ねてしまったのよ」
それを聞いて俺はわが耳を疑った。
桐乃が?誰が誰にうつつをぬかしてたから拗ねたって?
もう尾行されたとかプライバシーとかどうでもいい。
俺は黒猫の発言の真意を把握するべく頭を回転させる。
桐乃「ちっ、違う!それはあんたでしょ!うちの兄貴が来ないって知って露骨に落ち込んでたじゃん!」
615 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 22:05:09.97 ID:JRhAmYhD0
そして再びわが耳を疑う。俺はまだおじいちゃんになったつもりはないんだがな。
黒猫が?誰が来ないから落ち込んでたって?
京介「ちょ、ちょっと落ち着けお前ら!?大声で騒ぐんじゃない!」
なにこの修羅場っぽい雰囲気!?俺が一体何をしたっていうんだ!?
あ、あれはお隣の奥さん!やめて!そんな「いいネタを見つけたわ」みたいな顔して微笑まないで!!
京介「と、とりあえず場所を移そう。な?ここじゃ目立っちまう」
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京介「で、一体どういうことなんだ?」
黒猫「言葉の通りよ。この子は、田村さんにお兄さんが取られてしまうと思って嫉妬に狂っているのよ」
再びありえないことを告げる黒猫。
桐乃「ちょ、ちょっとあんた!まだそんなこと!」
黒猫「黙りなさい、いい加減素直になったらどう?このままでは手遅れになるわよ」
桐乃「ぐ……」
618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 22:10:37.03 ID:JRhAmYhD0
それからぽつりぽつりと心情を吐露していく桐乃。
俺と麻奈実と黒猫は黙ってそれを聞くしかなかった。
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桐乃「イブの夜だって、どうせ独り身なあんたと一緒にゲームやってあげようと思って待ってたのに…!」
京介「桐乃……」
そこはあくまで「やってあげる」なんだな。
あらかた言い終えたのか桐乃はうつむいてしまう。
小刻みに肩がふるえていて、ひょっとしたら泣くのを我慢しているのかもしれない。
京介「お、おい。泣くなって。……俺はお前の兄貴でいることはやめないからさ」
桐乃「……ほんとに?」
顔をあげた桐乃の目は赤く充血していて、うっすらと涙がにじんでいた。
京介「ああ。お前も前に言ってたろ?好きなものは好きだ。それをやめてしまったら自分が自分でなくなるって。
だから好きでいることはやめないってさ」
桐乃「…うん」
619 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/30(火) 22:14:10.43 ID:JRhAmYhD0
京介「だから俺はお前の兄貴でいることをやめない。まさか文句はないよな?」
桐乃「うん!」
そう言ってまぶしい笑顔をむけてくる。やっぱりお前は笑った方がかわいいよ。
黒猫「盛り上がってるところ悪いけれど、私と田村さんが置いてきぼりよ。なんとかなさい」
なんとかって言われてもどうすればいいんだよ。
桐乃の気持ちはお前が代弁してくれたからわかったけど、お前の気持ちはわかんねえぞ?
桐乃に聞こうにもその桐乃は安心したせいか、俺の服をぎゅっとつかんだまま、また泣きだしちゃったし。
麻奈実はというと、
麻奈実「うぅ~よかったね。桐乃ちゃん」
なんて、涙を流して感動している。うん、こいつはほっとこう。
残る問題は黒猫か。
桐乃は俺にちゃんと兄貴でいて欲しかった。じゃあこいつは?
いくら考えても答えは出そうにない。
京介「俺は今、非常に切迫した状況にあるから単刀直入にきくが、お前の望みはなんだ?」
黒猫「ふっ、私の望みもその子と同じよ」
京介「それってお前も兄貴が欲しかったってことか?それとも…」
黒猫「それはあなたがこれから考えなさい。私はその子と違って気が長いのよ」
おわり
最終更新:2010年12月01日 02:59