俺がモデルになれるわけがない!! 13


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……………苦しい、辛い、痛い、重い。……悲しい。

目の前のレーンは狭くて暗い、前を行くミーネの背中は果てしなく遠く感じる。

ゴールは見えているのに、もうすぐなのに。

「無理だよ……」

そう思っている自分が大嫌いだ。







「さぁ、行くぞ」

そう言って勢いよく立ち上がるキョウスケおにいちゃん。
二時間が経つのは寝ていたせいかとても早く感じた、実際はキョウスケおにいちゃんも疲れが完全には抜けていないだろう。

「大丈夫? まだ疲れてるんじゃない?」
「おいおいリア、俺を誰だと思っているんだ? あの汗にまみれたクソババア共と何回も戦ってきた百戦錬磨だぜ? あの匂いと重圧感に比べればこんなの屁でもないね」

キョウスケおにいちゃんが言っているのは多分ファンのおばあさん達の事だろう。
何回か見たことがある。

確かに凄いのは認めよう。

「と言う事でこんな疲労感なんて俺にとっちゃ屁でもないのさ」

奇妙な決め顔をしながら歩き出した
決まった……とか思っているらしい。

理由が理由だけにあまり格好良くないのは仕方が無い。

リアもキョウスケおにいちゃんにならって歩き出した、やはり足が重く感じた。
行きたくないとまだ心のどこかで思ってしまっているのだろう。

ちょっとま歩くと、次第に見知った顔が順々に見えてきた、もうレーンに立っているのはミーネだろう。
桐乃はというと、よっぽど疲れているのだろうか、げんなりした顔で体育座りをして空を見上げてらた。


「遅いぞ、悪役ツインズ!!」
「誰が悪役ツインズだ! 俺達のチーム名は《走楽》だっつってんだろ!!」
「というか、どっちかと言えばミーネの方が悪役だからね?」

リアはそう言うとキョウスケおにいちゃんと向かい合った
ルールは大体分かったのだが、やり方をまだ聞いていない、一人は何処から何処まで走ったらいいのか。どっちが先に走るのか。

「一人の走る距離はどんだけなの?」
「ん? 半周でいんじゃね?」

半周となると、結構な距離になる。
一周が結構広いため、キョウスケおにいちゃんや、桐乃の様な短距離型の人は結構辛いものがあるだろう。

まぁリアやミーネは何回も走っているためそうでもないが。

「んじゃ、早速順番を決めるとしますかぁ。まぁはっき言って、もう決まっているも同然だけどな」
「へぇ、もう決まってるんだ、どんな順番?」
「そりゃ、俺と桐乃が一番に走って、最後がリアとミーネだろ」

どうしてそうなるの?

と視線で訴えかけると、気付いたのだろうかキョウスケおにいちゃんが理由を話し始めた

「まぁ理由は簡単だ、速さ的にバランスが取れているのは明白だし、これの方が盛り上がる」

そう言うとクイッと顎でカメラを指した

「ここらでいっちょ、勝ちに行くとするか」

ニヤリと笑うとスタートラインに向かって歩きだすキョウスケおにいちゃん
桐乃もようやく立ち上がりキョウスケおにいちゃんと一緒にスタートラインに向かった。

「さあ、私らも行こうか。負け犬ちゃん」
相も変らぬ、蔑んだ視線。それをぶつけながら話しかけてくるミーネ

「うん、勝負だ、ミーネ」

リアはそう小さく呟いてミーネの後ろを歩き出した。




カチャ。

黒猫さんがスタートを示すための銃を空に向かって構える
「用意」

クラウチングスタートの準備をしていたキョウスケおにいちゃんと桐乃が本格的に走り出す姿勢をする

パアアァン

空気を振るわせる音が鳴り響くと同時に走り出す二人
やはり桐乃の方がやや早い。

ちょっとずつ、ちょっとずつだけど確実に離されていく。
自分の中の黒い、ドロっとした何かが首をもたげた。

何かを押し出す様に、次から次へと頭の中を言い訳が横行する。

凄いよ、桐乃にそこまで喰らい付くなんてたいしたもんだよ。
だから

そんなに頑張らなくてもいいよ。

次第に顔が下を向いていく。

ここで差が開けば負けた理由になる。追いつけなかったっとしても言い訳が出来る。
だから

頑張らないでよ。

言い訳ぐらい、残しておいてよ。


半分を過ぎた時位だろうか、地面を蹴る音のリズムが変わったのは。

思わず顔を上げてキョウスケおにいちゃんを見る。
荒い呼吸をしながら必死に喰らい付いていたキョウスケおにいちゃんのスピードがちょっとずつだが上がりだしていた
目を瞠って見つめていると、空気を大きく吸うように、顔を上にあげだした

「負けて………たまるかぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」

叫び声が鼓膜を震わす。
徐々に、徐々にだけど差が縮まって行く。

視界が霞んだ。

思考の泥沼に嵌って、もがいて、苦しんでる時、いつも、いつも、いつも。
そうやって手を差し伸べてくれるんだ。

今も。
きっとこの先も。

ずっと、ずっと。

リアは涙を拭うと、間近に迫ったキョウスケおにいちゃんのバトンを取るために走り始めた。

ちょっと前に走り始めていたミーネに追いつくように、バトンを貰うと一気にスピードを上げる。
だけど追いつく気配がない、全力で走っているのに近づける気がしない。



差し出してくれたキョウスケおにいちゃんの手の暖かさも記憶の奥深くへと沈んでいく


ギシギシという音が足から鳴っている気さえしてくる中、必死に追っていたミーネの背中が遠くなって行くのが分かる

背中は遠いのにゴールだけが早く近づいてくる。

届かない。
近づけない。

ミーネの背中が笑っている気さえしてくる中、涙で視界がボヤけてくる。

ごめんね、キョウスケおにいちゃん、リアはもう駄目だよ。足が重たいんだ、もうすぐ動かせなくなりそうなぐらい重たいんだ。
こんなんじゃ追いつけないよ、キョウスケおにいちゃんが頑張ってくれたのに、ごめんね。

頬を伝う暖かい涙。
諦めの涙。

もう……いいや。

スピードを緩めようと、足の力を抜こうとする。

「お前は……!!」


皺枯れた声がゴールから空気を震わした、走っていた時に全力で叫んだせいか、ガラガラ声になっていた。

「お前は俺が、好きじゃないのか!!?」

痛いのを我慢して叫んでいるのだろうか 声の節々から痛みが伝わってきている気がした

「好きなら! 勝て!!
その為にお前は俺の所に来たんだろ!! お前が負ける、それは俺が好きじゃないって事だ!!
だから負けるな! 勝て! 勝って俺が好きだって事を証明してみろ!!!」

恥ずかしいのだろう、赤くなった頬がそれを物語っている。
ましてやカメラで撮られているのだ、恥ずかしくない筈が無い。

「俺が好きなら……勝てぇええええええ!!!!」

真っ赤になったキョウスケおにいちゃんが思い切り叫んだ。


目の前の道が開けた。


狭かったレーンがまるで別世界の様に感じた。
早かった呼吸がゆったりと、大きくなる。まるでこの世には酸素しか無い様に感じた。
重かった足が、まるで羽の様に軽く感じた

このセカイ全てが

自分の庭の様に感じた。

頬が熱い、キョウスケおにいちゃんの言葉がまだ耳に張り付いて離れない。

リアはキョウスケおにいちゃんが、大好きだ。

今なら、勝てるよ。
やっぱりキョウスケおにいちゃんは凄いね。
言葉一つでここまで、リアをドキドキさせて、赤くさせて、救ってくれる。


「ありがとう、リアは勝って来るよ」


リアの足が、全力で地面を蹴った。


グングンとスピードが上がり、ミーネの背中が近づいてくるのが分かる
周りはスローモーションの様になり、軽い足をまた一歩、また一歩と踏み出していく。

さぁ、後ちょっとだ。

ミーネとゴールの近さも後わずか、このまま走り続けられても、勝てるとは限らない。
でもこの早さだと、リアにも勝てるチャンスはある。


流石にこれ以上速さが上がる事は無く。
最後。

肩を並べて、ゴールの白紐を切った。


「ど、どっちが先に!?」
慌てて勝敗を確かめようと、黒猫さんを見る

審判たる黒猫さんは慌ててミーネとリアを見比べるが、分からないのだろう。
視線が定まる事は無かった。

「まぁ、あんだけ綺麗に同時にゴールインすりゃぁなぁ、分からなくもなるだろ」

呆れたように肩を窄めて「仲が良いんだか悪いんだか」とボソリと言うキョウスケおにいちゃん。
声はまだ枯れていた。

「納得がいかない!! どう考えても今さっきのはミーネの勝ちでしょ!? このバカ兄貴、ちゃんと見なさいよ!!」
「そうだ、この加奈子がそう見たんだから間違いない!!」
「拙者もそう見えたでゴザルなぁ」

何やら口々に不満を言い出す皆、どうせキョウスケおにいちゃんとキスがしたい為、結果を偽っているんだろう。

「はぁ、お前らなぁ、俺を扱き使いからってそんなでたらめを言うんじゃねぇよ」

完璧に勘違いをしているキョウスケおにいちゃん、「なぁ、二人共」と言うとリアとミーネに話を振ってきた
だが、リアを見た後にミーネを見ると、ピシッという効果音と共に固まってしまった。

気になったので、話を振るのを言い訳にミーネの様子を伺う、すると……

「リ、リアはどうか分かんないけど、審判は黒猫さんなんだから、ジャッジは守らないと! ね! ミーネ!!」
「し、知らねぇやい!!! 私は、ま、まだ本気を出していなかったんだから、あのまま走ってても私が勝ってて、だから、その、ゴールがもうちょっと先にあったとしても

ミーネは勝ってたって事が言いたいんだからな!!」

えぐっ えぐっ
嗚咽と涙を溢しながら、真っ赤な顔でこちらを睨んでいるミーネがいた



「why!? your no cry!??」
「キョウスケおにいちゃん落ち着いて!! 英語になってる、そしてその英語間違ってるから!!!
そしてミーネも泣き止んで!? 引き分けだったんだし、負けたわけじゃないんだから!!」

「な、泣いてないやい!!」

大きな猫眼から大粒の涙を溢しながらそんな事を言われても……

対応に困っていると、さっきまで焦っていたキョウスケおにいちゃんが歩き出すのを目の端で捕らえた。

何時もの天然女殺しが出る。
そう直感が告げてきたので、止めようと体が勝手に動こうとするが、なんとか押しとどめて成り行きを見守る事に専念する。

キョウスケおにいちゃんは、ミーネの目の前に座ると、グシャッと髪の毛を撫でる。

「お前、早ぇなぁ。俺なんかお前と走ったら確実に負けちまう。絶対にな」
「当たり前だろ、私がお前なんかに負けるか」

何言ってんだ? バカじゃねぇの? とでも言いたげな口調で言い返すミーネ
だがそんな口調に怯む事なくキョウスケおにいちゃんは次の言葉を紡ぎ出す。

「うん、だけどそんなお前も絶対に負けないなんてのは、絶対に有り得ない。負ける事もあるんだ。
リアにも言ったが、お前らなんてまだ小学生だ。だから、楽しめ、走ることを全力で。お前も走る事が大好きなんだろ?」

そう言ってミーネに笑いかける。
何やら赤くなりだすミーネ、耳からなにか煙が出てきた

「ま、ままま、ま 負けてねぇっつの!! 引き分けだ、引き分け!!」
「おう、分かった分かった」

適当に流すと、ミーネの頭をポンポンと叩く

「おちょくってんのかてめぇ!!」

とうとう恥ずかしさが臨界点と突破したのだろうか、真っ赤な顔でキョウスケおにいちゃんに殴りかかるミーネ。
リアも我慢の限界が来てキョウスケおにいちゃんに殴りかかる、他の皆も同様に。

『この天然女垂らしがぁああああ!!!!』

最早習慣化されたキョウスケおにいちゃんの悲鳴が、夕空に空虚に響いたのだった。







              ・・・・








翌日、日本。


あれからあっちに泊まる事などは無く、ハンサムの意向により本当に一瞬で帰ってきた。気がつくと荷物は纏まっていて、飛行機の中に詰め込まれていたのだ。
想像以上に大変だった今回の仕事により体が悲鳴を上げていたので、ハンサムの労いにより俺は数日の休暇を満喫していた。

自分のベッドに寝転び、グ~ッと伸びをする。

「くはぁっ、駄目生活最高っっ!!!」

思わず漏れる心の声。
現在時刻は、時計を見てみると11時半だった。
このお昼近くまで寝ていられる環境というのは本当に有り難い。俺の精神にとってな。

とりあえず、俺は起き上がると自分の机へと向かった。
昨日日記を付け忘れていたのだ。
ベッドに入った瞬間グッスリだったからなぁ。

そんな事を思いながら、そろそろ歳なのだろうか、ギシギシと悲鳴を上げる椅子に腰掛ける。
筆記用具を手に持つと、日記帳の最後の1ページを開いた。

昨日は一瞬で帰ってきた、と言ってもやはりあれから色々あった。
ミーネが俺に「帰るな!! ここに居ろぉ!!」と泣きついてきたり。
やはり帰りの飛行機の中での席順決め等でも結構もめた。

そういえば、なんでミーネが泣きついて来た時、リアは一つも別れを惜しんでくれなかったんだろうか? それがちょっと寂しかったりする。
別れ時だっていうのにリアの奴は始終笑っていたのだ。怪訝に思いながらもその時は疲れていたためあまり気に留めなかったが、今思うとちょっと酷いのではないだろうか?

思わず筆記を止め、考え込む。
それでも理由が分かる事は無く、結局考えるのを辞めて筆記に戻った。


まぁ、何だ、アメリカでも色々とあったが楽しかった……とは言えないなぁ。
だって良く考えてくれ、俺はアメリカに行って何をした!? はっきり言ってなんかゴチャゴチャした迷惑事に巻き込まれただけだよね!?

感情的に日記に書き込み、手が止まったところで思わず溜息が漏れる。
落ち着こうという事で、下に行って飲み物でも飲もうと思い、扉に向かう。

するとどうだろうか、ドアまで後一歩という所で誰かがノックをしてきたではないか。

コンコン

コンコン

コンコン

しつこいくらいに立て続けにノックする訪問者に疑問を覚えた。

だって桐乃じゃねぇんだもん。この訪問者。
良く考えてみろよ、桐乃が、あの桐乃が………ノックするわけねぇだろがぁああああああああああああ!!!

思わず内心で絶叫する。

「は、はい? 誰ですか?」

恐る恐る質問すると、どうだろうか、なんかへんな返答が帰ってきたぞ?

コン カッ コンココン ココン

え~、何々
いいから開けてみて?

何故伝わるんだ俺!? そんな自分がすげぇ嫌だ!!

「おいおい、マジで洒落になってねぇよ。どんどんあいつらに侵食されてんじゃねぇの? 俺」

手を伸ばしてドアノブに手を掛ける、内心で自分は普通だ、自分は普通だと自分に言い聞かせながら一気に扉を開いた

そこには………



「よっっ! キョウスケおにいちゃん!!!」
リアがいた。

………はい?

「あはは、ドッキリ成功ぉ!!」

リアは無邪気に笑うと呆けている俺に思い切り抱きついてきた
いささか懐かしく感じる痛みに、これが現実なんだと気付かされた。

「っえぇええええ!? り、りりり、リア!? 何でお前がここに!!?」
「私 リア・ハグリィは本日より日本にアメリカに帰る予定未定のホームステイに来ました!!」

リアは俺のおなかに顔をスリスリしながらそんな事を叫んだ。

「っだ、駄目に決まってんだろ!?」
「え~、でもリア以外にも沢山ホームステイに来てるんだよ? もうお父さんには許可も貰ってる」

嬉しそうにニシシと笑うとグリグリと俺のおなかに顔を押し付けるリア。
俺は呆然となってその言葉を聴いていた、だが他にもと言うのはどう言う事なのだろうか?

「ほ、他にもって?」
「決まってるじゃん! 黒猫さんに沙織さんに桐乃にブリジットちゃんに麻奈実さんに加奈子ちゃんにあやせさんだよ!」

俺は途中で聞くのを止めていた。
耳疲れで耳から血が噴水の様に出てきそうだ。

「お、お前ら、どこに泊まる気なんだ? 言うとくけどここにそんな大人数は泊まれないぞ?」

帰れという思いを言外に込めてそう言うと、リアはニコニコと笑いながら衝撃的な事を言い始めた

「何言ってんの? キョウスケおにいちゃんの社長さんが寮を作ってくれてるよ!」
「ブファッッ」


むせた。

あんの糞社長ぉぉおおおお!!

よく見てみると、どうだろうか? 寝起きで気付かなかったのだろうか、俺の部屋は大きな家具以外ほとんどが消失していた
ど、どうなっている。マジでホームステイしなくちゃならんのか? 日本に住んでるのに日本にホームステイって何なんだよ、はっきり言ってもうホームステイでもなんでも

ねぇじゃねぇか。

「お、俺は行かないぞ?」

最後の力を振り絞って否定の意見を言う。
これ以上俺の平穏を邪魔されてなるものか、断固拒否だ。

「何言ってんの? あんたも行くに決まってんじゃん」
「お前は何時俺の部屋に入ってきたんだ?」

何時の間にか俺の目の前に立っている我が妹に呆れた声を返す
瞬間移動でもしたのだろうか?

「もう、皆待ってるよ」
「待ちくたびれたからこうやってあんたを迎えに来てあげたんでしょ?」

そう言うと屈託無く、こちらに向かって笑いかけてくる桐乃。
その笑みを見て、俺は力無く笑った

………………………………もう、諦めよう。
ちょっと不自由な暮らしになるだろうけど、良いじゃねぇか。

そう、思えた。

「分かったよ、行くから、ちょっとだけ時間をくれ。日記だけ書いちまわねぇと」
俺はそう言うと、ポンとおなかに抱きついているリアの頭に手を乗せる。

「後何分ぐらい?」

おなかで言ったせいか、ちょっとくぐもって聞こえた声。

「5、6分程度だ。なんなら家のリビングで待ってればいい、誰だって自分の日記は見られたくないだろ?」
「うん、絶対5、6分で来てね」
「来なかったら、死刑だから」
「分かった分かった」

俺は苦笑いで二人を見送った。


どうせ日記も最後の1、2行ぐらいしか無ぇんだ、後一言だけ書いて、ここに置いて行こう。

俺は一行、ちょっとだけ書いて、日記を机の引き出しに大切に閉まった。
扉を開いて、階下に向かう。
リビングを見てみても誰も居なかった。と言う事はこの炎天下の中外で待っているらしい。

そう考えて、ちょっとだけ早足になって玄関の扉に向かう

扉を開く。

外の光に顔を顰める。
だけど日の暑さに浸る事なく、俺の体は手を引っ張られて無理矢理手外に連れ出された。

心の準備などしている訳が無く、視界が真っ白になる。
手を引いているのは誰か確認しようと目を凝らすが、いかんせん、輪郭だけしか見出せなかった。

「京ちゃん、行こう?」

その声、その呼び方でやっと誰か分かった。
麻奈実だ。

ようやく目も慣れてきたのか、徐々にだが周りを見れるようになってきた。
そして目の前に広がった光景は

加奈子の足の裏だった
「ふがっっ」

そして謝りもせずに文句を垂れ流し始める。

「遅い! 何やってたんだクソマネ!!」
「本当です、おにいさんは何時もマイペース過ぎます、自重しないと通報しますよ!?」
「拙者もこの炎天下の中待ち続けるのはいささか辛かったでござるなぁ、京介氏?」
「マネージャーさん酷いです! 今日凄い暑いんですよ!」
「兄貴、あれから軽く十分は経ってるからね?」
「貴方は闇の眷属である私の光に対する弱さを知っているでしょ? もうちょっと遅ければ私は干乾びてしまうところだったのよ?」
「キョウスケおにいちゃん!!」

黒猫の長すぎる文句の途中でリアは再び俺に飛びついてくる
相変わらずの威力に「うっ」という声が漏れるが、俺の体も慣れたのだろうか、あんまり気にならない。

そしてこの罵詈雑言にも最早馴れているらしく、俺の耳は右から左へと聞き流していた。
はっきり言ってこいつらが何を言ったか全然覚えていない。


麻奈実に引っ張られて俺は再び歩きだし、皆の輪の中に加わった。

「わりぃわりぃ、ちょっと日記に手間取ってな」

まぁ取り合えず謝っておこう、こいつらが怒ったまま新居に行くなんてのは真っ平ゴメンだからな。
折角すむんだ、第一印象は良く行きたい。

俺が謝ると、皆はまだ愚痴を溢していたが、ちょっと間経つと納まり、こちらに手を出してきた。
おなかに抱きついているリアは引きずって行くにしても、片方は麻奈実に掴まれているため俺の手は後一つしかない。

だから残りの六本の手を全て取れる筈も無く、俺は皆の手を見て固まった

まぁそんな状態が長く続くわけも無く、手は俺の手を握ること無く、俺の服を掴んできた。
無理矢理引きずられていく。

もうこの服は処分するしかないな。
伸びに伸びてベロンベロン状態になるであろう、今着ている服の事を考えて苦笑いをする。

本当、皆妹みたいな奴等だな。
手が掛かって、我侭で、生意気で、でも放っておけなくて。

きっと、俺はこの先ずっとこいつらの面倒を見続けるのだろう。
困った事があったなら助けて、鬱憤がたまったなら吐き出すのを手伝って。

きっと、そんな事を繰り返すに違いない。


俺は一人で納得すると、首を何回か縦に振った。







そこは老朽化した建物の中。
ある一人の俺がオルゴールを聴きながら何冊目になるか分からない日記に文字を書き綴っていた。

そのページは最後の1ページ。


さて。
もう書くスペースも無くなって来た、だから新しい日記帳を買うまでの一区切りをしよう
まだまだ続く俺の物語の一区切りをしよう

あの時の俺はまだ知らないが、この先にはまだまだ物語が待っている。
今回はリアがメインの物語だったが、桐乃や加奈子や麻奈実や黒猫やブリジットに沙織にあやせ、そして俺自身の物語。
色々な事がある。

もうすぐあるのはドラマの話だ。
リアと俺の物語がハンサムによって公開された拍子に、俺に対するドラマのオファーが殺到する。


ヒロインの決定

ドラマの練習

近所のババア共の攻撃


まだまだあるが、その話はまた今度。またいつか。またどこかで話そう。


そこまで書くと未来の『俺』は薄く笑った。


サービスだ。
最後にあの時日記帳に書かれた最後の一言を書き綴って行こう


あの時の俺はどんなことを思ってこれを書いたんだろうか? 思い出せはしないがなんとなくなら分かる気がするよ。




                『俺の妹達がこんなに可愛いわけがない』




それじゃぁ、何時かまた会おう、どこかで。

部屋のドアが誰かによって叩かれた。




fin
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