それから10分後。
「ったく!、あんたはあんな感動する話を聞きながらよく寝れたわね!!。可哀そう 泣ける 感動 この三つが揃ってたじゃない!!ちゃんと聞いときなさいよ!!」
「だ、だから、最初だけ聞いてたら充分だって言ってんだろ?」
今はあのとび蹴り事件後。
キョウスケおにいちゃんは桐乃に説教をくらっていた。
「第一にだな、リア」
リアが「可哀そうって……」なんて呟いていると、キョウスケおにいちゃんがリアに急に話を振ってきた。
頭がついていかず間の抜けた返事しか出来なかった。
「お前ってそんな性格だったっけ?」
キョウスケおにいちゃんは簡潔に聞いてきた。
性格?、変わってないよリアは。
リアが疑問符を浮かべていると、キョウスケおにいちゃんは後ろの桐乃を押さえつけながら短く溜息をついた。
「相手を気にしすぎだ。走るの楽しいか?、楽しめてんのか?」
キョウスケおにいちゃんは「あぁ、こういうの性に合わねぇ!」なんて言うと頭をガシガシと手で掻いた
急に拳を私に向けてくる。
コツン
リアの頭に小さな衝撃が響く
「とにかく! 辛気臭ぇ顔してんじゃねぇよ。そんなにそいつの事を気にするな、楽しめ。以上」
そう簡単に言うと、キョウスケおにいちゃんは本格的に桐乃の攻撃から身を守り始めた
「お前なぁ!、鳩尾とか急所を必要以上に狙うんじゃねぇよ!!」と言いながら。
楽しむ?、楽しんでるよ。走る事もちゃんと……
「楽しんでる?、本当かしら」
ビクッと肩を揺らして振り向くと、そこには前に居たはずの黒猫ちゃんがいた
まるで自分の心を読まれたみたいで気持ち悪い。
「今一人で走ったら貴方、きっととてもつまらない顔で走ってるわよ。貴方にとって何が輝いていたのか、何が楽しかったのか、ちゃんと考えてみる事ね。……きっとそれが見つかったら世界の全てが輝いて見えると思うわ」
そう言った黒猫ちゃんは優しく笑うとリアの方をポンと叩いて行った
「ほら、貴方もさっさと行くわよ」
桐乃の襟を掴んでまるで猫の様に持つと無理矢理キョウスケおにいちゃんから引き剥がしていく。桐乃はムガーと暴れていったん脱出するも今度は沙織さんも手伝って引きずられていく。
「お邪魔したわね、私達はこれで退散するわ」
「あぁ、是非ともそうしてくれ」
赤くなった頬を擦りながら反対の手で黒猫ちゃん達に向かってヒラヒラと手を振るキョウスケおにいちゃん。
「京ちゃんあまりリアちゃんを苛めちゃ、メだよ?」
「次こんな事があったら蹴りだけではすみませんから、覚悟していてくださいね」
「あぁ、分かったから不法侵入者なら不法侵入者らしくぱっぱと帰れ」
皆はまだ何か言いたそうだったが、黒猫ちゃんが目をふせて「行きましょ」と言うと皆部屋から出て行った。
まぁ桐乃は相変わらず暴れていたが。
「さて、うるさい奴らも帰ったことだし、寝るか。お前も寝たら?、昼まで体力温存しとかないと」
そう言って畳の上にゴロンと寝転がるキョウスケおにいちゃん。布団を出す事も出来たのにやらなかったのは面倒くさかったからだろう。
リアは何もする気にならず、黒猫ちゃんが言っていた言葉の事を考えていた。
世界が輝いてみえる? どんな風に?
最近走った時に見えるのは自分が進むべきレーンと抜かす相手だけだ。
昔は大好きだった競走も今は自分から競走したいとは思わない。練習は自分から参加したいと思えるのにどうしても本番だけは敬遠してしまうのだ。
したとしても、世界が暗く感じて、狭く感じた。土を蹴る足も重く感じて知らず知らずの内に自分から遠ざけていた。
なんで?
なんて考えた事も無ければ、そんな機会も無い筈だった。
でも今、リアは自分で考えている。
何で競走なんてものが存在しているんだ。走るだけなら皆で仲良く走ったら良いじゃないか。
「―――――い」
なんで優劣をつける必要があるんだ。必要の無いことをなんで皆はしたがるんだ。
「――――おい」
そんなんで楽しいのか、嬉しいのか。だとしたらなんでそんな事で喜べるんだ。
リアが自分を棚にあげて他人の悪口を思考の中で言っていると、なにか黒い物がこちらに向かって飛んできた。
気付くことが出来ずにリアの顔面に当たるとそれは重力に従って膝の上に落ちてくる
座布団だった
その事にリアが気付いてすぐにキョウスケおにいちゃんが声をあげる
「何回も読んでんだろうが、返事ぐらいしろ」
「ご、ごめん」
咄嗟に謝罪を返すとキョウスケおにいちゃんは今日何度目か分からない溜息を隠す事なくついた
「もういいから寝ろっつーの。それかどっかではしゃいで来い」
「畳は嫌」
謝っていてなんだがちょっとムカついたので思ってもいないことを口にする。
あ~あ、これだからガキは。とでも言いた気に肩を大仰に竦めているがキョウスケおにいちゃんはノソノソと立ち上がると、布団を出しに行く。
最早性格とかじゃなくて病気なのではないだろうか?、お人好し病みたいなかんじで。
「あ、布団は一組でいいからね!、キョウスケおにいちゃんと一緒に寝るから」
「あ~、はいはい」
頭をボリボリと掻いて『二組』の布団を敷いていくキョウスケおにいちゃん。
それでも突き放したりするわけではない。
寝るときには面白い程真ん中に寄ったキョウスケおにいちゃんがいた。
「にゅふふ」
思わず漏れる笑い声を手で抑えると、リアは布団に潜り込んでキョウスケおにいちゃんの服をちょっとだけつまんだ。
お昼まであと少し、だからこのままで、ちょっとだけ。うん、ちょっとだけ。
リアはキョウスケおにいちゃんの肩に頬を擦りつけ、落ち着く匂いを目一杯吸い込むと眠気に身を任せて夢の世界に旅立ったのだった。
翌日の朝
まぁはっきり言ってキョウスケおにいちゃんが桐乃達にシバかれたのは言うまでもあるまい。
「このバカ兄貴がぁあああああ!!!なんでリアと寝てんじゃこらぁぁああああ!!!!」
思い返すと騒々しくてたまらないな。そしてあんな攻撃を受けてキョウスケおにいちゃんが無傷なのはどうしてなんだろうか。
今隣を走っているキョウスケおにいちゃんは掠り傷一つ無く何時も通り綺麗な肌だ。
滴る汗がまるで宝石のよう……綺麗……
っじゃない!!
いらない事を考えて少し運動とは違った意味で顔が火照ってしまい、リアはキョウスケおにいちゃんに顔を見られない様に真横から斜め前に移動した。
急に離されたのが悔しいのかそれに喰らい付いてくるかのようにキョウスケおにいちゃんもスピードを上げる。
そしてリアも火照った顔を見られたくなくてスピードを上げて離す
前にもこんな事があったような気がするがそれは気にしない、気にしないったら気にしない。
今はもう大体の人が気付いていると思うが、お昼の練習中だ。
リアとキョウスケおにいちゃんが昼寝から覚めた後は色々あったが、その事はまぁいいだろう。
何時も通りキョウスケおにいちゃんが殴られただけのことだ。
「ってかさぁ、ちょっと気になってたんだけど今回最初に日本に来た時ってどうやってこっちまで来たんだ?」
キョウスケおにいちゃんは隣に並ぶ事を諦めたのか、斜め後ろで一定のリズムで走りながらそんな事を聞いてくる
それはまぁ簡単だ。
だってリアってば意外とお金持ってるからね。貯金の口座見たら確か○○○○○○○ぐらいあったから日本くらい有名な観光地でも結構簡単に来れたりする。
そう思った事を口にするとキョウスケおにいちゃんの顔に滴っていた汗の量が少しだけ増えた様な気がした
「は、ははは、そうなんだぁ」(ちぃい、このブルジョワジーがぁ!!)
「リアの仕事は走る事だからねっ!」
良い仕事でしょっ!、と言って後ろを振り返り笑いかけると、日差しが眩しかったのかキョウスケおにいちゃんは顔を少し顰めるが、すぐに笑顔を作って笑い返してくる
「あぁ、そうだな。お前の天性の仕事に違いない」
「なに甘っちょろい事言ってんの?、バッカじゃないのかなぁ?」
キョウスケおにいちゃんに「リアもそう思う!」と言い返そうとして口を開く。
だがその言葉を言う前に言葉を被せられ言い返すことは出来なかった。
………?
それは後ろに見えたと思った時にはもうどこにも居なく、リアの目には顔と砂埃しか写らなかった。
いくらリアが練習中で、本気を出していなくても、疲れていてもそれは明らかにリアよりも早かった
意識が追いつくと空気を撫でるように目を動かしてその姿を確認しようと辺りを見回す
だがそこには誰も居なく、何も無い、だだっ広い空間が広がっているだけだった。
ぽん………。
「こっちだよ、リアちゃん」
「っっ!!!」
急に肩を叩かれた、ゾワッと嫌な感覚が体中を這いずり回る
目を見開き、冷や汗を滴らせながら振り返ると、そこには空虚な赤色が広がっていた。
どこまでも冷たく、広く、浅く、限りない虚無。
それが瞳だと知るのにどれくらい掛かっただろうか。
距離、鼻が触れ合う程近い。
リアが覗き込んでいたのは瞳だったのだ。
「おっひさぁ!」
間近で思い切り本気の大声を放つ相手。
耳鳴りが鳴り止むまで後何分?、この心臓の鼓動が鳴り止むまであと何分?
「ひ、久しぶり」
震える声で言い返す、未だに鳴り止まない耳鳴りが辛い。
助けを求める様にキョウスケおにいちゃんを見るが、キョウスケおにいちゃんはまるで現状を分かっていないらしく、行き成り前に現れた女の子に疑問の視線を投げかけていた。
後ろを向いたリアにペタリとくっついてくる。そして耳元で息を吹きかけるように言葉を紡ぎ出す
「ま~だこんなオママゴトをしてたんだ、無駄だよ?、分かってるでしょ?、………私には勝てないって。分かってるでしょ?、……貴方がどうして私に勝てな……」
「はいストップ、お前は何なんだ?、あれか、もしかしてあれか、もしかしてお前がリアに勝って只今世界一の小学生なのか?」
リアの肩から見える頭をキョウスケおにいちゃんはガシッと掴むとリアから引き剥がす
心なしかべリッという効果音が聞こえた気がした。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/19(金) 12:29:00.44 ID:Ex9JJeod0
「あっははは、わぁお、あんた力持ちなんだねぇ。片手で持ち上げられたの初めてだよぉ。あっははは」
「いいから質問に答えなさい、笑ってないで答えなさい」
「あいたたたた!?、駄目だよあんたロリコンなうえにSMプレイとか人間的に終わって…あいたたたたた!!!」
まるで知り合いだったかのように繰り広げられるコントにリアは目をぱちくりとさせながら成り行きを見守る
「さぁ、早くしないとお前の頭から真っ赤なトマトジュースが吹き出るぞ?」ギリギリギリ
「わ、わぁったから離してぇ!?」
自分に持ちうる限りの力を全て握力に注ぎ込んでいるのか、どうにも痛がっているのは演技では無いらしい。
足をジタバタさせながらもがいている姿がそう物語っていた。
「デュフフフフフ」
「キョウスケおにいちゃん帰ってきて!?」
本当にSMプレイにはまってしまったのだろうか?
なにやら顔が恍惚としていていかにも満足そうな顔をしだすキョウスケおにいちゃんを引き戻す。
現実に。
「っは!? あ、危ねぇ、どうやらいけない禁断の扉をもうちょっとで潜ってしまうところだったらしい。だがもう大丈夫。その証拠にほれ、今さっきまでの自分を思い出し
て鳥肌がたっているだろ?」
冷や汗なのだろうか、なにやら額に汗を滲ませているキョウスケおにいちゃん。
「っお、おいあんたそんな無駄話にしゃれ込むくらいなら手をはなしてくれよ!!」
「いや、それは駄目だ。まだ話を聞いていないからな」
「この状態で話すの!?」
「当たり前だろ?(笑)」
「その(笑)ってなにぃいいい!?」
なにやらまた漫才をやり始めた二人にいい加減うんざりしてくる
「もういいから話を進めるの!!」
「はいはい。分かったっての。質問に答えりゃいんでしょ? そうだよ、私が今現在世界一足の速い小学生、『ミーネ・グロッサ』だよ」
薄く笑ってこちらに視線を投げかけてくる。
猫眼なんていうのは全体的に可愛らしい印象だが、それは表情によって多彩に変わる
目の前のミーネなんかはそれの典型的な見本だろう。
だってこんなにもパッチリとした眼が怖く見えるのだから。
「おい、一言いいか?」
「ん~、なんだよ。ていうか質問に答えたんだから下ろせや」
「俺は暗い話が大嫌いだ」
「完全に無視された!? ていうかなんでそんな事を今更言ってんの!?」
後に「今までずっとやってきたじゃん!!」と言って呆れ顔をするミーネ
「だから俺は今からおこる全てのシリアスイベントを笑い飛ばしていく事を、今ここで約束する。まぁ俺の活躍するシーンは別だがな。
と言う事で、あっはははははは。はい、この話終了。」
何か色々間違ってる!!
「お前世界一足が速いんだろ?。まぁ、つってもせいぜい小額生の中でだけど」
「いや、キョウスケおにいちゃん字が間違ってるよ? 小学生だからね?」
「だったら俺と勝負するか? ていうか俺達と」
「へぇ、なにそれ? チーム戦ってやつ?」
「そう!、それはチーム戦というデスマッチ!! 負けた方は勝者の言う事を何でも聞かなければならない!!」
そう言い放ったキョウスケおにいちゃんの目が怪しく光る
「キスでも、チューでも、接吻でもぉ!!! 何でも有りだこの野郎!!」
『その話、乗った!!』
キョウスケおにいちゃんが叫ぶと同時に何時の間に集まったのか、桐乃や黒猫さん、沙織さんに加奈子さんと言った皆が集まって声を揃えて参加の意を唱える
「と言っても、そんなに大勢で走るわけでは無い、というか面倒くさい。
というわけなので、二人二人で走る事にする。その他は勝つと思うチームの応援団に入るんだ。
それで万事OKだ 負けたチームは勝ったチームの言う事を何でも聞かなければならない、ただし、仲間外れをする様な命令は無しだ。誰々に近づくなとか、誰々と行動を共に
するなとかそういうのな。」
まるでルールを最初から用意していたかのように雄弁に喋るキョウスケおにちゃんを見て愕然としながらも皆はルールを聞き込んでいった
「というわけで、チーム決めターイム!! まぁ当然俺とリアは同じチームなのでよろしく」
そう言い終わるとこちらを振り返ってウインクしてくるキョウスケおにいちゃん
完璧に調子に乗っている
第一キョウスケおにいちゃんは前にリアを追いかけてきた時にリアに全く追いつけていなかった、なのではっきり言って全く頼りにならない。
それどころか足手まといな可能性の方が格段にデカイ。
多分皆は今回リアとキョウスケおにいちゃんがチームを組んでも何の文句も言わないだろう
だって負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くのだから。それならキョウスケおにいちゃんの敵になったほうが良いに決まっている
リアがその立場でも絶対に敵にまわるしね。
そんな事を考えながらキョウスケおにいちゃんのウインクに苦笑いを返してミーネの方を見た。
どうやら今自分が組む相手を見定めているのだろう。なにやら低い息遣いをしながら皆の方を見ている。
そこからは早かった、ミーネは一度短く頷くとまっすぐに桐乃に向かって歩き出した。流石に桐乃に気付かないでくれと望むのは高望み過ぎたらしい。
あの中で加奈子さんやブリジットちゃんを選んでくれていればまだ勝機があったのだが、これでははっきりいって万に一つも勝ち目は無いだろう。
「流石にチビのくせに世界チャンピオンなだけはあるな。その中で一番足の速い我が妹を選ぶとは」
「当たり前だよ、はっきり言って筋肉の質で全部丸分かりだよ。………名前は知らないけどあんたの妹だけは走るための筋肉をしていたからね
それで分かったわけ。それとチャンピオンってなに? ボクサーじゃないんだからね?」
「けど甘いな!! 俺はあれから猛特訓をしたんだ、今なら桐乃にさえ負けねぇ!!」
「いや、キョウスケおにいちゃんには無理だと思うな………」
キョウスケおにいちゃんと桐乃じゃ積み上げてきたものが違う、そりゃ男の人の方が早いのは分かるが やはり毎日練習してきた人と、最近特訓した人では筋肉のつき方が違
う
「駄目だよ、この勝負は……負……」
「負けても良いんだよ」
リアの頭を力強く撫でてくる
「負けても良い、負けてもいいんだ」
淡く微笑んで「前言ったろ?」と言う。
それじゃ駄目だ、駄目なんだよ。
と内心で言おうとするがどうにも上手くいかない、この微笑を見てしまうと何も出来なくなる。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/19(金) 12:31:03.40 ID:Ex9JJeod0
「っし、それじゃチーム決定だな。俺達のチーム名は《走楽》だ。
さぁ、そっちもチーム名を決めろよ?」
「はい質問、それって必要なの?」
「なに甘い事言ってんだぁ!!? 桐乃、よく聞けよ? チーム名を決める事によって生まれるのは連帯感、やる気、チームワークだ。この三つが揃った時、そのチームは想
像を絶する速さを体験する事が出来るんだ!! よく覚えとけ!!」
質問を発した桐乃に対して人差し指を立てると、堂々とそんな事を言いだした
桐乃とリアが呆れた顔をしていると、どうだろうか、ミーネが何やら雷に打たれた様な顔をしているではないか。
どうしたんだろうか、キョウスケおにいちゃんの話に何か共感するものがあったのだろうか?
「ま、マジか? チームプレイをすることで人は想像を絶する早さを手に入れる事が出来るのか?」
「あぁ、マジだ。噂によるとあの南部忠平もチームプレイを内密で重点的に行っていたらしい。南部忠平だけじゃない、他の金メダリストも皆チームプレイを極めているらし
い」
真っ赤な嘘にも程がある。
そんなリアでも分かる嘘をミーネは目を見開いて信じきっている
「おいキッリーノ! 早速チームワーク練習だこの野郎!!」
「キッリーノって誰!!?」
目の中の炎をメラメラと燃やしながらジャンプして桐乃の襟を掴むと無理矢理引きずっていくミーネ
そんなミーネにキョウスケおにいちゃんは勝負の時間帯を伝える
「おーい、勝負の時間は今から二時間後だからな!! 俺達の息のあった速さを見て小便漏らすなよ!!」
デリカシーの欠片も無いとはこの事だ。
女の子に向かって小便は流石に駄目だろう
「そっちこそ大便漏らすなよ!!」
「お前までそんな事言うの!!?」
思わず全力でツッコんでしまう。
デリカシーのデも知らなさそうな二人に。
さぁ、二人きりになってしまったが、どうしようか?
練習と言っても今からやることなんか準備運動ぐらいだろう。
何の特訓をしてもただたんに筋肉の負担が増えるだけだ、今から過激な特訓なんてしたら逆に不利になるだけなのだ。
だからリア達に出来ることは勝負前の準備運動ぐらいのものだ。
「リア、寝るか」
どうやってその事を切り出そうかと考えていると、突然キョウスケおにいちゃんからまさかの睡眠の提案が来た。
キョウスケおにいちゃんの事だから「さぁぁ!!!特訓だぞこの野郎!!!」とか叫びだすと考えていたから、思わず目を見開いてポカンと見つめてしまう。
提案としてはこれ以上ないくらい良い提案だ。
こっちは今さっきまで練習していたのだから、寝るのはかなりの休息になって良い。
だけどまさかキョウスケおにいちゃんからそんな提案がくるとは思っていなかった。
「……今から何かやってもどうせ付け焼刃だしな。それなら疲れない方がまだましだろ? だから、寝ようぜ。ちょっと寝不足気味でな」
そう言って苦笑いするキョウスケおにいちゃん
付け焼刃どころの話では無い、錆びていた刀を使って出来たばかりの真剣とやりあうみたいな物だ。
そんな事をするぐらいなら、寝て休息を取り、錆取りで錆をちょっとでも取った方が何倍も有意義なのだ。
「うん、そうだね。リアもちょっと寝不足気味だから丁度良いよ」
そう言って笑いかけると、キョウスケおにいちゃんはちょっと赤くなった顔でぼそりと呟いた
「ま……、お前が隣で寝てたせいでなんだけどな」
「ん? 何か言った?」
気になって問いかけると、ピンクに染まった顔のままキョウスケおにいちゃんは「なんでもねぇ」と言った。
キョウスケおにいちゃんが無言で先に歩き出し、昼寝に丁度良さそうな木陰に寝転がった
リアもそれに続いて寝転がる
寝る前にチラッとだけ見えたが、皆がこちらを気にしているみたいだ。
いつもの様な嫉妬もあるにはあったが、何とも微妙な視線だった。
「変なの。いつもみたいに乱入してくれば良いのに。ねぇキョウスケおにいちゃん」
「それはそれで俺は嫌だよ」
苦笑いを返してきた
「それに、気を使ってくれてるんだろ? 今は大勢より二人きりの方が都合も良いしな」
「? なんで?」
「ん~……、チームワーク?」
昼寝を二人でしたらチームワークが上がるとでも思っているのだろうか?
「ま、いらん事は気にしないで、なんでも良いから寝とこうぜ」
大口を開けて欠伸をしながらやる気が無さそうに呟く
「どうせ、今回は負けるとか思ってんだろ? ならいっそ何も考えなけりゃいい」
目の端に涙を溜めながら何もかも見透かした様な目で見つめてくる
「とにかく楽しく走れりゃそれでいい」
最後の方は尻すぼみ気味になりながら話す、もう精神のほとんどは夢の世界に旅立っているらしい。
リアも寝よう。
キョウスケおにいちゃんの言ったとおり走る事を楽しめると信じて。
軽く目を閉じて、日の光を瞼の裏に感じながら、ちょっとずつ夢の世界に引きずり込まれていった。
・・・・
最終更新:2011年12月23日 20:22